プロメア
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
背中に手を添えられて、温かな店内へ足を踏み入れる。品の良さが漂いつつも、多くの男女の笑い声で賑わう空間は和やかなものだった。
慣れない空気はどこか落ち着かず、少し着飾った装いの自分はこの空間に浮いていないかと視線を落とす。
身に纏ったワンピースは、ガロから贈られたものだった。オーロラを思わせる色合いのリボンでキレイにラッピングされた、ブルーグリーンの大きな箱を渡されたのはつい昨日のこと。
上品なシルク生地のワンピースが、キャンドルの灯りに照らされて艶やかに青色を放つ。それは澄み渡る青空のようにも、彼の髪の色にも似ていた。私がいつも身につけているネックレスに合うものを選んだと聞いて、こんなセンスのある贈り物が出来たのか、なんて失礼ながらも驚いたものだ。
椅子を引かれて席に着くと、ガロも向かいに座る。今日のガロは、白いシャツと黒のスラックスに身を包み、いつもより少し大人っぽい。ジャケットは早々に脱いでしまっていたけれど。
「なんだか、いつもと全然雰囲気が違うわね」
「まあ、ガラじゃねぇよな! 実はオレもこういう店、初めて来たんだ」
緊張していたのはお互い同じだったみたいで、正直に告げると、緊張が解けてクスクスと笑みが零れた。
メイン料理である、ロブスターテイルのグリルがテーブルに並ぶ。バターの湯気が立ちのぼり、フォークを入れると、白い身がほぐれていく。濃厚な甘みと弾力に、口の中が満たされる。
「おぉ! コレ美味いな」
「うん……美味しい……!」
食べ始めたらその味の虜になり、自然と口角が上がっていく。馴染みある料理も好きだけど、たまにはこういう贅沢も良い。
デザートはハート型のチョコレートムースだった。添えられた“Happy Valentine's Day”と書かれたチョコプレートを見て「あ、」と声が出る。
「もしかして、バレンタインデーだったから今日はこんなに特別なの……?」
「はぁ⁉ 気付いてなかったのか?」
「や、すっかり……。そっか。そっか……」
だって、私たちの仕事はイベントに合わせて休みなんて簡単に取れない。だからバレンタインデー当日は既に過ぎていたし、頭の中で今日の食事と結びついていなかった。
ガロがこの日のために頑張ってあれこれ手配してくれたのだと思うと、火が灯ったように心が温かくなる。
「ありがとう……」
「ん。……思ったより苦いな」
照れているのか、少し顔を赤くさせたガロに笑って頷く。ゆっくりとチョコレートムースを舌に乗せれば、体温で静かに崩れていく。甘さは控えめで、ほろ苦さが後味に残り、静かに胸の奥へ深い余韻が落ちていった。
「――本当にいいの?」
「おう、勿論!」
「でも、このワンピースだって用意してもらったのに……」
「だ~っ! いいんだよ! たまにはオレに花を持たせてくれって!!」
「そう……?」
ガロが会計を済ませる間に、コートを羽織って外に出る。吐く息は白く、その先に広がる街並みは街灯に照らされ、輝いて見えた。
「***」
呼ばれて振り向く。視線が合うと、目の前に近づいたガロが、後ろ手に持っている物を差し出した。
「あのさ。オレ、こんなだから、ちゃんと出来てるかわかんねぇけど。……でも、***のこと大切にしたいって思ってる。……今日は、ありがとな」
それは、真っ赤なバラの花束だった。少し自信なさげに頭を掻きながら、だけど視線は真っ直ぐに私を見ていて、照れくさそうに子供みたいな笑顔を浮かべていた。
受け取ると、花の香りがふわりと鼻孔をくすぐる。いつか、前にもどこかで――
「……あ…………」
ガロと初めて話した日のことが、脳裏に浮かぶ。炎に奪われ続ける日々から逃れたくて、もう何も抱えたくないと思っていたあの頃。無機質な白い病室の中で、彼が持ってきてくれた黄色いガーベラは優しい色をしていた。
青いワンピースが夜風に揺れる。手元の花束は、ガロの瞳の奥に灯る炎のよう。……そうだ、あの時も、今も。ガロのおかげで、私は……世界が鮮やかに色づいて見えるようになったんだ。
気付いた途端、急に視界がぼやけて、隠すように花束に顔を埋める。
「あ⁉ もしかして、あんまり花好きじゃなかったか……⁉」
私の様子に焦ったガロが、おろおろと慌て始める。
「別に嫌なら、その……!」
「ううん、そんなことない。……ふふっ、花を持たせるって、こういう意味⁉」
先ほどの会話を思い出して、つい笑ってしまう。私の言葉にほっとして、ガロの肩から力が抜けた。指を曲げて合図をすると顔が近づき、彼のコートの襟を軽く握れば、距離はほとんど無くなる。
今までは生きていくのに必要ないから、花が好きかなんて考えたこともなかったのに。……きっとあの時から、今までずっと。
「――どっちも、大好きよ」
耳元で囁くと、ガロの目が見開いた。くるりと背を向けて、小走りで駆け出す。
「は? 好きって、花と……あと何⁉ 俺、今聞き逃した⁉ なぁ⁉」
熱のこもった肌を、冷たい空気が撫でていく。後ろから足音が近づき、腕を伸ばす影がコンクリートに落ちる。
二人の腕の中には、赤いバラが十一本咲き誇っていた。
慣れない空気はどこか落ち着かず、少し着飾った装いの自分はこの空間に浮いていないかと視線を落とす。
身に纏ったワンピースは、ガロから贈られたものだった。オーロラを思わせる色合いのリボンでキレイにラッピングされた、ブルーグリーンの大きな箱を渡されたのはつい昨日のこと。
上品なシルク生地のワンピースが、キャンドルの灯りに照らされて艶やかに青色を放つ。それは澄み渡る青空のようにも、彼の髪の色にも似ていた。私がいつも身につけているネックレスに合うものを選んだと聞いて、こんなセンスのある贈り物が出来たのか、なんて失礼ながらも驚いたものだ。
椅子を引かれて席に着くと、ガロも向かいに座る。今日のガロは、白いシャツと黒のスラックスに身を包み、いつもより少し大人っぽい。ジャケットは早々に脱いでしまっていたけれど。
「なんだか、いつもと全然雰囲気が違うわね」
「まあ、ガラじゃねぇよな! 実はオレもこういう店、初めて来たんだ」
緊張していたのはお互い同じだったみたいで、正直に告げると、緊張が解けてクスクスと笑みが零れた。
メイン料理である、ロブスターテイルのグリルがテーブルに並ぶ。バターの湯気が立ちのぼり、フォークを入れると、白い身がほぐれていく。濃厚な甘みと弾力に、口の中が満たされる。
「おぉ! コレ美味いな」
「うん……美味しい……!」
食べ始めたらその味の虜になり、自然と口角が上がっていく。馴染みある料理も好きだけど、たまにはこういう贅沢も良い。
デザートはハート型のチョコレートムースだった。添えられた“Happy Valentine's Day”と書かれたチョコプレートを見て「あ、」と声が出る。
「もしかして、バレンタインデーだったから今日はこんなに特別なの……?」
「はぁ⁉ 気付いてなかったのか?」
「や、すっかり……。そっか。そっか……」
だって、私たちの仕事はイベントに合わせて休みなんて簡単に取れない。だからバレンタインデー当日は既に過ぎていたし、頭の中で今日の食事と結びついていなかった。
ガロがこの日のために頑張ってあれこれ手配してくれたのだと思うと、火が灯ったように心が温かくなる。
「ありがとう……」
「ん。……思ったより苦いな」
照れているのか、少し顔を赤くさせたガロに笑って頷く。ゆっくりとチョコレートムースを舌に乗せれば、体温で静かに崩れていく。甘さは控えめで、ほろ苦さが後味に残り、静かに胸の奥へ深い余韻が落ちていった。
「――本当にいいの?」
「おう、勿論!」
「でも、このワンピースだって用意してもらったのに……」
「だ~っ! いいんだよ! たまにはオレに花を持たせてくれって!!」
「そう……?」
ガロが会計を済ませる間に、コートを羽織って外に出る。吐く息は白く、その先に広がる街並みは街灯に照らされ、輝いて見えた。
「***」
呼ばれて振り向く。視線が合うと、目の前に近づいたガロが、後ろ手に持っている物を差し出した。
「あのさ。オレ、こんなだから、ちゃんと出来てるかわかんねぇけど。……でも、***のこと大切にしたいって思ってる。……今日は、ありがとな」
それは、真っ赤なバラの花束だった。少し自信なさげに頭を掻きながら、だけど視線は真っ直ぐに私を見ていて、照れくさそうに子供みたいな笑顔を浮かべていた。
受け取ると、花の香りがふわりと鼻孔をくすぐる。いつか、前にもどこかで――
「……あ…………」
ガロと初めて話した日のことが、脳裏に浮かぶ。炎に奪われ続ける日々から逃れたくて、もう何も抱えたくないと思っていたあの頃。無機質な白い病室の中で、彼が持ってきてくれた黄色いガーベラは優しい色をしていた。
青いワンピースが夜風に揺れる。手元の花束は、ガロの瞳の奥に灯る炎のよう。……そうだ、あの時も、今も。ガロのおかげで、私は……世界が鮮やかに色づいて見えるようになったんだ。
気付いた途端、急に視界がぼやけて、隠すように花束に顔を埋める。
「あ⁉ もしかして、あんまり花好きじゃなかったか……⁉」
私の様子に焦ったガロが、おろおろと慌て始める。
「別に嫌なら、その……!」
「ううん、そんなことない。……ふふっ、花を持たせるって、こういう意味⁉」
先ほどの会話を思い出して、つい笑ってしまう。私の言葉にほっとして、ガロの肩から力が抜けた。指を曲げて合図をすると顔が近づき、彼のコートの襟を軽く握れば、距離はほとんど無くなる。
今までは生きていくのに必要ないから、花が好きかなんて考えたこともなかったのに。……きっとあの時から、今までずっと。
「――どっちも、大好きよ」
耳元で囁くと、ガロの目が見開いた。くるりと背を向けて、小走りで駆け出す。
「は? 好きって、花と……あと何⁉ 俺、今聞き逃した⁉ なぁ⁉」
熱のこもった肌を、冷たい空気が撫でていく。後ろから足音が近づき、腕を伸ばす影がコンクリートに落ちる。
二人の腕の中には、赤いバラが十一本咲き誇っていた。
