城内の長い廊下を兵に連れられ、後ろを付いて歩く。一定間隔で離れた窓から差し込む光が暖かい。

(まさか本当に居座らせてもらえるとは…)

ありがたい。ありがたいけれど、調子が良過ぎないか。
いつも通り。至っていつも通りに城下町に入っただけなのに。目に映ったのは似通ってはいるものの、私の知っている城下町ではなかった。町の人から見たら私は普通の人間であって誰が帰る家もないと思うだろうか。


どうやら今度は私が時を越えてしまったようで。


ひとまず城に行ってみようと思い向かったものの門番に止められてしまい(まあそれが当たり前なのだけれど)、厳重な警備にダメ元でいつかのようにまた城に潜入するしか無いかなどと考えていたら、あっさりと迎え入れられたのだった。



ふと窓の外に目を向けると稽古の途中なのか、鎧を纏った数人の男性が腰を下ろして会話を楽しんでいる様子が見えた。



「おい、どうした。」



歩く足を止めていたものだから前を歩いていた兵が不信に思い、声をかけてきた。無意識に怖い顔をしていたらしい。握り締めていた手の力を抜く。


「ああ、いや…何でも。」

「…まさか良からぬことなど考えていないだろうな。」



歩を再び進め始め、返ってきた言葉に思わず苦笑を漏らす。安全の為にと預けざるを得なかった武器が無い為か、体にかかる重さに違和感を感じる。



「はは、随分と信用されてないんですね。」

「当たり前だ、素姓の知れない者を野放しにする訳にはいかないからだ。」

「承知してますよ…。」

「…さ、着いたぞ。お前にはここを使用してもらう。」



行き着いた部屋にはテーブルと椅子、ベッドや机などといった必要最低限の家具が置かれていた。かといって悪いことは無く、一人で使うのには充分な部屋だった。強いて言うならば、窓からの日当たりはさほど良くないことぐらいか。
食事は城で働いている人が持ってきてくれること、部屋から出る時は基本的に部屋の前にいる見張りと同行することなどを一通り教えられ、書斎の使用も許可してもらえた。しばらくはここで暮らしながら情報収集になる、かな。
まとも…どころか、並以上に良い扱いをされていて本当にここに居て良いのか少々不安になった。まあ、監視されてはいるけれど。

(夕食に出された食事が美味で、その慣れない味に違和感を覚えた)(帰りたいと、独り思いながら飲み込んだ)

12.09.16