行かないと

「もう行かないと」

「か、み」

「照は良い子だから」

「僕に会えない間も、想い続けてくれるね?」

「……あ……わ……」

「わ、私の……この身も心も……すべて神のものですから」

「そう」

「照。今度会う時は、」

耳打ちされ、かあっと熱くなる。

「楽しみにしておいて」

「……っ、は、はい……」

魅上の頭をひと撫でして、夜神月は去っていく。

少しずつ遠のいていく。かすかな声で「神、」と呼んだ。

聞こえていたのか、夜神月は立ち止まって振り返った。


「どうした?」


自身の声を掬い上げられるなど、微塵も思っていなかった。

「お……気をつけて」

「ありがとう」

そう言って、また踵を返した。


本当に行かないで、と言ってしまえば、神は戻ってきてくれただろうか。

背中が見えなくなるまで見送りながら、ありもしない世界を想像していた。
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