美味しい料理はハートも掴む
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調査兵団が帰ってきたのはそれから二日後だった。本来もう少し時間と日にちを掛けて壁外で調査をするはずだったがトロスト区に巨人が一斉に向かった為、危惧して退却した所案の定危機的状況になっていたそうだ。
やはり今回の壁外調査でも調査兵団の被害は0とはならず、それに加えてトロスト区に超大型巨人が出現した事も重なり、区民、兵士共に多大な死者、負傷者が出た。人類が初めて巨人の侵攻を阻止した快挙であったが、それに歓喜するには失った人々の数があまりにも多過ぎた。
食堂でよく見掛けていた顔ぶれも今朝からチラホラと見えなくなっていたのがそれを物語っており、とても心が痛んだが食堂で働いている私よりも身近で共に戦っていた仲間である調査兵団の兵士達の方が辛いだろう。
私が湿っぽい顔をしている訳にはいかないと、悲しみは唇を噛み必死に堪え深呼吸をした後、何とか笑顔をひねり出したのだった。
ーーーー…今日一日私は上手く笑顔を作れていたのだろうか。
闇が濃くなる食堂で私は、室内を淡く照らす蝋燭を片手に闇が広がる窓の外をぼうっと眺めていた。勿論誰か兵士が訪れた時の為に食堂に居るという理由もあるが何より私自身が、昨日・一昨日の出来事もあり妙にセンチメンタルになっていて誰かと話して気を紛らわせたかったのかもしれない。無理矢理作り出した笑顔に疲れもあってか窓に映る私の顔はとても疲れた顔をしていた。
大きな騒動からまだ日が経っていない今夜はきっと誰も来ないだろうと思っていたのだが、どうやら来訪者の様だ。扉が開く軋んだ音が聞こえ、私はゆっくりそちらへと顔を向けた。
「…あ、ジャンだ。いらっしゃい」
「あ、…あぁ」
そこに立っていたのはジャンだった。私の顔を見たジャンは一瞬とても悲しそうな悔しそうな悲痛な表情を見せたものだから一体どうしたのかと私は首を傾げた。
ジャンは浮かない暗い顔で俯きながら此方へと静かに歩いてくると、隣に並び立ち先程までの私と同じ様に闇の広がる暗い窓の外へと目を向けた。
何かを話したそうに口を薄く開くも閉じては窓の外を睨むという行為を何回も繰り返している。明らかに挙動不審な様子だったが、食堂に入ってきた時の暗い顔を見るに話しにくい事だったりするのだろうと思い、ジャンのペースに任せる事にした。
トロスト区でジャン達新兵は固定砲台の整備で丁度居合わせており、巨人の討伐に加わったと聞いた。
多大な死者や負傷者が出た為今日の新兵達の昼食と夕食の準備は私が担当だった。満身創痍で新兵に食事の用意をさせるのは酷だったのだろうし何より人数の減少が激しかったのもあるだろう。
生き残った者の中には恐怖に怯え疲れ切った顔をしている者もおり、過酷な環境で生き延びる為必死に巨人との対峙をしていたのだと窺えた。
エレンが巨人だった、などと突拍子もない話まで回ってきた事もありそれが真実でも嘘であってもきっと皆思う所があり不安や恐怖、悲しみや怒り等様々な感情でぐちゃぐちゃだろう。
きっとジャンもそうで、私と同じ様に何か話して気を紛らわせたかったのかもしれない。
だから此処に来たのかもしれないと思い、少しでもジャンの心が落ち着く様に温かいミルクでも入れてあげようと窓から離れようとした隣で漸くジャンがゆっくりと口を開いた。
「…マルコが死んだ」
「…、そっか」
正直確信は持てなかったけれど、マルコが食堂に顔を見せていなかった時点でマルコに何かしらあったのだろうとは思っていた。
けれど、怪我をして来れないのだろうだとか食欲が無いだけかもしれないと勝手に良い様に捉えて頭では薄々気付いていたけれど受け入れたくなかったのかもしれない。
ジャンの口からハッキリと聞いた今、漸く脳が受け入れ始めたのかズシリと重くて苦しいものが胸を支配して足元から冷えていくようだった。
とてつもない虚無感と悲しみが襲ってきて私の中でマルコという友人の存在がとても大きなものだったのだとひしひしと感じ、生まれて初めて感じるあまりの胸の苦しさに思わず服の胸元を強く握っていた。
今までに兵士が亡くなって悲しいと思い落ち込む事等はあったがこれほどまでに強く私の心に重く伸し掛かってきたのは初めてだった事から、私にも失いたくないと思う程に大事なものが知らないうちにできていたのだと実感したが、それを守るために、大事にするためには気付くのが遅過ぎた。
大切なものは失って初めて気が付くというのはこの事だったのかと悔やんでも悔やみきれない。
もっと話しておけば良かった、もっと話したかった、…あぁ、それにまだこの前作ったクッキーを食べてもらってない、折角マルコに食べてもらおうと思ってたのにーーーー…
誰かを大切だと思った事も、大切なものを失う事も、失うものも無いぐらいに何も無かった私には初めてのその感情は重く深く胸に突き刺さり、喉がギュッと締まり息が苦しくなる。
「…お前、マルコと仲良かっただろ。知らねぇよりは…良い、だろうと思って探して此処まで来た」
「ジャンもマルコと仲良かったよね。マルコはよくジャンの話をしていたよ」
言いたくなかっただろうけどわざわざありがとう、と喉が詰まり息が苦しい中やっと絞り出した声は震え、思ったよりも酷くか細く掠れていた。無理矢理に笑顔を作ってジャンに笑い掛ければ此方を向いたジャンは私の顔を見て悲しそうに顔を歪め、私の後頭部へと手を回すとグイっと引き寄せた。
「こんな時に無理矢理笑顔作ってんじゃねぇよ…」
硬い胸板にこつんと当たった額はジャンの体温を感じほんのりと温かった。兵団服からは石鹸の香りと微かに煙の匂いが香り、上からはジャンの悲痛な声が降ってきて更に胸が苦しくなった。
流石に下手くそだったかな、と震える声で小さく笑えばジャンは無言で数回後頭部を撫でてくれた。
大きな手とその温もりに、気付けば私の頬には涙が伝っていて地面にぽたりぽたりと落ちた雫は床に染みを作っていた。
「…トロスト区で戦っていた時マルコにな、解散式の後食堂でお前に言われたそのままの事を言われたんだよ。強くないからこそ弱い者の気持ちが分かるって。今すべき事が明確に分かるだろうって」
一言一言噛みしめる様に呟いたジャンの言葉は確かに私がジャンに掛けた言葉とほとんど同じもので。
その言葉に対して私は
「…そっか、そっかぁ…」
とひたすら掠れた声で呟くしかできなかった。
やはり今回の壁外調査でも調査兵団の被害は0とはならず、それに加えてトロスト区に超大型巨人が出現した事も重なり、区民、兵士共に多大な死者、負傷者が出た。人類が初めて巨人の侵攻を阻止した快挙であったが、それに歓喜するには失った人々の数があまりにも多過ぎた。
食堂でよく見掛けていた顔ぶれも今朝からチラホラと見えなくなっていたのがそれを物語っており、とても心が痛んだが食堂で働いている私よりも身近で共に戦っていた仲間である調査兵団の兵士達の方が辛いだろう。
私が湿っぽい顔をしている訳にはいかないと、悲しみは唇を噛み必死に堪え深呼吸をした後、何とか笑顔をひねり出したのだった。
ーーーー…今日一日私は上手く笑顔を作れていたのだろうか。
闇が濃くなる食堂で私は、室内を淡く照らす蝋燭を片手に闇が広がる窓の外をぼうっと眺めていた。勿論誰か兵士が訪れた時の為に食堂に居るという理由もあるが何より私自身が、昨日・一昨日の出来事もあり妙にセンチメンタルになっていて誰かと話して気を紛らわせたかったのかもしれない。無理矢理作り出した笑顔に疲れもあってか窓に映る私の顔はとても疲れた顔をしていた。
大きな騒動からまだ日が経っていない今夜はきっと誰も来ないだろうと思っていたのだが、どうやら来訪者の様だ。扉が開く軋んだ音が聞こえ、私はゆっくりそちらへと顔を向けた。
「…あ、ジャンだ。いらっしゃい」
「あ、…あぁ」
そこに立っていたのはジャンだった。私の顔を見たジャンは一瞬とても悲しそうな悔しそうな悲痛な表情を見せたものだから一体どうしたのかと私は首を傾げた。
ジャンは浮かない暗い顔で俯きながら此方へと静かに歩いてくると、隣に並び立ち先程までの私と同じ様に闇の広がる暗い窓の外へと目を向けた。
何かを話したそうに口を薄く開くも閉じては窓の外を睨むという行為を何回も繰り返している。明らかに挙動不審な様子だったが、食堂に入ってきた時の暗い顔を見るに話しにくい事だったりするのだろうと思い、ジャンのペースに任せる事にした。
トロスト区でジャン達新兵は固定砲台の整備で丁度居合わせており、巨人の討伐に加わったと聞いた。
多大な死者や負傷者が出た為今日の新兵達の昼食と夕食の準備は私が担当だった。満身創痍で新兵に食事の用意をさせるのは酷だったのだろうし何より人数の減少が激しかったのもあるだろう。
生き残った者の中には恐怖に怯え疲れ切った顔をしている者もおり、過酷な環境で生き延びる為必死に巨人との対峙をしていたのだと窺えた。
エレンが巨人だった、などと突拍子もない話まで回ってきた事もありそれが真実でも嘘であってもきっと皆思う所があり不安や恐怖、悲しみや怒り等様々な感情でぐちゃぐちゃだろう。
きっとジャンもそうで、私と同じ様に何か話して気を紛らわせたかったのかもしれない。
だから此処に来たのかもしれないと思い、少しでもジャンの心が落ち着く様に温かいミルクでも入れてあげようと窓から離れようとした隣で漸くジャンがゆっくりと口を開いた。
「…マルコが死んだ」
「…、そっか」
正直確信は持てなかったけれど、マルコが食堂に顔を見せていなかった時点でマルコに何かしらあったのだろうとは思っていた。
けれど、怪我をして来れないのだろうだとか食欲が無いだけかもしれないと勝手に良い様に捉えて頭では薄々気付いていたけれど受け入れたくなかったのかもしれない。
ジャンの口からハッキリと聞いた今、漸く脳が受け入れ始めたのかズシリと重くて苦しいものが胸を支配して足元から冷えていくようだった。
とてつもない虚無感と悲しみが襲ってきて私の中でマルコという友人の存在がとても大きなものだったのだとひしひしと感じ、生まれて初めて感じるあまりの胸の苦しさに思わず服の胸元を強く握っていた。
今までに兵士が亡くなって悲しいと思い落ち込む事等はあったがこれほどまでに強く私の心に重く伸し掛かってきたのは初めてだった事から、私にも失いたくないと思う程に大事なものが知らないうちにできていたのだと実感したが、それを守るために、大事にするためには気付くのが遅過ぎた。
大切なものは失って初めて気が付くというのはこの事だったのかと悔やんでも悔やみきれない。
もっと話しておけば良かった、もっと話したかった、…あぁ、それにまだこの前作ったクッキーを食べてもらってない、折角マルコに食べてもらおうと思ってたのにーーーー…
誰かを大切だと思った事も、大切なものを失う事も、失うものも無いぐらいに何も無かった私には初めてのその感情は重く深く胸に突き刺さり、喉がギュッと締まり息が苦しくなる。
「…お前、マルコと仲良かっただろ。知らねぇよりは…良い、だろうと思って探して此処まで来た」
「ジャンもマルコと仲良かったよね。マルコはよくジャンの話をしていたよ」
言いたくなかっただろうけどわざわざありがとう、と喉が詰まり息が苦しい中やっと絞り出した声は震え、思ったよりも酷くか細く掠れていた。無理矢理に笑顔を作ってジャンに笑い掛ければ此方を向いたジャンは私の顔を見て悲しそうに顔を歪め、私の後頭部へと手を回すとグイっと引き寄せた。
「こんな時に無理矢理笑顔作ってんじゃねぇよ…」
硬い胸板にこつんと当たった額はジャンの体温を感じほんのりと温かった。兵団服からは石鹸の香りと微かに煙の匂いが香り、上からはジャンの悲痛な声が降ってきて更に胸が苦しくなった。
流石に下手くそだったかな、と震える声で小さく笑えばジャンは無言で数回後頭部を撫でてくれた。
大きな手とその温もりに、気付けば私の頬には涙が伝っていて地面にぽたりぽたりと落ちた雫は床に染みを作っていた。
「…トロスト区で戦っていた時マルコにな、解散式の後食堂でお前に言われたそのままの事を言われたんだよ。強くないからこそ弱い者の気持ちが分かるって。今すべき事が明確に分かるだろうって」
一言一言噛みしめる様に呟いたジャンの言葉は確かに私がジャンに掛けた言葉とほとんど同じもので。
その言葉に対して私は
「…そっか、そっかぁ…」
とひたすら掠れた声で呟くしかできなかった。