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バーニッシュでなくなってから、初めての冬を迎えた。僕たちの体温は以前から随分と下がり、昔は本当にこんな体温で過ごしていたのかと疑う程の寒さに震えた。澄んだ冬の空気に、入り混じった吐息が白く染まる。
「う〜っ、寒いね!」
「ああ、もうこんなに冷えてしまった」
「ひぃっ!」
マフラーの隙間から手を潜り込ませて***の首筋へ触れ、小動物が飛び跳ねるようなリアクションにクスクスと笑みが溢れた。
「もう、酷い!」
仕返し、と言って彼女が僕の後頭部に手を差し込む。彼女はココがお気に入りらしい、ふさふさと集まった髪にこもった体温で指先の暖をとっている。まるで頭を撫でられているように思えて、きっと犬や猫が飼い主に撫でられている時もこんな感覚なのだろうと目を細めた。
「ほら、行こう」
彼女の手を掴まえ、街へ歩き出す。この時期はイルミネーションで街中が飾られ、特別華やかな雰囲気が広がる。出店には食べ物の他にもハンドメイドのアクセサリーや小物などさまざまな物が並んでおり、時折足を止めて眺めていく。すると、ある店の前で彼女がじっと手袋を見ていることに気がついた。
「手袋か、すっかり冷えるからな。買おうか」
「え……う、ううん。大丈夫だよ。素敵なデザインがいっぱいあるなぁ〜って眺めてただけ!」
控えめに首を振って断られる。彼女は体温が低い。体調が悪いのではと心配したこともあったが、日本人は僕たちよりも平均体温が低い傾向にあるのだと教えてもらったのは最近の話だ。だとしても、こんなに手が冷えているのに本当に大丈夫なのか。彼女が他の商品を眺めている間に、一つ手に取った。
辿り着いた広場の中心には、僕たちの何倍も背が高く青々とした枝葉を広げたクリスマスツリーが立っている。ちょうど陽が落ちて暗くなり、灯りが点いたところを二人で夢中になって見上げた。
「……すごいな」
「ね、キレイだね」
「ああ、本当に」
灯りがキラキラと輝き、華やかなオーナメントが枝葉を彩る。その美しさに目を奪われていると、隣からスンと息を吸いながら***が声を出した。
「……どうしよう、リオ」
「どうした?」
「涙が止まらないの」
その言葉に驚いて視線を彼女に向けると、寒さで赤くなった頬が濡れている。彼女が言葉を紡ぐと、更に両目から涙が溢れ出した。
「あんまりにもキレイで。リオと一緒に見られるのが、その、夢みたいで……」
「……僕も、***と一緒に見られて嬉しいよ」
ずっと遠くから眺めていた街灯りの中に、こうして二人でいられる。この日常がどれだけ幸せなことか噛み締めながら、抱き寄せた彼女の涙を指先で拭う。濡れた頬が冬の冷気にあてられ、すっかりと冷えてしまっていた。
「リオの手、あったかい……」
「冷えただろ、どこか店に入ってあたたまろう」
僕の手に彼女の手が重なる。ふにゃりと破顔する彼女を連れて、近くのカフェへ入った。店内も季節に合わせて飾り付けがされ、火の灯ったキャンドルがテーブルに置かれている。ホットココアが注がれたマグカップを両手で包む彼女へ、先ほど購入した手袋を差し出した。
「やっぱりコレ、使ってくれないか」
「えっ……買ってくれたの?」
「ああ。さっきはいらないと言っていたが、……余計なお世話だったか?」
「そんなことない!その、さっきいらないって言ったのは……本当は手袋をはめるより、手を繋いでいたかったから。でもこの手袋、リオみたいでキレイだなぁって思ってたから、すごく嬉しいよ。これからお出かけするときに使うね。ありがとう!」
袖口に付いたファーが僕の髪に。小さなストーンは瞳に似てるのだと言う。喜んで手袋を撫でる姿にほっとした。
「そうしてくれ。出来るだけ、君の身体を冷やしたくない。今の僕に、あの力は残っていないから」
自分の手とキャンドルに灯された小さな炎を見つめる。冷たい身体に触れると、バーニッシュだった頃、仲間が氷に閉じ込められた光景を思い出す。もうあんなことは起きないと頭で理解していても、不安を感じてしまう。
「……リオ、寂しい?」
「え?」
「炎達の声が聞こえなくなって。私だって寂しいもの。私よりずっと一緒だったリオは、もっと寂しく感じるのかな……と思って」
「……そう、なのかもしれない」
彼女に言われて、初めてこの感覚の名前に気付いた。
「炎と共に生きて、この先もずっとそうだと思ってた。それが急に消えて、僕たちはバーニッシュじゃなくなった。今の僕に出来ることなんて、ほんの少しだ。自分がどれだけちっぽけな人間なのか、嫌でも思い知らされるよ」
炎があれば、今日のように寒い日は簡単にあたためることが出来たのに。自分を形取っていたものが、ぽっかりと抜け落ちてしまったような感覚に陥る。
「……バーニッシュじゃなくても、リオはリオだよ。いつもみんなのために戦ってくれた優しいリオは今も変わらない。確かに、周りの人と比べたら、私達はまだまだ子どもだよ。リオはマッドバーニッシュのボスとして背伸びしてたのが、元に戻っただけなんじゃないかな」
僕の手を、君が両手で包み込んで言った。
「リオ、今まで沢山頑張ったね。いっぱい助けてくれて、ありがとう。炎が使えなくなっても、私は……きっと他のみんなも、リオのことが変わらず大好きだよ」
まっすぐと優しい眼差しが向けられる。
ああ。君の言葉ひとつで、僕はただ一人の子どもに戻ってしまう。今度は僕の方が涙を流してしまいそうで、咄嗟に俯く。
「リオ、大丈夫?気分悪い?」
「……いや。君の言葉が、嬉しくて」
「ふふっ。……これからは、手袋をはめればあったかくなるみたいに、困った時は周りに甘えてもいいと思うの」
「……そうだな」
彼女が言う通り、もっと周りに頼ってもいいのかもしれない。
「頼むぞ。彼女が凍えないように、君が頼りなんだ」
手始めに先程の手袋に呼びかけると、「妖精さんに話しかけてるみたい」と言って君は楽しげに笑った。
……ああ、でも。出来ることなら、やっぱり君を直接あたためたいなどと考えるあたり、僕はまだまだ子どもなのだろう。
「う〜っ、寒いね!」
「ああ、もうこんなに冷えてしまった」
「ひぃっ!」
マフラーの隙間から手を潜り込ませて***の首筋へ触れ、小動物が飛び跳ねるようなリアクションにクスクスと笑みが溢れた。
「もう、酷い!」
仕返し、と言って彼女が僕の後頭部に手を差し込む。彼女はココがお気に入りらしい、ふさふさと集まった髪にこもった体温で指先の暖をとっている。まるで頭を撫でられているように思えて、きっと犬や猫が飼い主に撫でられている時もこんな感覚なのだろうと目を細めた。
「ほら、行こう」
彼女の手を掴まえ、街へ歩き出す。この時期はイルミネーションで街中が飾られ、特別華やかな雰囲気が広がる。出店には食べ物の他にもハンドメイドのアクセサリーや小物などさまざまな物が並んでおり、時折足を止めて眺めていく。すると、ある店の前で彼女がじっと手袋を見ていることに気がついた。
「手袋か、すっかり冷えるからな。買おうか」
「え……う、ううん。大丈夫だよ。素敵なデザインがいっぱいあるなぁ〜って眺めてただけ!」
控えめに首を振って断られる。彼女は体温が低い。体調が悪いのではと心配したこともあったが、日本人は僕たちよりも平均体温が低い傾向にあるのだと教えてもらったのは最近の話だ。だとしても、こんなに手が冷えているのに本当に大丈夫なのか。彼女が他の商品を眺めている間に、一つ手に取った。
辿り着いた広場の中心には、僕たちの何倍も背が高く青々とした枝葉を広げたクリスマスツリーが立っている。ちょうど陽が落ちて暗くなり、灯りが点いたところを二人で夢中になって見上げた。
「……すごいな」
「ね、キレイだね」
「ああ、本当に」
灯りがキラキラと輝き、華やかなオーナメントが枝葉を彩る。その美しさに目を奪われていると、隣からスンと息を吸いながら***が声を出した。
「……どうしよう、リオ」
「どうした?」
「涙が止まらないの」
その言葉に驚いて視線を彼女に向けると、寒さで赤くなった頬が濡れている。彼女が言葉を紡ぐと、更に両目から涙が溢れ出した。
「あんまりにもキレイで。リオと一緒に見られるのが、その、夢みたいで……」
「……僕も、***と一緒に見られて嬉しいよ」
ずっと遠くから眺めていた街灯りの中に、こうして二人でいられる。この日常がどれだけ幸せなことか噛み締めながら、抱き寄せた彼女の涙を指先で拭う。濡れた頬が冬の冷気にあてられ、すっかりと冷えてしまっていた。
「リオの手、あったかい……」
「冷えただろ、どこか店に入ってあたたまろう」
僕の手に彼女の手が重なる。ふにゃりと破顔する彼女を連れて、近くのカフェへ入った。店内も季節に合わせて飾り付けがされ、火の灯ったキャンドルがテーブルに置かれている。ホットココアが注がれたマグカップを両手で包む彼女へ、先ほど購入した手袋を差し出した。
「やっぱりコレ、使ってくれないか」
「えっ……買ってくれたの?」
「ああ。さっきはいらないと言っていたが、……余計なお世話だったか?」
「そんなことない!その、さっきいらないって言ったのは……本当は手袋をはめるより、手を繋いでいたかったから。でもこの手袋、リオみたいでキレイだなぁって思ってたから、すごく嬉しいよ。これからお出かけするときに使うね。ありがとう!」
袖口に付いたファーが僕の髪に。小さなストーンは瞳に似てるのだと言う。喜んで手袋を撫でる姿にほっとした。
「そうしてくれ。出来るだけ、君の身体を冷やしたくない。今の僕に、あの力は残っていないから」
自分の手とキャンドルに灯された小さな炎を見つめる。冷たい身体に触れると、バーニッシュだった頃、仲間が氷に閉じ込められた光景を思い出す。もうあんなことは起きないと頭で理解していても、不安を感じてしまう。
「……リオ、寂しい?」
「え?」
「炎達の声が聞こえなくなって。私だって寂しいもの。私よりずっと一緒だったリオは、もっと寂しく感じるのかな……と思って」
「……そう、なのかもしれない」
彼女に言われて、初めてこの感覚の名前に気付いた。
「炎と共に生きて、この先もずっとそうだと思ってた。それが急に消えて、僕たちはバーニッシュじゃなくなった。今の僕に出来ることなんて、ほんの少しだ。自分がどれだけちっぽけな人間なのか、嫌でも思い知らされるよ」
炎があれば、今日のように寒い日は簡単にあたためることが出来たのに。自分を形取っていたものが、ぽっかりと抜け落ちてしまったような感覚に陥る。
「……バーニッシュじゃなくても、リオはリオだよ。いつもみんなのために戦ってくれた優しいリオは今も変わらない。確かに、周りの人と比べたら、私達はまだまだ子どもだよ。リオはマッドバーニッシュのボスとして背伸びしてたのが、元に戻っただけなんじゃないかな」
僕の手を、君が両手で包み込んで言った。
「リオ、今まで沢山頑張ったね。いっぱい助けてくれて、ありがとう。炎が使えなくなっても、私は……きっと他のみんなも、リオのことが変わらず大好きだよ」
まっすぐと優しい眼差しが向けられる。
ああ。君の言葉ひとつで、僕はただ一人の子どもに戻ってしまう。今度は僕の方が涙を流してしまいそうで、咄嗟に俯く。
「リオ、大丈夫?気分悪い?」
「……いや。君の言葉が、嬉しくて」
「ふふっ。……これからは、手袋をはめればあったかくなるみたいに、困った時は周りに甘えてもいいと思うの」
「……そうだな」
彼女が言う通り、もっと周りに頼ってもいいのかもしれない。
「頼むぞ。彼女が凍えないように、君が頼りなんだ」
手始めに先程の手袋に呼びかけると、「妖精さんに話しかけてるみたい」と言って君は楽しげに笑った。
……ああ、でも。出来ることなら、やっぱり君を直接あたためたいなどと考えるあたり、僕はまだまだ子どもなのだろう。