『プロミス』サンプル
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病院の一室、ベッドに横たわる男は膝元で眠る娘の顔を見つめていた。少女の小さな手には、白いクマを模したぬいぐるみの柔らかな手が握られている。お店に展示されているのを見つけ、予約から約一年待ち続けてようやく届いたそれはCry baby Bear―“泣き虫クマさん”という名の商品だった。つぶらな黒い瞳は表情の変化を感じさせないが、届いた時に添えられていたカードの“寂しくて泣かないように、たくさん抱きしめて!”というメッセージを読んで以来、少女はどこへ行くにも抱えるようになった。
「新しい家族になるから、***の弟だね。優しくしてあげるんだよ」
「わたし、クレイのお姉ちゃんになるの? ……うん。ずっと一緒にいる!」
彼女が商品名を読み間違えたことをきっかけに、そのぬいぐるみは“クレイ”と名付けられた。頬を寄せて、柔らかく微笑む表情はとても愛おしかった。
(──嗚呼、私はもう傍にいられなくなるけれど、どうかこの記憶が少しでも君を救ってくれたら)
突然、地響きが鳴り渡る。窓から外の景色を覗くと、遠くの地表から夜の闇を裂くように青白い炎がこちらへ差し迫っていた。男は咄嗟に、弱った体に力を込めて娘を抱き寄せる。瞬く間に炎が病室に満ちて、腕の中の小さな命が燃えないようにその身で覆う。男の意識は、そこで途絶えた。
プロメポリス郊外に建つ、一つの民家から赤い炎と煙が立ち昇っている。その家から飛び出した女は、駆けつけた消防隊バーニングレスキューに保護された。サーモグラフィーカメラを通して現場を見た火消しの男、ガロ・ティモスはあることに気づき、女の言う言葉には耳を貸さず現場へ駆け込んだ。
(もう一人いる!)
小さいが、確かに人影だった。炎の海と化した家の中には、少女がぬいぐるみを抱きかかえて床に横たわっている。そのぬいぐるみには片腕が無い。火が燃え移り始めたそれを離し、ガロは少女を抱えて飛び出したのだった。
「どうしたもんかね〜……」
バーニングレスキュー本部にて、その少女の扱いに隊員たちは悩んでいた。幸い大きな怪我もなく、眠っていた彼女は目を覚まして辺りを見渡すと、不安そうに俯いてしまった。隊員たちが「お家が燃えてしまったから、ここに連れて来たんだよ」と優しく説明したが、それでも少女が言葉を発することはなく、自分の手をぎゅっと握りしめて黙り続けている。
「お菓子食べる? ジュースもあるよ〜」
「お、お姉さんと一緒に遊ぼっか?」
ルチアとアイナが少女を気遣い、お菓子やジュースを勧めても無反応で、何一つ手に取ろうとしない。
「急に知らない場所へ連れて来られて、緊張してるんだろう。誰か子供の相手に慣れた人はいないか?」
リオが小さな声で、ガロに相談する。
「う〜ん……子供の面倒みたことがある人と言えば……。あ! いるじゃねぇか、オレを育てたベテランがよ」
ぽん、と手のひらに拳を落としたガロの発言に、リオは嫌な予感がして眉を顰めた。
「オイ。……まさか、クレイ・フォーサイトのことを言ってるんじゃないだろうな」
「そうだ」
「バカかオマエは! よりにもよって、あの男なんて……」
「……くれい?」
少女の小さな声が、その名を呼んだ。初めて発した声に、その場の全員が注目する。彼女はソファから降りて、ガロの元へ駆け寄る。
「クレイのところ、連れてって。クレイに会いたい」
「お、おぉ?」
「会いたい……」
服を掴み、目に涙を浮かべて懇願する姿に、ガロはたじろいだ。リオと顔を見合わせ、こうなっては仕方ないとぎこちなく笑う。そうして、プロメポリス復興のために監視下で働いているクレイ・フォーサイトの元へ、少女を連れて行った。
「クレイ、クレイ……」
「……どういうことだ、コレは」
クレイの姿を見た途端、少女は彼の名を呼んでその足に強くしがみついた。状況が掴めないクレイは、ガロに説明を求める。
「その子は救助した子だ。家が火事になってな、一時的に保護してたんだ」
「それをどうして私のところに連れて来る? 親の元へ返せば良いだろう」
「調べてみたら、父親は半年前に病死してる。そんで母親と一緒に住み始めたみたいなんだが……異常が無いか検査してたらよ」
痣があったんだ、体に。控えめな声で伝えられた言葉に、クレイの眉がピクリと動いた。
「それに、火事の時に一人で出てきた母親は、家に誰もいないって言ったんだ。……この子を置き去りにして」
(だから、この子供を母親の元へ返す訳にはいかない──ということか)
少女をもう一度見やると、服から露出して見える肌に怪我は無いように見える。意図的に、見えない部分を狙って暴力を振るっていたのだろう。
「それに、オレたちがこの子に話しかけても、何にも反応しないんだよ。メシも食わねぇ、話もしねぇ。でも、アンタの名前を呼んだんだ。父親でも、母親でもなく、アンタの名前をな」
そうして連れて来て、今に至る。クレイはバーニッシュ火災の被害者が暮らす孤児院に赴いたことは、何度もあった。しかし、こんな風に自分を呼ぶ子供には覚えが無く、少女が人違いしているとしか思えない。それでも、腕に込めた力から、離れ離れになるまいと怯える彼女の精神状態が伝わった。ともかく今は大人同士で話し合う必要があると思い、クレイは膝をついて少女の肩に手を置き、努めて優しい声で促した。
「少しだけ、ここで待っていてくれるかい? 大丈夫、急にいなくなったりしないよ」
その言葉を聞いて、少女は静かに頷いた。ガロとリオと共に、扉を隔てた廊下に出て話し合う。
「なぁ。この調子じゃ、アンタから引き離したらもっと不安定になっちまう。しばらくの間、面倒見てやってくれねぇか?」
「僕は反対だ。オマエ、自分がされたことを忘れたのか? コイツがあの子を手にかける可能性だってある」
「今回だけはキサマと同意見だな」
ガロの提案に反対するリオとクレイ。しかし、ガロは食い下がらなかった。
「ああ覚えてる。確かに色々あったが、ガキの頃にクレイがオレの面倒を見てくれたのは本当のことだ。今みたいに、何も食わない状態が続くとまずいしよ。クレイには、あの子を殺す理由もねぇだろ? それにな、リオ。オレはクレイのことをよく知ってるんだぜ。大丈夫だ、なんかあったらオレがぶん殴りに行く!」
「度し難いなこのバカは!」
握り拳を作り、自信満々で説得するガロにクレイは呆れた。
「ハァ……まあ、こうなってしまった以上、この男から無理に引き剥がす方が心配だ。しばらくはそれで様子を見るしかないだろう」
「オイ待て。私は……」
「キサマを信じる訳じゃないぞ。もしもあの子に何か危害を加えるようなら、僕も黙ってるつもりはない」
リオはクレイの襟を掴み、低い声で訴える。
「今までどれだけの命を奪ってきたか、忘れたつもりじゃないだろう? その犠牲のうえで一万人を救おうとしたんだ、自分の力で一人の子供くらい救ってみせろ」
断る権利など無い、と言わんばかりの圧。クレイとリオ、二人の手首には監視のために腕輪が取り付けられている。復興までの特例措置とはいえ、本来なら二人は自由に行動出来る立場ではなかった。どれほど善を尽くそうが、罪が無くなるわけではない。それでも、目の前の人を救い、出来ることを全うするのが贖罪であると、リオは考えていた。そして、あの少女に対してそれが可能なのはクレイしかいないとも。
クレイは大きなため息をつき、リオの手首を掴んで自身の襟から外すと、声を発した。
「一時的にだ。いずれ然るべき人の元へ預ける。それまでの間は預かろう」
こうして、少女とクレイの生活が始まった。
数日間寝食を共にして、クレイは少女の手のかからなさに密かに驚いていた。時間になれば従順に席へ座り、騒いだり他のことに気を取られることもなく、黙々と食事をする。寝る時間が訪れると、もっと起きて遊んでいたいと駄々をこねることも無く、大人しくベッドに入って眠るのだ。この年齢にしては落ち着き過ぎているほどに静かな様子は、クレイにとって良い意味で計算外だった。
ただ一つの問題は、少女がクレイから一向に離れたがらないことだった。トイレに行く。シャワーを浴びる。郵便を取りに玄関へ向かうといった、ほんの少しの時間でも離れようとすれば、置いていかれると不安になるのか少女が後ろを着いて歩くので、その度にクレイは声をかける必要があった。そして、夜は一緒のベッドに入らないと眠れないようだった。
「ごめんね。痛い痛いだったよね、ごめんね……」
少女は決まって、クレイの左側で眠った。先の騒動で義手が壊れて以来、左腕の無い生活を送るクレイの体を見て、少女は彼に抱き着いてしくしくと泣き出すのだった。クレイの腕が失われたことを、自分のせいだと責めているように。毎晩繰り返されるその不可解な言動の理由もわからないまま、クレイは黙って頭を撫で続けた。
家に彼女を置いていく訳にもいかず、クレイは少女を仕事場に連れて行った。足に張り付かれてはまともに歩くこともできないため、仕方なく肩車をする。存外、少女は高い所も平気なようだった。その二人の姿を見て、まだ事情を知らない者たちは目を丸くした。
「えっ……。クレイ、貴方……子供がいたの?」
「いや、そうではない」
エリスの問いを否定すると、少女が意外な言葉を発してクレイの頭を撫でた。
「……? クレイはね、わたしのだいじな弟だよ。いいこ、いいこ〜」
「えっ、えっ? 元司政官ってそういう趣味……⁉︎」
「断じて違う‼︎」
周りの元財団員がざわつき始め、クレイは声を荒げた。あらぬ誤解をされてはたまったものではない。一瞬、少女がびくりと体を跳ねさせたことに気づき、大きく呼吸をして落ち着きを取り戻す。肩から少女を降ろして同室のソファで過ごすように伝え、クレイは机で作業をしながらエリスに一連の経緯を説明した。
「……何て言えばいいのかしら、それはまた複雑な状況ね」
「とにかく、毎晩泣かれては私の身が持たん。いい加減まともに眠らせてほしいものだ」
「だからそれを作り直してるってこと……」
己の左肩から先に着ける義手の設計図を書き直すクレイを見て、エリスは納得した。それで改善されるとは限らないが、とにかく一つずつ試していくしかない。お互い、トライアンドエラーの繰り返しには慣れている。
「さっき言ってた、弟というのは?」
「知らない。私もあんなことは初めて言われた。ガロから聞いた話だと、兄弟はいない筈だ」
「謎が多いわね」
エリスがちらりと少女に視線を向ける。色鉛筆を手に、黙々と絵を描いている。しばらくすると、ガロが姿を現した。
「よーっ、クレイ! 様子見に来たぜ。どうだ調子は?」
「……おかげでこっちは寝不足だ」
「えぇ? 何でだよ。なぁ***、ちゃんとメシ食ってるか? クレイは優しいか?」
ガロが少女の頭を撫でて話しかけると、彼女はこくりと頷いた。初めて会った時の様子と比べて、随分しっかりと反応が返ってきたことに彼は安堵した。
「そうか、良かったなぁ。で、ソレは何描いてんだ?」
「こっちがクレイで、こっちがわたし。それと……パパ」
「クレイ? コレがぁ? ……あっ」
少女がガロに説明して見せた絵の中のクレイは、父親と少女の間で白いクマの姿をしていた。
(もしかして──)
その時、脳裏によぎった己の仮説を、ガロはクレイとエリスに説明した。あの火災現場で彼女を見つけた時、眠りながら白いクマのぬいぐるみを抱いて、頬には涙を流した跡があった。そして、そのぬいぐるみは引き裂かれるようにして左腕が無かったことを。
「……そのぬいぐるみを、私に重ねているということか?」
「かもな。しかもこのぬいぐるみ、期間限定の受注生産品だったみてぇだ。……父親が最期にプレゼントしたのを、あの母親が無理矢理引き離そうとしたんじゃねぇか」
携帯端末で検索した画面をクレイに見せる。大きくて真っ白な毛並みをしたクマのぬいぐるみ。更に左腕が無いとなれば、雰囲気や特徴はどことなくクレイに似て見えた。
「あの子にとって大事な家族だったんだ、きっと」
ガロが悔し気に視線を落とす。隣で話を聞いていたエリスが言う。
「もしかして、そのぬいぐるみが人間の姿になって、自分のところに帰ってきたと思ってるんじゃないかしら……」
「……厄介だな」
クレイを弟と呼んだのは、このクマをそう想っていたから。これは益々簡単には離れられそうにない、とクレイは額に手を当ててため息をついた。
後日、完成した義手を身に着けた。これで夜は泣かれずに済むだろうと一安心したのも束の間、少女はクレイの左手を握って歩き、その腕に抱き着いて眠るのが当たり前になった。
「……いい加減、寝る位置を変わってほしいんだが」
「でも、ひんやりして寒いでしょ? だから、あったかくするの」
そう言って、柔らかな表情で頬をぺたりと義手にくっつける。温かくなる筈がない、それは君の熱が金属に奪われているだけだ。邪魔だから離れろ。そう言ってしまえばいいのに、無碍に扱うことができない。長い間、ガロには早く目の前から消えてほしいと思っていたのに、自分と何の関係もない目の前の少女には、そんな感情が湧かない。それがクレイにとって不思議な感覚だった。まだ、人並みの情が自分の中に残っていたのかと。
──オレはクレイのことをよく知ってるんだぜ。
ふと、ガロの言葉が脳裏によみがえる。これは酷く気分が悪かった。最も目障りでバカな男が、自分のことを全て見抜いているようで。しかし確かに、自分が少女を殺す理由は無い。後始末がどれだけ面倒なことかは、経験上よくわかっていた。だから今、目の前の少女の機嫌を損ねるよりも、多少の面倒には目を瞑り、表面上は優しく接する方がずっと楽なのである。
それでも、いつまでもこのままという訳にはいかない。少女はもう、エレメンタリースクールに通い始めるくらいの年齢だ。彼女がクレイへ向ける愛着とも執着とも呼べる感情を、どうすれば和らげることが出来るか。時間をかけて慣らしていく必要がある。復興作業でクレイが傍にいられない間はバーニングレスキューの者たちが面倒を見ることになっており、その日はアイナとガロが担当だった。外から戻ったクレイとエリスに、アイナが言う。
「すごく大人しくていい子だね」
「……子供の頃のガロと比べたら、我儘も言わないし賢くて楽だ。手がかからない」
「あー、ガロって何しでかすかわからないもんね」
「ひでぇ! オレだって、充分いい子だったろうが」
「自分のことは、自分ではわからないものだからな……」
「ふふっ、何だか小さい頃のアイナを思い出すわね。アイナだって、“スカートだから追いかけっこ負けちゃったの~!”なんて泣きながら悔しがったりしてたじゃない」
「ちょっと姉さん、やめてよぉ!」
「クレイ、おかえり」
「ああ、帰るか」
周りの会話をじっと静かに聞いていた少女は、クレイに両手を伸ばす。アイナに結んでもらったらしい、束ねられた柔らかな三つ編みがふわりと揺れる。慣れ始めた手付きでクレイは少女を抱き上げ、その場を後にした。
「今日は何をしていた?」
「算数のおべんきょう。みんなでピザを数えたの。ガロが六切れで、アイナが四切れで……えっと、わたしが二切れ食べたの」
「そうか」
「……ね。学校、いっしょに行けないの?」
「ああ」
「どうして? いっしょがいい」
「他の子たちは、ぬいぐるみと一緒に学校へ行ってると思うかい?」
「……ううん」
「***。私は君が帰ってくるのをちゃんと待ってるから、心配せずに行っていいんだよ」
「……」
それでも、少女が学校へ行かない日々が続いた。ある日の晩、二人の住む一室で問題が起きた。
「クレイ、どうしよう。お湯がつめたい」
「……冷たかったら、それは湯ではなく水だろう」
シャワーを浴びに行った筈の少女が、数分と経たずにバスルームから顔を出した。濡れた髪から水がぽたぽたと床に滴り落ちる。
(普通に生活しているだけで、何故こんな故障が起きるんだ。工事がいい加減だからこうなるんだ)
イライラしながら、クレイは冷たくなった少女をタオルで包む。乾燥機から取り出したタオルは温まっていたが、それでも水を直接浴びた***の冷えは治まらず、震えた唇から覗く上下の歯が当たって、カチカチと音を鳴らしていた。洗面の蛇口を捻ってみたが、こちらもお湯が出ない。すぐには直りそうにないことを察し、少女を抱きかかえて体を摩りながら、ガロへ電話をかける。
「ガロ、オマエの家のシャワーはちゃんと湯が出るか?」
「はぁ? 当たり前だろ、何言ってんだクレイ。シャワーをわざわざ水で浴びるバカはいねぇだろ?」
「バカに言われると腹が立つ……‼︎」
体を温めるなら、お湯を浴びたほうが早い。同じアパートメントに住むガロの部屋に異常が無いならそれを借りるつもりで状況を確認すると、至極純粋に“バカ”と言われ、クレイは腹を立てた。その後、無事にガロの部屋のシャワーを浴びて、***の体はすっかり温まり血色も良くなった。少女の身長では洗面台が高く手が届かないため、クレイがドライヤーで髪を乾かしてやると、傷みの少ない艶やかな髪がサラサラに仕上がった。
「わたしも、クレイの髪乾かしたい」
「おっ! いいじゃねぇか。今度はクレイが乾かしてもらおうぜ!」
すっかりガロとの距離が縮まったらしく、***は少しずつ自分の気持ちを言葉にするようになった。クレイはさっさと自分で済ませたいと考えていたものの、シャワーを浴び終えると、少女のためにガロが踏み台を用意して準備万端に待ち構えていたので、仕方なく任せることにした。当然ながら上手にセット出来る筈もなく、無造作に乱れた頭の仕上がりを見て、ガロはゲラゲラと笑い転げてクレイは眉間の皺を深くしたのだった。
冬の寒さが深まった頃。その日もバーニングレスキューの元に、少女は預けられていた。隊員は勿論、彼らの元で共に作業に勤しんでいる元マッドバーニッシュの者たちも、少女の事情を把握している。何度か繰り返した交流の甲斐もあり、会話することも随分と増えた。しかしその日、何気なく発した少女の言葉が、リオたちの逆鱗に触れた。
「パパがね、クレイが寂しくならないように、だいじにするんだよって言ってたの。でも、クレイはお友達がいっぱいいてよかった」
安心したように笑みを浮かべて言ったその言葉は、クレイに仲間を奪われた者にとって耐え難いものだった。反射的に、ゲーラが息を荒くして立ち上がる。
「誰が友達だ! アイツは……! オレたちがどれだけ……!」
「ゲーラ、落ち着け! この子は知らないんだ」
大きな音を立てて椅子が倒れる。張り詰めた空気を感じ取り、怯えた少女は震えた声で言った。
「お兄さん、クレイのこときらいなの?」
「***、すまない。あの男……クレイは、やってはいけないことをしたんだ」
「……ケンカしてるの?」
「……そうだな。僕たちは、この先も彼をずっと許せないし、きっと君が望むように仲良くするのは難しいと思う」
「……難しいの、わかんない。でも、がんばっても仲良くなれないこともあるのは、わかるよ。……わたしも、ママと仲良しにはなれなかった」
「***……」
「ママと仲良くしたかったけど、がんばったけど、ダメだったの。クレイがしたのは、すごく悪いことなの?」
★続きは頒布本にてお読みいただけます。→★夢小説本 通頒のご案内
「新しい家族になるから、***の弟だね。優しくしてあげるんだよ」
「わたし、クレイのお姉ちゃんになるの? ……うん。ずっと一緒にいる!」
彼女が商品名を読み間違えたことをきっかけに、そのぬいぐるみは“クレイ”と名付けられた。頬を寄せて、柔らかく微笑む表情はとても愛おしかった。
(──嗚呼、私はもう傍にいられなくなるけれど、どうかこの記憶が少しでも君を救ってくれたら)
突然、地響きが鳴り渡る。窓から外の景色を覗くと、遠くの地表から夜の闇を裂くように青白い炎がこちらへ差し迫っていた。男は咄嗟に、弱った体に力を込めて娘を抱き寄せる。瞬く間に炎が病室に満ちて、腕の中の小さな命が燃えないようにその身で覆う。男の意識は、そこで途絶えた。
プロメポリス郊外に建つ、一つの民家から赤い炎と煙が立ち昇っている。その家から飛び出した女は、駆けつけた消防隊バーニングレスキューに保護された。サーモグラフィーカメラを通して現場を見た火消しの男、ガロ・ティモスはあることに気づき、女の言う言葉には耳を貸さず現場へ駆け込んだ。
(もう一人いる!)
小さいが、確かに人影だった。炎の海と化した家の中には、少女がぬいぐるみを抱きかかえて床に横たわっている。そのぬいぐるみには片腕が無い。火が燃え移り始めたそれを離し、ガロは少女を抱えて飛び出したのだった。
「どうしたもんかね〜……」
バーニングレスキュー本部にて、その少女の扱いに隊員たちは悩んでいた。幸い大きな怪我もなく、眠っていた彼女は目を覚まして辺りを見渡すと、不安そうに俯いてしまった。隊員たちが「お家が燃えてしまったから、ここに連れて来たんだよ」と優しく説明したが、それでも少女が言葉を発することはなく、自分の手をぎゅっと握りしめて黙り続けている。
「お菓子食べる? ジュースもあるよ〜」
「お、お姉さんと一緒に遊ぼっか?」
ルチアとアイナが少女を気遣い、お菓子やジュースを勧めても無反応で、何一つ手に取ろうとしない。
「急に知らない場所へ連れて来られて、緊張してるんだろう。誰か子供の相手に慣れた人はいないか?」
リオが小さな声で、ガロに相談する。
「う〜ん……子供の面倒みたことがある人と言えば……。あ! いるじゃねぇか、オレを育てたベテランがよ」
ぽん、と手のひらに拳を落としたガロの発言に、リオは嫌な予感がして眉を顰めた。
「オイ。……まさか、クレイ・フォーサイトのことを言ってるんじゃないだろうな」
「そうだ」
「バカかオマエは! よりにもよって、あの男なんて……」
「……くれい?」
少女の小さな声が、その名を呼んだ。初めて発した声に、その場の全員が注目する。彼女はソファから降りて、ガロの元へ駆け寄る。
「クレイのところ、連れてって。クレイに会いたい」
「お、おぉ?」
「会いたい……」
服を掴み、目に涙を浮かべて懇願する姿に、ガロはたじろいだ。リオと顔を見合わせ、こうなっては仕方ないとぎこちなく笑う。そうして、プロメポリス復興のために監視下で働いているクレイ・フォーサイトの元へ、少女を連れて行った。
「クレイ、クレイ……」
「……どういうことだ、コレは」
クレイの姿を見た途端、少女は彼の名を呼んでその足に強くしがみついた。状況が掴めないクレイは、ガロに説明を求める。
「その子は救助した子だ。家が火事になってな、一時的に保護してたんだ」
「それをどうして私のところに連れて来る? 親の元へ返せば良いだろう」
「調べてみたら、父親は半年前に病死してる。そんで母親と一緒に住み始めたみたいなんだが……異常が無いか検査してたらよ」
痣があったんだ、体に。控えめな声で伝えられた言葉に、クレイの眉がピクリと動いた。
「それに、火事の時に一人で出てきた母親は、家に誰もいないって言ったんだ。……この子を置き去りにして」
(だから、この子供を母親の元へ返す訳にはいかない──ということか)
少女をもう一度見やると、服から露出して見える肌に怪我は無いように見える。意図的に、見えない部分を狙って暴力を振るっていたのだろう。
「それに、オレたちがこの子に話しかけても、何にも反応しないんだよ。メシも食わねぇ、話もしねぇ。でも、アンタの名前を呼んだんだ。父親でも、母親でもなく、アンタの名前をな」
そうして連れて来て、今に至る。クレイはバーニッシュ火災の被害者が暮らす孤児院に赴いたことは、何度もあった。しかし、こんな風に自分を呼ぶ子供には覚えが無く、少女が人違いしているとしか思えない。それでも、腕に込めた力から、離れ離れになるまいと怯える彼女の精神状態が伝わった。ともかく今は大人同士で話し合う必要があると思い、クレイは膝をついて少女の肩に手を置き、努めて優しい声で促した。
「少しだけ、ここで待っていてくれるかい? 大丈夫、急にいなくなったりしないよ」
その言葉を聞いて、少女は静かに頷いた。ガロとリオと共に、扉を隔てた廊下に出て話し合う。
「なぁ。この調子じゃ、アンタから引き離したらもっと不安定になっちまう。しばらくの間、面倒見てやってくれねぇか?」
「僕は反対だ。オマエ、自分がされたことを忘れたのか? コイツがあの子を手にかける可能性だってある」
「今回だけはキサマと同意見だな」
ガロの提案に反対するリオとクレイ。しかし、ガロは食い下がらなかった。
「ああ覚えてる。確かに色々あったが、ガキの頃にクレイがオレの面倒を見てくれたのは本当のことだ。今みたいに、何も食わない状態が続くとまずいしよ。クレイには、あの子を殺す理由もねぇだろ? それにな、リオ。オレはクレイのことをよく知ってるんだぜ。大丈夫だ、なんかあったらオレがぶん殴りに行く!」
「度し難いなこのバカは!」
握り拳を作り、自信満々で説得するガロにクレイは呆れた。
「ハァ……まあ、こうなってしまった以上、この男から無理に引き剥がす方が心配だ。しばらくはそれで様子を見るしかないだろう」
「オイ待て。私は……」
「キサマを信じる訳じゃないぞ。もしもあの子に何か危害を加えるようなら、僕も黙ってるつもりはない」
リオはクレイの襟を掴み、低い声で訴える。
「今までどれだけの命を奪ってきたか、忘れたつもりじゃないだろう? その犠牲のうえで一万人を救おうとしたんだ、自分の力で一人の子供くらい救ってみせろ」
断る権利など無い、と言わんばかりの圧。クレイとリオ、二人の手首には監視のために腕輪が取り付けられている。復興までの特例措置とはいえ、本来なら二人は自由に行動出来る立場ではなかった。どれほど善を尽くそうが、罪が無くなるわけではない。それでも、目の前の人を救い、出来ることを全うするのが贖罪であると、リオは考えていた。そして、あの少女に対してそれが可能なのはクレイしかいないとも。
クレイは大きなため息をつき、リオの手首を掴んで自身の襟から外すと、声を発した。
「一時的にだ。いずれ然るべき人の元へ預ける。それまでの間は預かろう」
こうして、少女とクレイの生活が始まった。
数日間寝食を共にして、クレイは少女の手のかからなさに密かに驚いていた。時間になれば従順に席へ座り、騒いだり他のことに気を取られることもなく、黙々と食事をする。寝る時間が訪れると、もっと起きて遊んでいたいと駄々をこねることも無く、大人しくベッドに入って眠るのだ。この年齢にしては落ち着き過ぎているほどに静かな様子は、クレイにとって良い意味で計算外だった。
ただ一つの問題は、少女がクレイから一向に離れたがらないことだった。トイレに行く。シャワーを浴びる。郵便を取りに玄関へ向かうといった、ほんの少しの時間でも離れようとすれば、置いていかれると不安になるのか少女が後ろを着いて歩くので、その度にクレイは声をかける必要があった。そして、夜は一緒のベッドに入らないと眠れないようだった。
「ごめんね。痛い痛いだったよね、ごめんね……」
少女は決まって、クレイの左側で眠った。先の騒動で義手が壊れて以来、左腕の無い生活を送るクレイの体を見て、少女は彼に抱き着いてしくしくと泣き出すのだった。クレイの腕が失われたことを、自分のせいだと責めているように。毎晩繰り返されるその不可解な言動の理由もわからないまま、クレイは黙って頭を撫で続けた。
家に彼女を置いていく訳にもいかず、クレイは少女を仕事場に連れて行った。足に張り付かれてはまともに歩くこともできないため、仕方なく肩車をする。存外、少女は高い所も平気なようだった。その二人の姿を見て、まだ事情を知らない者たちは目を丸くした。
「えっ……。クレイ、貴方……子供がいたの?」
「いや、そうではない」
エリスの問いを否定すると、少女が意外な言葉を発してクレイの頭を撫でた。
「……? クレイはね、わたしのだいじな弟だよ。いいこ、いいこ〜」
「えっ、えっ? 元司政官ってそういう趣味……⁉︎」
「断じて違う‼︎」
周りの元財団員がざわつき始め、クレイは声を荒げた。あらぬ誤解をされてはたまったものではない。一瞬、少女がびくりと体を跳ねさせたことに気づき、大きく呼吸をして落ち着きを取り戻す。肩から少女を降ろして同室のソファで過ごすように伝え、クレイは机で作業をしながらエリスに一連の経緯を説明した。
「……何て言えばいいのかしら、それはまた複雑な状況ね」
「とにかく、毎晩泣かれては私の身が持たん。いい加減まともに眠らせてほしいものだ」
「だからそれを作り直してるってこと……」
己の左肩から先に着ける義手の設計図を書き直すクレイを見て、エリスは納得した。それで改善されるとは限らないが、とにかく一つずつ試していくしかない。お互い、トライアンドエラーの繰り返しには慣れている。
「さっき言ってた、弟というのは?」
「知らない。私もあんなことは初めて言われた。ガロから聞いた話だと、兄弟はいない筈だ」
「謎が多いわね」
エリスがちらりと少女に視線を向ける。色鉛筆を手に、黙々と絵を描いている。しばらくすると、ガロが姿を現した。
「よーっ、クレイ! 様子見に来たぜ。どうだ調子は?」
「……おかげでこっちは寝不足だ」
「えぇ? 何でだよ。なぁ***、ちゃんとメシ食ってるか? クレイは優しいか?」
ガロが少女の頭を撫でて話しかけると、彼女はこくりと頷いた。初めて会った時の様子と比べて、随分しっかりと反応が返ってきたことに彼は安堵した。
「そうか、良かったなぁ。で、ソレは何描いてんだ?」
「こっちがクレイで、こっちがわたし。それと……パパ」
「クレイ? コレがぁ? ……あっ」
少女がガロに説明して見せた絵の中のクレイは、父親と少女の間で白いクマの姿をしていた。
(もしかして──)
その時、脳裏によぎった己の仮説を、ガロはクレイとエリスに説明した。あの火災現場で彼女を見つけた時、眠りながら白いクマのぬいぐるみを抱いて、頬には涙を流した跡があった。そして、そのぬいぐるみは引き裂かれるようにして左腕が無かったことを。
「……そのぬいぐるみを、私に重ねているということか?」
「かもな。しかもこのぬいぐるみ、期間限定の受注生産品だったみてぇだ。……父親が最期にプレゼントしたのを、あの母親が無理矢理引き離そうとしたんじゃねぇか」
携帯端末で検索した画面をクレイに見せる。大きくて真っ白な毛並みをしたクマのぬいぐるみ。更に左腕が無いとなれば、雰囲気や特徴はどことなくクレイに似て見えた。
「あの子にとって大事な家族だったんだ、きっと」
ガロが悔し気に視線を落とす。隣で話を聞いていたエリスが言う。
「もしかして、そのぬいぐるみが人間の姿になって、自分のところに帰ってきたと思ってるんじゃないかしら……」
「……厄介だな」
クレイを弟と呼んだのは、このクマをそう想っていたから。これは益々簡単には離れられそうにない、とクレイは額に手を当ててため息をついた。
後日、完成した義手を身に着けた。これで夜は泣かれずに済むだろうと一安心したのも束の間、少女はクレイの左手を握って歩き、その腕に抱き着いて眠るのが当たり前になった。
「……いい加減、寝る位置を変わってほしいんだが」
「でも、ひんやりして寒いでしょ? だから、あったかくするの」
そう言って、柔らかな表情で頬をぺたりと義手にくっつける。温かくなる筈がない、それは君の熱が金属に奪われているだけだ。邪魔だから離れろ。そう言ってしまえばいいのに、無碍に扱うことができない。長い間、ガロには早く目の前から消えてほしいと思っていたのに、自分と何の関係もない目の前の少女には、そんな感情が湧かない。それがクレイにとって不思議な感覚だった。まだ、人並みの情が自分の中に残っていたのかと。
──オレはクレイのことをよく知ってるんだぜ。
ふと、ガロの言葉が脳裏によみがえる。これは酷く気分が悪かった。最も目障りでバカな男が、自分のことを全て見抜いているようで。しかし確かに、自分が少女を殺す理由は無い。後始末がどれだけ面倒なことかは、経験上よくわかっていた。だから今、目の前の少女の機嫌を損ねるよりも、多少の面倒には目を瞑り、表面上は優しく接する方がずっと楽なのである。
それでも、いつまでもこのままという訳にはいかない。少女はもう、エレメンタリースクールに通い始めるくらいの年齢だ。彼女がクレイへ向ける愛着とも執着とも呼べる感情を、どうすれば和らげることが出来るか。時間をかけて慣らしていく必要がある。復興作業でクレイが傍にいられない間はバーニングレスキューの者たちが面倒を見ることになっており、その日はアイナとガロが担当だった。外から戻ったクレイとエリスに、アイナが言う。
「すごく大人しくていい子だね」
「……子供の頃のガロと比べたら、我儘も言わないし賢くて楽だ。手がかからない」
「あー、ガロって何しでかすかわからないもんね」
「ひでぇ! オレだって、充分いい子だったろうが」
「自分のことは、自分ではわからないものだからな……」
「ふふっ、何だか小さい頃のアイナを思い出すわね。アイナだって、“スカートだから追いかけっこ負けちゃったの~!”なんて泣きながら悔しがったりしてたじゃない」
「ちょっと姉さん、やめてよぉ!」
「クレイ、おかえり」
「ああ、帰るか」
周りの会話をじっと静かに聞いていた少女は、クレイに両手を伸ばす。アイナに結んでもらったらしい、束ねられた柔らかな三つ編みがふわりと揺れる。慣れ始めた手付きでクレイは少女を抱き上げ、その場を後にした。
「今日は何をしていた?」
「算数のおべんきょう。みんなでピザを数えたの。ガロが六切れで、アイナが四切れで……えっと、わたしが二切れ食べたの」
「そうか」
「……ね。学校、いっしょに行けないの?」
「ああ」
「どうして? いっしょがいい」
「他の子たちは、ぬいぐるみと一緒に学校へ行ってると思うかい?」
「……ううん」
「***。私は君が帰ってくるのをちゃんと待ってるから、心配せずに行っていいんだよ」
「……」
それでも、少女が学校へ行かない日々が続いた。ある日の晩、二人の住む一室で問題が起きた。
「クレイ、どうしよう。お湯がつめたい」
「……冷たかったら、それは湯ではなく水だろう」
シャワーを浴びに行った筈の少女が、数分と経たずにバスルームから顔を出した。濡れた髪から水がぽたぽたと床に滴り落ちる。
(普通に生活しているだけで、何故こんな故障が起きるんだ。工事がいい加減だからこうなるんだ)
イライラしながら、クレイは冷たくなった少女をタオルで包む。乾燥機から取り出したタオルは温まっていたが、それでも水を直接浴びた***の冷えは治まらず、震えた唇から覗く上下の歯が当たって、カチカチと音を鳴らしていた。洗面の蛇口を捻ってみたが、こちらもお湯が出ない。すぐには直りそうにないことを察し、少女を抱きかかえて体を摩りながら、ガロへ電話をかける。
「ガロ、オマエの家のシャワーはちゃんと湯が出るか?」
「はぁ? 当たり前だろ、何言ってんだクレイ。シャワーをわざわざ水で浴びるバカはいねぇだろ?」
「バカに言われると腹が立つ……‼︎」
体を温めるなら、お湯を浴びたほうが早い。同じアパートメントに住むガロの部屋に異常が無いならそれを借りるつもりで状況を確認すると、至極純粋に“バカ”と言われ、クレイは腹を立てた。その後、無事にガロの部屋のシャワーを浴びて、***の体はすっかり温まり血色も良くなった。少女の身長では洗面台が高く手が届かないため、クレイがドライヤーで髪を乾かしてやると、傷みの少ない艶やかな髪がサラサラに仕上がった。
「わたしも、クレイの髪乾かしたい」
「おっ! いいじゃねぇか。今度はクレイが乾かしてもらおうぜ!」
すっかりガロとの距離が縮まったらしく、***は少しずつ自分の気持ちを言葉にするようになった。クレイはさっさと自分で済ませたいと考えていたものの、シャワーを浴び終えると、少女のためにガロが踏み台を用意して準備万端に待ち構えていたので、仕方なく任せることにした。当然ながら上手にセット出来る筈もなく、無造作に乱れた頭の仕上がりを見て、ガロはゲラゲラと笑い転げてクレイは眉間の皺を深くしたのだった。
冬の寒さが深まった頃。その日もバーニングレスキューの元に、少女は預けられていた。隊員は勿論、彼らの元で共に作業に勤しんでいる元マッドバーニッシュの者たちも、少女の事情を把握している。何度か繰り返した交流の甲斐もあり、会話することも随分と増えた。しかしその日、何気なく発した少女の言葉が、リオたちの逆鱗に触れた。
「パパがね、クレイが寂しくならないように、だいじにするんだよって言ってたの。でも、クレイはお友達がいっぱいいてよかった」
安心したように笑みを浮かべて言ったその言葉は、クレイに仲間を奪われた者にとって耐え難いものだった。反射的に、ゲーラが息を荒くして立ち上がる。
「誰が友達だ! アイツは……! オレたちがどれだけ……!」
「ゲーラ、落ち着け! この子は知らないんだ」
大きな音を立てて椅子が倒れる。張り詰めた空気を感じ取り、怯えた少女は震えた声で言った。
「お兄さん、クレイのこときらいなの?」
「***、すまない。あの男……クレイは、やってはいけないことをしたんだ」
「……ケンカしてるの?」
「……そうだな。僕たちは、この先も彼をずっと許せないし、きっと君が望むように仲良くするのは難しいと思う」
「……難しいの、わかんない。でも、がんばっても仲良くなれないこともあるのは、わかるよ。……わたしも、ママと仲良しにはなれなかった」
「***……」
「ママと仲良くしたかったけど、がんばったけど、ダメだったの。クレイがしたのは、すごく悪いことなの?」
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