海の水

私は普段モニターの前ばかりにいるからこそ、外の刺激を受ける時間を作っている。

今日は養父に海が見たいと言って、連れてきてもらった。

スニーカーを脱ぎ、裸足で砂浜を歩いてみる。

砂は、足の裏につくことがなくさらっと落ちていく。

波打ち際へ近づくと、濡れた砂はびったりと足に張りついた。

砂を取り除いては、海に放り込んでリリースする。

一瞬だけ足に押し寄せた波が高くて、ジーンズの裾が濡れた。

裾を捲らなければならない。

しぶしぶ膝頭の下まで捲る。そうしたからには、膝いっぱいに海を堪能するのが定石。

静かに透明な水面から、足元が海色で見えなくなるところまで来た。

「水温はいかがですか」と問われる。

予想より温いですが外気にさらされるよりはマシですね、と返した。

透明な部分を指ですくって、ぺろりと舐めた。

「……塩辛い」

何かの間違いで甘ければ良かったのに。

この海が塩辛い理由。

砂糖が入っていない理由。


それは海の塩がすべて砂糖になってしまえば、私は人魚として生きていくことを選んでしまうだろうから。


そんな戯言はさておき、塩と水の塊と戯れるのも悪くはなかった。

また来ようと思う。
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