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「……伊之助?」
「あん?」
門の前に立ち寄った女性が、猪頭を一目見て名前を呼ぶ。どこかで見たことがある気がする、と伊之助が頭の中で考えていると、女性は安心したように、だが距離を詰めることはなく遠慮がちに声を漏らした。
「やっぱり、伊之助……良かった……あの日からすっかり見かけなくなったから、心配だったの。」
彼女も同じ藤の花の家紋の家に用があるらしく、肩に乗せた風呂敷を持ち直して門をくぐった。
善逸は“あんな可愛い子と知り合いなの!?ヤダヤダ炭治郎はともかく伊之助に先越されるなんて嫌だよぉ”と騒ぎ立てるし、炭治郎は“知り合いに会えて良かったな”と微笑んでいるが、当の伊之助はと言うと全く思い出せず黙りこくっていた。
屋敷の縁側を歩けば、先程の女性が風呂敷を広げて、家主である老婆に野菜を渡しているところを見かけた。
「***様のところで採れる野菜はどれも新鮮でございますから、鬼狩り様もきっとお喜びになります。」
「そうですか。そうして美味しく召し上がっていただけるのが何より嬉しいですから、どうぞこれからもご贔屓にしてくださいませね。」
柔らかく微笑む女性の表情を見て、埋もれていた記憶が蘇る。確か、出会ったばかりの頃にあんな表情を……
「っあ゛ーーーー!!お前!ジジイのとこの弱味噌女だな!!」
指を指して声を荒げた伊之助に目を丸くして、遅れて彼女は“弱味噌って言わないで……”と静かに頬を膨らませた。
***は伊之助に言葉を教えた老人の身内だった。別れて時間が経つ間に、お互いは体も心も幾分か成長した。当時グスグスと泣きべそをかいていた***が、すっかり大人に近づいた背丈になり、一人で外で働いていることに違和感を感じても、その違和感をどのように処理したらしたらいいのか伊之助にはわからず、思わず構えた人差し指の行き場に困る。
そんな伊之助に“ひ……人に指を向けたら、いけないのよ”と***はまだ遠慮がちにやんわり諭す。何故彼女が先程からよそよそしい態度でいるのか、これもまた伊之助には理解ができず不快であった。
「お前っ!何でいつもそんな感じなんだよ!?なんか知らんがムカつくぜ!!」
フンフンと猪頭から荒い息を出して詰め寄ると、***はビクッと肩を跳ねて怯えた目をする。その様子を見ると思わず足が止まり、踵を返して部屋へ向かった。
(何なんだ、さっき会った時から俺を見てどんどん怯えやがる。)
去っていく背中を見て、安堵しながらも悲しい表情を浮かべる***の様子に伊之助が気付く筈もなかった。
風呂を済ませてからの夕食の場に、***は一緒にいた。一人一人の目の前に膳が並べられ、囲うようにして伊之助の目の前に座っている。先ほどのような怯える様子はなく、隣にいる善逸に“ご一緒して本当によろしかったのですか?”と話しかけては嬉しそうに微笑んでいる。
「良いんだよ〜!ご飯はみんなで食べる方が美味しいんだからさ!!」
デレデレと体をくねらせながら、心底嬉しそうに頬を緩ませる善逸に何故だか腹が立ち、彼のおかずの天ぷらを奪う。
「あぁ!何すんだこの野郎!俺の分だろぉ!!」
「うるせぇ!!弱味噌は弱味噌同士群れてろ!!」
「伊之助、そんなにお腹が空いているなら俺の分を食べろ!ほら善逸も、俺の分を分けてやるから……」
騒がしく、箸も使わずがちゃがちゃと食らう伊之助を、***がぽかんと大口を開けて見つめる。
「……伊之助?」
「あぁ?話しかけんな弱味噌!!」
「だーーーーっ!!口に入ったまま喋るな!!飛ぶだろ食べカスがァ!!」
「何でそんなことを言うんだ伊之助!彼女は知り合いなんだろう?」
「コイツ見てるとイライラすんだよ、昔っから!!」
***は驚いて目をぱちくりさせて、数秒置いてから“お食事中すみません。ちょっと……外しますので、皆さんは先に召し上がっていてください。”と腰を上げて部屋から出て行く。
「ほらもう、あんなこと言うから***さん傷付いて出て行ってしまったじゃないか!謝るんだ!!」
「何でいちいちあんなに怒るんだよ?別に悪いことしてないし、***ちゃん良い子じゃんか。しおらしくて、可愛いのにさ……」
“ほんと信じらんないぜ”と恨めしそうにボソボソ言いながら箸を進める善逸の言葉など全く耳に入らず、伊之助は先程の自分の発言にまた違和感を覚えていた。
昔から?そもそも昔のアイツってどんな奴だったっけ。思い出すのは自分が腕を引っ張って彼女をどこかへ連れて行こうとしていたこと。それを嫌がってぼろぼろ涙を流していた***の顔。ああ、思い出したらまたイライラしてきた。
何であの時あんなに嫌がってたんだ?いや、そもそも俺はどこへ行こうとしていた?あんなすぐ泣く弱味噌女と一緒に。
確か一向に着いて来てくれなくて、“そんなに行きたくねぇんなら、もういいわ!!”と手を離して山の麓に置いて来た気がする。あぁ、多分これがアイツと別れた最後の記憶だな。
彼女と話せば思い出せると思い、いつもの頭を被って探しに行く。
「オイ!!」
意外にも***は、部屋からそう遠くない縁側で腰掛けていた。声をかけられて彼女が伊之助の方を見ると、ギョッとして胸を抑える。
「あ、あ、あの……」
「あん時どこ行こうとしてた!?」
「その被り物、取ってほしい!!」
「……あ?」
言葉が被ってしまい、突拍子も無い発言にお互い目を丸くする。
「……え?…………んっと……あの時って、最後に会った日……のことは、私もわからなくて……伊之助、全然教えてくれなかったから…………。あと、その被り物……外したままでお話させてほしい……。」
下を向いて辿々しく言葉を紡ぐ***を見て、この頭が原因でまともに話してくれなかったのだと、伊之助はこの時にやっと理解した。
渋々頭を外して隣に座ると、やっと***と目を合わせることが出来た。
「実はね、私、猪ってちょっと苦手なの。昔、山で偶然会っちゃって、すごく大きかったから……その被り物見ると、ちょっと怖いんだ。」
ごめんね、と眉尻を下げて謝られる。しかし先程までの強張った表情ではなくなっていることに安堵感を覚える。
「伊之助、とっても綺麗な顔してたんだね。ずっとその頭被ってたから、全然知らなかった。もっと早く知ってたら沢山お話しできてたのになぁ、勿体無いことしちゃった」
「綺麗って何だ?」
「え?うーん……ずっと見ていたくなるものとか、見ていて気分が良いものとか、そういうものを褒める時の言葉だよ。綺麗なものを見ると、大切な人や親しい誰かに見せたくなるの。そういう気持ちになったことない?例えばほら、」
夜空に浮かぶ月を指して“今日なんてお月様がとっても綺麗だよ”と嬉しそうに伝える***の言葉に、あの日の記憶が溢れ出るように伊之助の脳裏に蘇った。
物心ついた頃、山の上で見た日の入りがそれはそれは素晴らしいものだった。いつも頭上で輝く日が、水面を眩く照らしながら海の向こうへ沈んでいく様を、何も言えずに一人で見つめた。ちかちかとする目に違和感を覚えながらもその日見た光景が頭に離れず、翌日にいろいろな言葉を教えてくる老人の元へ行った。老人はその日は家ですっかり眠りこけており、***が柿を干していた。
初めて会った時に伊之助が取った柿。同じ人間とは思えない身のこなしで木を登り、柿を取った伊之助を***はしきりに“すごいねぇ、すごいねぇ”と興奮気味に褒め倒したので、伊之助は大層気分が良かったのを覚えていた。
だからちょうど居合わせた***を連れ出した。
そうだ、コイツなら俺が柿を取った時のようにきっと大喜びする。そう思って連れ出したのだ。ただ、伊之助は言葉が足りなかった。突然現れた伊之助が理由も言わずにただ“来い!”と言って荒々しく腕を引っ張り連れ出そうとするので、***は驚き、身内に何も伝えず知らない場所へ行くことが怖かった。
当然“やだ、待って、どこ行くの?”、“怖いよ”と涙を流しながら抵抗して、とうとうしゃがみこんでしまった彼女に痺れを切らした伊之助が一方的に腹を立て、山の麓に***を置いて行ってしまったのだ。
自分が“綺麗”だと思ったのも、誰かに見せたいと思った物も、きっとそれが初めてのことだったのだと伊之助は漸く理解した。
「……そういうことか!わかったぜぇ、綺麗ってモンが」
「本当に知らなかったんだね、ちょっとビックリしたよ」
「おう、でも俺様は権八郎達といろんなとこ言ってるからな。お前よりも綺麗なモンいっぱい知ってるぜぇ」
自慢げな顔を浮かべながら***を見下すも、彼女は“わぁ”と目を輝かせて羨ましがる。
「そうなの?良いなぁ、私じゃそんなに遠くへは行けないから……。もし綺麗な物見つけたら、今度教えて!」
楽しそうに会話を楽しんでいる表情を見て、突然伊之助は対照的に固まりじっと***の顔を見つめた。
「どうしたの?」
「いや……今わかったんだけどよ、お前も綺麗ってやつなんだな」
“今まで泣いてるか向こう見てるから、わかんなかったぜ”と純粋に真っ直ぐな表情で伊之助が言う。冗談など塵も含まない発言だと理解した瞬間、***の顔に熱が上った。
「な、な、何を言うの、いきなり……!?」
「だってずっと見ていたくなるモンを言うんだろ、綺麗って。違うのかよ?」
「違わないけど……違わないんだけど…………ううう!」
どうしたら良いかわからず、耐えきれずにカーッと火照る顔を両手で覆う***の気持ちになど伊之助が気づくはずもなく、腕を引いて炭治郎と善逸が待つ部屋へ連れ戻した。
「オイ、お前ら知ってたか!!コイツ綺麗な顔してんだぜ!!」
たった今理解した言葉を得意気に使う伊之助と、顔を赤くする***の様子を見た善逸は、その晩、伊之助が熟睡している間もずっと嫉妬で怒り散らしていたのだと後に炭治郎は語った。
***
初の鬼滅夢小説でした。
社会の勉強は苦手なものでして大正時代の知識には欠けるので、言葉使いとかいろいろ心配になりますが、もう開き直って自分がかけるものを書こうと思い切って執筆しました。
推しは義勇さんなのですが、彼は言葉数が少なすぎるのでどんなお話にするか想像がつきません(笑)
伊之助は恋愛とは一番程遠い気もしますが、だからこそ普通とは違う導入の仕方で様々な感情を覚えていくのだろうなと考えるのが楽しいとも思いました。
あと、これを書いていた時は単行本を読むのに追いついてなかったのですが、狛治と恋雪さんのお話に似た部分あって「アレ?これ私が書いた伊之助も同じくらい最低なことしてるじゃん」ってちょっと笑ってしまいました。伊之助だからね。仕方ないよね。
他のキャラクターでも書いていきたいです。
2020/05/28
「あん?」
門の前に立ち寄った女性が、猪頭を一目見て名前を呼ぶ。どこかで見たことがある気がする、と伊之助が頭の中で考えていると、女性は安心したように、だが距離を詰めることはなく遠慮がちに声を漏らした。
「やっぱり、伊之助……良かった……あの日からすっかり見かけなくなったから、心配だったの。」
彼女も同じ藤の花の家紋の家に用があるらしく、肩に乗せた風呂敷を持ち直して門をくぐった。
善逸は“あんな可愛い子と知り合いなの!?ヤダヤダ炭治郎はともかく伊之助に先越されるなんて嫌だよぉ”と騒ぎ立てるし、炭治郎は“知り合いに会えて良かったな”と微笑んでいるが、当の伊之助はと言うと全く思い出せず黙りこくっていた。
屋敷の縁側を歩けば、先程の女性が風呂敷を広げて、家主である老婆に野菜を渡しているところを見かけた。
「***様のところで採れる野菜はどれも新鮮でございますから、鬼狩り様もきっとお喜びになります。」
「そうですか。そうして美味しく召し上がっていただけるのが何より嬉しいですから、どうぞこれからもご贔屓にしてくださいませね。」
柔らかく微笑む女性の表情を見て、埋もれていた記憶が蘇る。確か、出会ったばかりの頃にあんな表情を……
「っあ゛ーーーー!!お前!ジジイのとこの弱味噌女だな!!」
指を指して声を荒げた伊之助に目を丸くして、遅れて彼女は“弱味噌って言わないで……”と静かに頬を膨らませた。
***は伊之助に言葉を教えた老人の身内だった。別れて時間が経つ間に、お互いは体も心も幾分か成長した。当時グスグスと泣きべそをかいていた***が、すっかり大人に近づいた背丈になり、一人で外で働いていることに違和感を感じても、その違和感をどのように処理したらしたらいいのか伊之助にはわからず、思わず構えた人差し指の行き場に困る。
そんな伊之助に“ひ……人に指を向けたら、いけないのよ”と***はまだ遠慮がちにやんわり諭す。何故彼女が先程からよそよそしい態度でいるのか、これもまた伊之助には理解ができず不快であった。
「お前っ!何でいつもそんな感じなんだよ!?なんか知らんがムカつくぜ!!」
フンフンと猪頭から荒い息を出して詰め寄ると、***はビクッと肩を跳ねて怯えた目をする。その様子を見ると思わず足が止まり、踵を返して部屋へ向かった。
(何なんだ、さっき会った時から俺を見てどんどん怯えやがる。)
去っていく背中を見て、安堵しながらも悲しい表情を浮かべる***の様子に伊之助が気付く筈もなかった。
風呂を済ませてからの夕食の場に、***は一緒にいた。一人一人の目の前に膳が並べられ、囲うようにして伊之助の目の前に座っている。先ほどのような怯える様子はなく、隣にいる善逸に“ご一緒して本当によろしかったのですか?”と話しかけては嬉しそうに微笑んでいる。
「良いんだよ〜!ご飯はみんなで食べる方が美味しいんだからさ!!」
デレデレと体をくねらせながら、心底嬉しそうに頬を緩ませる善逸に何故だか腹が立ち、彼のおかずの天ぷらを奪う。
「あぁ!何すんだこの野郎!俺の分だろぉ!!」
「うるせぇ!!弱味噌は弱味噌同士群れてろ!!」
「伊之助、そんなにお腹が空いているなら俺の分を食べろ!ほら善逸も、俺の分を分けてやるから……」
騒がしく、箸も使わずがちゃがちゃと食らう伊之助を、***がぽかんと大口を開けて見つめる。
「……伊之助?」
「あぁ?話しかけんな弱味噌!!」
「だーーーーっ!!口に入ったまま喋るな!!飛ぶだろ食べカスがァ!!」
「何でそんなことを言うんだ伊之助!彼女は知り合いなんだろう?」
「コイツ見てるとイライラすんだよ、昔っから!!」
***は驚いて目をぱちくりさせて、数秒置いてから“お食事中すみません。ちょっと……外しますので、皆さんは先に召し上がっていてください。”と腰を上げて部屋から出て行く。
「ほらもう、あんなこと言うから***さん傷付いて出て行ってしまったじゃないか!謝るんだ!!」
「何でいちいちあんなに怒るんだよ?別に悪いことしてないし、***ちゃん良い子じゃんか。しおらしくて、可愛いのにさ……」
“ほんと信じらんないぜ”と恨めしそうにボソボソ言いながら箸を進める善逸の言葉など全く耳に入らず、伊之助は先程の自分の発言にまた違和感を覚えていた。
昔から?そもそも昔のアイツってどんな奴だったっけ。思い出すのは自分が腕を引っ張って彼女をどこかへ連れて行こうとしていたこと。それを嫌がってぼろぼろ涙を流していた***の顔。ああ、思い出したらまたイライラしてきた。
何であの時あんなに嫌がってたんだ?いや、そもそも俺はどこへ行こうとしていた?あんなすぐ泣く弱味噌女と一緒に。
確か一向に着いて来てくれなくて、“そんなに行きたくねぇんなら、もういいわ!!”と手を離して山の麓に置いて来た気がする。あぁ、多分これがアイツと別れた最後の記憶だな。
彼女と話せば思い出せると思い、いつもの頭を被って探しに行く。
「オイ!!」
意外にも***は、部屋からそう遠くない縁側で腰掛けていた。声をかけられて彼女が伊之助の方を見ると、ギョッとして胸を抑える。
「あ、あ、あの……」
「あん時どこ行こうとしてた!?」
「その被り物、取ってほしい!!」
「……あ?」
言葉が被ってしまい、突拍子も無い発言にお互い目を丸くする。
「……え?…………んっと……あの時って、最後に会った日……のことは、私もわからなくて……伊之助、全然教えてくれなかったから…………。あと、その被り物……外したままでお話させてほしい……。」
下を向いて辿々しく言葉を紡ぐ***を見て、この頭が原因でまともに話してくれなかったのだと、伊之助はこの時にやっと理解した。
渋々頭を外して隣に座ると、やっと***と目を合わせることが出来た。
「実はね、私、猪ってちょっと苦手なの。昔、山で偶然会っちゃって、すごく大きかったから……その被り物見ると、ちょっと怖いんだ。」
ごめんね、と眉尻を下げて謝られる。しかし先程までの強張った表情ではなくなっていることに安堵感を覚える。
「伊之助、とっても綺麗な顔してたんだね。ずっとその頭被ってたから、全然知らなかった。もっと早く知ってたら沢山お話しできてたのになぁ、勿体無いことしちゃった」
「綺麗って何だ?」
「え?うーん……ずっと見ていたくなるものとか、見ていて気分が良いものとか、そういうものを褒める時の言葉だよ。綺麗なものを見ると、大切な人や親しい誰かに見せたくなるの。そういう気持ちになったことない?例えばほら、」
夜空に浮かぶ月を指して“今日なんてお月様がとっても綺麗だよ”と嬉しそうに伝える***の言葉に、あの日の記憶が溢れ出るように伊之助の脳裏に蘇った。
物心ついた頃、山の上で見た日の入りがそれはそれは素晴らしいものだった。いつも頭上で輝く日が、水面を眩く照らしながら海の向こうへ沈んでいく様を、何も言えずに一人で見つめた。ちかちかとする目に違和感を覚えながらもその日見た光景が頭に離れず、翌日にいろいろな言葉を教えてくる老人の元へ行った。老人はその日は家ですっかり眠りこけており、***が柿を干していた。
初めて会った時に伊之助が取った柿。同じ人間とは思えない身のこなしで木を登り、柿を取った伊之助を***はしきりに“すごいねぇ、すごいねぇ”と興奮気味に褒め倒したので、伊之助は大層気分が良かったのを覚えていた。
だからちょうど居合わせた***を連れ出した。
そうだ、コイツなら俺が柿を取った時のようにきっと大喜びする。そう思って連れ出したのだ。ただ、伊之助は言葉が足りなかった。突然現れた伊之助が理由も言わずにただ“来い!”と言って荒々しく腕を引っ張り連れ出そうとするので、***は驚き、身内に何も伝えず知らない場所へ行くことが怖かった。
当然“やだ、待って、どこ行くの?”、“怖いよ”と涙を流しながら抵抗して、とうとうしゃがみこんでしまった彼女に痺れを切らした伊之助が一方的に腹を立て、山の麓に***を置いて行ってしまったのだ。
自分が“綺麗”だと思ったのも、誰かに見せたいと思った物も、きっとそれが初めてのことだったのだと伊之助は漸く理解した。
「……そういうことか!わかったぜぇ、綺麗ってモンが」
「本当に知らなかったんだね、ちょっとビックリしたよ」
「おう、でも俺様は権八郎達といろんなとこ言ってるからな。お前よりも綺麗なモンいっぱい知ってるぜぇ」
自慢げな顔を浮かべながら***を見下すも、彼女は“わぁ”と目を輝かせて羨ましがる。
「そうなの?良いなぁ、私じゃそんなに遠くへは行けないから……。もし綺麗な物見つけたら、今度教えて!」
楽しそうに会話を楽しんでいる表情を見て、突然伊之助は対照的に固まりじっと***の顔を見つめた。
「どうしたの?」
「いや……今わかったんだけどよ、お前も綺麗ってやつなんだな」
“今まで泣いてるか向こう見てるから、わかんなかったぜ”と純粋に真っ直ぐな表情で伊之助が言う。冗談など塵も含まない発言だと理解した瞬間、***の顔に熱が上った。
「な、な、何を言うの、いきなり……!?」
「だってずっと見ていたくなるモンを言うんだろ、綺麗って。違うのかよ?」
「違わないけど……違わないんだけど…………ううう!」
どうしたら良いかわからず、耐えきれずにカーッと火照る顔を両手で覆う***の気持ちになど伊之助が気づくはずもなく、腕を引いて炭治郎と善逸が待つ部屋へ連れ戻した。
「オイ、お前ら知ってたか!!コイツ綺麗な顔してんだぜ!!」
たった今理解した言葉を得意気に使う伊之助と、顔を赤くする***の様子を見た善逸は、その晩、伊之助が熟睡している間もずっと嫉妬で怒り散らしていたのだと後に炭治郎は語った。
***
初の鬼滅夢小説でした。
社会の勉強は苦手なものでして大正時代の知識には欠けるので、言葉使いとかいろいろ心配になりますが、もう開き直って自分がかけるものを書こうと思い切って執筆しました。
推しは義勇さんなのですが、彼は言葉数が少なすぎるのでどんなお話にするか想像がつきません(笑)
伊之助は恋愛とは一番程遠い気もしますが、だからこそ普通とは違う導入の仕方で様々な感情を覚えていくのだろうなと考えるのが楽しいとも思いました。
あと、これを書いていた時は単行本を読むのに追いついてなかったのですが、狛治と恋雪さんのお話に似た部分あって「アレ?これ私が書いた伊之助も同じくらい最低なことしてるじゃん」ってちょっと笑ってしまいました。伊之助だからね。仕方ないよね。
他のキャラクターでも書いていきたいです。
2020/05/28
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