これはなにかのしわざ
ニアは自然と目を覚ました。時間を確認するためにモニターの明かりをつけると、現在は午後0時すぎ。
ぱあっとデスクが照らされる。乱雑に散らばった書類ばかりだが、その中でもひときわ自身が座らせたブリキの玩具が目に入る。持ち上げるために近づくと、玩具の足の上に白い羽が落ちていた。
この部屋に鳥が入り込むような窓はおろか、隙間さえない。
壁を通り抜けられる存在、死神のことを思い出した。が、あのコウモリのような羽とは系統が全く違う。この羽はどちらというと、天を舞う……
「天使のようだ」
そう呟いた時、ひとつの推論、もはや推論ではなく空想かもしれないが、脳裏によぎった。
以前のニアなら、こんな非論理的なことを思いつきもしなかったであろう。しかし、今だからこそ思い浮かんだ。
「……そうか。死神がいるのだから、天使がいたっておかしくはない……」
今回は偶然が重なっていた。
ニアの15分間の仮眠、いつも玩具を購入しているレスターの夜番。
仮眠室に入る時さえ音を立てなかったのは、仮眠に限らず何かしらの行動を妨げないようにしたかったから。
プレゼントの中身が既に持っている玩具だったのは、単純にレスター指揮官が購入した物を忘れていたから。
しかし、それらも覆った。
そんな時に、一枚の羽で何かが繋がった。
もし、本当に天使だったら?
そう考えると、セキュリティを掻い潜る必要も、音を立てないようモニター室に入る努力をする必要も無い。
ならば、天使はニアの好きなものを知っていてプレゼントしたことになろうか。偶然にも、自身の身の回りで天使となったかもしれない存在に数人心当たりがあった。
以前買った物と被った理由も、ニアの中で紐づいた。
キラ事件解決後にニアがこのブリキの玩具を得たことを、天使が知るわけないのだ。
彼らは、事件の渦中にいなくなってしまったのだから。
ニアは天を仰いで語りかける。
全ては単純なことだったのだ、それを誰かに確認するように。
「……きっと、これは天使のしわざ……ねえ、そうでしょう?」
……
見上げた宙からの返答はなく、ただそこにはいつも通りの天井が広がるのみ。
静かなままの空間を数秒見つめる。
なーんてね、と少し笑ってモニター室を出た。