32 降谷Side
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こちらはアイリス番外編の「ファン第一号」を読んでから、お読みいただく事をオススメ致します。
−−−−−−−−−−
「いらっしゃいませ」
今日は安室透でポアロのバイトの日だ。
いつも通り愛想よく人懐っこい笑顔を浮かべて、客を出迎える。
「安室さん、ハムサンド入りました〜」
「かしこまりました」
注文を取りに行った梓さんから、そう言われて俺は、早速ハムサンドを作り始めた。
なまえさんが世界一好きだと言ったサンドイッチは、ハムサンドと呼ばれ、すっかりこの喫茶ポアロの人気メニューになった。
店で出したら、毎日食べに来ると言った彼女は今この世界のどこにもいないが。
「梓さんお願いします」
ハムサンドが完成したので、テーブルを拭いている梓さんに声をかける。
梓さんは、はーいと返事をしてカウンターの方に戻ってくると俺の顔をじっと見てきた。
何か変だったかと思い、どうしました?と首を傾げた。
「気のせいかもしれないんですけど...」
「はい」
「安室さんって、ハムサンド作る時とか出す時にいつも少し寂しそうだなぁって...」
「...」
「あ、ご、ごめんなさい。やっぱり気のせいだったかも。ハムサンド持っていきまーす」
無言になった俺を見て俺が気を悪くしたと勘違いした梓さんは、逃げるように客の元へハムサンドを持っていった。
正直図星だった。
彼女がいなくなってから、いかに彼女が大切な存在だったか思い知らされた。
俺の側にいれば、いつか彼女に危険が及ぶかもしれない...そう思って突き放したが、その彼女がこの世界から消え手の届かない場所に行ってしまったと気づいた時から、心にポッカリと穴が空き、それは三年経った今もそのままだ。
ただ、その穴を見て見ぬふりをするのが上手くなっただけ。
梓さんはなかなか鋭い人だとは思っていたが、気づかれてしまうなんて俺もまだまだだ。
小さくため息をついた時、カランカランと来客を知らせるドアベルの音がした。
ほとんど反射のように、いらっしゃいませ、と入り口に向かって声をかけると、そこには小さな常連客達の姿があった。
「「「こんにちはー」」」
「やぁ、皆。今日はもう学校は終わったのかい?」
「はい!今日はお昼までで終わりだったんです」
この子達は、近所の小学生で上の階に住むコナンくんの友達でこうしてよくポアロにも遊びに来る。
少年探偵団として、町の困り事や事件などを解決したりしているらしい。
「そうなんだ。今日はコナンくんはどうしたんだい?」
「コナンくんなら、学校が終わった途端にどっか行っちゃったのー」
「灰原も誘ったのに、行かねーって言うしよー」
コナンくんの姿がなかったので尋ねてみると、歩美ちゃんと元太くんが口を尖らせてそう教えてくれた。
コナンくんは今、俺を組織のメンバーだと疑っている。
先日毛利先生にテニスのコーチを頼まれて彼らに合流したのだが、彼に凄い勢いで警戒された。
しかし、こちらとしては小学生ながら高い推理力を持つ彼に一目置いていて、まだまだ興味は尽きない。
「それは仕方ないね」
「まぁ、そうなんですけど...今日は少年探偵団で会議をしようって言ってたのに」
カウンターに座った子どもたちにオレンジジュースとケーキを出してやると、光彦くんが今日は少年探偵団の会議をする予定だったと不満そうだ。
「何かあったのかい?」
「あのね、記憶を失くしちゃったお姉さんがいてね、そのお姉さんの記憶を私たちで取り戻してあげたいの!」
「コナンなんていなくても、俺たちだけで姉ちゃんの記憶を取り戻してやろうぜ!」
そう言って張り切っている子どもたちのテーブルを離れて、俺はカウンターに入った。
今日は早番だった為、三時で上がりなので夕方の分の仕込みを済ましておかなければ。
てきぱきと手を動かしていたが、それは子どもたちの会話から聞こえたある名前でその動きは止まってしまった。
「どうしたら、なまえお姉さんの記憶戻るかなぁ」
「そうですねぇ。記憶を失った原因と同じ衝撃やショックを与えると戻ると聞いたことがありますけど...」
「でも、姉ちゃんがなんで記憶を失くしたか分かんねぇじゃんかぁ」
「そのお姉さん、なまえさんっていうのかい?」
うーん、と考え込んでしまった子どもたちに俺は思わずカウンターからそう尋ねていた。
「はい、みょうじなまえさんと言う女性です」
「安室お兄さん、なまえお姉さんと知り合いなのー?」
「じゃあ、安室の兄ちゃんも姉ちゃんの記憶を取り戻すのに協力してくれよー」
みょうじなまえ...
同姓同名か?
それとも彼女が戻ってきたのか...?
「安室さん?大丈夫ですか?」
「あ、すみません。ちょっと考え事を...」
梓さんに顔を覗き込まれて、ハッとして苦笑いを返した。
子どもたちも、心配そうにこちらを見ている。
「顔を見てないから絶対とは言えないけど、僕は多分そのなまえさんとは知り合いじゃないと思うよ。ごめんね」
そう言うと、せっかく少し手掛かりが掴めそうだったのに、と子どもたちはガッカリしているようだった。
結局いい案は思いつかなかったようで、子どもたちはしばらくして帰って行った。
なまえさん...
もし子どもたちが言っていた女性が、本当に彼女だった場合、これで良かったのかもしれない。
組織の事を覚えていなければ、彼女に危険が及ぶ可能性はぐっと減るはずだ。
側にいられずとも、例え俺の事を何一つ覚えていなくても、彼女がこの国で生きてさえいてくれればそれでいい。
それでいいのだと、自分に言い聞かせた...
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「いらっしゃいませ」
今日は安室透でポアロのバイトの日だ。
いつも通り愛想よく人懐っこい笑顔を浮かべて、客を出迎える。
「安室さん、ハムサンド入りました〜」
「かしこまりました」
注文を取りに行った梓さんから、そう言われて俺は、早速ハムサンドを作り始めた。
なまえさんが世界一好きだと言ったサンドイッチは、ハムサンドと呼ばれ、すっかりこの喫茶ポアロの人気メニューになった。
店で出したら、毎日食べに来ると言った彼女は今この世界のどこにもいないが。
「梓さんお願いします」
ハムサンドが完成したので、テーブルを拭いている梓さんに声をかける。
梓さんは、はーいと返事をしてカウンターの方に戻ってくると俺の顔をじっと見てきた。
何か変だったかと思い、どうしました?と首を傾げた。
「気のせいかもしれないんですけど...」
「はい」
「安室さんって、ハムサンド作る時とか出す時にいつも少し寂しそうだなぁって...」
「...」
「あ、ご、ごめんなさい。やっぱり気のせいだったかも。ハムサンド持っていきまーす」
無言になった俺を見て俺が気を悪くしたと勘違いした梓さんは、逃げるように客の元へハムサンドを持っていった。
正直図星だった。
彼女がいなくなってから、いかに彼女が大切な存在だったか思い知らされた。
俺の側にいれば、いつか彼女に危険が及ぶかもしれない...そう思って突き放したが、その彼女がこの世界から消え手の届かない場所に行ってしまったと気づいた時から、心にポッカリと穴が空き、それは三年経った今もそのままだ。
ただ、その穴を見て見ぬふりをするのが上手くなっただけ。
梓さんはなかなか鋭い人だとは思っていたが、気づかれてしまうなんて俺もまだまだだ。
小さくため息をついた時、カランカランと来客を知らせるドアベルの音がした。
ほとんど反射のように、いらっしゃいませ、と入り口に向かって声をかけると、そこには小さな常連客達の姿があった。
「「「こんにちはー」」」
「やぁ、皆。今日はもう学校は終わったのかい?」
「はい!今日はお昼までで終わりだったんです」
この子達は、近所の小学生で上の階に住むコナンくんの友達でこうしてよくポアロにも遊びに来る。
少年探偵団として、町の困り事や事件などを解決したりしているらしい。
「そうなんだ。今日はコナンくんはどうしたんだい?」
「コナンくんなら、学校が終わった途端にどっか行っちゃったのー」
「灰原も誘ったのに、行かねーって言うしよー」
コナンくんの姿がなかったので尋ねてみると、歩美ちゃんと元太くんが口を尖らせてそう教えてくれた。
コナンくんは今、俺を組織のメンバーだと疑っている。
先日毛利先生にテニスのコーチを頼まれて彼らに合流したのだが、彼に凄い勢いで警戒された。
しかし、こちらとしては小学生ながら高い推理力を持つ彼に一目置いていて、まだまだ興味は尽きない。
「それは仕方ないね」
「まぁ、そうなんですけど...今日は少年探偵団で会議をしようって言ってたのに」
カウンターに座った子どもたちにオレンジジュースとケーキを出してやると、光彦くんが今日は少年探偵団の会議をする予定だったと不満そうだ。
「何かあったのかい?」
「あのね、記憶を失くしちゃったお姉さんがいてね、そのお姉さんの記憶を私たちで取り戻してあげたいの!」
「コナンなんていなくても、俺たちだけで姉ちゃんの記憶を取り戻してやろうぜ!」
そう言って張り切っている子どもたちのテーブルを離れて、俺はカウンターに入った。
今日は早番だった為、三時で上がりなので夕方の分の仕込みを済ましておかなければ。
てきぱきと手を動かしていたが、それは子どもたちの会話から聞こえたある名前でその動きは止まってしまった。
「どうしたら、なまえお姉さんの記憶戻るかなぁ」
「そうですねぇ。記憶を失った原因と同じ衝撃やショックを与えると戻ると聞いたことがありますけど...」
「でも、姉ちゃんがなんで記憶を失くしたか分かんねぇじゃんかぁ」
「そのお姉さん、なまえさんっていうのかい?」
うーん、と考え込んでしまった子どもたちに俺は思わずカウンターからそう尋ねていた。
「はい、みょうじなまえさんと言う女性です」
「安室お兄さん、なまえお姉さんと知り合いなのー?」
「じゃあ、安室の兄ちゃんも姉ちゃんの記憶を取り戻すのに協力してくれよー」
みょうじなまえ...
同姓同名か?
それとも彼女が戻ってきたのか...?
「安室さん?大丈夫ですか?」
「あ、すみません。ちょっと考え事を...」
梓さんに顔を覗き込まれて、ハッとして苦笑いを返した。
子どもたちも、心配そうにこちらを見ている。
「顔を見てないから絶対とは言えないけど、僕は多分そのなまえさんとは知り合いじゃないと思うよ。ごめんね」
そう言うと、せっかく少し手掛かりが掴めそうだったのに、と子どもたちはガッカリしているようだった。
結局いい案は思いつかなかったようで、子どもたちはしばらくして帰って行った。
なまえさん...
もし子どもたちが言っていた女性が、本当に彼女だった場合、これで良かったのかもしれない。
組織の事を覚えていなければ、彼女に危険が及ぶ可能性はぐっと減るはずだ。
側にいられずとも、例え俺の事を何一つ覚えていなくても、彼女がこの国で生きてさえいてくれればそれでいい。
それでいいのだと、自分に言い聞かせた...