美味しい料理はハートも掴む
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「ん…」
何だか周りからバタバタと慌ただしく移動する音や切羽詰まった声が聞こえてきたので私は薄っすらと瞼を開いた。
手の甲で目を擦りながら一体何事かと辺りを見回すと、どうやら兵舎に少数残っていた調査兵団の兵士達が走り回っているようだった。
「あの…、何かあったんですか?」
「あぁ…、トロスト区に超大型巨人が出現したんだ」
只事では無さそうな緊迫した雰囲気に思わず兵士を捕まえて何があったのか聞いてみればトロスト区に超大型巨人が出現したとの事。またシガンシナ区の様な惨劇になるかと思うと背筋が凍る思いだった。
兵舎に残っていた少数の調査兵達は今から大急ぎでトロスト区へと向かい救援に当たるらしい。住み込みで兵舎内の寮で寝泊まりしている私は念の為だが直ちに部屋へと戻るようにと指示をされた。避難指示ではないという事は、調査兵団本部までは巨人は来ないだろうという事か、来させないという事か何方とも分からないが戦う力を持たない私は大人しく部屋へと戻る他無かった。
自室へ戻りベッドの縁に腰掛けながら、非力な私は只々犠牲者が少ない様にと祈る事しか出来ず、何も出来ない不甲斐無さに歯噛みした。
家族もおらず大切な人もいない孤児の私には自分の命ぐらいしか失う物は無い。その為、一時何か守るものが欲しかった私は兵士になり人類の為に心臓を捧げようかとも思ったのだが、やはり自分の得意分野を生かして人の為になる事をしなければ折角の自分のスキルが勿体無いと思い今に至っている。
未だに失うものも守るものも無いままここまで生きてきたが美味しい物を食べている時の笑顔、幸せな気持ち、というものは失わせたくないと思っている。
だから私は毎日自分の笑顔もなるべく絶やさず、調理にも手を抜かずこの食堂での仕事を頑張れているのかもしれない。
その程度しか出来ない私だからこそ命を賭して人類を守るため戦う調査兵団に憧れたのだろうなと自室へと戻った私は巨人の襲撃があったにも関わらず窓の外に広がる相も変わらず平和な、ただ只管に綺麗な青空をぼうっと眺めながら考えていた。
その後も自室のベッドの上でゴロゴロしてみたり、読み掛けだった本を開いてみたりしていたがどうにも落ち着かず私は食堂へと向かう事にした。
少なくとも今日一日は調査兵団は帰ってこないだろうと思うのだが大人しく自室で待機と言われても何もする事が無い上に落ち着かない。
食堂に行って何かをする訳でも無いが何故か厨房に立つと落ち着くのはやはり天職だからなのだろうか…。
食堂へと足を運んだ私は壁際の隅の椅子に腰掛け頬杖をつきながらぼうっと天井を見上げていた。調査兵団には巨人討伐に長けた精鋭が揃っていると聞いたのだがその調査兵団が壁外へ行ってしまった今、果たしてトロスト区にいる兵士だけで大丈夫なのだろうか。
五年前のシガンシナ区の襲撃は大量の死傷者と避難者が出たと聞いている。エレン達はシガンシナ区の出身らしく、食堂で当時の状況を僅かだが話していたのを聞いた覚えがある。
その当時私はウォール・ローゼ内に位置する孤児院で平和に過ごしていた。食料に限りはあったがそれ以外は寒さに凍える様な事も飢えに苦しむという様な事も無かった。
今思えば安全な場所に居たのだなと思う。
死んでいるのかも生きているのかも分からない両親がせめてもと比較的安全なそこに預けたのだろうか、それとも偶々運が良くそこへ行けただけなのだろうか。
でも私には何も無い、だからこそ余計に平和に過ごしてきてしまった何も出来ない自分が情けないと思ったのだ。
…ダメだダメだ、自分の事を考えていても嫌になるだけだ。
気が滅入ってきた私は椅子から立ち上がりキッチンへと移動した。
今日一日は夕食の仕込みはしなくて良さそうなので気分転換にクッキーでも作ろうかと思ったのだった。
補充される食糧には限りがある為、少量だが自分の好きな物を作っても良いと許しを得ている私はこうして時折お菓子などを作ってはお茶の時間に振る舞ってみたり、僅かだが調査兵団の資金の足しにもなる為内地で販売してもらったりしている。
そう言えば…、内地に行ったお土産としてハンジさんからドライフルーツの袋詰めを貰ったのを思い出し、クッキーの生地に練り込んでみる事にした。
頃合いを見てオーブンから取り出したクッキーはこんがりときつね色に焼き上がっており、レーズンや苺、イチジクなどのドライフルーツが練り込まれたそれはカラフルな宝石の欠片が散りばめられたみたいにキラキラと輝いて見える様だった。
一枚摘まみ、一齧りしてみるとサクッと音を立てほろほろと口の中で崩れていった。甘過ぎず、卵の風味が強めのクッキーにドライフルーツの甘酸っぱさが良いアクセントになっており、今日も美味しく作れたと実感する味だった。
これもやはり美味しく作れたとなると誰かに共有したくなるものである。
ふとマルコの顔が浮かんだ私は、いつも愚痴大会と称してお喋りに付き合ってくれるマルコに食べてもらうのが機会としては丁度良いかもしれないと我ながら名案が出た。
度々作ったものをマルコに振る舞うと、いつも丁寧に感想を述べてくれた後褒めちぎってくれるものだからマルコはとても良い人なのだろうなと思う。
それがお世辞にしろ本音にしろとても嬉しい気持ちになるのだからマルコの言葉は凄い。
いつもはマルコから誘ってくれるのだが今回は私から誘ってみようかと窓の外へ目を向けながら今後のささやかな楽しみに、お茶は何を合わせようだとかいつなら予定が空いているだろうかなどまるで恋する乙女の様にソワソワと考えあぐねる私は今思うと嘸かし滑稽だっただろう。
いつの間にか外は、綺麗な青空が嘘だったかの様に暗雲が立ち込め雨が降り出していたが、そんな空模様とは対照的に私の心はとても晴れやかだった。
何だか周りからバタバタと慌ただしく移動する音や切羽詰まった声が聞こえてきたので私は薄っすらと瞼を開いた。
手の甲で目を擦りながら一体何事かと辺りを見回すと、どうやら兵舎に少数残っていた調査兵団の兵士達が走り回っているようだった。
「あの…、何かあったんですか?」
「あぁ…、トロスト区に超大型巨人が出現したんだ」
只事では無さそうな緊迫した雰囲気に思わず兵士を捕まえて何があったのか聞いてみればトロスト区に超大型巨人が出現したとの事。またシガンシナ区の様な惨劇になるかと思うと背筋が凍る思いだった。
兵舎に残っていた少数の調査兵達は今から大急ぎでトロスト区へと向かい救援に当たるらしい。住み込みで兵舎内の寮で寝泊まりしている私は念の為だが直ちに部屋へと戻るようにと指示をされた。避難指示ではないという事は、調査兵団本部までは巨人は来ないだろうという事か、来させないという事か何方とも分からないが戦う力を持たない私は大人しく部屋へと戻る他無かった。
自室へ戻りベッドの縁に腰掛けながら、非力な私は只々犠牲者が少ない様にと祈る事しか出来ず、何も出来ない不甲斐無さに歯噛みした。
家族もおらず大切な人もいない孤児の私には自分の命ぐらいしか失う物は無い。その為、一時何か守るものが欲しかった私は兵士になり人類の為に心臓を捧げようかとも思ったのだが、やはり自分の得意分野を生かして人の為になる事をしなければ折角の自分のスキルが勿体無いと思い今に至っている。
未だに失うものも守るものも無いままここまで生きてきたが美味しい物を食べている時の笑顔、幸せな気持ち、というものは失わせたくないと思っている。
だから私は毎日自分の笑顔もなるべく絶やさず、調理にも手を抜かずこの食堂での仕事を頑張れているのかもしれない。
その程度しか出来ない私だからこそ命を賭して人類を守るため戦う調査兵団に憧れたのだろうなと自室へと戻った私は巨人の襲撃があったにも関わらず窓の外に広がる相も変わらず平和な、ただ只管に綺麗な青空をぼうっと眺めながら考えていた。
その後も自室のベッドの上でゴロゴロしてみたり、読み掛けだった本を開いてみたりしていたがどうにも落ち着かず私は食堂へと向かう事にした。
少なくとも今日一日は調査兵団は帰ってこないだろうと思うのだが大人しく自室で待機と言われても何もする事が無い上に落ち着かない。
食堂に行って何かをする訳でも無いが何故か厨房に立つと落ち着くのはやはり天職だからなのだろうか…。
食堂へと足を運んだ私は壁際の隅の椅子に腰掛け頬杖をつきながらぼうっと天井を見上げていた。調査兵団には巨人討伐に長けた精鋭が揃っていると聞いたのだがその調査兵団が壁外へ行ってしまった今、果たしてトロスト区にいる兵士だけで大丈夫なのだろうか。
五年前のシガンシナ区の襲撃は大量の死傷者と避難者が出たと聞いている。エレン達はシガンシナ区の出身らしく、食堂で当時の状況を僅かだが話していたのを聞いた覚えがある。
その当時私はウォール・ローゼ内に位置する孤児院で平和に過ごしていた。食料に限りはあったがそれ以外は寒さに凍える様な事も飢えに苦しむという様な事も無かった。
今思えば安全な場所に居たのだなと思う。
死んでいるのかも生きているのかも分からない両親がせめてもと比較的安全なそこに預けたのだろうか、それとも偶々運が良くそこへ行けただけなのだろうか。
でも私には何も無い、だからこそ余計に平和に過ごしてきてしまった何も出来ない自分が情けないと思ったのだ。
…ダメだダメだ、自分の事を考えていても嫌になるだけだ。
気が滅入ってきた私は椅子から立ち上がりキッチンへと移動した。
今日一日は夕食の仕込みはしなくて良さそうなので気分転換にクッキーでも作ろうかと思ったのだった。
補充される食糧には限りがある為、少量だが自分の好きな物を作っても良いと許しを得ている私はこうして時折お菓子などを作ってはお茶の時間に振る舞ってみたり、僅かだが調査兵団の資金の足しにもなる為内地で販売してもらったりしている。
そう言えば…、内地に行ったお土産としてハンジさんからドライフルーツの袋詰めを貰ったのを思い出し、クッキーの生地に練り込んでみる事にした。
頃合いを見てオーブンから取り出したクッキーはこんがりときつね色に焼き上がっており、レーズンや苺、イチジクなどのドライフルーツが練り込まれたそれはカラフルな宝石の欠片が散りばめられたみたいにキラキラと輝いて見える様だった。
一枚摘まみ、一齧りしてみるとサクッと音を立てほろほろと口の中で崩れていった。甘過ぎず、卵の風味が強めのクッキーにドライフルーツの甘酸っぱさが良いアクセントになっており、今日も美味しく作れたと実感する味だった。
これもやはり美味しく作れたとなると誰かに共有したくなるものである。
ふとマルコの顔が浮かんだ私は、いつも愚痴大会と称してお喋りに付き合ってくれるマルコに食べてもらうのが機会としては丁度良いかもしれないと我ながら名案が出た。
度々作ったものをマルコに振る舞うと、いつも丁寧に感想を述べてくれた後褒めちぎってくれるものだからマルコはとても良い人なのだろうなと思う。
それがお世辞にしろ本音にしろとても嬉しい気持ちになるのだからマルコの言葉は凄い。
いつもはマルコから誘ってくれるのだが今回は私から誘ってみようかと窓の外へ目を向けながら今後のささやかな楽しみに、お茶は何を合わせようだとかいつなら予定が空いているだろうかなどまるで恋する乙女の様にソワソワと考えあぐねる私は今思うと嘸かし滑稽だっただろう。
いつの間にか外は、綺麗な青空が嘘だったかの様に暗雲が立ち込め雨が降り出していたが、そんな空模様とは対照的に私の心はとても晴れやかだった。