美味しい料理はハートも掴む
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孤児院に居た頃から、料理だけは絶対的なスキルが備わっていた。量も少なく質もあまり良くはない食材でもたちまちのうちに驚く程美味しい料理へと変えてみせた。
自分でも何故こんなにも美味しく人の心を掴むまでの味が出せるのか理屈が分からないままにやっているので、所謂生まれ持っての才能というやつなのだろうと何となく思っていた。
孤児院では私が調理の当番を週三回程受け持っていたが、私が当番の日は皆の食べっぷりが良かったそうだ。
ーーーー…そして今、私は孤児院に居た時と同じ様に国の兵団の調理を担当し、食事を提供していた。王室や街の酒場などで食事を提供する事を選ばなかったのは、私達民の為に心臓を捧げ巨人と戦ってくれている兵団の方々に感謝と尊敬の念があったからだった。
人はそれぞれ違う思考を持つものだし、価値観だってそれぞれだ。だから兵団に対してあまり良くないイメージを持つ者や口汚い言葉で罵倒する者も大勢居た。けれど私はマイナスなイメージを持った事は無かった。と言うのもきっと孤児院の四割程の人達は兵士を目指し、憧れ旅立って行ったからかもしれない。
安全な内地で憲兵団として暮らす事に憧れる者も居れば無難に壁の保持、補強を務める駐屯兵団を目指す者、調査兵団に憧れ巨人を討伐すると燃える者も居た。
そして、此処でもやはり私の料理は評判が良いらしく、私が食堂の主な調理の担当になってからは兵士達が食堂で賑やかになったそうだ。やはり美味しい料理という者は人々の心を豊かにするのである。
人類最強の…と謳われるリヴァイ兵長が食事をする所は中々面白いものであった。いつも表情に乏しい彼が料理を口に運ぶ度、ほんの少しだけ瞳を輝かせるのである。
いつも眉間に皺を寄せ不機嫌そうなあの顔が一瞬和らいだのが嬉しくて思わず前の席に座り、美味しいですか!?と聞いてしまった事があった。その時返ってきた言葉と言えば「悪くない」だったがそれでも嬉しいものであった。
孤児院に居た頃、所属関係無しに兵士は皆尊敬に値する対象だと信じて疑わなかった。確かに周りの大人達からはあまり良く思っていない声等は聞こえていたがそれでもやはり取り分け命を賭して戦う調査兵団に憧れた。だが、兵団内部の者として勤務してからそんな私と世間は全く違うのだと知った。
壁外調査の為、多大な死傷者と資金を費やす調査兵団は民からは"税金泥棒"やら"無能"などと罵られ世間からの目も、兵士達に支給される食材においても駐屯兵団と憲兵団とは比べ異なるものだった。
その二つの兵団と比べ、支給されるパンは硬くてぼそぼそとしているし肉が全く支給されない。度々王室にも調理の為に呼ばれ出向する事があるが、あんな兵団の料理なんぞせず王室専属になれと言われる始末だった。
あまりにも酷いものだから憲兵団側で支給された肉の"骨"でもせめて とくすねて調査兵団に出す料理の出汁に使ったりしている。流石に肉をくすねるわけにはいかない為、旨味で我慢してもらう他無い。
パンもあそこまで口内の水分を根こそぎ取られる様な美味しくないものとなると可哀想だと思い、調査兵団用にひっそりとパンを自作してみたりもしている。
近々104期生が訓練生から卒業する時期らしい。周りを歩く訓練生達が、兵団に所属してからの今後の意気込みなどを清々しい顔で語り合っている。その日、私はリヴァイ兵長に紅茶を淹れろと呼ばれリヴァイ兵長やハンジさん率いる第四分隊や調査兵団分隊長のミケさん等調査兵団のメンバーが集まる会議室へと向かっていた。
紅茶ぐらい自分で淹れれば良いのに…といつも思うが日中は特に急ぎの用事も無く断る理由も無いのでハンジさんに連れられ廊下を歩いていた。
「毎度悪いね、アリス」
と私の右斜め前を歩くハンジさんは困った様な声色で謝ってくる。
湯を沸かす小鍋、ティーポットと人数分のティーカップ、茶葉が入った瓶を入れたかごに目を落としながら、もう慣れましたから大丈夫ですよ、と笑って返す。最初こそ呼ばれた時は説教でもされるのか、はたまた殺されでもするのかとあのリヴァイ兵長の人を人とも思っていない様な冷たく見下ろしてくる瞳に私の人生はもはやこれまでかと覚悟をしたものだった。
いざ連れられて部屋へ入ると紅茶を淹れろという命令で、驚きと安堵からか腰を抜かしてその場にへたり込みオルオさんやハンジさんに爆笑されてしまった記憶がある。
「どうやらリヴァイは君の作ったものが相当好きみたいでね、反応は薄いかもしれないけれどあれでも彼なりの好意なんだろうと思うよ」
「はあ…」
好意があるならばもっと素直に口や態度に出して欲しいものである。私が小さく溜息を吐く後ろ、ハンジさんはメンバーが集まっているであろう会議室の扉を開けた。するといつもの仏頂面で腕を組み椅子に鎮座するリヴァイ兵長が
「遅い」
と一言。相変わらずの態度にもう慣れっこである私はわざとらしく顰めっ面を作りながら「はいはい、急いで準備しますよ」と返せば明らか不機嫌そうに顔を顰めたリヴァイ兵長に、その見苦しい顔を何とかしろと舌打ちをされた。
ペトラさんが、いつもありがとうね、と私に声を掛けハンジさんが揃った事で何やら作戦会議を始め出した。
いつも私が紅茶を淹れに呼ばれるのは作戦会議や今後の方針を話す時などで決してお茶会と言う名の楽しいものではない。
難しそうな作戦会議を何となしに聞きつつ会議室の小脇に設置されている簡素なキッチンで小鍋に水を汲み、火にかけて沸かす。どうやら壁外調査に関する作戦会議らしく皆の声が一気に真剣な色を帯びた声になった。
ぼこぼこと大きな泡が立ち、沸騰してきたお湯を一旦ティーポットへと移し温める。
一分程待ってからお湯を鍋に戻し、小鍋に入れた水が完全に沸騰するまで待つ間ティーポットへと茶葉を掬い入れる。
小鍋に入れた水が完全に沸騰したのでそれをティーポットへと注ぎ入れるとふわりと紅茶の良い香りが広がった。急いで蓋をし、三分程蒸らす。
徐々に室内に紅茶の香りが充満し始めた頃、ティーカップを取り出してそれぞれに茶漉しをセットした。ティーポットに入っている紅茶をスプーンでくるりと一混ぜしてから飴色に染まった紅茶をティーカップに順に回し入れていく。
料理、とまではいかないが紅茶を淹れるのも中々奥深くて楽しいものがあるのだ。蒸らす時間が早くても遅くても味や香りに決定的な差が出るし、ポットに注ぐお湯の量も温度も大事である。カップから漂う香りから今日も美味しく淹れられた事が分かる。
人数分紅茶を淹れ終え、お盆へとティーカップを乗せメンバーが集まるテーブルへと一つ一つ置いていくとそれぞれが此方に目を向け薄く微笑んだり感謝の言葉を述べながらカップに口を付けていく。
リヴァイ兵長だけは此方に目もくれずいつもと変わらず無表情で紅茶を飲んでいるがやはり観察していると一瞬だけ表情が和らぎ瞳はほんの少しだけ輝くのだった。
自分でも何故こんなにも美味しく人の心を掴むまでの味が出せるのか理屈が分からないままにやっているので、所謂生まれ持っての才能というやつなのだろうと何となく思っていた。
孤児院では私が調理の当番を週三回程受け持っていたが、私が当番の日は皆の食べっぷりが良かったそうだ。
ーーーー…そして今、私は孤児院に居た時と同じ様に国の兵団の調理を担当し、食事を提供していた。王室や街の酒場などで食事を提供する事を選ばなかったのは、私達民の為に心臓を捧げ巨人と戦ってくれている兵団の方々に感謝と尊敬の念があったからだった。
人はそれぞれ違う思考を持つものだし、価値観だってそれぞれだ。だから兵団に対してあまり良くないイメージを持つ者や口汚い言葉で罵倒する者も大勢居た。けれど私はマイナスなイメージを持った事は無かった。と言うのもきっと孤児院の四割程の人達は兵士を目指し、憧れ旅立って行ったからかもしれない。
安全な内地で憲兵団として暮らす事に憧れる者も居れば無難に壁の保持、補強を務める駐屯兵団を目指す者、調査兵団に憧れ巨人を討伐すると燃える者も居た。
そして、此処でもやはり私の料理は評判が良いらしく、私が食堂の主な調理の担当になってからは兵士達が食堂で賑やかになったそうだ。やはり美味しい料理という者は人々の心を豊かにするのである。
人類最強の…と謳われるリヴァイ兵長が食事をする所は中々面白いものであった。いつも表情に乏しい彼が料理を口に運ぶ度、ほんの少しだけ瞳を輝かせるのである。
いつも眉間に皺を寄せ不機嫌そうなあの顔が一瞬和らいだのが嬉しくて思わず前の席に座り、美味しいですか!?と聞いてしまった事があった。その時返ってきた言葉と言えば「悪くない」だったがそれでも嬉しいものであった。
孤児院に居た頃、所属関係無しに兵士は皆尊敬に値する対象だと信じて疑わなかった。確かに周りの大人達からはあまり良く思っていない声等は聞こえていたがそれでもやはり取り分け命を賭して戦う調査兵団に憧れた。だが、兵団内部の者として勤務してからそんな私と世間は全く違うのだと知った。
壁外調査の為、多大な死傷者と資金を費やす調査兵団は民からは"税金泥棒"やら"無能"などと罵られ世間からの目も、兵士達に支給される食材においても駐屯兵団と憲兵団とは比べ異なるものだった。
その二つの兵団と比べ、支給されるパンは硬くてぼそぼそとしているし肉が全く支給されない。度々王室にも調理の為に呼ばれ出向する事があるが、あんな兵団の料理なんぞせず王室専属になれと言われる始末だった。
あまりにも酷いものだから憲兵団側で支給された肉の"骨"でもせめて とくすねて調査兵団に出す料理の出汁に使ったりしている。流石に肉をくすねるわけにはいかない為、旨味で我慢してもらう他無い。
パンもあそこまで口内の水分を根こそぎ取られる様な美味しくないものとなると可哀想だと思い、調査兵団用にひっそりとパンを自作してみたりもしている。
近々104期生が訓練生から卒業する時期らしい。周りを歩く訓練生達が、兵団に所属してからの今後の意気込みなどを清々しい顔で語り合っている。その日、私はリヴァイ兵長に紅茶を淹れろと呼ばれリヴァイ兵長やハンジさん率いる第四分隊や調査兵団分隊長のミケさん等調査兵団のメンバーが集まる会議室へと向かっていた。
紅茶ぐらい自分で淹れれば良いのに…といつも思うが日中は特に急ぎの用事も無く断る理由も無いのでハンジさんに連れられ廊下を歩いていた。
「毎度悪いね、アリス」
と私の右斜め前を歩くハンジさんは困った様な声色で謝ってくる。
湯を沸かす小鍋、ティーポットと人数分のティーカップ、茶葉が入った瓶を入れたかごに目を落としながら、もう慣れましたから大丈夫ですよ、と笑って返す。最初こそ呼ばれた時は説教でもされるのか、はたまた殺されでもするのかとあのリヴァイ兵長の人を人とも思っていない様な冷たく見下ろしてくる瞳に私の人生はもはやこれまでかと覚悟をしたものだった。
いざ連れられて部屋へ入ると紅茶を淹れろという命令で、驚きと安堵からか腰を抜かしてその場にへたり込みオルオさんやハンジさんに爆笑されてしまった記憶がある。
「どうやらリヴァイは君の作ったものが相当好きみたいでね、反応は薄いかもしれないけれどあれでも彼なりの好意なんだろうと思うよ」
「はあ…」
好意があるならばもっと素直に口や態度に出して欲しいものである。私が小さく溜息を吐く後ろ、ハンジさんはメンバーが集まっているであろう会議室の扉を開けた。するといつもの仏頂面で腕を組み椅子に鎮座するリヴァイ兵長が
「遅い」
と一言。相変わらずの態度にもう慣れっこである私はわざとらしく顰めっ面を作りながら「はいはい、急いで準備しますよ」と返せば明らか不機嫌そうに顔を顰めたリヴァイ兵長に、その見苦しい顔を何とかしろと舌打ちをされた。
ペトラさんが、いつもありがとうね、と私に声を掛けハンジさんが揃った事で何やら作戦会議を始め出した。
いつも私が紅茶を淹れに呼ばれるのは作戦会議や今後の方針を話す時などで決してお茶会と言う名の楽しいものではない。
難しそうな作戦会議を何となしに聞きつつ会議室の小脇に設置されている簡素なキッチンで小鍋に水を汲み、火にかけて沸かす。どうやら壁外調査に関する作戦会議らしく皆の声が一気に真剣な色を帯びた声になった。
ぼこぼこと大きな泡が立ち、沸騰してきたお湯を一旦ティーポットへと移し温める。
一分程待ってからお湯を鍋に戻し、小鍋に入れた水が完全に沸騰するまで待つ間ティーポットへと茶葉を掬い入れる。
小鍋に入れた水が完全に沸騰したのでそれをティーポットへと注ぎ入れるとふわりと紅茶の良い香りが広がった。急いで蓋をし、三分程蒸らす。
徐々に室内に紅茶の香りが充満し始めた頃、ティーカップを取り出してそれぞれに茶漉しをセットした。ティーポットに入っている紅茶をスプーンでくるりと一混ぜしてから飴色に染まった紅茶をティーカップに順に回し入れていく。
料理、とまではいかないが紅茶を淹れるのも中々奥深くて楽しいものがあるのだ。蒸らす時間が早くても遅くても味や香りに決定的な差が出るし、ポットに注ぐお湯の量も温度も大事である。カップから漂う香りから今日も美味しく淹れられた事が分かる。
人数分紅茶を淹れ終え、お盆へとティーカップを乗せメンバーが集まるテーブルへと一つ一つ置いていくとそれぞれが此方に目を向け薄く微笑んだり感謝の言葉を述べながらカップに口を付けていく。
リヴァイ兵長だけは此方に目もくれずいつもと変わらず無表情で紅茶を飲んでいるがやはり観察していると一瞬だけ表情が和らぎ瞳はほんの少しだけ輝くのだった。
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