アンタレスの懸想
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プロメポリスに残ると決めてから復興作業に協力する間、住居の無い私たちは消防局本部の隣にあるアパートの部屋を借りていた。ひとまず保護監視中ということになった元マッドバーニッシュのリオ、ゲーラ、メイスの三人は一つの部屋に。私は別の部屋で生活している。一人ということは、部屋に帰ると話し相手もいないということ。幸いにも家電製品はあらかじめ揃えられており、テレビも観られるが興味を惹く番組は無かった。
「これオススメのヤツだから、今度リオも誘って一緒に観てみろよ!たまには息抜きも大事だぜ〜」
帰る前に、ガロから映画のディスクが入った袋を渡された。
「最近リオ忙しそうだから、どうかなぁ……。でもありがとう!今度感想教えるね」
新生活に追われてバタバタしている週末の夜、借りた映画のことを思い出し袋から取り出して後悔する。気がつけば、リオに電話をかけていた。
「リオ、お願い、部屋に来て!」
夕食を食べ終えて寛いでいるところに、***からかかってきた電話。珍しく切羽詰まった声でそう言われて、慌てて彼女の部屋へ向かった。チャイムを鳴らせば、すぐに足音が響いて扉が開いた。
「……ご、ごめんね。いきなり呼んじゃって……」
「問題ない。……それより、開ける前にちゃんとスコープを見たのか?」
「え?……あ、見なかった。……リオが来るってわかってたから……」
「コラ。もしも僕じゃなかったらどうするんだ」
コツンと彼女の額を小突く。今でこそバーニッシュとして追われる心配は無くなったが、彼女は時折抜けているところがある。女性の一人暮らしなのだから、気をつけてほしい。
「ごめんなさい」
「……それで、何があった?」
通されるがまま部屋に入ると、申し訳なさそうに小さな袋を渡された。
「コレ、ガロが貸してくれた映画なんだけど……」
予想外のジャンルとインパクトあるパッケージに驚いたらしい。ホラー好きならまだしも、そうでない彼女にとって刺激が強いようだ。それも夜に一人で過ごしている状況が、恐怖に拍車をかけてしまった。
「怖いなら、無理に観なければいいだろう?」
「オススメだって聞いたから、今度感想教えるねってガロに言っちゃったの。それに、最後まで観たら意外と感動モノ!ってこともあるかもしれないし……でもそれを見たら怖くなって、ついリオに電話かけちゃった……」
律儀に約束は守りたいが、一人で見るには怖いと。最初に頼ってくれたのが僕で良かった。もしもこのままガロに電話していたら……一瞬想像すると、胸がジクジクした。それでも、違うのだ。彼女は他でもない僕を頼った。その事実に、内心ひとりでに優越感に浸った。
結局そのまま、二人で映画を観ることにした。こういう時は背後が怖いと言うので、ソファの上で足の間に彼女を座らせて背中から抱き締める。おどろおどろしい雰囲気が広がる中、彼女は僕の手を控えめに握りながら、映像と共に表示される日本語字幕を目で追いながらじっと観ている。
時折びくりと体が跳ねることはあっても、声を上げることなく集中している。案外平気なのか……?そう思って顔を覗いてみれば、表情が引き攣っていた。……怖くて声が出ないタイプのようだ。少しでも恐怖が和らげば良いと思い、苦しくない程度に抱きしめる腕を強めた。
エンドロールが流れると彼女は肩の力を抜いた。顔を覗き込んで問いかける。
「どうだった?」
「……怖かった、としか…………うぅ〜……」
恐怖に耐えて観たのに“もしかしたら”という感動の終わり方は訪れず、ただ後味が悪い不気味なエンディングに残念そうな様子で、ぽすんと僕の胸に頭を預けてきた。
「……リオ、あのね。……今夜、泊まってくれないかな?」
「……はぁ~」
その頼みごとを聞いて、思わず顔を手で覆い溜息を吐いた。遅い時間帯、ホラー映画、怖がる様子の彼女。薄々こうなるような予感はしていた。
「ご、ごめん!やっぱり迷惑だったよね。急に付き合わせちゃった上に、こんな我儘言って……」
「いや。迷惑なもんか。……泊まるよ」
「本当?」
女性の部屋に泊まるのは流石に、と悶々としていたが、彼女の不安そうな表情が和らぐのを見た途端に邪な考えはスッとどこかへ消えていった。
「怖いんだろう?そんな状態で君を放っておけない。ただ、何も準備が……」
「ありがとう……!着替えなら、前に隊から支給されたフリーサイズのシャツがあるよ。私には大きすぎたけど、リオなら着られたよね?」
脱衣室で借りた服に着替えて部屋に戻ると、***はソファの上で仰向けになり虚ろな表情で天井を見つめていた。妙な様子に疑問が湧いたが、背後が怖いと言っていたことを思い出してその行動の理由に納得した。
「ねぇ……私、今度ガロに酷いこと言っちゃうかも……。どこまで言って大丈夫かな?バカと意地悪はセーフ……?」
(悪口のボキャブラリーが少ないな)
恨めしく思っているのに彼女から出てくる言葉があまりにも子供らしくて、小さく噴き出してしまった。
「何で笑うの!」
「すまない、つい可笑しくて」
頬を膨らませる彼女を宥めた後、彼女はベッドに、僕はソファへ横になって眠りにつこうとする。が、何度か寝返りを打つ音を繰り返した後に声をかけられた。
「リオ、寝ちゃった……?」
「起きてるよ」
「もう一個、お願いしてもいい?」
タオルケットを頭に被り、控えめな態度で言われる。
「何だ?」
「こ、怖くて眠れないから……一緒に寝てほしいの」
「……全く仕方ないな、君は」
「ごめんねぇ」
泣きそうな顔で頼まれたら、断れる筈もない。迎え入れるように広げられたタオルケットの内側に入り、彼女の隣で横になると僕に抱き着いてきた。彼女がこんなに甘えてくるのは、初めてのことだった。
「寝ようと思っても、怖いことを想像しちゃって……腕とか足を急に掴まれて、何かに連れて行かれそうで」
「なら、誰にも連れて行かれないように、僕が守らないといけないな」
ぎゅうと彼女の全身を包みこむ。さらさらの髪から漂う彼女の香りにうっとりしながら、とん、とん、と背中を叩く。
「ふふっ、リオなら絶対守ってくれるね……」
僕の胸元で嬉しそうな声を出して擦り寄ってくる。つい先ほどまでは弱々しかったのに、僕が一緒にいるというだけでこんなにも喜ぶ彼女が愛くるしい。
「僕の大切な人だからな、誰にも渡すもんか。もし怖い夢を見たら起こしてくれ」
「でも、そしたらリオが眠れなくなっちゃうよ」
「その時は朝まで話そう。ガロの笑い話を聞かせてやる」
「えー?気になるなぁ……」
「とっておきだからな、眠れない時のお楽しみだ。おやすみ」
「ん……ありがとう…………おやすみ……」
とろんとした返事。本当はもう少しこの時間を堪能して君の額にキスをしたかったけれど、安心して眠気の海に沈む***の邪魔はしない。僕が与える愛情を、怖い思い出の付属品として君の記憶に刻みたくはないから。
眠りの世界からうっすらと意識が戻り、ゆるゆると瞼を上げればすぐ隣で彼女がすうすう寝息をたてて眠っている。カーテンの隙間から零れた柔らかな朝陽が照らす頬には、いつかのような涙の跡はない。こんなに穏やかに安心して朝を迎える日が訪れるとは、少し前まで想像もできなかった。無防備に晒されている額に、僕のそれをこつんと当てる。伝わってくる彼女の体温が心地いい。
「ん、リオ……?おはよう……」
「おはよう、***。よく眠れたか?」
「うん。……えへへ。リオがいるの、嬉しいなぁ」
目を覚ました彼女は、そう言ってはにかんで微笑んだ。
「僕も同じ気持ちだ」
「ほんと?」
「ああ」
「……私、昨日はリオにいっぱい甘えちゃった。我儘聞いてくれて、ありがとう」
恥ずかしそうに両手で頬を挟みながら、お礼を言われる。
「君の我儘なら、いくらでも聞こう。……その代わり、次の機会には僕が甘えさせてもらおうかな」
ふっと笑って言えば「わかった、今度は私の番だね」と、彼女は意気込んで頷いた。
その日の復興作業の予定を確認する朝礼前、消防局の待機所で会ったガロと話をした。
「これ返すね、リオと一緒に観たよ」
「おお!面白かっただろ?やっぱりデケェもんが合体するのはロマンだよな〜!」
「は……?」
「ん?」
「……えっと、何の話?」
「そりゃあ映画の話に決まってんだろ」
目をぱちぱちとさせて***と顔を見合わせ、次いでガロの顔を見る。どうも話が嚙み合っていない。少なくとも昨日の映画には、そんなシーンは無かった筈だ。
「本当にこの映画の話……?」
顔を引きつらせながら***が問いかける。袋から取り出したパッケージを見たガロは、素っ頓狂な声を上げた。
「あ!わりぃ、渡すヤツ間違えてた!」
ガロの腰に***のパンチが食い込んだ。やっぱりコイツ、バカだ。
作業の休憩中、自動販売機の前に立って飲み物を選んでいるとガロが隣に並んだ。
「いや~、まさか***から殴られるとはな!」
「バカかお前は……。結構本気で怖がってたんだぞ」
呆れて溜息が漏れる。ガロは顎に手を当てて、販売機のラインナップを見つめながら言った。
「そういう時じゃなきゃ、アイツは遠慮してリオのこと頼らねえだろ」
その言葉を聞いて、冷ややかな視線を送っていた目が見開く。まさか。気を利かせてアレを渡したのか?
「……お前はどれを飲むんだ?」
「ん、コーヒーにするわ」
「これは奢る。……後で謝っておけよ」
「おう!」
取り出した缶コーヒーを投げ渡すとガロはパシッと受け取り、歯を見せて笑った。
「これオススメのヤツだから、今度リオも誘って一緒に観てみろよ!たまには息抜きも大事だぜ〜」
帰る前に、ガロから映画のディスクが入った袋を渡された。
「最近リオ忙しそうだから、どうかなぁ……。でもありがとう!今度感想教えるね」
新生活に追われてバタバタしている週末の夜、借りた映画のことを思い出し袋から取り出して後悔する。気がつけば、リオに電話をかけていた。
「リオ、お願い、部屋に来て!」
夕食を食べ終えて寛いでいるところに、***からかかってきた電話。珍しく切羽詰まった声でそう言われて、慌てて彼女の部屋へ向かった。チャイムを鳴らせば、すぐに足音が響いて扉が開いた。
「……ご、ごめんね。いきなり呼んじゃって……」
「問題ない。……それより、開ける前にちゃんとスコープを見たのか?」
「え?……あ、見なかった。……リオが来るってわかってたから……」
「コラ。もしも僕じゃなかったらどうするんだ」
コツンと彼女の額を小突く。今でこそバーニッシュとして追われる心配は無くなったが、彼女は時折抜けているところがある。女性の一人暮らしなのだから、気をつけてほしい。
「ごめんなさい」
「……それで、何があった?」
通されるがまま部屋に入ると、申し訳なさそうに小さな袋を渡された。
「コレ、ガロが貸してくれた映画なんだけど……」
予想外のジャンルとインパクトあるパッケージに驚いたらしい。ホラー好きならまだしも、そうでない彼女にとって刺激が強いようだ。それも夜に一人で過ごしている状況が、恐怖に拍車をかけてしまった。
「怖いなら、無理に観なければいいだろう?」
「オススメだって聞いたから、今度感想教えるねってガロに言っちゃったの。それに、最後まで観たら意外と感動モノ!ってこともあるかもしれないし……でもそれを見たら怖くなって、ついリオに電話かけちゃった……」
律儀に約束は守りたいが、一人で見るには怖いと。最初に頼ってくれたのが僕で良かった。もしもこのままガロに電話していたら……一瞬想像すると、胸がジクジクした。それでも、違うのだ。彼女は他でもない僕を頼った。その事実に、内心ひとりでに優越感に浸った。
結局そのまま、二人で映画を観ることにした。こういう時は背後が怖いと言うので、ソファの上で足の間に彼女を座らせて背中から抱き締める。おどろおどろしい雰囲気が広がる中、彼女は僕の手を控えめに握りながら、映像と共に表示される日本語字幕を目で追いながらじっと観ている。
時折びくりと体が跳ねることはあっても、声を上げることなく集中している。案外平気なのか……?そう思って顔を覗いてみれば、表情が引き攣っていた。……怖くて声が出ないタイプのようだ。少しでも恐怖が和らげば良いと思い、苦しくない程度に抱きしめる腕を強めた。
エンドロールが流れると彼女は肩の力を抜いた。顔を覗き込んで問いかける。
「どうだった?」
「……怖かった、としか…………うぅ〜……」
恐怖に耐えて観たのに“もしかしたら”という感動の終わり方は訪れず、ただ後味が悪い不気味なエンディングに残念そうな様子で、ぽすんと僕の胸に頭を預けてきた。
「……リオ、あのね。……今夜、泊まってくれないかな?」
「……はぁ~」
その頼みごとを聞いて、思わず顔を手で覆い溜息を吐いた。遅い時間帯、ホラー映画、怖がる様子の彼女。薄々こうなるような予感はしていた。
「ご、ごめん!やっぱり迷惑だったよね。急に付き合わせちゃった上に、こんな我儘言って……」
「いや。迷惑なもんか。……泊まるよ」
「本当?」
女性の部屋に泊まるのは流石に、と悶々としていたが、彼女の不安そうな表情が和らぐのを見た途端に邪な考えはスッとどこかへ消えていった。
「怖いんだろう?そんな状態で君を放っておけない。ただ、何も準備が……」
「ありがとう……!着替えなら、前に隊から支給されたフリーサイズのシャツがあるよ。私には大きすぎたけど、リオなら着られたよね?」
脱衣室で借りた服に着替えて部屋に戻ると、***はソファの上で仰向けになり虚ろな表情で天井を見つめていた。妙な様子に疑問が湧いたが、背後が怖いと言っていたことを思い出してその行動の理由に納得した。
「ねぇ……私、今度ガロに酷いこと言っちゃうかも……。どこまで言って大丈夫かな?バカと意地悪はセーフ……?」
(悪口のボキャブラリーが少ないな)
恨めしく思っているのに彼女から出てくる言葉があまりにも子供らしくて、小さく噴き出してしまった。
「何で笑うの!」
「すまない、つい可笑しくて」
頬を膨らませる彼女を宥めた後、彼女はベッドに、僕はソファへ横になって眠りにつこうとする。が、何度か寝返りを打つ音を繰り返した後に声をかけられた。
「リオ、寝ちゃった……?」
「起きてるよ」
「もう一個、お願いしてもいい?」
タオルケットを頭に被り、控えめな態度で言われる。
「何だ?」
「こ、怖くて眠れないから……一緒に寝てほしいの」
「……全く仕方ないな、君は」
「ごめんねぇ」
泣きそうな顔で頼まれたら、断れる筈もない。迎え入れるように広げられたタオルケットの内側に入り、彼女の隣で横になると僕に抱き着いてきた。彼女がこんなに甘えてくるのは、初めてのことだった。
「寝ようと思っても、怖いことを想像しちゃって……腕とか足を急に掴まれて、何かに連れて行かれそうで」
「なら、誰にも連れて行かれないように、僕が守らないといけないな」
ぎゅうと彼女の全身を包みこむ。さらさらの髪から漂う彼女の香りにうっとりしながら、とん、とん、と背中を叩く。
「ふふっ、リオなら絶対守ってくれるね……」
僕の胸元で嬉しそうな声を出して擦り寄ってくる。つい先ほどまでは弱々しかったのに、僕が一緒にいるというだけでこんなにも喜ぶ彼女が愛くるしい。
「僕の大切な人だからな、誰にも渡すもんか。もし怖い夢を見たら起こしてくれ」
「でも、そしたらリオが眠れなくなっちゃうよ」
「その時は朝まで話そう。ガロの笑い話を聞かせてやる」
「えー?気になるなぁ……」
「とっておきだからな、眠れない時のお楽しみだ。おやすみ」
「ん……ありがとう…………おやすみ……」
とろんとした返事。本当はもう少しこの時間を堪能して君の額にキスをしたかったけれど、安心して眠気の海に沈む***の邪魔はしない。僕が与える愛情を、怖い思い出の付属品として君の記憶に刻みたくはないから。
眠りの世界からうっすらと意識が戻り、ゆるゆると瞼を上げればすぐ隣で彼女がすうすう寝息をたてて眠っている。カーテンの隙間から零れた柔らかな朝陽が照らす頬には、いつかのような涙の跡はない。こんなに穏やかに安心して朝を迎える日が訪れるとは、少し前まで想像もできなかった。無防備に晒されている額に、僕のそれをこつんと当てる。伝わってくる彼女の体温が心地いい。
「ん、リオ……?おはよう……」
「おはよう、***。よく眠れたか?」
「うん。……えへへ。リオがいるの、嬉しいなぁ」
目を覚ました彼女は、そう言ってはにかんで微笑んだ。
「僕も同じ気持ちだ」
「ほんと?」
「ああ」
「……私、昨日はリオにいっぱい甘えちゃった。我儘聞いてくれて、ありがとう」
恥ずかしそうに両手で頬を挟みながら、お礼を言われる。
「君の我儘なら、いくらでも聞こう。……その代わり、次の機会には僕が甘えさせてもらおうかな」
ふっと笑って言えば「わかった、今度は私の番だね」と、彼女は意気込んで頷いた。
その日の復興作業の予定を確認する朝礼前、消防局の待機所で会ったガロと話をした。
「これ返すね、リオと一緒に観たよ」
「おお!面白かっただろ?やっぱりデケェもんが合体するのはロマンだよな〜!」
「は……?」
「ん?」
「……えっと、何の話?」
「そりゃあ映画の話に決まってんだろ」
目をぱちぱちとさせて***と顔を見合わせ、次いでガロの顔を見る。どうも話が嚙み合っていない。少なくとも昨日の映画には、そんなシーンは無かった筈だ。
「本当にこの映画の話……?」
顔を引きつらせながら***が問いかける。袋から取り出したパッケージを見たガロは、素っ頓狂な声を上げた。
「あ!わりぃ、渡すヤツ間違えてた!」
ガロの腰に***のパンチが食い込んだ。やっぱりコイツ、バカだ。
作業の休憩中、自動販売機の前に立って飲み物を選んでいるとガロが隣に並んだ。
「いや~、まさか***から殴られるとはな!」
「バカかお前は……。結構本気で怖がってたんだぞ」
呆れて溜息が漏れる。ガロは顎に手を当てて、販売機のラインナップを見つめながら言った。
「そういう時じゃなきゃ、アイツは遠慮してリオのこと頼らねえだろ」
その言葉を聞いて、冷ややかな視線を送っていた目が見開く。まさか。気を利かせてアレを渡したのか?
「……お前はどれを飲むんだ?」
「ん、コーヒーにするわ」
「これは奢る。……後で謝っておけよ」
「おう!」
取り出した缶コーヒーを投げ渡すとガロはパシッと受け取り、歯を見せて笑った。
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