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「なまえさん、あなたの身分証です」
そう言って零さんが私の目の前に置いたそれは、保険証だった。
ちゃんとみょうじなまえと私の名前になっており住所も書いてあって、おそらくこのアパートの住所だろう。
見た感じ本物のように見えるから、公安の力を使って作ってくれたのだろう。
「正真正銘本物の保険証です。あなたの戸籍も作ってあります。なのでなまえさんはもう、この世界のどこででも堂々と生きていけますよ」
「あ、ありがとうございます。私全然零さんの役に立ってないのに、こんなことまでしてもらって...」
「なまえさん、あなたが言った事ですよ?」
「私が言った事...?」
「そう。この部屋に現れたとき、この世界に私の居場所を下さいって」
彼は覚えていてくれたのか。嬉しさから、思わず頬が緩む。
「本当にありがとうございます。零さん」
「僕は取引の条件を守っただけです。だから、これで僕とあなたとの契約関係は終了です」
「え、終了って...私はまだ零さんに何もしてない」
「いいえ、あなたは僕の情報を漏らさないでくれた。それだけで十分です。その代わり、これからも内密にお願いしますね」
彼はそう言って、ニコリと笑ってみせた。
そこで私はようやく気づいた。
もうここには、零さんはいなくて、いるのは安室透かバーボンか...とにかく仮面を被った彼しかいないことに。
「分...かりました。私はこれからどうしたらいいですか?」
「好きなことをするといい。身分証があれば、仕事もできるし、家だって借りられます。そのネックレスももう外してもいいんですよ。この世界であなたを縛るものはもう何もありません」
変わらずニコニコしながら、好きにしろと言う彼に頭の中が真っ白になる。
ネックレスも外してもいいと言われたが、思わずギュッと胸元のそれを強く握りしめた。
私はきっと彼に甘えていた。
この契約関係がある限り、彼は私を側においてくれる。
零さんの情報を人質に取って、脅して、なんてずるい女なのだろうか私は...
「そ、そうですよね。でも急に言われると、何も思いつかないですね。ハハ...」
「焦る必要はありません。ここでゆっくり今後の事を考えるといい」
どうしたって彼は一人で戦うのか。
全てを知っている私になら、その重いものを半分とは言わないがほんの少しでも分けてくれるのではないかと自惚れていた。
でも結局、彼にとっての私は愛する日本に住む守るべき国民の一人、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
「ありがとうございます。少し考えてみます」
「はい、そうしてください。すみませんが、この後また出なければいけないので、今日は先に休んでいてくださいね」
「分かりました。お忙しいのに保険証ありがとうございました。気をつけて行ってきてくださいね」
彼はありがとうございます。と言って、着替えを持って脱衣場へ向かった。
全身真っ黒の姿で戻ってきた彼は、そのまま行ってきますと言って、出て行った。
彼が飲んだコーヒーのカップと自分のカップを流しに下げ、蛇口を捻る。
カップの中に水が溜まっていき、やがて溢れた。
それでも私はぼぅっとカップから溢れる水を眺め続けた。
どれくらいそうしていただろうか。ポタ、ポタ、と手に水が降ってきて、そこで初めて自分が泣いていることに気づいた。
そして、それと同時に自分の気持ちにも気づいてしまった。
今までただの憧れだから、みんなの降谷さんだから、とずっと逃げて自分で自分の気持ちに蓋をした。
あの海での出来事で、私は彼の支えになり、彼を守れればそれでいいと決意して、気持ちにさらに強固な鍵をかけて心の奥底に仕舞い込んだ。
募りに募った彼への思いが、それが今頃になってこのカップのように溢れてしまった。
一度溢れ出したそれは止まることを知らないようで、涙となって私の頬を伝い続ける。
こうなることを恐れて、ずっとずっと気をつけていたのに...
始まらなければ終わらないと思っていた。
でも本当はとっくに始まっていて、それに気づかないうちに終わってしまった。
急に首輪を外されて、残ったのは自分では扱いきれないこの気持ちだけだった。
あぁ私は、降谷零を愛してしまった。
そう言って零さんが私の目の前に置いたそれは、保険証だった。
ちゃんとみょうじなまえと私の名前になっており住所も書いてあって、おそらくこのアパートの住所だろう。
見た感じ本物のように見えるから、公安の力を使って作ってくれたのだろう。
「正真正銘本物の保険証です。あなたの戸籍も作ってあります。なのでなまえさんはもう、この世界のどこででも堂々と生きていけますよ」
「あ、ありがとうございます。私全然零さんの役に立ってないのに、こんなことまでしてもらって...」
「なまえさん、あなたが言った事ですよ?」
「私が言った事...?」
「そう。この部屋に現れたとき、この世界に私の居場所を下さいって」
彼は覚えていてくれたのか。嬉しさから、思わず頬が緩む。
「本当にありがとうございます。零さん」
「僕は取引の条件を守っただけです。だから、これで僕とあなたとの契約関係は終了です」
「え、終了って...私はまだ零さんに何もしてない」
「いいえ、あなたは僕の情報を漏らさないでくれた。それだけで十分です。その代わり、これからも内密にお願いしますね」
彼はそう言って、ニコリと笑ってみせた。
そこで私はようやく気づいた。
もうここには、零さんはいなくて、いるのは安室透かバーボンか...とにかく仮面を被った彼しかいないことに。
「分...かりました。私はこれからどうしたらいいですか?」
「好きなことをするといい。身分証があれば、仕事もできるし、家だって借りられます。そのネックレスももう外してもいいんですよ。この世界であなたを縛るものはもう何もありません」
変わらずニコニコしながら、好きにしろと言う彼に頭の中が真っ白になる。
ネックレスも外してもいいと言われたが、思わずギュッと胸元のそれを強く握りしめた。
私はきっと彼に甘えていた。
この契約関係がある限り、彼は私を側においてくれる。
零さんの情報を人質に取って、脅して、なんてずるい女なのだろうか私は...
「そ、そうですよね。でも急に言われると、何も思いつかないですね。ハハ...」
「焦る必要はありません。ここでゆっくり今後の事を考えるといい」
どうしたって彼は一人で戦うのか。
全てを知っている私になら、その重いものを半分とは言わないがほんの少しでも分けてくれるのではないかと自惚れていた。
でも結局、彼にとっての私は愛する日本に住む守るべき国民の一人、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
「ありがとうございます。少し考えてみます」
「はい、そうしてください。すみませんが、この後また出なければいけないので、今日は先に休んでいてくださいね」
「分かりました。お忙しいのに保険証ありがとうございました。気をつけて行ってきてくださいね」
彼はありがとうございます。と言って、着替えを持って脱衣場へ向かった。
全身真っ黒の姿で戻ってきた彼は、そのまま行ってきますと言って、出て行った。
彼が飲んだコーヒーのカップと自分のカップを流しに下げ、蛇口を捻る。
カップの中に水が溜まっていき、やがて溢れた。
それでも私はぼぅっとカップから溢れる水を眺め続けた。
どれくらいそうしていただろうか。ポタ、ポタ、と手に水が降ってきて、そこで初めて自分が泣いていることに気づいた。
そして、それと同時に自分の気持ちにも気づいてしまった。
今までただの憧れだから、みんなの降谷さんだから、とずっと逃げて自分で自分の気持ちに蓋をした。
あの海での出来事で、私は彼の支えになり、彼を守れればそれでいいと決意して、気持ちにさらに強固な鍵をかけて心の奥底に仕舞い込んだ。
募りに募った彼への思いが、それが今頃になってこのカップのように溢れてしまった。
一度溢れ出したそれは止まることを知らないようで、涙となって私の頬を伝い続ける。
こうなることを恐れて、ずっとずっと気をつけていたのに...
始まらなければ終わらないと思っていた。
でも本当はとっくに始まっていて、それに気づかないうちに終わってしまった。
急に首輪を外されて、残ったのは自分では扱いきれないこの気持ちだけだった。
あぁ私は、降谷零を愛してしまった。