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スカイミスが運ぶコンテナの中で、ゆらゆらと揺られていた。時折、隣に座る仲間たちに肩が触れる。あの頃のような緊張感は無く、穏やかな心持ちで目的地に到着するのを楽しみにしていた。
ただ、僕だけがその目的地を知らない。隊員のみんなは勿論、元バーニッシュの仲間や子供たちまで「着くまで内緒」だと口を揃えて言う。
揺れが収まり、地上に到着するとピンク色のスカーフを持ってゲーラが言った。
「ボス。ここから先は、コレを着けてくだせぇ」
「え?」
「理由は後でわかります。ちゃんと案内しますから」
メイスにもそう言われて、目を覆われる。頭の後ろでスカーフの端が結ばれた。
「リオ、キツくない?」
心配する***の声に頷くと、コンテナが開く音がした。誘導されるままに降りて歩き出す。地面はしっかりと固まった土のようだ。人工的な硬さは無い。少し右に歩くよ、段差があるから気をつけて……と、手を引かれて移動する。
しばらくすると、瞼越しに、あたたかい陽の光を薄く感じた。「わぁ!」と子供たちが声を上げて駆け出して、目的地に着いたのだと察する。
スカーフを緩めて首まで下げる。
洞窟の終わり。開けた先には、鮮やかな緑の中に小さな白い花が咲き誇る景色が広がっていた。からりとした、穏やかな風が髪を持ち上げて肌を撫でていく。
「ここは……」
「バーニッシュだった頃、メイスに協力してもらって、何度かこっそり来てたの」
***が隣で、子供たちを見つめながら目を細める。
「***が言ったんだよ、オマエらを連れて行けないかって」
「ガロ!」
シートを広げて、運んだ荷物を下ろしながらガロが話し始めた。
「最近ずっと作業続きだったろ。オマエら、少し休めって言ってもなかなか休もうとしねぇし、あんま表立って外出も出来ねぇ。そこで、オレたち全員が休みを取って一緒に出かければ問題ねぇってワケだ」
何より、日頃の働きが評価された結果だ! と、シートの上に胡座をかく。***も一緒に座って、隣をぽんぽんと叩いた。促されるままに座る。
「少しだけ余裕も出てきたみたいだし、暖かくなってきたから……また、ここに来れたら良いなって思い出して。そしたら、みんな協力してくれたの」
***が膝の上に乗せたバスケットを開く。中にはサンドイッチがぎっしりと詰まっていた。
「ガロもありがとう、いろいろと準備してくれて」
「良いってコトよ!」
ガロがサンドイッチを手に取り、早速一番に食べ始めた。
「……オマエ、少しは遠慮を知らないのか。奥ゆかしさとやらはどうした」
「いいの、リオ! 私、コレくらいしか出来ないから」
「ほら、***もこう言ってることだし、人の善意は素直に受け取る方がお互い気持ちいいだろ!」
歯を見せて気持ちのいい笑顔を浮かべるガロを見ると、力が抜けて何も言えなくなってしまった。
周りを見渡すと、子供たちは花畑で自由に遊んでいた。
バリスに肩車してもらいながら、ひらひらと舞う蝶を追いかけている子。花の名前をメイスに尋ねる子。ゲーラはそれを見守りながら、陽光を浴びて寝転がっている。
みんなが、穏やかな顔つきだった。
「あの頃、リオにもいつか見せたいねって、みんなで話してたの……。変わってなくて良かった」
コップに注がれた紅茶を***から手渡されて、口をつける。彼女の柔らく微笑む横顔を見つめていると、温かさが胸に落ちていく。
バーニッシュとして過ごした日々の中、メイスには相談して僕には内緒だったとは……と、少しむくれると***は慌てて言った。
「あの時は、リオに余計な心配かけたくなくて」
「わかってるよ」
僕に負担をかけまいと、彼らなりに気遣ってくれていたんだろう。僕が守るつもりでいたのに、実際は支えられていることもきっと沢山あったのだ。
自分が情けないとは思わない。ただ、みんながいてくれて良かったと、ただただ思う。
「なあ、リオ! 良いこと思いついたんだけどよ」
「何だ?」
ガロが、拳をぽんと手のひらに乗せて「閃いた!」という表情を浮かべる。
「クレイの滅殺開墾ビーム! アレ使えば、他のとこでもこんな風に花が咲かせられるんじゃねぇか⁉︎」
「ぷはっ、オマエ本当にバカだな!」
本人は至って本気で言うものだから、余計におかしくて、***も隣でくすくすと笑い出す。
「アレは星の開墾用に作られた技術だろ。バカスカ撃ったら環境バランスがとんでもないことになる」
もう一つ、大きなシートを持って歩いてきたレミーが冷静に指摘した。
「んだよ〜ッ! 結構良い考えだと思ったんだけどなぁ」
「バカなこと言ってないでホラ、オマエも手伝え」
ガロは食べかけのサンドイッチを口に押し込み、二人で歩いて行った。風に煽られて膨らむシートを押さえながら、花畑の中心でそれを広げていく。
さっきの夢物語みたいな提案に、***は目を細めて言った。
「……でも、そうだね。どこでもってワケにはいかないかもしれないけど……いつか将来、私たちが暮らす場所も、こんな風に花が咲いてたらいいな」
荒野を転々とさすらう日々では想像できなかった。こんな風に穏やかな環境で仲間と過ごす未来を、自然と思い描けるようになったのだ。
そっと、彼女の手に自分の手を重ねる。
「……***、ありがとう。僕たちじゃ、きっとこんな風に過ごすことは許されなかった。君がいるおかげだ」
「そんな大袈裟な……ガロが言ってたでしょ、リオたちがいつも頑張ってるおかげだって」
彼女の言葉に首を振る。***はいつも、自分は人に何もしてあげられないと自分のことを小さくみるけれど、僕は彼女の優しさに、気持ちに、言葉に、沢山のものを貰っている。
「大袈裟じゃない。……君が、ここに残ってくれてよかった。本当に」
僕にとって、どれだけ彼女の存在が大切なのか、伝わればいいのに。あたたかな風が通り抜ける中、彼女を見つめていると、***は急に背を向けて、顔を隠してしまった。
「***?」
「……ま、待って」
小さな声。
これは。
何度か見たことのある反応に、ふっと笑みが溢れる。
「こっちを見てくれ」
「い、今……顔が熱いから、ダメ」
やっぱり、照れている。***はたまに、急にこんな風に顔を赤くして、そっぽを向いてしまう時がある。それがあまりにも愛おしくて、つい放っておけなくなる。
耳元に額を寄せると、***はびくりと肩を跳ねさせた。やっと視線が合う。
「〜っ⁉︎ な、何で……」
「君がこっちを向いてくれないから」
僕が近付くのに合わせて、彼女はジリジリと後ろへ退こうとする。シートの端まで追い詰めた時、遠くから子供たちの声が響いた。
「あ〜! ボスがお姉ちゃんにイジワルしてる!」
「なっ⁉︎」
「えっ、い、イジワルじゃないよ……!」
彼女が僕のために慌てて手を振って、誤解を解こうとする。
「でも、お姉ちゃんダメって言ってたのに、よくないよ! イジワルだよ」
「た、確かに? リオってちょっとイジワルなのかも……」
「オイ、***まで流されるな!」
必死になる僕を見て、***が小さく噴き出す。一人の少女が、彼女の服の裾を引っ張って耳元で話しかけた。
「リオにプレゼントしたいんだって」
「僕に?」
白詰草で編まれた花冠が、頭に乗せられる。太陽をいっぱいに浴びた、青い香りが鼻腔をくすぐる。
「ありがとう……すごいな、君が編んだのか?」
こくりと頷く少女。今度は僕の手を引っ張って、あっちへ行こうと花畑へ連れられる。
***は座ったまま、手を振って僕を見送った。
遊び相手が彼女じゃなくて、僕で良かったのだろうか。そう思っていると、目の前の小さな少女が呟いた。
「作り方、ボスにも教えてあげる! ボスが作ったら、きっとお姉ちゃん喜んで許してくれるよ?」
そんな純粋で少しだけずる賢い提案に、「それは良いな」と共感して、しゃがみ込んで花へ手を伸ばす。
とびきり可愛らしい花冠を、プレゼントしよう。それを乗せて照れくさそうに笑う***を想像して、イタズラを楽しむ子どものように笑みを浮かべた。
▲シロツメクサの花言葉…「幸運」「約束」「私を思って」
ただ、僕だけがその目的地を知らない。隊員のみんなは勿論、元バーニッシュの仲間や子供たちまで「着くまで内緒」だと口を揃えて言う。
揺れが収まり、地上に到着するとピンク色のスカーフを持ってゲーラが言った。
「ボス。ここから先は、コレを着けてくだせぇ」
「え?」
「理由は後でわかります。ちゃんと案内しますから」
メイスにもそう言われて、目を覆われる。頭の後ろでスカーフの端が結ばれた。
「リオ、キツくない?」
心配する***の声に頷くと、コンテナが開く音がした。誘導されるままに降りて歩き出す。地面はしっかりと固まった土のようだ。人工的な硬さは無い。少し右に歩くよ、段差があるから気をつけて……と、手を引かれて移動する。
しばらくすると、瞼越しに、あたたかい陽の光を薄く感じた。「わぁ!」と子供たちが声を上げて駆け出して、目的地に着いたのだと察する。
スカーフを緩めて首まで下げる。
洞窟の終わり。開けた先には、鮮やかな緑の中に小さな白い花が咲き誇る景色が広がっていた。からりとした、穏やかな風が髪を持ち上げて肌を撫でていく。
「ここは……」
「バーニッシュだった頃、メイスに協力してもらって、何度かこっそり来てたの」
***が隣で、子供たちを見つめながら目を細める。
「***が言ったんだよ、オマエらを連れて行けないかって」
「ガロ!」
シートを広げて、運んだ荷物を下ろしながらガロが話し始めた。
「最近ずっと作業続きだったろ。オマエら、少し休めって言ってもなかなか休もうとしねぇし、あんま表立って外出も出来ねぇ。そこで、オレたち全員が休みを取って一緒に出かければ問題ねぇってワケだ」
何より、日頃の働きが評価された結果だ! と、シートの上に胡座をかく。***も一緒に座って、隣をぽんぽんと叩いた。促されるままに座る。
「少しだけ余裕も出てきたみたいだし、暖かくなってきたから……また、ここに来れたら良いなって思い出して。そしたら、みんな協力してくれたの」
***が膝の上に乗せたバスケットを開く。中にはサンドイッチがぎっしりと詰まっていた。
「ガロもありがとう、いろいろと準備してくれて」
「良いってコトよ!」
ガロがサンドイッチを手に取り、早速一番に食べ始めた。
「……オマエ、少しは遠慮を知らないのか。奥ゆかしさとやらはどうした」
「いいの、リオ! 私、コレくらいしか出来ないから」
「ほら、***もこう言ってることだし、人の善意は素直に受け取る方がお互い気持ちいいだろ!」
歯を見せて気持ちのいい笑顔を浮かべるガロを見ると、力が抜けて何も言えなくなってしまった。
周りを見渡すと、子供たちは花畑で自由に遊んでいた。
バリスに肩車してもらいながら、ひらひらと舞う蝶を追いかけている子。花の名前をメイスに尋ねる子。ゲーラはそれを見守りながら、陽光を浴びて寝転がっている。
みんなが、穏やかな顔つきだった。
「あの頃、リオにもいつか見せたいねって、みんなで話してたの……。変わってなくて良かった」
コップに注がれた紅茶を***から手渡されて、口をつける。彼女の柔らく微笑む横顔を見つめていると、温かさが胸に落ちていく。
バーニッシュとして過ごした日々の中、メイスには相談して僕には内緒だったとは……と、少しむくれると***は慌てて言った。
「あの時は、リオに余計な心配かけたくなくて」
「わかってるよ」
僕に負担をかけまいと、彼らなりに気遣ってくれていたんだろう。僕が守るつもりでいたのに、実際は支えられていることもきっと沢山あったのだ。
自分が情けないとは思わない。ただ、みんながいてくれて良かったと、ただただ思う。
「なあ、リオ! 良いこと思いついたんだけどよ」
「何だ?」
ガロが、拳をぽんと手のひらに乗せて「閃いた!」という表情を浮かべる。
「クレイの滅殺開墾ビーム! アレ使えば、他のとこでもこんな風に花が咲かせられるんじゃねぇか⁉︎」
「ぷはっ、オマエ本当にバカだな!」
本人は至って本気で言うものだから、余計におかしくて、***も隣でくすくすと笑い出す。
「アレは星の開墾用に作られた技術だろ。バカスカ撃ったら環境バランスがとんでもないことになる」
もう一つ、大きなシートを持って歩いてきたレミーが冷静に指摘した。
「んだよ〜ッ! 結構良い考えだと思ったんだけどなぁ」
「バカなこと言ってないでホラ、オマエも手伝え」
ガロは食べかけのサンドイッチを口に押し込み、二人で歩いて行った。風に煽られて膨らむシートを押さえながら、花畑の中心でそれを広げていく。
さっきの夢物語みたいな提案に、***は目を細めて言った。
「……でも、そうだね。どこでもってワケにはいかないかもしれないけど……いつか将来、私たちが暮らす場所も、こんな風に花が咲いてたらいいな」
荒野を転々とさすらう日々では想像できなかった。こんな風に穏やかな環境で仲間と過ごす未来を、自然と思い描けるようになったのだ。
そっと、彼女の手に自分の手を重ねる。
「……***、ありがとう。僕たちじゃ、きっとこんな風に過ごすことは許されなかった。君がいるおかげだ」
「そんな大袈裟な……ガロが言ってたでしょ、リオたちがいつも頑張ってるおかげだって」
彼女の言葉に首を振る。***はいつも、自分は人に何もしてあげられないと自分のことを小さくみるけれど、僕は彼女の優しさに、気持ちに、言葉に、沢山のものを貰っている。
「大袈裟じゃない。……君が、ここに残ってくれてよかった。本当に」
僕にとって、どれだけ彼女の存在が大切なのか、伝わればいいのに。あたたかな風が通り抜ける中、彼女を見つめていると、***は急に背を向けて、顔を隠してしまった。
「***?」
「……ま、待って」
小さな声。
これは。
何度か見たことのある反応に、ふっと笑みが溢れる。
「こっちを見てくれ」
「い、今……顔が熱いから、ダメ」
やっぱり、照れている。***はたまに、急にこんな風に顔を赤くして、そっぽを向いてしまう時がある。それがあまりにも愛おしくて、つい放っておけなくなる。
耳元に額を寄せると、***はびくりと肩を跳ねさせた。やっと視線が合う。
「〜っ⁉︎ な、何で……」
「君がこっちを向いてくれないから」
僕が近付くのに合わせて、彼女はジリジリと後ろへ退こうとする。シートの端まで追い詰めた時、遠くから子供たちの声が響いた。
「あ〜! ボスがお姉ちゃんにイジワルしてる!」
「なっ⁉︎」
「えっ、い、イジワルじゃないよ……!」
彼女が僕のために慌てて手を振って、誤解を解こうとする。
「でも、お姉ちゃんダメって言ってたのに、よくないよ! イジワルだよ」
「た、確かに? リオってちょっとイジワルなのかも……」
「オイ、***まで流されるな!」
必死になる僕を見て、***が小さく噴き出す。一人の少女が、彼女の服の裾を引っ張って耳元で話しかけた。
「リオにプレゼントしたいんだって」
「僕に?」
白詰草で編まれた花冠が、頭に乗せられる。太陽をいっぱいに浴びた、青い香りが鼻腔をくすぐる。
「ありがとう……すごいな、君が編んだのか?」
こくりと頷く少女。今度は僕の手を引っ張って、あっちへ行こうと花畑へ連れられる。
***は座ったまま、手を振って僕を見送った。
遊び相手が彼女じゃなくて、僕で良かったのだろうか。そう思っていると、目の前の小さな少女が呟いた。
「作り方、ボスにも教えてあげる! ボスが作ったら、きっとお姉ちゃん喜んで許してくれるよ?」
そんな純粋で少しだけずる賢い提案に、「それは良いな」と共感して、しゃがみ込んで花へ手を伸ばす。
とびきり可愛らしい花冠を、プレゼントしよう。それを乗せて照れくさそうに笑う***を想像して、イタズラを楽しむ子どものように笑みを浮かべた。
▲シロツメクサの花言葉…「幸運」「約束」「私を思って」
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