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私は人と食事をするのは苦手だ。別に人が苦手な訳でも食べ方が汚い訳でもない。ただ食べるのが遅い。だからお出かけ中にちょっとランチしましょうなんてなると、食べるペースに気を遣う。この後どこに行こうか、何時には帰らなくちゃいけないからああだこうだと人のスケジュールを汲み取りつつ行動するとなると、私は食事のペースを上げなければいけない。それが疲れてしまう。だからと言って人との食事を断る訳ではないのだけれど。その証拠に私の前で彼はメインメニューのパスタを食べ終えて、サラダにフォークを伸ばす。同じくサラダを口に含んでいるものの、私のお皿にはパスタがまだ残り半分。
もしゃもしゃ、と口の中で柔らかくもしっかりとした食感のレタスを咀嚼していたらリンクに言われた言葉。
「***ってうさぎみたいに食うよな。」
「うさぎはもっと食べるの早くない?」
「そうじゃなくて、何かこう…そうやって食ってる姿がってこと。」
「へぇ、そうなの。」
パスタにフォークを突き立ててくるくると巻きとる。口に運んでから巻き取り過ぎたと思いながら先程の野菜と同様に咀嚼した。
「ほら、やっぱ似てる。」
「…………んぐ、…。私に言われても自分が食べてる様子なんてわかんないから、困る。」
水で喉の奥に流し込んで口を開く。こうやっていちいち話すのも私にとっては一苦労なんだけど。みんなといい目の前のリンクといい、よくこんなペラペラと話せること。私なんて口の中の物を飲み込んでるうちに、いつも話すタイミング逃しちゃうのに。急いで食べると気分が悪くなる、かと言って相槌を打たない訳にもいかない。
「ふぅ…。」
次に口に含んだ冷たい野菜が胃の中に落ちて、胸の中がいくらかすっきりとする。リンクのサラダは無くなっていて、先に完食。ねぇ何でそんな早いの。
「私、食べながら話すの上手じゃないんだけど。」
「あー、そうだったっけ?」
「知ってるでしょ、私先週も言ったじゃないの。毎週毎週一緒にお昼食べようって……それは構わないよ?でも私のペース乱さないでほしいの、申し訳ないけど。」
「うん、ごめんな。」
にこにこと笑顔で言い放った様子からして、コレは多分来週も変わらないと予想する。それからリンクは話しかけることもせず、席に座ったまま私をじっくりと眺めながら食べ終わるのを待つ。
食べにくい。何だって人が食べてる様子をそんな眺めるんだ、何が楽しいのほんと。やめてほしい……。
「あの、さ…………。」
「ん?」
「見ないで……。」
「え?何で?」
「何ではこっちのセリフなんだけど……待ってなくていいよ、別に。適当にソファでゆっくりしてたら。」
「いや……俺はその…………待ってたいっていうか…。」
歯切れの悪い返事。何なの、誘う時は結構ズカズカ来る癖に、自分が言いにくいこととなるとこうやってはっきりしないんだから。私ははっきり言ってやる。
「見られながらだと、私が食べにくいんだよね。」
「でも俺は、」
「前から思ってたけどいったい何なの?私が食事してるとこ見て随分楽しそうにしてるのは。いつもいつもさぁ。私の食べ方がそんなにおかしい?もうこの際だからはっきりしてくれる?」
「そうじゃねぇよ、ただ…………。」
「ただ?」
「***は本当に食うのが遅くて、食事しながら話すのも下手だけど……。」
リンクは頬杖を付いて、空いた左手で揺らすコップの中の水を見ながら言う。
「俺が話しかければいちいち手を止めて、きちんと相槌打ったり話をしてくれるのが……皆とは違うなと思って。目の前の俺だけに向き合ってくれてる感じがするって言えばいいのか?そりゃ、皆だってほんとに悪気も何も無く、当たり前に食ってるだけなんだってわかってるんだ。ただ、皆が家族と話しながら食ってるとこ見るとさ……俺だけがその中に入りきれてないような気がしてた。だから、***と二人で食う時間が一番落ち着くんだよ、俺。」
「……。」
まさか、私が食べながら話すのが下手なことをそういう風に感じる人がいたなんて。びっくりした。
他の皆と過ごしているうちに空いてしまった心の穴に、私の存在が詰められていただなんて。
「……私、そんな大層なことしてないのに。」
「それでも俺には必要な時間だったんだよ。こうやって***と一緒に飯が食えるのは……嬉しい。」
「だから“毎週交代ずつ料理作って一緒に食べよう”だなんて言い出したの、あはは!何それ!」
半ば無理やり提案してきた時のことを思い出し、何だかおかしくてけらけらと笑い声が出た。何だ、別に私の食べ方が変だからって馬鹿にされてた訳じゃなかったんだ。
…………ん?でも、いくら一緒に食事できることが嬉しいって言っても人が食べてるところを見るのが、笑顔になるほどのことなのだろうか。言われたことは私にはとっても嬉しかったけど、回答が元の質問には噛み合ってなくない?
「あれ?でも私が食べてるとこ見て笑ってるのもそれが理由?何かそこだけは理由としてしっくりこないんだけど。」
「…………あ~……。」
「いや、あ~って何。違う理由なんでしょ。そういえば、さっき食べ方がうさぎみたいとか言ってたよね!?やっぱり私の食べ方がおかしくて笑ってたんじゃないの!正直に言ってよ!」
「え、待てよ俺そんな笑ってたか?」
「もうそれはそれは楽しそうな笑顔でしたよ。」
「………………。」
途端にリンクが黙り込んで、右手で顔を押さえた。ちょっと、そこで黙るってことはやっぱり私に言ったら怒るようなことを思ってたってことでしょ。やっぱり誤魔化そうとしたなコイツ。
「……言わなくてもよくね?ほんとにそんな悪いこと思ってたんじゃないんだって。」
「悪いこと思ってたんじゃないなら言えるでしょ。言わないなら私もう一緒に食事しないからね。」
さっきの話を聞いて、彼にとって私が優位な存在だと思い上がった私は白状しなさいと諭す。でも数秒後の彼の発言に、自分の立ち位置はどこなのか、私は完全に見失う羽目に陥ってしまった。
「…………俺が話しかける度に、いちいち手を止めたり。一生懸命飯食ってる***の様子が…その……」
「様子が?」
「かっ、………………可愛いって思ってたんだよ!!」
「…………………………は…?」
バンッ!と右手でテーブルを叩いたリンクの顔が赤くなってるのを見て、言葉の意味を理解した瞬間に顔が熱くなっていくのを感じたから、多分私も彼と同じように赤くなってたんだと思う。
「………………ここに来る途中、ウーリさんからバウムクーヘン貰ったけど……食うか…?」
「…い、今はいいです…………。」
***
果てしなくどうでもいい話ですが、私は咀嚼音がポクポクしてるって昔からネタにされるのが密かな悩みです。直りません。
文章の流れがいつもワンパターンな気がするのですが、こんなんでちゃんと読めるのか心配です。
16.4.12
もしゃもしゃ、と口の中で柔らかくもしっかりとした食感のレタスを咀嚼していたらリンクに言われた言葉。
「***ってうさぎみたいに食うよな。」
「うさぎはもっと食べるの早くない?」
「そうじゃなくて、何かこう…そうやって食ってる姿がってこと。」
「へぇ、そうなの。」
パスタにフォークを突き立ててくるくると巻きとる。口に運んでから巻き取り過ぎたと思いながら先程の野菜と同様に咀嚼した。
「ほら、やっぱ似てる。」
「…………んぐ、…。私に言われても自分が食べてる様子なんてわかんないから、困る。」
水で喉の奥に流し込んで口を開く。こうやっていちいち話すのも私にとっては一苦労なんだけど。みんなといい目の前のリンクといい、よくこんなペラペラと話せること。私なんて口の中の物を飲み込んでるうちに、いつも話すタイミング逃しちゃうのに。急いで食べると気分が悪くなる、かと言って相槌を打たない訳にもいかない。
「ふぅ…。」
次に口に含んだ冷たい野菜が胃の中に落ちて、胸の中がいくらかすっきりとする。リンクのサラダは無くなっていて、先に完食。ねぇ何でそんな早いの。
「私、食べながら話すの上手じゃないんだけど。」
「あー、そうだったっけ?」
「知ってるでしょ、私先週も言ったじゃないの。毎週毎週一緒にお昼食べようって……それは構わないよ?でも私のペース乱さないでほしいの、申し訳ないけど。」
「うん、ごめんな。」
にこにこと笑顔で言い放った様子からして、コレは多分来週も変わらないと予想する。それからリンクは話しかけることもせず、席に座ったまま私をじっくりと眺めながら食べ終わるのを待つ。
食べにくい。何だって人が食べてる様子をそんな眺めるんだ、何が楽しいのほんと。やめてほしい……。
「あの、さ…………。」
「ん?」
「見ないで……。」
「え?何で?」
「何ではこっちのセリフなんだけど……待ってなくていいよ、別に。適当にソファでゆっくりしてたら。」
「いや……俺はその…………待ってたいっていうか…。」
歯切れの悪い返事。何なの、誘う時は結構ズカズカ来る癖に、自分が言いにくいこととなるとこうやってはっきりしないんだから。私ははっきり言ってやる。
「見られながらだと、私が食べにくいんだよね。」
「でも俺は、」
「前から思ってたけどいったい何なの?私が食事してるとこ見て随分楽しそうにしてるのは。いつもいつもさぁ。私の食べ方がそんなにおかしい?もうこの際だからはっきりしてくれる?」
「そうじゃねぇよ、ただ…………。」
「ただ?」
「***は本当に食うのが遅くて、食事しながら話すのも下手だけど……。」
リンクは頬杖を付いて、空いた左手で揺らすコップの中の水を見ながら言う。
「俺が話しかければいちいち手を止めて、きちんと相槌打ったり話をしてくれるのが……皆とは違うなと思って。目の前の俺だけに向き合ってくれてる感じがするって言えばいいのか?そりゃ、皆だってほんとに悪気も何も無く、当たり前に食ってるだけなんだってわかってるんだ。ただ、皆が家族と話しながら食ってるとこ見るとさ……俺だけがその中に入りきれてないような気がしてた。だから、***と二人で食う時間が一番落ち着くんだよ、俺。」
「……。」
まさか、私が食べながら話すのが下手なことをそういう風に感じる人がいたなんて。びっくりした。
他の皆と過ごしているうちに空いてしまった心の穴に、私の存在が詰められていただなんて。
「……私、そんな大層なことしてないのに。」
「それでも俺には必要な時間だったんだよ。こうやって***と一緒に飯が食えるのは……嬉しい。」
「だから“毎週交代ずつ料理作って一緒に食べよう”だなんて言い出したの、あはは!何それ!」
半ば無理やり提案してきた時のことを思い出し、何だかおかしくてけらけらと笑い声が出た。何だ、別に私の食べ方が変だからって馬鹿にされてた訳じゃなかったんだ。
…………ん?でも、いくら一緒に食事できることが嬉しいって言っても人が食べてるところを見るのが、笑顔になるほどのことなのだろうか。言われたことは私にはとっても嬉しかったけど、回答が元の質問には噛み合ってなくない?
「あれ?でも私が食べてるとこ見て笑ってるのもそれが理由?何かそこだけは理由としてしっくりこないんだけど。」
「…………あ~……。」
「いや、あ~って何。違う理由なんでしょ。そういえば、さっき食べ方がうさぎみたいとか言ってたよね!?やっぱり私の食べ方がおかしくて笑ってたんじゃないの!正直に言ってよ!」
「え、待てよ俺そんな笑ってたか?」
「もうそれはそれは楽しそうな笑顔でしたよ。」
「………………。」
途端にリンクが黙り込んで、右手で顔を押さえた。ちょっと、そこで黙るってことはやっぱり私に言ったら怒るようなことを思ってたってことでしょ。やっぱり誤魔化そうとしたなコイツ。
「……言わなくてもよくね?ほんとにそんな悪いこと思ってたんじゃないんだって。」
「悪いこと思ってたんじゃないなら言えるでしょ。言わないなら私もう一緒に食事しないからね。」
さっきの話を聞いて、彼にとって私が優位な存在だと思い上がった私は白状しなさいと諭す。でも数秒後の彼の発言に、自分の立ち位置はどこなのか、私は完全に見失う羽目に陥ってしまった。
「…………俺が話しかける度に、いちいち手を止めたり。一生懸命飯食ってる***の様子が…その……」
「様子が?」
「かっ、………………可愛いって思ってたんだよ!!」
「…………………………は…?」
バンッ!と右手でテーブルを叩いたリンクの顔が赤くなってるのを見て、言葉の意味を理解した瞬間に顔が熱くなっていくのを感じたから、多分私も彼と同じように赤くなってたんだと思う。
「………………ここに来る途中、ウーリさんからバウムクーヘン貰ったけど……食うか…?」
「…い、今はいいです…………。」
お腹いっぱい
(彼の吐き出した言葉を飲み込んだら、)(消化不良で胃もたれしそうだった。)
***
果てしなくどうでもいい話ですが、私は咀嚼音がポクポクしてるって昔からネタにされるのが密かな悩みです。直りません。
文章の流れがいつもワンパターンな気がするのですが、こんなんでちゃんと読めるのか心配です。
16.4.12
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