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「はじめまして。安室透です。」
彼はほんの一瞬瞳を揺らしただけで、何事もないようにあっさり、はじめましてと返してきた。
心が千切れそうな思いで、私が決断したことも彼にとっては取るに足らない事だったという事か...
店内は空いていて、テーブル席に案内された。
子どもたちがメニューを広げて、色々言っているが一切頭に入ってこない。
さっきの彼の態度がショックだった。
私は、いったい何を期待していたのだろう?
彼に驚いてほしかったのか、それとも悲しんでほしかったのか...きっと両方だ。
図々しいにも程がある。
自分で決めたはずなのに、これでいいはずなのに、自分でしたことに自分で傷ついていては世話ない。
「ご注文はお決まりですか?」
いつの間にか注文を聞きに来た安室さんが隣に立っていて、私はハッと顔を上げた。
子どもたちが次々とジュースやケーキなどを注文するのを見ていると、安室さんがこちらを見た。
あと注文していないのは、私だけのようだ。
「なまえさんは、何にしますか?」
ニコリと営業スマイルを浮かべる安室さんに私は胸が苦しくなる。
違う、これは零さんじゃない。安室さんだ。
零さんはこんな笑い方じゃない。
零さんとは別人で、私の知ってる彼じゃない。
「どれも美味しそうで迷っちゃいますね...じゃあ、このケーキセットをお願いします。飲み物はミルクティーで」
「かしこまりました。それでは、少々お待ち下さいね」
柔らかい笑みを残して去っていく彼の後ろ姿を、私はじっと見つめていた。
「お待たせしました。ショートケーキとミルクティーです」
しばらくして、安室さんが私たちが注文したものを持ってきた。
大盛り上がりで喜ぶ子どもたちを見て、私もやっと少し気持ちが落ち着いてきた。
私の前にもいちごのショートケーキが置かれ、さっそく食べようとフォークを手に取るが、そこでまだ安室さんが隣に立っている事に気づいた。
フォークを持ったまま、安室さんを見上げると彼は私をじっと見ていた。
「子どもたちからなまえさんは記憶喪失だと聞いたんですが、それは全ての記憶がないという事ですか?」
「えぇ、原因は分かりませんが全ての記憶を失くしてしまって...自分の事もよく分からないんです」
動揺するな、平常心だ。
どう言えば彼にこの嘘がバレないかを考える。
フゥーと気づかれないように小さく息を吐いてから、私は彼の瞳を見つめ返した。
本心が漏れないように、笑顔の仮面をつけて。
「それに最近、もしこのまま思い出さないとしたら、それは思い出さない方がいい記憶なのかなとも思うんです」
「...その記憶はあなたにとって必要ないと?」
「いえ。ただ、記憶が戻るかは運命に委ねようかなって」
「そう、ですか。でも、あなたはそう思っていても、思い出してほしい人もいると思いますよ」
あなたもそう思ってくれますか...?
そう彼に聞きたかった。
でも聞けるはずがない私は、曖昧に微笑む事しかできなかった。
ポアロを出ると外は薄暗くなっていた。
途中まで子どもたちと帰ろうと思っていたが、コナンくんに呼び止められたので暗くなる前にと子どもたちは先に帰した。
「コナンくん、なんかあった?」
「...なまえさん、記憶取り戻したくないの?さっき安室さんに思い出さない方がいい記憶かもしれないって言ってたでしょ?」
「分からない。でも、きっと忘れたって事は、忘れる必要があったからなんじゃないかな?」
安室さんに、いや零さんに会って、心が激しく揺さぶられて、それは想像以上に苦しかった。
「それに運命に委ねるって、どういう」
「私はね、人は大切だからこそ嘘もつくし、守りたいからこそ傷つける時もあると思うの。コナンくんなら分かるんじゃないかな?」
私はコナンくんの言葉を遮るようにそう言った。
百人いれば百の想いがある。
千人いれば千の愛し方がある。
コナンくんと私の大切な人の守り方は似ていると思う。
コナンくんに背を向けて一歩踏み出したが、一旦立ち止まってから、小さく呟いた。
「ねぇコナンくん。大切すぎると苦しいね」
コナンくんに聞こえたかは分からないが、それでも今この苦しい胸の内を誰かに聞いてほしかった。
自分で決めたはずなのに、私の決意なんて零さんに会ったら一瞬でグラグラと揺れてしまう。
今日はなんとか保てたけど、次はどうなるか分からない。
そんな情けない私は、いつかコナンくんにこの嘘を見破ってほしいと心の何処かで願ってしまった。
この小さな名探偵なら、私の嘘を見破って、でも零さんの事を守りたいそんな私の願いも叶えてくれるんじゃないかと...
そんな自分にため息を吐いて、今度こそ私は歩き出した。
彼はほんの一瞬瞳を揺らしただけで、何事もないようにあっさり、はじめましてと返してきた。
心が千切れそうな思いで、私が決断したことも彼にとっては取るに足らない事だったという事か...
店内は空いていて、テーブル席に案内された。
子どもたちがメニューを広げて、色々言っているが一切頭に入ってこない。
さっきの彼の態度がショックだった。
私は、いったい何を期待していたのだろう?
彼に驚いてほしかったのか、それとも悲しんでほしかったのか...きっと両方だ。
図々しいにも程がある。
自分で決めたはずなのに、これでいいはずなのに、自分でしたことに自分で傷ついていては世話ない。
「ご注文はお決まりですか?」
いつの間にか注文を聞きに来た安室さんが隣に立っていて、私はハッと顔を上げた。
子どもたちが次々とジュースやケーキなどを注文するのを見ていると、安室さんがこちらを見た。
あと注文していないのは、私だけのようだ。
「なまえさんは、何にしますか?」
ニコリと営業スマイルを浮かべる安室さんに私は胸が苦しくなる。
違う、これは零さんじゃない。安室さんだ。
零さんはこんな笑い方じゃない。
零さんとは別人で、私の知ってる彼じゃない。
「どれも美味しそうで迷っちゃいますね...じゃあ、このケーキセットをお願いします。飲み物はミルクティーで」
「かしこまりました。それでは、少々お待ち下さいね」
柔らかい笑みを残して去っていく彼の後ろ姿を、私はじっと見つめていた。
「お待たせしました。ショートケーキとミルクティーです」
しばらくして、安室さんが私たちが注文したものを持ってきた。
大盛り上がりで喜ぶ子どもたちを見て、私もやっと少し気持ちが落ち着いてきた。
私の前にもいちごのショートケーキが置かれ、さっそく食べようとフォークを手に取るが、そこでまだ安室さんが隣に立っている事に気づいた。
フォークを持ったまま、安室さんを見上げると彼は私をじっと見ていた。
「子どもたちからなまえさんは記憶喪失だと聞いたんですが、それは全ての記憶がないという事ですか?」
「えぇ、原因は分かりませんが全ての記憶を失くしてしまって...自分の事もよく分からないんです」
動揺するな、平常心だ。
どう言えば彼にこの嘘がバレないかを考える。
フゥーと気づかれないように小さく息を吐いてから、私は彼の瞳を見つめ返した。
本心が漏れないように、笑顔の仮面をつけて。
「それに最近、もしこのまま思い出さないとしたら、それは思い出さない方がいい記憶なのかなとも思うんです」
「...その記憶はあなたにとって必要ないと?」
「いえ。ただ、記憶が戻るかは運命に委ねようかなって」
「そう、ですか。でも、あなたはそう思っていても、思い出してほしい人もいると思いますよ」
あなたもそう思ってくれますか...?
そう彼に聞きたかった。
でも聞けるはずがない私は、曖昧に微笑む事しかできなかった。
ポアロを出ると外は薄暗くなっていた。
途中まで子どもたちと帰ろうと思っていたが、コナンくんに呼び止められたので暗くなる前にと子どもたちは先に帰した。
「コナンくん、なんかあった?」
「...なまえさん、記憶取り戻したくないの?さっき安室さんに思い出さない方がいい記憶かもしれないって言ってたでしょ?」
「分からない。でも、きっと忘れたって事は、忘れる必要があったからなんじゃないかな?」
安室さんに、いや零さんに会って、心が激しく揺さぶられて、それは想像以上に苦しかった。
「それに運命に委ねるって、どういう」
「私はね、人は大切だからこそ嘘もつくし、守りたいからこそ傷つける時もあると思うの。コナンくんなら分かるんじゃないかな?」
私はコナンくんの言葉を遮るようにそう言った。
百人いれば百の想いがある。
千人いれば千の愛し方がある。
コナンくんと私の大切な人の守り方は似ていると思う。
コナンくんに背を向けて一歩踏み出したが、一旦立ち止まってから、小さく呟いた。
「ねぇコナンくん。大切すぎると苦しいね」
コナンくんに聞こえたかは分からないが、それでも今この苦しい胸の内を誰かに聞いてほしかった。
自分で決めたはずなのに、私の決意なんて零さんに会ったら一瞬でグラグラと揺れてしまう。
今日はなんとか保てたけど、次はどうなるか分からない。
そんな情けない私は、いつかコナンくんにこの嘘を見破ってほしいと心の何処かで願ってしまった。
この小さな名探偵なら、私の嘘を見破って、でも零さんの事を守りたいそんな私の願いも叶えてくれるんじゃないかと...
そんな自分にため息を吐いて、今度こそ私は歩き出した。