アンモビウム

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大量の書物と睨めっこをしながら選抜した、ハイラルの歴史に関する本数冊を自室へ運び込んだのは良いものの、実際読もうかどうか私は悩んでいた。冒頭部分を少し読んでみたところ、初めて聞く内容ばかりだった。そして問題は本の厚み。数冊を合計すれば辞書に匹敵するこの厚みの中から、私のいた時代を探し出すにはかなりの時間がかかると思われる。そもそもこの中に私のいた時代について書かれているとは限らないのだ。



「んー………。」



結局。私はひとまず読むことを諦めた。代わりに、今日私の見張りを任されている兵を部屋に入れ、聞いてみることにした。
早い話、私はハイリア語を読むことが苦手だ。こんなに沢山の量を一文字一文字読み、理解するのにはどれほどの時間が必要になるか。いつまでもここで世話を見てもらえるとは限らない。だったら私の知っている時代の話を聞いてもらい、彼の知識を借り、今の時代がいつなのかを判断する方が効率的だと考えた。

若い兵は、私が自ら本を読まないことに疑問を抱いたようだったがさほど気にはせず、快く承諾してくれた。



“これだけの量を読むのは面倒ですからね”という兵の本音に苦笑を漏らしながら、お互い椅子に腰を下ろした。



「城内では話題になっていますよ、時を越えた人間が来たらしいって。」

「はあ、それは…どうも。」



彼は頭部を隠していた兜を外し、軽く揶揄するような口調で問いかけてきた。



「で、実際のところは、どうなんですか?」

「…は?ははははっ」



思わず乾いた笑いを零した。だって、そんなくだらない質問、



「私が言っただけで信用するわけじゃないでしょ?」

「まあ、確かにそうなんですけど。あなたの口から聞きたいんです。これは単に私個人の興味で、ですよ。」



正直、興味本位で聞かれるのも億劫だ。他人事だと思って。こちとら困ってるんだぞ。



「まあ、そんなことはこれから話してれば勝手にわかることでしょ、多分だけど。」

「じゃあそうさせていただきますよ。で、あなたのいた時代の特徴や出来事など何かありますか?」



小さく微笑みながらそう問いかけてきた。出来事…。まず一番に確かめたいことがある。



「…時の勇者」

「…はい?」

「時の勇者と、それに関わる戦い。かなり大きい出来事だった筈だけど。聞いたこと無い?」

「はあ、無いですね…。今では伝わってない程、随分と昔の話なのでは?」



そんな筈は無い。あの頃にはちゃんと文字の伝達手段は存在していたし、あの戦いが起きていたのなら王家が伝承しないなどということは考えられない。
つまり、この時代の過去には時の勇者なんて現れなかった。戦いも起きていない。

きっとここは、戦いを未然に防いだ後の時代か、それよりもずっと前の時代。



「じゃあ、砂漠の盗賊王…ガノンドロフの名に聞き覚えは?」

「ガノンドロフ?」



ピクリ、ハイリア人特有の長い耳が反応した。そして彼の言葉で大方今の時代がいつなのか、確信を持てた。



「ガノンドロフという男なら、王家が守る遺産を手にしようと目論み、砂漠の処刑場にて処刑された…と、何かで読んだ覚えが。確か百年以上前だったかと…しかし今ではそのような一族は残っていませんね。」

「ビンゴ。」

「はい?」

「うん、大体わかった。私がいたのその頃。でもそれより10年近く経ってるかな…。」



はっきりわかった、あまりにも早い結論に一瞬信じられないかと思ったけれど。ここは私とリンクが帰ってきて、戦いを未然に防いだ時代の未来。私の言葉に“ほー…”とやや楽しげに頷いた彼は、室内の時計に目を向けるとテーブル上の本を片付け始めた。結局使う必要が無かったな、と何気なく窓の外を見ながら思った。
日中の暖かな日差し。鮮やかでありながらも穏やかな青空は、相も変わらず澄み渡っていた。





(かつての時代に想いを馳せた)

12.09.16
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