美味しい料理はハートも掴む
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どれだけの時間そうしていただろうか。私がジャンの胸に額をくっ付け感傷している間、ジャンは何も言わずそのままの状態でいてくれた。
その間も私の両目から零れる涙は留まるところを知らず、きっと私の頬はぐっしょりと濡れていただろう。
悲しい気持ちよりも失った事に対する放心感の方が強く、ぽっかりと心に穴が空くというのはこんな感じなのかと身を以て思い知った。
いつまでもこの状態でいるわけにもいかずジャンにも迷惑だろうと何とか涙を落ち着けた頃、ジャンが何だかソワソワとしだした。
やはりそろそろ離れたかったのか肩にそっと手を置き、やんわりと押してきたが今この情けない顔と泣いているという事実を知られるのはあまりにも恥ずかしく見られたくないという気持ちから私は何とか顔をマシにする時間を作る為慌ててジャンの胸元にしがみ付いた。
「ちょ、ちょっと待って…!」
「なっ…、な!?」
急いで手の甲でごしごしと目元を擦り、涙を強引に拭って勢い良くジャンから離れ、顔を上げた。
「もう大丈夫!ごめんね、ありがとう」
心配させない様明るい声色で元気を装ってみたがきっと上手くはいっていないだろう。
身体を離した直後、ジャンは至極驚いた顔で目を白黒とさせていたがやはり私の顔を見ては眉を寄せた。
「お前、泣いて…」
「泣いてない…!」
やはり今の今まで泣いていた顔を何でもない様に装うのは無理があった。
せめてもの抵抗にんとジャンの言葉を勢い良く遮っては顔を顰めてみせるがきっと情けない顔この上ないだろう。暗にジャンは、泣いて…と言い掛けていたので泣いていたのを知られてしまったのは明確だろう。
気まずさに視線をあちこちに彷徨わせているとジャンは徐に口を開いた。
「お前、一人で抱え込むといつかダメになるぞ。もっと人に縋れ、言葉でも何でもいいから吐き出せ。辛かったり苦しかったりしたら上手くガス抜きしろよ」
ジャンの口から出た言葉は以前マルコに言われた事と何だか似ていて、思わず驚いて目を見開いてジャンの顔を見詰めてしまった。
悩んでいる時や不満がある時、そんな時は誰かに聞いてもらう、或いは言葉にして昇華させる事が大事だとマルコは言っていた。
ジャンが言っている事はそれに加えて頼る事をしろ、というものだったが言っている事はそう変わらなくて、やっぱりマルコと仲が良かっただけあるなと少し笑ってしまった。
「…マルコと同じ様な事言ってる」
そんな私の小さな呟きに今度はジャンが驚いた顔を見せた。
嬉しい様な、悲しい様な何方も混じった様な複雑な表情を見せるジャンに、私もマルコと同じ様な事を言っていたと言われた時にはこんな顔をしていたのだろうかと感慨深いものがあった。
「マルコの事、忘れないでやってくれ」
それから少し間を置いてから、ジャンはすっ と小さく息を吸った後懇願する様な瞳で私の瞳を覗き込みながらそう告げてきた。
何か他にも言いた気な言葉があったのか薄く口を開くもきゅっと閉じては飲み込んだらしく、それ以降は何も言葉を発しなかった。
私もジャンの瞳を見詰め返し、そんな当たり前の事…と口にしようと思ったがきっとそんな当たり前の事をわざわざ言葉にするという事はジャンにとっても、マルコにとっても凄く大事な事なのだろう。
大丈夫だよ、忘れないし忘れたくない。ジャンも、きっとどこかで見守ってくれているであろうマルコも含めて安心させる様にしっかりと頷いてから私は口を開いた。
「マルコの事も、話した事も思い出も全部、忘れない。忘れたくないな」
そんな私の言葉を聞いてジャンは嬉しそうに、安堵した様に瞳を細めた。
「調査兵団に入団しようと思ってる」
それから二人して並んで窓の外を見詰めながらぽつりぽつりと他愛も無い話をしていると唐突にジャンが切り出した。
今まで憲兵団に入るとずっと言っていたジャンがまさか調査兵団に入ると言い出すなんて明日は雨だろうか、いや台風かもしれない…と驚いて思わずジャンの顔を見詰めた。
解散式の後の話もあり、憲兵団に入ると決意を固めたのかとばかり思っていたので混乱した私の口から出た言葉は「そしたら毎日私の料理が食べられるね」だった。
私の驚いた顔と咄嗟に出た言葉が面白かったのかジャンは思わずといった風に吹き出し、からからと笑っている。
調査兵団ではどの様な活動が多いかを、常に危険が付きまとうかを知らないわけではないだろう。
あのジャンが調査兵団に入ると決心したのには相当な葛藤があっただろうと思う。だが、きっと今回の事で何か心変わりがあったのかもしれないと思った私は野暮な質問や詮索はせず、ジャンのその選択を黙って受け入れる事にした。
「はは、ははは!!そりゃ良い。羨ましいと思ってた所だったぜ」
「…ジャンだけはご飯抜きにしようかなぁ」
…きっと今の私もジャンも先程の悲しく塞ぎ込んだ苦しい顔とは打って変わって幾分かは柔らかくなっている事だろう。
心も何だか少し軽くなった気がして、私も少しだけ笑った。
ジャンが調査兵団に入団してくれるというのは純粋に、主に調査兵団の食堂で働く身としては嬉しかった。気心の知れた友人に毎日会えると思うと嬉しいものである。
調査兵団に所属するとなるときっとお互いまた辛い出来事や現実を目の当たりにするだろう。
けれど、そんな皆の辛く苦しい気持ちを食事の時ぐらい、ほんの一時の安らぎの場を提供する事で軽減させるのが今の私の使命であり仕事だ。
「私は主に調査兵団の食事担当だから、これからもジャンと仲良くできるのは嬉しいよ。お互い、頑張ろうね」
「…おう」
自分と、それからジャンへの鼓舞として今出来うる限りの精一杯の笑顔で笑い掛ければ、ジャンは瞳を柔らかく細め薄く笑んでくれた。
未だマルコの死の悲しみは胸を抉り、当分の間心を苛まれるかもしれない。
けれどいつまでも悲しみを引き摺って生きていくわけにもいかない。乗り換え、受け止め、マルコの分まで笑顔で生きていかなければマルコにも、今までに戦死した兵士達にもとても顔向けができない。
今ここで私がへこたれている場合ではない。
人類が行き着く先に必ずしも明るい未来が待っているとは分からない。
けれど今を一生懸命に生きなくては掴める幸せもきっと手からすり抜けていってしまうだろう。
明日も、明後日も一生懸命今を生きる多くの人々が幸せでありますように。
そう願いながら私は再び窓の外へと視線を戻したのだった。
いつの間にか雲の切れ間から柔らかく明るい月の光が一筋差し込んでいて、気の所為か私達人類の未来は暗くないとばかりに希望の明かりを示唆している様に見えた。
その間も私の両目から零れる涙は留まるところを知らず、きっと私の頬はぐっしょりと濡れていただろう。
悲しい気持ちよりも失った事に対する放心感の方が強く、ぽっかりと心に穴が空くというのはこんな感じなのかと身を以て思い知った。
いつまでもこの状態でいるわけにもいかずジャンにも迷惑だろうと何とか涙を落ち着けた頃、ジャンが何だかソワソワとしだした。
やはりそろそろ離れたかったのか肩にそっと手を置き、やんわりと押してきたが今この情けない顔と泣いているという事実を知られるのはあまりにも恥ずかしく見られたくないという気持ちから私は何とか顔をマシにする時間を作る為慌ててジャンの胸元にしがみ付いた。
「ちょ、ちょっと待って…!」
「なっ…、な!?」
急いで手の甲でごしごしと目元を擦り、涙を強引に拭って勢い良くジャンから離れ、顔を上げた。
「もう大丈夫!ごめんね、ありがとう」
心配させない様明るい声色で元気を装ってみたがきっと上手くはいっていないだろう。
身体を離した直後、ジャンは至極驚いた顔で目を白黒とさせていたがやはり私の顔を見ては眉を寄せた。
「お前、泣いて…」
「泣いてない…!」
やはり今の今まで泣いていた顔を何でもない様に装うのは無理があった。
せめてもの抵抗にんとジャンの言葉を勢い良く遮っては顔を顰めてみせるがきっと情けない顔この上ないだろう。暗にジャンは、泣いて…と言い掛けていたので泣いていたのを知られてしまったのは明確だろう。
気まずさに視線をあちこちに彷徨わせているとジャンは徐に口を開いた。
「お前、一人で抱え込むといつかダメになるぞ。もっと人に縋れ、言葉でも何でもいいから吐き出せ。辛かったり苦しかったりしたら上手くガス抜きしろよ」
ジャンの口から出た言葉は以前マルコに言われた事と何だか似ていて、思わず驚いて目を見開いてジャンの顔を見詰めてしまった。
悩んでいる時や不満がある時、そんな時は誰かに聞いてもらう、或いは言葉にして昇華させる事が大事だとマルコは言っていた。
ジャンが言っている事はそれに加えて頼る事をしろ、というものだったが言っている事はそう変わらなくて、やっぱりマルコと仲が良かっただけあるなと少し笑ってしまった。
「…マルコと同じ様な事言ってる」
そんな私の小さな呟きに今度はジャンが驚いた顔を見せた。
嬉しい様な、悲しい様な何方も混じった様な複雑な表情を見せるジャンに、私もマルコと同じ様な事を言っていたと言われた時にはこんな顔をしていたのだろうかと感慨深いものがあった。
「マルコの事、忘れないでやってくれ」
それから少し間を置いてから、ジャンはすっ と小さく息を吸った後懇願する様な瞳で私の瞳を覗き込みながらそう告げてきた。
何か他にも言いた気な言葉があったのか薄く口を開くもきゅっと閉じては飲み込んだらしく、それ以降は何も言葉を発しなかった。
私もジャンの瞳を見詰め返し、そんな当たり前の事…と口にしようと思ったがきっとそんな当たり前の事をわざわざ言葉にするという事はジャンにとっても、マルコにとっても凄く大事な事なのだろう。
大丈夫だよ、忘れないし忘れたくない。ジャンも、きっとどこかで見守ってくれているであろうマルコも含めて安心させる様にしっかりと頷いてから私は口を開いた。
「マルコの事も、話した事も思い出も全部、忘れない。忘れたくないな」
そんな私の言葉を聞いてジャンは嬉しそうに、安堵した様に瞳を細めた。
「調査兵団に入団しようと思ってる」
それから二人して並んで窓の外を見詰めながらぽつりぽつりと他愛も無い話をしていると唐突にジャンが切り出した。
今まで憲兵団に入るとずっと言っていたジャンがまさか調査兵団に入ると言い出すなんて明日は雨だろうか、いや台風かもしれない…と驚いて思わずジャンの顔を見詰めた。
解散式の後の話もあり、憲兵団に入ると決意を固めたのかとばかり思っていたので混乱した私の口から出た言葉は「そしたら毎日私の料理が食べられるね」だった。
私の驚いた顔と咄嗟に出た言葉が面白かったのかジャンは思わずといった風に吹き出し、からからと笑っている。
調査兵団ではどの様な活動が多いかを、常に危険が付きまとうかを知らないわけではないだろう。
あのジャンが調査兵団に入ると決心したのには相当な葛藤があっただろうと思う。だが、きっと今回の事で何か心変わりがあったのかもしれないと思った私は野暮な質問や詮索はせず、ジャンのその選択を黙って受け入れる事にした。
「はは、ははは!!そりゃ良い。羨ましいと思ってた所だったぜ」
「…ジャンだけはご飯抜きにしようかなぁ」
…きっと今の私もジャンも先程の悲しく塞ぎ込んだ苦しい顔とは打って変わって幾分かは柔らかくなっている事だろう。
心も何だか少し軽くなった気がして、私も少しだけ笑った。
ジャンが調査兵団に入団してくれるというのは純粋に、主に調査兵団の食堂で働く身としては嬉しかった。気心の知れた友人に毎日会えると思うと嬉しいものである。
調査兵団に所属するとなるときっとお互いまた辛い出来事や現実を目の当たりにするだろう。
けれど、そんな皆の辛く苦しい気持ちを食事の時ぐらい、ほんの一時の安らぎの場を提供する事で軽減させるのが今の私の使命であり仕事だ。
「私は主に調査兵団の食事担当だから、これからもジャンと仲良くできるのは嬉しいよ。お互い、頑張ろうね」
「…おう」
自分と、それからジャンへの鼓舞として今出来うる限りの精一杯の笑顔で笑い掛ければ、ジャンは瞳を柔らかく細め薄く笑んでくれた。
未だマルコの死の悲しみは胸を抉り、当分の間心を苛まれるかもしれない。
けれどいつまでも悲しみを引き摺って生きていくわけにもいかない。乗り換え、受け止め、マルコの分まで笑顔で生きていかなければマルコにも、今までに戦死した兵士達にもとても顔向けができない。
今ここで私がへこたれている場合ではない。
人類が行き着く先に必ずしも明るい未来が待っているとは分からない。
けれど今を一生懸命に生きなくては掴める幸せもきっと手からすり抜けていってしまうだろう。
明日も、明後日も一生懸命今を生きる多くの人々が幸せでありますように。
そう願いながら私は再び窓の外へと視線を戻したのだった。
いつの間にか雲の切れ間から柔らかく明るい月の光が一筋差し込んでいて、気の所為か私達人類の未来は暗くないとばかりに希望の明かりを示唆している様に見えた。