プロメア
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それは突然の出来事だった。身体全体を覆う重みで目を覚ました朝。瞼を持ち上げて圧迫感の原因を探すと、そこには私の胸に頭を置き、覆いかぶさるようにしてリオが眠っていた。昨夜は一人で眠った筈なのにどうしてだろう。体を起こして、リオに声をかける。
「リオ?」
「……ん……」
眠たげに瞼を擦るリオは、信じられないことに猫の耳と尻尾を携えていた。
「──という訳で、朝起きたらリオが猫になっちゃってたの!」
携帯端末のビデオ通話越しにバーニングレスキューのメンバーに事情を伝える。本当は直接連れて行こうと思ったけど、リオが病院に行く猫の如く嫌がったので断念した。
「そんなことあるのか?」
「私も同じこと思ったよ……」
「耳と尻尾の他には?何かある?」
「言葉は理解してると思う。でも、リオは話さないの」
バリスとルチアに状況を伝えていると、次いでガロとアイナが興味津々にカメラをのぞき込む。
「おーっ!本当だ!牙とか爪は?」
「ねぇ、肉球はあるの?」
「あ、まだ見てないなぁ。ねぇリオ、ちょっと手貸して?」
彼が身に着けているハーフグローブを外して観察する。これと言って目立った変化は無い。遊んでもらえると思ったのか、そのまま指同士を絡めて指先ですりすりと私の手の甲をなぞっている。
「爪も肉球も無いよ、普通に人の手。……ひゃっ!」
カメラに視線を向けて話している最中、突然指先をペロペロと舐められた。この感触は、きっと猫のものだ。
「き、牙は無いけど、舌はザラザラしてるみたい……っ」
「へ、へ〜……?」
画面の向こうで何か言いたげな空気が広がる。すると、先ほどまで大人しかったリオが突然画面に向かって威嚇するように唸り声を響かせた。髪と同じ毛色をした耳は後ろに大きく反り、尻尾の毛並みが逆立っている。
「何?どうしたの、リオ」
「***が構わないから、拗ねてるんじゃない?」
「あー!猫がデスクに上がって人の邪魔するアレか?***はオマエのために相談してんだぞ~?リオ」
「シャーッ!」
「……オレってこんなに嫌われてた?」
「嫉妬してんでしょ~」
「いつにも増して、独占欲丸出しだな」
中でも、ガロと話している時は一層気性が激しくなっている気がする。揶揄われて怒ってるのかな……?落ち着かせようとリオの頭をゆっくりと撫でる。ルチアとレミーは楽し気に笑っているけれど、こちらとしてはどうしたらいいかわからなくて不安だ。
「どうしよう……。元バーニッシュにだけ現れる、後遺症とか?」
「***は身体に変化無いの?」
「私は何ともないよ。でも、リオはバーニッシュの中でも特にプロメアとの結び付きが強かったでしょ?」
「じゃあ、ゲーラ達はどうなんだ」
「……そういえば、いつの間にかリオはここに来てたけど二人は知ってるのかな?」
リオと一緒に暮らしているゲーラとメイスはどうしているのだろうか。もしかして、二人も同じ状態になっているとか……?
更なる不安が脳をよぎった時、リオが耳をぴくりと動かしてドアの方へ顔を向ける。続けてインターフォンが鳴り、来客の正体はちょうど話題に挙がっている二人だった。
「ボス!いないと思ったら***のとこに来てたんですか!」
「探しましたよ!」
「あっ、二人は何ともないみたい……」
ぜえぜえと息を切らしながらリオの元へ近寄ると、その様子にあんぐりと口を開き、大きな耳と尻尾を見つめていた。リオはソファで仰向けに寝転がりながら二人を見つめ、長い尻尾をゆらゆらと左右に動かしている。この二人には威嚇する気配が無くて安心した。
「バーニッシュどうこうって問題じゃないのかな?私じゃ何もできないから、みんなのところに連れて行きたいけどリオは嫌みたいで……」
「まあ、仮にオレがそうなったら周りに見られたくないな。絶対笑いのネタにされる」
「そういう問題?」
「今、隊長に伝えてきたよ~。とりあえずリオと***は今日一日休んでいいってさ。それにしても何が原因なんだろ、ストレスかね〜?」
「いくら何でも、ストレスで耳と尻尾は生えないんじゃ……」
「いやいや、案外あり得るかもよ?バーニッシュが覚醒するのは強いストレスがきっかけって説も、結構濃厚だったからね」
「そうなの?」
「ハッキリした原因がわからないんじゃ、今はどうすることもできないからな。それに、変化して一番戸惑ってるのはリオだろ。今日のところは***が様子を見てやれ」
「はい……」
ルチアとレミーの話に従って、今日はリオと二人で一日休むことが決定した。その会話を聞いて状況を理解したゲーラとメイスは、心配しながらもレスキュー本部へ向かう。
「じゃあ、オレ達は行く。何かあったらすぐに連絡しろよ」
「うん、わかった」
「ボスのことだから大丈夫だろうが、襲われんなよ」
「大丈夫だよ、本物の猫と違って牙も爪も無いもん」
「……オマエって時々バカだよな」
「何、急に?いたっ!」
ゲーラから額を指で弾かれた。うう、理不尽すぎる……。見送ったドアの向こうから足音が遠のき、部屋に静寂が訪れる。二人きりになるとリオが擦り寄ってきた。
「……リオ、大丈夫?」
確かに、今一番戸惑っているのはリオの筈だ。いつものリオの自我が残っているのか、それとも猫に近い状態なのかわからないけれど、今は私が安心させてあげなくちゃ。様子を伺おうと顔を覗き込むと、リオの方から更に顔が近づく。肩と顔に手を添えられて、リオの体重がかかりそのままソファへ押し倒されてしまった。先ほどゲーラに弾かれた、ひりひりと痛む額を舌で舐められる。驚いて固まっていると、そのまま流れるように瞼や頬を舐め始めた。くすぐったさに声が出そうになり、慌てて口を手で押さえる。
──ストレスが原因かもしれない。
それが正しいとするなら、今はリオが望むように行動させてあげるのが良いんだろうか。先ほどの様子から察するに、きっと今のリオの聴覚は猫並みに発達している筈だ。大きな声を出したら驚かせてしまうかもしれない。生暖かくて猫のようなざらざらとしたリオの舌が、私の肌を撫で続けるのをぎゅっと目を瞑り声を我慢して受け止める。
やがて、鼻と鼻を何度かツンとくっつけた後、そこをかぷりと甘噛みされた。うう、私の鼻が食べられちゃう……。これは猫なりの遊び方なのか、それとも食べ物と勘違いしているのか。……そういえば、ご飯は何を食べたらいいんだろう?どこまで猫の身体になっているのかわからない今、人間と同じものをそのまま食べさせるのは怖い。
「……り、リオ。リオ!」
トントン、とリオの胸を軽く叩いてから声を出す。家にある食材ではダメかも。
「リオ、ご飯の材料買いに行きたいの。なるべく急いで帰るから……お家で待っていてくれる?」
だらんと尻尾を下げて落ち込んだ表情をしながらもこくんと頷くリオにお礼を伝えて、頭と耳の間を撫でてから買い物へ出かける。訪れたスーパーの一角に設けられた雑誌コーナーで、気になるものを見つけて一冊購入した。
「ただいま!」
ドアを開けると、リオが玄関で出迎えてくれた。メイス達が来た時と同様に、足音で察知したのだろう。
「お留守番ありがとう、お腹空いたよね?今用意するから、もう少しだけ待ってね?」
買ってきた鶏のささみと卵をお米に混ぜて、お粥を作った。ソファで隣に並んで座り、一口掬ってフーフーと冷ましながらリオに食べさせる。彼の舌のペースに合わせているうち、自分のお粥もすっかりと冷めてしまった。
「ふふっ、付いてるよ」
ようやく全て食べ終わり、リオの口の端に付いたお米を指で取る。その指に、リオはまた鼻を寄せてスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。そして、手・腕・腕と胴の間と、やがて顔や首筋……いろんなところに顔を擦り付けられる。リオの邪魔をしないよう、ふわふわの毛並みを避けながらつい先ほど手に入れた本を取り出し、ページを捲る。そこには、猫の仕草から読み取れる心理が綴られていた。身体を擦り寄せる心理は……「ご飯がほしい」「甘えたい」「自分の匂いを付けて“自分のもの”とマーキングする」……三つ目の一文に思わず顔が熱くなってしまった。いやいや、「外出から帰った飼い主に付いた、知らない匂いを消して安心したい」とも書いてあるし!やっぱり不安なのかもしれない。今は彼のストレスを減らすことが第一優先だ。
「ねぇ、リオ。今日はいっぱい、甘えていいからね」
そう声をかけると、リオは尻尾をぴんと立ててプルプルと振るわせた。心なしか、瞳はキラキラと輝いて見える。私の太ももに置いたリオの手が、遠慮がちにふみふみと動いている。
「ん、いいよ。おいで?」
膝にリオの頭を乗せて、何度もゆっくりと優しく頭を撫でた。さらさらとした美しい金緑色の髪から伸びる大きな耳が外を向き、とろんとした目と口元の緩んだ表情が可愛らしくて、思わず胸がきゅんと締め付けられる。身体が冷えてしまわないよう、毛布をかけた。喉から鳴るゴロゴロとした音を聞いて、本当に猫みたいだと改めて思う。
「私、どんなリオも大好きだけど……。やっぱり、また今まで通りお話したいなぁ……」
彼の低くて優しい声で、私の名前を呼んでくれた日々がなんだか遠く感じる。温かい体温に釣られて、やがて私も微睡んでしまった。
朝、目を覚ますと***の部屋にいた。間取りは僕たちの部屋と同じだが、何度か訪ねている彼女の部屋を見間違える筈が無い。
「リオ!良かった〜、元に戻ったんだね。体の調子どう?おかしいところはない?大丈夫?」
「別に何とも無いが……どうして僕はここに?」
「昨日のこと、覚えてない?」
彼女の話を聞くに、どうやら僕は丸一日の記憶が抜けているようだ。おずおずと差し出された端末に表示された写真を見て、ありえない自分の姿にわなわなと身体が震えた。
「なっ……な、何だコレは!」
「信じられないと思うけど……昨日は一日中猫みたいになってたんだよ。耳と尻尾が生えてたの」
信じたくない。自分の身体がこんなことになっていただなんて。思わず自分の頭を手で押さえる。良かった、何も残っていない。
「ルチアの推測だと、ストレスが原因かもしれないって。昨日はリオと一緒に私も休ませてもらったの。結局、こうなった原因も何がきっかけで元に戻ったのかも、ハッキリわからなかったけど……。とにかく、元に戻ったことみんなに伝えるね」
「えぇ~!もう戻っちゃったの?」
「……どうして残念そうなんだ」
「肉球触りたかったのにな」
「だから、肉球は無かったってば」
「……で、昨日は一日どうだったんだよリオ。***を舐めた感想は?」
「は……?舐め……?」
「い、言ってない!私は言ってないよ!」
ガロの口から出た衝撃発言に、聞いてないぞと***に視線を向けると、彼女はブンブンと顔を横に振って否定している。彼女の口から伝えてはいない……それはつまり、僕が彼女を舐めたのは事実なのだと容易に想像出来る。
「まだ混乱してるでしょ、ゆっくりしてからおいで~」
アイナの言葉を最後に、ビデオ通話の接続が切れて画面は真っ黒に染まった。
「……***」
「は、はい!」
僕に身体を向けて座り直す***は、気まずそうに視線を逸らしている。
「その……すまない、迷惑をかけた。改めて確認させてほしい、何か君が嫌がることをしなかったか?」
「い、嫌なことなんて何も!」
「……さっきの話だと、君を……な、舐めたと……?」
「確かにそれは本当……。は、恥ずかしかったけど!あの時のリオは猫みたいになってたし。大丈夫だよ……嫌いになったりしてないから、ね?」
「それは、猫だから?それとも僕だから?」
「え、あ、うう……」
「答えてくれ」
嫌われなかったことに安堵したのも束の間、彼女に触れた感覚を覚えていないことが惜しくてたまらなくなった。意地悪な質問だとわかっている。だけど、僕は欲張りだから彼女の気持ちを聞いて安心したい。
「それはもちろん、リオだから……」
「なら、今の僕が同じことをしても受け入れてくれるんだな」
「えっ?」
返事も待たず、***の胸元に抱き着いて耳を傾ける。
「リオ、昨日のこと覚えてないんだよね……?」
「ああ、残念なことに全く」
「……本当に?」
「同じことをすれば、思い出せるかもしれないな」
「わ、わかった!もう疑ってないから!」
***の手を取って指をひと舐めすると、耳に伝わる鼓動が早まった。僕の大好きな音だ。僕のために、彼女の鼓動が早まるのはとても気分が良い。
「もう!ゲーラとメイスもすごく心配してたんだから、帰って顔を見せてあげて!」
一緒に暮らす二人の元へ帰ると、バタバタと慌ただしく出迎えられた。随分と心配させてしまったと申し訳なく思い、眉が下がる。
「元に戻ったんですね、ボス!」
「いや~、やっぱりいつも通りのボスが一番だよな?メイス」
「……心配をかけてすまなかった、もう大丈夫だ」
だから、部屋に散乱している大量の猫グッズはどうにかしてくれ。
▼△あとがき&補足△▼
2/22の猫の日で、沢山の素敵な猫リオのイラストを見て書き始めたネタでした、3/3の耳の日に投稿しようと思っていたけれど案の定大遅刻です。
仕草から猫の心理を読み取れるのが楽しくて、調べながら書きました、思ったより長くなってしまった……!
リオがガロに威嚇してるのは、まあ当然ながら***(夢主ちゃん)を取られたくないという気持ちからです。
でも私のイメージでは、このリオはガロを嫌っているということではなくて、寧ろガロを一人の人間として認めているが故に「魅力的なヤツだから僕の大好きな子を奪っていくかもしれない!」という警戒心によるものです。ガロはリオの態度にちょっと拗ねているので、仕返しに爆弾発言を落としていきました。仲良しですこの二人。
▼ゲーラとメイス相手
→お腹を見せる、尻尾をゆらゆらと動かす。
▼***(夢主ちゃん)相手
→手や顔を舐める、鼻チューをする、体を擦り付ける、胸の上に乗って眠る、尻尾を立てて震わせる、前足でふみふみする。
相手に合わせて、猫の仕草を使い分けてみました。よかったら、ぜひ猫リオの行動心理を調べてお楽しみください。
お読みいただきありがとうございました!
「リオ?」
「……ん……」
眠たげに瞼を擦るリオは、信じられないことに猫の耳と尻尾を携えていた。
「──という訳で、朝起きたらリオが猫になっちゃってたの!」
携帯端末のビデオ通話越しにバーニングレスキューのメンバーに事情を伝える。本当は直接連れて行こうと思ったけど、リオが病院に行く猫の如く嫌がったので断念した。
「そんなことあるのか?」
「私も同じこと思ったよ……」
「耳と尻尾の他には?何かある?」
「言葉は理解してると思う。でも、リオは話さないの」
バリスとルチアに状況を伝えていると、次いでガロとアイナが興味津々にカメラをのぞき込む。
「おーっ!本当だ!牙とか爪は?」
「ねぇ、肉球はあるの?」
「あ、まだ見てないなぁ。ねぇリオ、ちょっと手貸して?」
彼が身に着けているハーフグローブを外して観察する。これと言って目立った変化は無い。遊んでもらえると思ったのか、そのまま指同士を絡めて指先ですりすりと私の手の甲をなぞっている。
「爪も肉球も無いよ、普通に人の手。……ひゃっ!」
カメラに視線を向けて話している最中、突然指先をペロペロと舐められた。この感触は、きっと猫のものだ。
「き、牙は無いけど、舌はザラザラしてるみたい……っ」
「へ、へ〜……?」
画面の向こうで何か言いたげな空気が広がる。すると、先ほどまで大人しかったリオが突然画面に向かって威嚇するように唸り声を響かせた。髪と同じ毛色をした耳は後ろに大きく反り、尻尾の毛並みが逆立っている。
「何?どうしたの、リオ」
「***が構わないから、拗ねてるんじゃない?」
「あー!猫がデスクに上がって人の邪魔するアレか?***はオマエのために相談してんだぞ~?リオ」
「シャーッ!」
「……オレってこんなに嫌われてた?」
「嫉妬してんでしょ~」
「いつにも増して、独占欲丸出しだな」
中でも、ガロと話している時は一層気性が激しくなっている気がする。揶揄われて怒ってるのかな……?落ち着かせようとリオの頭をゆっくりと撫でる。ルチアとレミーは楽し気に笑っているけれど、こちらとしてはどうしたらいいかわからなくて不安だ。
「どうしよう……。元バーニッシュにだけ現れる、後遺症とか?」
「***は身体に変化無いの?」
「私は何ともないよ。でも、リオはバーニッシュの中でも特にプロメアとの結び付きが強かったでしょ?」
「じゃあ、ゲーラ達はどうなんだ」
「……そういえば、いつの間にかリオはここに来てたけど二人は知ってるのかな?」
リオと一緒に暮らしているゲーラとメイスはどうしているのだろうか。もしかして、二人も同じ状態になっているとか……?
更なる不安が脳をよぎった時、リオが耳をぴくりと動かしてドアの方へ顔を向ける。続けてインターフォンが鳴り、来客の正体はちょうど話題に挙がっている二人だった。
「ボス!いないと思ったら***のとこに来てたんですか!」
「探しましたよ!」
「あっ、二人は何ともないみたい……」
ぜえぜえと息を切らしながらリオの元へ近寄ると、その様子にあんぐりと口を開き、大きな耳と尻尾を見つめていた。リオはソファで仰向けに寝転がりながら二人を見つめ、長い尻尾をゆらゆらと左右に動かしている。この二人には威嚇する気配が無くて安心した。
「バーニッシュどうこうって問題じゃないのかな?私じゃ何もできないから、みんなのところに連れて行きたいけどリオは嫌みたいで……」
「まあ、仮にオレがそうなったら周りに見られたくないな。絶対笑いのネタにされる」
「そういう問題?」
「今、隊長に伝えてきたよ~。とりあえずリオと***は今日一日休んでいいってさ。それにしても何が原因なんだろ、ストレスかね〜?」
「いくら何でも、ストレスで耳と尻尾は生えないんじゃ……」
「いやいや、案外あり得るかもよ?バーニッシュが覚醒するのは強いストレスがきっかけって説も、結構濃厚だったからね」
「そうなの?」
「ハッキリした原因がわからないんじゃ、今はどうすることもできないからな。それに、変化して一番戸惑ってるのはリオだろ。今日のところは***が様子を見てやれ」
「はい……」
ルチアとレミーの話に従って、今日はリオと二人で一日休むことが決定した。その会話を聞いて状況を理解したゲーラとメイスは、心配しながらもレスキュー本部へ向かう。
「じゃあ、オレ達は行く。何かあったらすぐに連絡しろよ」
「うん、わかった」
「ボスのことだから大丈夫だろうが、襲われんなよ」
「大丈夫だよ、本物の猫と違って牙も爪も無いもん」
「……オマエって時々バカだよな」
「何、急に?いたっ!」
ゲーラから額を指で弾かれた。うう、理不尽すぎる……。見送ったドアの向こうから足音が遠のき、部屋に静寂が訪れる。二人きりになるとリオが擦り寄ってきた。
「……リオ、大丈夫?」
確かに、今一番戸惑っているのはリオの筈だ。いつものリオの自我が残っているのか、それとも猫に近い状態なのかわからないけれど、今は私が安心させてあげなくちゃ。様子を伺おうと顔を覗き込むと、リオの方から更に顔が近づく。肩と顔に手を添えられて、リオの体重がかかりそのままソファへ押し倒されてしまった。先ほどゲーラに弾かれた、ひりひりと痛む額を舌で舐められる。驚いて固まっていると、そのまま流れるように瞼や頬を舐め始めた。くすぐったさに声が出そうになり、慌てて口を手で押さえる。
──ストレスが原因かもしれない。
それが正しいとするなら、今はリオが望むように行動させてあげるのが良いんだろうか。先ほどの様子から察するに、きっと今のリオの聴覚は猫並みに発達している筈だ。大きな声を出したら驚かせてしまうかもしれない。生暖かくて猫のようなざらざらとしたリオの舌が、私の肌を撫で続けるのをぎゅっと目を瞑り声を我慢して受け止める。
やがて、鼻と鼻を何度かツンとくっつけた後、そこをかぷりと甘噛みされた。うう、私の鼻が食べられちゃう……。これは猫なりの遊び方なのか、それとも食べ物と勘違いしているのか。……そういえば、ご飯は何を食べたらいいんだろう?どこまで猫の身体になっているのかわからない今、人間と同じものをそのまま食べさせるのは怖い。
「……り、リオ。リオ!」
トントン、とリオの胸を軽く叩いてから声を出す。家にある食材ではダメかも。
「リオ、ご飯の材料買いに行きたいの。なるべく急いで帰るから……お家で待っていてくれる?」
だらんと尻尾を下げて落ち込んだ表情をしながらもこくんと頷くリオにお礼を伝えて、頭と耳の間を撫でてから買い物へ出かける。訪れたスーパーの一角に設けられた雑誌コーナーで、気になるものを見つけて一冊購入した。
「ただいま!」
ドアを開けると、リオが玄関で出迎えてくれた。メイス達が来た時と同様に、足音で察知したのだろう。
「お留守番ありがとう、お腹空いたよね?今用意するから、もう少しだけ待ってね?」
買ってきた鶏のささみと卵をお米に混ぜて、お粥を作った。ソファで隣に並んで座り、一口掬ってフーフーと冷ましながらリオに食べさせる。彼の舌のペースに合わせているうち、自分のお粥もすっかりと冷めてしまった。
「ふふっ、付いてるよ」
ようやく全て食べ終わり、リオの口の端に付いたお米を指で取る。その指に、リオはまた鼻を寄せてスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。そして、手・腕・腕と胴の間と、やがて顔や首筋……いろんなところに顔を擦り付けられる。リオの邪魔をしないよう、ふわふわの毛並みを避けながらつい先ほど手に入れた本を取り出し、ページを捲る。そこには、猫の仕草から読み取れる心理が綴られていた。身体を擦り寄せる心理は……「ご飯がほしい」「甘えたい」「自分の匂いを付けて“自分のもの”とマーキングする」……三つ目の一文に思わず顔が熱くなってしまった。いやいや、「外出から帰った飼い主に付いた、知らない匂いを消して安心したい」とも書いてあるし!やっぱり不安なのかもしれない。今は彼のストレスを減らすことが第一優先だ。
「ねぇ、リオ。今日はいっぱい、甘えていいからね」
そう声をかけると、リオは尻尾をぴんと立ててプルプルと振るわせた。心なしか、瞳はキラキラと輝いて見える。私の太ももに置いたリオの手が、遠慮がちにふみふみと動いている。
「ん、いいよ。おいで?」
膝にリオの頭を乗せて、何度もゆっくりと優しく頭を撫でた。さらさらとした美しい金緑色の髪から伸びる大きな耳が外を向き、とろんとした目と口元の緩んだ表情が可愛らしくて、思わず胸がきゅんと締め付けられる。身体が冷えてしまわないよう、毛布をかけた。喉から鳴るゴロゴロとした音を聞いて、本当に猫みたいだと改めて思う。
「私、どんなリオも大好きだけど……。やっぱり、また今まで通りお話したいなぁ……」
彼の低くて優しい声で、私の名前を呼んでくれた日々がなんだか遠く感じる。温かい体温に釣られて、やがて私も微睡んでしまった。
朝、目を覚ますと***の部屋にいた。間取りは僕たちの部屋と同じだが、何度か訪ねている彼女の部屋を見間違える筈が無い。
「リオ!良かった〜、元に戻ったんだね。体の調子どう?おかしいところはない?大丈夫?」
「別に何とも無いが……どうして僕はここに?」
「昨日のこと、覚えてない?」
彼女の話を聞くに、どうやら僕は丸一日の記憶が抜けているようだ。おずおずと差し出された端末に表示された写真を見て、ありえない自分の姿にわなわなと身体が震えた。
「なっ……な、何だコレは!」
「信じられないと思うけど……昨日は一日中猫みたいになってたんだよ。耳と尻尾が生えてたの」
信じたくない。自分の身体がこんなことになっていただなんて。思わず自分の頭を手で押さえる。良かった、何も残っていない。
「ルチアの推測だと、ストレスが原因かもしれないって。昨日はリオと一緒に私も休ませてもらったの。結局、こうなった原因も何がきっかけで元に戻ったのかも、ハッキリわからなかったけど……。とにかく、元に戻ったことみんなに伝えるね」
「えぇ~!もう戻っちゃったの?」
「……どうして残念そうなんだ」
「肉球触りたかったのにな」
「だから、肉球は無かったってば」
「……で、昨日は一日どうだったんだよリオ。***を舐めた感想は?」
「は……?舐め……?」
「い、言ってない!私は言ってないよ!」
ガロの口から出た衝撃発言に、聞いてないぞと***に視線を向けると、彼女はブンブンと顔を横に振って否定している。彼女の口から伝えてはいない……それはつまり、僕が彼女を舐めたのは事実なのだと容易に想像出来る。
「まだ混乱してるでしょ、ゆっくりしてからおいで~」
アイナの言葉を最後に、ビデオ通話の接続が切れて画面は真っ黒に染まった。
「……***」
「は、はい!」
僕に身体を向けて座り直す***は、気まずそうに視線を逸らしている。
「その……すまない、迷惑をかけた。改めて確認させてほしい、何か君が嫌がることをしなかったか?」
「い、嫌なことなんて何も!」
「……さっきの話だと、君を……な、舐めたと……?」
「確かにそれは本当……。は、恥ずかしかったけど!あの時のリオは猫みたいになってたし。大丈夫だよ……嫌いになったりしてないから、ね?」
「それは、猫だから?それとも僕だから?」
「え、あ、うう……」
「答えてくれ」
嫌われなかったことに安堵したのも束の間、彼女に触れた感覚を覚えていないことが惜しくてたまらなくなった。意地悪な質問だとわかっている。だけど、僕は欲張りだから彼女の気持ちを聞いて安心したい。
「それはもちろん、リオだから……」
「なら、今の僕が同じことをしても受け入れてくれるんだな」
「えっ?」
返事も待たず、***の胸元に抱き着いて耳を傾ける。
「リオ、昨日のこと覚えてないんだよね……?」
「ああ、残念なことに全く」
「……本当に?」
「同じことをすれば、思い出せるかもしれないな」
「わ、わかった!もう疑ってないから!」
***の手を取って指をひと舐めすると、耳に伝わる鼓動が早まった。僕の大好きな音だ。僕のために、彼女の鼓動が早まるのはとても気分が良い。
「もう!ゲーラとメイスもすごく心配してたんだから、帰って顔を見せてあげて!」
一緒に暮らす二人の元へ帰ると、バタバタと慌ただしく出迎えられた。随分と心配させてしまったと申し訳なく思い、眉が下がる。
「元に戻ったんですね、ボス!」
「いや~、やっぱりいつも通りのボスが一番だよな?メイス」
「……心配をかけてすまなかった、もう大丈夫だ」
だから、部屋に散乱している大量の猫グッズはどうにかしてくれ。
▼△あとがき&補足△▼
2/22の猫の日で、沢山の素敵な猫リオのイラストを見て書き始めたネタでした、3/3の耳の日に投稿しようと思っていたけれど案の定大遅刻です。
仕草から猫の心理を読み取れるのが楽しくて、調べながら書きました、思ったより長くなってしまった……!
リオがガロに威嚇してるのは、まあ当然ながら***(夢主ちゃん)を取られたくないという気持ちからです。
でも私のイメージでは、このリオはガロを嫌っているということではなくて、寧ろガロを一人の人間として認めているが故に「魅力的なヤツだから僕の大好きな子を奪っていくかもしれない!」という警戒心によるものです。ガロはリオの態度にちょっと拗ねているので、仕返しに爆弾発言を落としていきました。仲良しですこの二人。
▼ゲーラとメイス相手
→お腹を見せる、尻尾をゆらゆらと動かす。
▼***(夢主ちゃん)相手
→手や顔を舐める、鼻チューをする、体を擦り付ける、胸の上に乗って眠る、尻尾を立てて震わせる、前足でふみふみする。
相手に合わせて、猫の仕草を使い分けてみました。よかったら、ぜひ猫リオの行動心理を調べてお楽しみください。
お読みいただきありがとうございました!
