ZELDA
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※ストーカー被害者夢主
最近ストーカーをされている。そのことを仕事仲間に相談したら、“モテるのねぇ?”なんて言われて、どうやら自慢話だと受け止められてしまったらしい。
嫌な気持ちにさせてしまったのだろうかと、何となく気まずくなって一緒に帰ることもできず、怯えながら一人で夜道を歩いていた。早く帰ろうとして、速足から小走りになったと同時に後ろを歩いてるらしい人の足音も早くなった。途端に怖くなって振り向かずに全力で走り出すと後ろの人も走り出す、そこで後をつけられていることに気が付いた。
どうして私がこんな目に遭うの。どうして相談しても誰も助けてくれないの。怖くて悲しくて、息を途切れ途切れにしながら潤む視界の中を必死に走る。このまま家に帰ったところでストーカーは着いてくるだろうし、どこに向かえばいいのかわからなくなってしまった。
「っ、誰か…………っ!」
見回りをしている兵士でも見つかれば、ああ、けれど足も胸も悲鳴を上げていて碌に走れそうにない。最悪、殺されてしまったりする、の か な
霞んで目の前の景色がよく見えないまま、突然後ろではなく横から腕を掴まれて狭い空間に引っ張られた。ーーー何?
「ぁ、のっ」
「静かに。ゆっくり息を整えろ。大丈夫だからな。」
“大丈夫”。何度も何度も、自分で自分の気をしっかり保とうとして言い聞かせてきた言葉。いつの間にか胸につっかえるようになっていた言葉が、その人が発しただけで私の心にすとんと落ちた。
まだおぼつかない意識の中、誰かの足音が去っていくのが聞こえた。もしかして、撒けたのだろうか。音を出さないようにゆっくり、ゆっくりと息を吸っては吐き、何度か瞬きを繰り返すうちにやっと視界が開けてきた。見知らぬ青年が肩を抱いて、私を建物の間の隙間に隠してくれていたらしい。
「いきなりごめんな。……平気か?」
「わ、私…………ぁ……っ!」
「平気じゃないよな…………。」
助かった。その実感が湧いたと同時に崩れそうになる体を支えられて、情けなくぼろぼろと涙が流れた。良かった、良かった………………。
「あ、ありがとう、ございましたっ!本当に……!」
「いいよ、別に。それよりも、家まで送るから落ち着いたら言ってくれ。」
私が泣き止むまでずっと背中を撫でてくれた彼が、鎖帷子を着ているから初めは兵士かと思ったけれどどうやら違うようだった。静かな夜の路地を歩きながら、二人でぽつりぽつりと話をした。よく知らないその剣士さんは優しくて、きっと心も体も強い人なんだろうなと感じて少し羨ましかった。やがて家のすぐ近くまで辿り着く。
「あ……もう、ここまでで大丈夫です。…ありがとうございました。」
「そっか、見ず知らずの男が家までついて行くのは流石に褒められたもんじゃないよな。」
「そ、そういう訳じゃ……!」
「いやいや、いいよ。それより君も気を付けてな?」
「はい。本当に…本当に、ありがとうございました。」
暗い夜、街灯の逆光になって顔がよく見えなかったけれど、優しい声音に表情が見えたような気がして。よく見えない彼に微笑んで別れた。
そういえば名前を聞き忘れちゃったな……兵士でもないし、もう会えないのかな、とぼんやり考えながら家の前に着いた時。戦慄がはしった。
見知らぬ男性が、家の前で待ち構えていた。
まさか。
考えごとをしながら俯いて歩いてたから、気が付かずに近づいてしまっていた!一瞬の硬直の後、急いで体の向きを変えたが遅かった。手を捕まれて血の気が引く。気を付けてって、言われたばかりだったのに……!!
「はな、して………………嫌っ!」
恐怖で掠れた声。きっともう逃げられないんだと頭の何処かで悟った瞬間に手が離された。
いや、正しくはその男性が殴られた衝撃で手を離した。
「う、そ………………?」
「この子に付き纏うな。……それとも、一度痛い目に遭わないとわからないか?」
さっき別れた筈の彼が、もう一度私の眼の前に現れた。絶対に、離れていたら聞こえないほど私の声は小さかった筈なのに。それでも彼は駆け付けてくれた。
ストーカーの喉元に剣先が押し付けられる。驚いた私は声も出せず口元を覆った。
「俺はどっちでもいいんだけど…どうする?」
剣先が皮膚に食い込むと、そのストーカーはさっきの私のように掠れた声で“すいませんでした”とだけ言って、逃げていった。
これは夢じゃないの?と自分の目を疑った。剣を背中の鞘にしまった彼へふらふらとした足取りで近付くと、そっと両手を握られた。
「気を付けてって言ったんだけどなぁ、俺。」
嫌味ったらしい言い方ではなく、やや困ったようにくしゃりと笑いながら言われた。
「ご、ごめんなさい…。」
私の注意が足りなかった。また助けられた。
両手をぎゅうっと握り返して二度目の涙を流しながら、彼にまたお礼を言った。
「ありがとう。」
家の中、ソファに座って話をする私と彼。“あの時まだ近くにいたの?どうして私の声が聞こえたの?”と聞くと、彼はバツが悪そうに“えーっと…”と視線が足元に向けれる。
『半分はワタシのおかげさ。感謝しな。』
「え?」
どこからか女性の声が聞こえて、辺りを見回す。すると足元に、大きな被り物をした頭身の低い人形のような黒い影が浮いていた。赤い大きな片目がよく見える。
「貴女は……?」
「おいミドナ、混乱させるから出てくるなよ…。」
「誰の助けを借りて便利な体になれると思ってるんだ!それに女のワタシがいた方がコイツも少しは安心するだろ!」
「…貴女も、私を助けてくれていたんですか……?」
「ククッ、そうさ。アンタの声が届いたのもワタシがこのお人好しの手助けをしてやったからだよ。」
「………………ええと…どういうことだかよくわからないけれど、ありがとうございました…ミドナさん。貴女のお陰で、とっても助かりました。」
「ま、お礼はなんでもいいさ。」
「ミドナ!!」
「もちろんです、ミドナさん。…………あ、ところで、お名前聞いてませんでしたね…。教えていただけませんか……?」
「俺はリンク。トアル村出身だから、町にいたら多分見かけたことも無かっただろ?」
「……トアル村って、あの南の?」
「そうそう。君の名前も教えてほしいな。」
「そ、そうですよね!私は***と言います。あ、そうだ私ったら何もお出しせずに…飲み物でも…………わっ!」
何かお出ししなきゃと立ち上がると、上手く力が入らずに転んでしまった。恥ずかしいな……。
「オイオイ、大丈夫か~?」
「無理して俺達に構わなくていいから……まだ完全に落ち着いてないだろ。ほら、」
手を差し伸べられてベッドへと誘導される。何とか落ち着いて応対しようと気張ったけれど、あっさりと見透かされてしまった。
「何度も……すみません…………。」
情けないなぁと惨めになって溢れそうな涙を堪えながら、横になる。いくら気張ったところでやっぱり駄目だった…。
「仕方ないよ。あんなことがあったばかりなんだから。…今まできっと……辛かったんじゃないのか?」
ああ、どうしてこの人の言葉はここまで私の心の緊張をほぐしてくれるんだろう。どこまでも優しくて、結局涙が流れてしまう。
「…………………ずっと、知らない人から大量の手紙が毎日届いて、教えてもいないことまで知られているような内容が綴られていて…外を歩けば一日中視線に怯えてしまうし……仕事仲間にも嫌な思いをさせてしまって…………もうどうしたらいいのか、わかりませんでした。」
「毎日手紙書くとか暇人かよ。おっコレか………………うわっ、確かにこの量は気持ち悪いな!」
玄関近くに置かれた大量の手紙を見てミドナさんが言う。もう処分する気力も無かったんだなぁと今になって気付く。
「全く心当たりが無い人だったのか?」
「私の知り合いではない筈です。接客業をしているから、もしかしたらお客様の一人だったのかも……。」
「そうなると対処が難しいな。城下町は人が多いし。」
「そうですね……でも、今日で初めて相手に対処が出来たというか…していただけたので、しばらくは様子を見てみます。」
今の時点ではどうしようもないもの。苦笑するしかない状況。それにしても、何故この人はこんなに親身になって考えてくれるのだろう。優しい彼に、弱虫な私は遠くを見つめながらついつい弱音を吐いてしまう。
「…正直に言うと、まだ怖いんです。これが夢だったらどうしようって。このまま眠って、朝になったらまたポストに手紙が入っていて…知らない人が常に私のことを見ているのかも…って、そういう不安がずーっと続いてしまうような気がします…。」
「……俺と会ったのが夢だったら、ってこと?」
「はい。あの時リンクさんがいなかったら、どうなっていたかわかりません…これが夢だったとして、夢の中では上手く助かったけれど、もしも実際に同じことが起こったらと…………。」
「……んじゃ、お礼も兼ねて今夜泊めてくれねーかな?朝になっても俺がいたらちょっとは安心するんじゃないか?」
「え、……え?」
「実はもう遅い時間だから、宿探しても空いてないかもしれないし……。」
「安心しな、変なことしようとしたら、ワタシがコイツのこと引っぱたいてやるから。」
驚いて2人を見ると、頭をがしがしとかいて苦笑するリンクさんと、毛先が手の形になった髪の毛を伸ばすミドナさん。
「……流石に、困るか。」
ふ、と眉を下げて言うリンクさんに「そんなこと無いです!!決して!!」と必死に出した声が震えていて、まだ自分が落ち着きを取り戻していないことを痛感した。
「どうか、泊まっていってください……きっとそのくらいのことでしか、今の私にはお二人に出来るお礼がありませんから。お願いします。」
「い、いや、お願いしてるのはこっちだから……な?」
「コイツに頭下げたところでもったいないだけだぞ。」
「お前は俺を何だと思ってるんだよミドナ……。」
2人の会話に思わずくすりと笑みがこぼれる。嗚呼、こんなにあたたかい気持ちで笑ったのはいつぶりだったろう。
「ソファと毛布、借りるな?」
「はい。ミドナさんは…?」
「ワタシはいい。」
「そうなんですか……?」
「そう。気にしなくていいさ。」
「おやすみ、***。」
「……おやすみなさい。」
1人じゃない空間。とても、とても落ち着く。
何の恐怖も不安もなく、私は深い微睡みの中に落ちていった。
「…………。」
ぼんやりと覚醒していく意識と視界。差し込む日の光で照らされて、やや明るくなった天井を見つめていたら手紙が届けられる音が聞こえ、反射的に肩が跳ね上がった。
「………………あれ……?」
玄関に目をやると、昨夜まで残っていた大量の手紙が無い。私、処分したんだっけ。最近疲れているから無意識に捨てたのだろうか。意識や記憶がはっきりしなくなるくらい、酷い精神状態なのかと自分で自分が心配になってきた。
「おはよう。」
聞き覚えのある声がした。視線を上げると、青い目をした青年がベッドの端に腰掛けて、優しい眼差しでこちらを見つめている。
「………………リンク…さん……?」
「ああ。……もう、怖くない?***。」
昨夜は暗くてよく見えなかった彼の顔が、今でははっきりと見える。控えめに握られた右手は温かくて、握り返した感覚が、彼は確かにここにいるのだと優しい現実を教えてくれる。
「……はい…………!」
手を引かれるままに体を起こすと、さっきよりずっと近くなったリンクさんの額に私の額がコツンとぶつかった。
「な、夢じゃなかったろ?」
「はい。…………嬉しい、です……リンクさん……!」
一言では伝えきれないほど溢れ出した感謝の気持ちと比例するかのように、心の底からの笑みがこぼれた。
以来、彼女は脅えることもなく元の笑顔を取り戻した。
以前と変わったことと言えば、緑の衣をまとった青年と幸せそうに話す姿を多くの人が目にするようになったという。
***
ストーカー被害者の夢主ちゃんをリンクさんが助けるお話を書きたいなって!結構前から思ってまして、ちまちま書いてたのがやっとまとまりました!!最初に書き出してたの8ヶ月前だってよ…………おま……書きかけの状態で放置し過ぎ……。
手紙はリンクさんとミドナが処分してくれました多分。最後に届いた手紙は普通の郵便ですご安心を。
それにしても純ヒロイン的夢主ちゃんを初めて書いた気がします!リンクさんと末永くお幸せになって~~~~。(2人の未来は皆さんのご想像にお任せします)
16.08.30
最近ストーカーをされている。そのことを仕事仲間に相談したら、“モテるのねぇ?”なんて言われて、どうやら自慢話だと受け止められてしまったらしい。
嫌な気持ちにさせてしまったのだろうかと、何となく気まずくなって一緒に帰ることもできず、怯えながら一人で夜道を歩いていた。早く帰ろうとして、速足から小走りになったと同時に後ろを歩いてるらしい人の足音も早くなった。途端に怖くなって振り向かずに全力で走り出すと後ろの人も走り出す、そこで後をつけられていることに気が付いた。
どうして私がこんな目に遭うの。どうして相談しても誰も助けてくれないの。怖くて悲しくて、息を途切れ途切れにしながら潤む視界の中を必死に走る。このまま家に帰ったところでストーカーは着いてくるだろうし、どこに向かえばいいのかわからなくなってしまった。
「っ、誰か…………っ!」
見回りをしている兵士でも見つかれば、ああ、けれど足も胸も悲鳴を上げていて碌に走れそうにない。最悪、殺されてしまったりする、の か な
霞んで目の前の景色がよく見えないまま、突然後ろではなく横から腕を掴まれて狭い空間に引っ張られた。ーーー何?
「ぁ、のっ」
「静かに。ゆっくり息を整えろ。大丈夫だからな。」
“大丈夫”。何度も何度も、自分で自分の気をしっかり保とうとして言い聞かせてきた言葉。いつの間にか胸につっかえるようになっていた言葉が、その人が発しただけで私の心にすとんと落ちた。
まだおぼつかない意識の中、誰かの足音が去っていくのが聞こえた。もしかして、撒けたのだろうか。音を出さないようにゆっくり、ゆっくりと息を吸っては吐き、何度か瞬きを繰り返すうちにやっと視界が開けてきた。見知らぬ青年が肩を抱いて、私を建物の間の隙間に隠してくれていたらしい。
「いきなりごめんな。……平気か?」
「わ、私…………ぁ……っ!」
「平気じゃないよな…………。」
助かった。その実感が湧いたと同時に崩れそうになる体を支えられて、情けなくぼろぼろと涙が流れた。良かった、良かった………………。
「あ、ありがとう、ございましたっ!本当に……!」
「いいよ、別に。それよりも、家まで送るから落ち着いたら言ってくれ。」
私が泣き止むまでずっと背中を撫でてくれた彼が、鎖帷子を着ているから初めは兵士かと思ったけれどどうやら違うようだった。静かな夜の路地を歩きながら、二人でぽつりぽつりと話をした。よく知らないその剣士さんは優しくて、きっと心も体も強い人なんだろうなと感じて少し羨ましかった。やがて家のすぐ近くまで辿り着く。
「あ……もう、ここまでで大丈夫です。…ありがとうございました。」
「そっか、見ず知らずの男が家までついて行くのは流石に褒められたもんじゃないよな。」
「そ、そういう訳じゃ……!」
「いやいや、いいよ。それより君も気を付けてな?」
「はい。本当に…本当に、ありがとうございました。」
暗い夜、街灯の逆光になって顔がよく見えなかったけれど、優しい声音に表情が見えたような気がして。よく見えない彼に微笑んで別れた。
そういえば名前を聞き忘れちゃったな……兵士でもないし、もう会えないのかな、とぼんやり考えながら家の前に着いた時。戦慄がはしった。
見知らぬ男性が、家の前で待ち構えていた。
まさか。
考えごとをしながら俯いて歩いてたから、気が付かずに近づいてしまっていた!一瞬の硬直の後、急いで体の向きを変えたが遅かった。手を捕まれて血の気が引く。気を付けてって、言われたばかりだったのに……!!
「はな、して………………嫌っ!」
恐怖で掠れた声。きっともう逃げられないんだと頭の何処かで悟った瞬間に手が離された。
いや、正しくはその男性が殴られた衝撃で手を離した。
「う、そ………………?」
「この子に付き纏うな。……それとも、一度痛い目に遭わないとわからないか?」
さっき別れた筈の彼が、もう一度私の眼の前に現れた。絶対に、離れていたら聞こえないほど私の声は小さかった筈なのに。それでも彼は駆け付けてくれた。
ストーカーの喉元に剣先が押し付けられる。驚いた私は声も出せず口元を覆った。
「俺はどっちでもいいんだけど…どうする?」
剣先が皮膚に食い込むと、そのストーカーはさっきの私のように掠れた声で“すいませんでした”とだけ言って、逃げていった。
これは夢じゃないの?と自分の目を疑った。剣を背中の鞘にしまった彼へふらふらとした足取りで近付くと、そっと両手を握られた。
「気を付けてって言ったんだけどなぁ、俺。」
嫌味ったらしい言い方ではなく、やや困ったようにくしゃりと笑いながら言われた。
「ご、ごめんなさい…。」
私の注意が足りなかった。また助けられた。
両手をぎゅうっと握り返して二度目の涙を流しながら、彼にまたお礼を言った。
「ありがとう。」
家の中、ソファに座って話をする私と彼。“あの時まだ近くにいたの?どうして私の声が聞こえたの?”と聞くと、彼はバツが悪そうに“えーっと…”と視線が足元に向けれる。
『半分はワタシのおかげさ。感謝しな。』
「え?」
どこからか女性の声が聞こえて、辺りを見回す。すると足元に、大きな被り物をした頭身の低い人形のような黒い影が浮いていた。赤い大きな片目がよく見える。
「貴女は……?」
「おいミドナ、混乱させるから出てくるなよ…。」
「誰の助けを借りて便利な体になれると思ってるんだ!それに女のワタシがいた方がコイツも少しは安心するだろ!」
「…貴女も、私を助けてくれていたんですか……?」
「ククッ、そうさ。アンタの声が届いたのもワタシがこのお人好しの手助けをしてやったからだよ。」
「………………ええと…どういうことだかよくわからないけれど、ありがとうございました…ミドナさん。貴女のお陰で、とっても助かりました。」
「ま、お礼はなんでもいいさ。」
「ミドナ!!」
「もちろんです、ミドナさん。…………あ、ところで、お名前聞いてませんでしたね…。教えていただけませんか……?」
「俺はリンク。トアル村出身だから、町にいたら多分見かけたことも無かっただろ?」
「……トアル村って、あの南の?」
「そうそう。君の名前も教えてほしいな。」
「そ、そうですよね!私は***と言います。あ、そうだ私ったら何もお出しせずに…飲み物でも…………わっ!」
何かお出ししなきゃと立ち上がると、上手く力が入らずに転んでしまった。恥ずかしいな……。
「オイオイ、大丈夫か~?」
「無理して俺達に構わなくていいから……まだ完全に落ち着いてないだろ。ほら、」
手を差し伸べられてベッドへと誘導される。何とか落ち着いて応対しようと気張ったけれど、あっさりと見透かされてしまった。
「何度も……すみません…………。」
情けないなぁと惨めになって溢れそうな涙を堪えながら、横になる。いくら気張ったところでやっぱり駄目だった…。
「仕方ないよ。あんなことがあったばかりなんだから。…今まできっと……辛かったんじゃないのか?」
ああ、どうしてこの人の言葉はここまで私の心の緊張をほぐしてくれるんだろう。どこまでも優しくて、結局涙が流れてしまう。
「…………………ずっと、知らない人から大量の手紙が毎日届いて、教えてもいないことまで知られているような内容が綴られていて…外を歩けば一日中視線に怯えてしまうし……仕事仲間にも嫌な思いをさせてしまって…………もうどうしたらいいのか、わかりませんでした。」
「毎日手紙書くとか暇人かよ。おっコレか………………うわっ、確かにこの量は気持ち悪いな!」
玄関近くに置かれた大量の手紙を見てミドナさんが言う。もう処分する気力も無かったんだなぁと今になって気付く。
「全く心当たりが無い人だったのか?」
「私の知り合いではない筈です。接客業をしているから、もしかしたらお客様の一人だったのかも……。」
「そうなると対処が難しいな。城下町は人が多いし。」
「そうですね……でも、今日で初めて相手に対処が出来たというか…していただけたので、しばらくは様子を見てみます。」
今の時点ではどうしようもないもの。苦笑するしかない状況。それにしても、何故この人はこんなに親身になって考えてくれるのだろう。優しい彼に、弱虫な私は遠くを見つめながらついつい弱音を吐いてしまう。
「…正直に言うと、まだ怖いんです。これが夢だったらどうしようって。このまま眠って、朝になったらまたポストに手紙が入っていて…知らない人が常に私のことを見ているのかも…って、そういう不安がずーっと続いてしまうような気がします…。」
「……俺と会ったのが夢だったら、ってこと?」
「はい。あの時リンクさんがいなかったら、どうなっていたかわかりません…これが夢だったとして、夢の中では上手く助かったけれど、もしも実際に同じことが起こったらと…………。」
「……んじゃ、お礼も兼ねて今夜泊めてくれねーかな?朝になっても俺がいたらちょっとは安心するんじゃないか?」
「え、……え?」
「実はもう遅い時間だから、宿探しても空いてないかもしれないし……。」
「安心しな、変なことしようとしたら、ワタシがコイツのこと引っぱたいてやるから。」
驚いて2人を見ると、頭をがしがしとかいて苦笑するリンクさんと、毛先が手の形になった髪の毛を伸ばすミドナさん。
「……流石に、困るか。」
ふ、と眉を下げて言うリンクさんに「そんなこと無いです!!決して!!」と必死に出した声が震えていて、まだ自分が落ち着きを取り戻していないことを痛感した。
「どうか、泊まっていってください……きっとそのくらいのことでしか、今の私にはお二人に出来るお礼がありませんから。お願いします。」
「い、いや、お願いしてるのはこっちだから……な?」
「コイツに頭下げたところでもったいないだけだぞ。」
「お前は俺を何だと思ってるんだよミドナ……。」
2人の会話に思わずくすりと笑みがこぼれる。嗚呼、こんなにあたたかい気持ちで笑ったのはいつぶりだったろう。
「ソファと毛布、借りるな?」
「はい。ミドナさんは…?」
「ワタシはいい。」
「そうなんですか……?」
「そう。気にしなくていいさ。」
「おやすみ、***。」
「……おやすみなさい。」
1人じゃない空間。とても、とても落ち着く。
何の恐怖も不安もなく、私は深い微睡みの中に落ちていった。
「…………。」
ぼんやりと覚醒していく意識と視界。差し込む日の光で照らされて、やや明るくなった天井を見つめていたら手紙が届けられる音が聞こえ、反射的に肩が跳ね上がった。
「………………あれ……?」
玄関に目をやると、昨夜まで残っていた大量の手紙が無い。私、処分したんだっけ。最近疲れているから無意識に捨てたのだろうか。意識や記憶がはっきりしなくなるくらい、酷い精神状態なのかと自分で自分が心配になってきた。
「おはよう。」
聞き覚えのある声がした。視線を上げると、青い目をした青年がベッドの端に腰掛けて、優しい眼差しでこちらを見つめている。
「………………リンク…さん……?」
「ああ。……もう、怖くない?***。」
昨夜は暗くてよく見えなかった彼の顔が、今でははっきりと見える。控えめに握られた右手は温かくて、握り返した感覚が、彼は確かにここにいるのだと優しい現実を教えてくれる。
「……はい…………!」
手を引かれるままに体を起こすと、さっきよりずっと近くなったリンクさんの額に私の額がコツンとぶつかった。
「な、夢じゃなかったろ?」
「はい。…………嬉しい、です……リンクさん……!」
一言では伝えきれないほど溢れ出した感謝の気持ちと比例するかのように、心の底からの笑みがこぼれた。
感謝の言葉より欲しいもの
(いつも通る店先ですれ違った客の“最近あの店員さん元気無さそうだよね”という言葉がどうにも気になって、君のことを知った。)
(無理に笑う君のことを、守りたいと思った。)
(無理に笑う君のことを、守りたいと思った。)
以来、彼女は脅えることもなく元の笑顔を取り戻した。
以前と変わったことと言えば、緑の衣をまとった青年と幸せそうに話す姿を多くの人が目にするようになったという。
***
ストーカー被害者の夢主ちゃんをリンクさんが助けるお話を書きたいなって!結構前から思ってまして、ちまちま書いてたのがやっとまとまりました!!最初に書き出してたの8ヶ月前だってよ…………おま……書きかけの状態で放置し過ぎ……。
手紙はリンクさんとミドナが処分してくれました多分。最後に届いた手紙は普通の郵便ですご安心を。
それにしても純ヒロイン的夢主ちゃんを初めて書いた気がします!リンクさんと末永くお幸せになって~~~~。(2人の未来は皆さんのご想像にお任せします)
16.08.30
9/22ページ