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私は今、安室の女なら一度は乗りたいRX-7の助手席に座っている。窓の外は海、隣を見ればイケメン、なんという贅沢なシチュエーションだろうか。
なぜこんなことになっているかというと、遡ること2時間前...
はぁ、暇だ...
降谷さんから外出禁止令が出されている私は、この世界に来て一度も外に出ていない。
せいぜい、こうしてベランダから外を眺めるくらいだ。
お昼を食べた後も珍しく出掛ける様子のない降谷さんは、ノートパソコンをいじっていて、どうやら仕事をしているようだ。
何もする事のない私は、そのままベランダの柵に肘をついて空を見上げていた。
「なまえさん」
名前を呼ばれ振り返ると、降谷さんは作業が終わったのかノートパソコンを閉じて、こっちを見ていた。
「どうしたんですか?」
「これから一緒に出掛けないか?」
「え、いいんですか⁉」
私にもし尻尾があったら、きっと千切れんばかりに振られていた事だろう。
「すぐ用意して来ます」
やった!降谷さんとお出掛けだ!
私はすぐに寝室に行き、ワンピースに袖を通した。
最近は少し涼しくなってきていたから、上にカーディガンを羽織った。
そして寝室を出ると今度は洗面所に駆け込み、薄く化粧を施す。
どちらも身一つでこちらの世界に来てしまった私のために降谷さんが用意してくれたものだ。
最後に、鏡の前でクルリと一周回る。
よしっ完璧だ。
リビングに戻ると、ソファーに座って待っていてくれた降谷さんにウキウキで駆け寄った。
「お待たせしました!!」
「あぁ、そのワンピースよく似合ってるな」
突然の褒め言葉にピシリと固まると、降谷さんは私の手を取ってそのまま玄関へ向かった。
「降谷さん、あの、手...」
「嫌か?」
「ちがっ「嫌じゃないなら、このままで」
「...はい」
ということで、私は今、降谷さんとドライブデート中なのだ。
しばらくするとRX-7は、左ウインカーを出して少し広くなっているところに停まった。下を見ると、海が広がっている。
降谷さんが下に降りようと言うので、ドアを開け車から降りた。固まった体を伸ばし、思い切り深呼吸すると潮のにおいがして海風が心地いい。
久しぶりの海にテンションが上がって、私は思わず砂浜へ駆け出した。途中で、サンダルを脱ぎ捨ててそのまま波打ち際まで走る。
もう夏も終わりの海には、私達しかいない。
振り返ると降谷さんがこちらにゆっくり歩いてくるので、大きく手を振って呼びかけた。
「安室さーん!!はーやーくー」
「なまえさん、あまりはしゃぐと転びますよ」
そう言いながら、私が脱ぎ捨てたサンダルを拾って大きな流木に載せてくれた。
「安室さんもどうですか?とっても気持ちいいですよ!」
「なまえさんが、楽しそうにしている姿を見ているだけで、僕も楽しいので大丈夫です」
「うっ、そうやって甘い言葉を言えば、私から情報を聞き出せると思っているんでしょう」
「おや、残念。バレてしまいましたか」
降谷さんは、そう言って楽しそうに笑っている。
そうだった、私は降谷さんに疑われていて...監視されていて...
この世界にきたあの日以外、一度も降谷さんが仕掛けてこなかったから、すっかり頭から抜けてしまっていた。
降谷さんが優しくしてくれるのも、私に良くしてくれるのも、全部全部私から情報を聞き出すため。
このドライブデートだって、本当はデートなんかじゃない。
私と降谷さんの関係はあくまで取引上、利害関係が一致しているだけにすぎない。
結局私は降谷さんに狩られる獲物なのだ。
現実を思い出し、さっきまで楽しかった気持ちが、まるで空気の抜けていく風船のように急激に萎んでいく。
どこかで、私は降谷さんを信じていた。
きっと降谷さんの事だから、私の身元を徹底的に調べただろう。
でも、この世界に私の存在を表すものなんて一つだって出てくるはずがない。
そうしたら、もしかしたら、私がこの世界の人間じゃないという事を信じてくれるのでは、と。
降谷さんに貰ったネックレスも、監視のためだと分かっていても、嬉しかった。
この世界で何も持たなかった私に降谷さんがくれた物、このネックレスがいつかこの世界と私を繋いでくれるような気がしていた。
それが今は、まるで本当に私の首を締め付ける首輪のように感じられて苦しい。
「なまえさん、そろそろ上がった方がいいですよ。」
降谷さんに声を掛けられて、急に海水の冷たさを感じた。
「海に来たの久しぶりだったから、つい夢中になっちゃいました」と、降谷さんに曖昧に笑いかけて砂浜へ戻る。
砂だらけだから、このままではサンダルが履けないな...なんて考えていたら、強い力で腰を引かれ、一瞬のうちに降谷さんに抱き上げられていた。
「ちょ、降谷さん!」
「じっとしてて」
なぜか険しい顔をする降谷さんに、そんな風に言われたら大人しくする他ない。
そのまま降谷さんは、さっきサンダルを置いた流木まで戻ると、私をそこへそっと下ろしてくれた。
そして降谷さんは「少し待っていて下さい」と言って、どこかへ行ってしまった。
もしかして私はここへ置いていかれてしまうのでは?と急に不安になり、ネックレスをギュッと握りしめ俯いていた。
しばらくして、後ろから砂を踏む音がして私は勢いよく振り返った。
そこには困ったように眉をハの字に下げて笑う降谷さんがいた。
「なんて顔をしてるんですか...」
「安室さんが、もう戻ってこない気がして」
「...そんな訳ないでしょう?あなたを野放しにしたら、情報を漏らされるかもしれないのに」
あぁ、やっぱり信じては貰えない。
当たり前だ、私だって逆の立場なら信じない。
それに降谷さんに有益な情報だって、何一つ教えていない。
なのに、家に置いて世話を焼いてくれる彼に、それだけでも私は感謝しなければならない。
それなのに、なぜ私はこんなに苦しいのだろう。なぜ、何一つ彼の役に立っていない癖に、彼なら信じてくれるなどと、考えているのだろう。おこがましいにも程がある。
「安室さん、私はあなたを守りたい。例え、あなたがこの国の為にどれだけ嘘を吐こうが、幾つの仮面を被ろうが、私だけは本当のあなたを知っている。私には何の力もないけど、それでも最後まであなたの味方で在りたいんです」
信じてくれなくてもいい。
それでも、私のこの気持ちだけは知っていてほしい。もしいつか使命の重みで前にも後ろにも進めなくなってしまった時に、思い出してほしい。
降谷さんは目を見開いた後、何かを諦めたように肩を竦めた。
「すごい殺し文句だな」
そう言って、私の前にしゃがみ込み、ペットボトルの水を私の足に掛け洗い始めた。
さっき待っていてと言ったのは、この水を買いに行く為だっだのだと気づく。
「俺はこの国を愛している。命をかけてこの国を守る事が、俺の使命だと思ってる。そのためなら、例えこの手を黒く染めることになっても構わない。でも... 」
降谷さんはそこで言葉を区切ると、私の足を丁寧にハンカチで拭いてサンダルを履かせてくれた。
そして、私の目を真っ直ぐに見つめ、こう言った。
「本当の俺を知っている人間が一人くらい、いるのも悪くないかもな」
彼の声と波の音だけが響き、世界中に私達二人しかいないかのように錯覚する。
「れい...さん」
私は口の動きだけで彼の本当の名前を呼ぶ。
彼の金髪が夕日に照らされて、どんな絶景と呼ばれる物よりもきれいだと思った。
「泣かないで。なまえさん」
そして、彼は私の涙を優しく拭った。
なぜこんなことになっているかというと、遡ること2時間前...
はぁ、暇だ...
降谷さんから外出禁止令が出されている私は、この世界に来て一度も外に出ていない。
せいぜい、こうしてベランダから外を眺めるくらいだ。
お昼を食べた後も珍しく出掛ける様子のない降谷さんは、ノートパソコンをいじっていて、どうやら仕事をしているようだ。
何もする事のない私は、そのままベランダの柵に肘をついて空を見上げていた。
「なまえさん」
名前を呼ばれ振り返ると、降谷さんは作業が終わったのかノートパソコンを閉じて、こっちを見ていた。
「どうしたんですか?」
「これから一緒に出掛けないか?」
「え、いいんですか⁉」
私にもし尻尾があったら、きっと千切れんばかりに振られていた事だろう。
「すぐ用意して来ます」
やった!降谷さんとお出掛けだ!
私はすぐに寝室に行き、ワンピースに袖を通した。
最近は少し涼しくなってきていたから、上にカーディガンを羽織った。
そして寝室を出ると今度は洗面所に駆け込み、薄く化粧を施す。
どちらも身一つでこちらの世界に来てしまった私のために降谷さんが用意してくれたものだ。
最後に、鏡の前でクルリと一周回る。
よしっ完璧だ。
リビングに戻ると、ソファーに座って待っていてくれた降谷さんにウキウキで駆け寄った。
「お待たせしました!!」
「あぁ、そのワンピースよく似合ってるな」
突然の褒め言葉にピシリと固まると、降谷さんは私の手を取ってそのまま玄関へ向かった。
「降谷さん、あの、手...」
「嫌か?」
「ちがっ「嫌じゃないなら、このままで」
「...はい」
ということで、私は今、降谷さんとドライブデート中なのだ。
しばらくするとRX-7は、左ウインカーを出して少し広くなっているところに停まった。下を見ると、海が広がっている。
降谷さんが下に降りようと言うので、ドアを開け車から降りた。固まった体を伸ばし、思い切り深呼吸すると潮のにおいがして海風が心地いい。
久しぶりの海にテンションが上がって、私は思わず砂浜へ駆け出した。途中で、サンダルを脱ぎ捨ててそのまま波打ち際まで走る。
もう夏も終わりの海には、私達しかいない。
振り返ると降谷さんがこちらにゆっくり歩いてくるので、大きく手を振って呼びかけた。
「安室さーん!!はーやーくー」
「なまえさん、あまりはしゃぐと転びますよ」
そう言いながら、私が脱ぎ捨てたサンダルを拾って大きな流木に載せてくれた。
「安室さんもどうですか?とっても気持ちいいですよ!」
「なまえさんが、楽しそうにしている姿を見ているだけで、僕も楽しいので大丈夫です」
「うっ、そうやって甘い言葉を言えば、私から情報を聞き出せると思っているんでしょう」
「おや、残念。バレてしまいましたか」
降谷さんは、そう言って楽しそうに笑っている。
そうだった、私は降谷さんに疑われていて...監視されていて...
この世界にきたあの日以外、一度も降谷さんが仕掛けてこなかったから、すっかり頭から抜けてしまっていた。
降谷さんが優しくしてくれるのも、私に良くしてくれるのも、全部全部私から情報を聞き出すため。
このドライブデートだって、本当はデートなんかじゃない。
私と降谷さんの関係はあくまで取引上、利害関係が一致しているだけにすぎない。
結局私は降谷さんに狩られる獲物なのだ。
現実を思い出し、さっきまで楽しかった気持ちが、まるで空気の抜けていく風船のように急激に萎んでいく。
どこかで、私は降谷さんを信じていた。
きっと降谷さんの事だから、私の身元を徹底的に調べただろう。
でも、この世界に私の存在を表すものなんて一つだって出てくるはずがない。
そうしたら、もしかしたら、私がこの世界の人間じゃないという事を信じてくれるのでは、と。
降谷さんに貰ったネックレスも、監視のためだと分かっていても、嬉しかった。
この世界で何も持たなかった私に降谷さんがくれた物、このネックレスがいつかこの世界と私を繋いでくれるような気がしていた。
それが今は、まるで本当に私の首を締め付ける首輪のように感じられて苦しい。
「なまえさん、そろそろ上がった方がいいですよ。」
降谷さんに声を掛けられて、急に海水の冷たさを感じた。
「海に来たの久しぶりだったから、つい夢中になっちゃいました」と、降谷さんに曖昧に笑いかけて砂浜へ戻る。
砂だらけだから、このままではサンダルが履けないな...なんて考えていたら、強い力で腰を引かれ、一瞬のうちに降谷さんに抱き上げられていた。
「ちょ、降谷さん!」
「じっとしてて」
なぜか険しい顔をする降谷さんに、そんな風に言われたら大人しくする他ない。
そのまま降谷さんは、さっきサンダルを置いた流木まで戻ると、私をそこへそっと下ろしてくれた。
そして降谷さんは「少し待っていて下さい」と言って、どこかへ行ってしまった。
もしかして私はここへ置いていかれてしまうのでは?と急に不安になり、ネックレスをギュッと握りしめ俯いていた。
しばらくして、後ろから砂を踏む音がして私は勢いよく振り返った。
そこには困ったように眉をハの字に下げて笑う降谷さんがいた。
「なんて顔をしてるんですか...」
「安室さんが、もう戻ってこない気がして」
「...そんな訳ないでしょう?あなたを野放しにしたら、情報を漏らされるかもしれないのに」
あぁ、やっぱり信じては貰えない。
当たり前だ、私だって逆の立場なら信じない。
それに降谷さんに有益な情報だって、何一つ教えていない。
なのに、家に置いて世話を焼いてくれる彼に、それだけでも私は感謝しなければならない。
それなのに、なぜ私はこんなに苦しいのだろう。なぜ、何一つ彼の役に立っていない癖に、彼なら信じてくれるなどと、考えているのだろう。おこがましいにも程がある。
「安室さん、私はあなたを守りたい。例え、あなたがこの国の為にどれだけ嘘を吐こうが、幾つの仮面を被ろうが、私だけは本当のあなたを知っている。私には何の力もないけど、それでも最後まであなたの味方で在りたいんです」
信じてくれなくてもいい。
それでも、私のこの気持ちだけは知っていてほしい。もしいつか使命の重みで前にも後ろにも進めなくなってしまった時に、思い出してほしい。
降谷さんは目を見開いた後、何かを諦めたように肩を竦めた。
「すごい殺し文句だな」
そう言って、私の前にしゃがみ込み、ペットボトルの水を私の足に掛け洗い始めた。
さっき待っていてと言ったのは、この水を買いに行く為だっだのだと気づく。
「俺はこの国を愛している。命をかけてこの国を守る事が、俺の使命だと思ってる。そのためなら、例えこの手を黒く染めることになっても構わない。でも... 」
降谷さんはそこで言葉を区切ると、私の足を丁寧にハンカチで拭いてサンダルを履かせてくれた。
そして、私の目を真っ直ぐに見つめ、こう言った。
「本当の俺を知っている人間が一人くらい、いるのも悪くないかもな」
彼の声と波の音だけが響き、世界中に私達二人しかいないかのように錯覚する。
「れい...さん」
私は口の動きだけで彼の本当の名前を呼ぶ。
彼の金髪が夕日に照らされて、どんな絶景と呼ばれる物よりもきれいだと思った。
「泣かないで。なまえさん」
そして、彼は私の涙を優しく拭った。