アンタレスの懸想
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あれからしばらく経ち、プロメポリスは少しずつライフラインが整いつつある。それと同時に、元バーニッシュの人たちがそれぞれの故郷へ戻る取り組みが動き始めた。マッドバーニッシュは財団から受けた仕打ちも含め、これまでの行いについて正当な裁判を行うにはまだまだ時間が必要なため、今は罪の無い小さな子供たちが優先されている。一緒に逃亡生活を送ってきた家族のような存在でもあるから、喜ばしいことだと理解していても、やっぱりお別れは寂しい。
「これあげる!みんなで作ったんだよ!」
リオ、ゲーラ、メイスと揃って見送りに立ち会った日、なんと一人ずつに手作りの花冠を渡された。紙を折って作ったものだという。あの逃亡生活の間、私が話した遊びのことを覚えてくれていたのだ。
「お姉ちゃんには指輪も作ろうと思ったけど、もう新しいのがあるから作らなかったの」
女の子に耳元でこそこそと囁かれ、ぽっと顔が熱くなる。そう、リオは約束通り新しい指輪を贈ってくれた。今も私の左手で煌めいている。
「き、気づいてたんだね……」
「誰だって気づくだろ」
「特にお前はわかりやすいしな」
「ええ!」
ゲーラとメイスに指摘され、周りのみんながけらけらと笑った。三人の頭にも、折り紙の花冠が乗せられている。長い間守ってきた、小さな仲間たちからの勲章だ。穏やかな光景に、胸があたたかくなる。
「こんなに素敵なものをありがとう!すごく、すごく嬉しい……。みんなも、元気に過ごしてね」
バイバーイ!と、無邪気に手を振って親元へ駆けていく後ろ姿を見送った。潰してしまわないように、そっと優しく花冠に触れる。これがある限り、私たちが一緒に過ごした日々を思い出せる。大切にしよう。
「……次は、君の番だな」
「うん」
子供たち全員の姿が見えなくなり、リオが言う。これから、プロメポリスへ訪れる私の両親と会うのだ。数週間前、来訪の知らせをイグニス隊長から受け取った時、漠然とした不安に襲われた。あれから何度も、夢で見た景色が頭の中で反芻する。不安な気持ちを押さえつけて、待ち合わせの場所へ向かった。
「大丈夫だ、何があっても僕が傍にいる」
私の背中をリオがそっと撫でる。青空の中、けたたましい音を響かせてヘリが到着した。人の足音が近づくも、なかなか顔を上げられずにいたら、ぎゅうと身体が包まれた。
『***!ごめんなさい……ごめんなさい!』
久しぶりに感じるお母さんの温もり。少し痩せたような気がする。
『何度も手紙を書いたの。でも返事が無くて、会いに行こうと問い合わせても取り合ってもらえなくて……!全部言い訳にしかならないけど、本当のことを知っていたら送り出さなかった!』
『あの時、何があっても一人で行かせるべきじゃなかった。……本当に、すまなかった』
お母さんごと包みこむ、お父さんの大きな腕。子供の頃からよく知る、日本を発つ時には触れあえなかった懐かしい感触。生まれて初めて目にする両親の涙に、私は間違いなく愛されているのだと理解した。
『……怖かったよ!も、もう一生帰れないと思って……!私がいたら、きっとみんな怖がるから。消えちゃいたいと思った!』
あの時、リオが助けてくれなかったら二度とこんな日は訪れなかっただろう。
『でも、私も、ごめんなさいっ!二人に捨てられたと思って、心の中でずっと疑ってた……ごめんなさい!』
いつだったか迷子になり不安だった幼い頃、両親の顔を見つけてほっとした日のように、わんわんと泣きじゃくった。
涙を流し切り、呼吸も落ち着くと両親から今後の話を切り出された。すぐにでも日本へ帰れるよう準備はしてあると。私はもう一つ、二人に伝えるべきことがある。
『私ね、今まで通り一緒に日本で暮らすのもいいけど……こっちに残って、やりたいことが沢山あるの』
離れて見守ってくれていた、リオの手を引いて紹介する。逃げ隠れる日々が終わったこれからの未来は、日の光の下を自由に歩いて好きなところへ行きたい。美味しいものを食べたり、素敵なものを沢山見つけて、楽しい思い出に浸りながら安心して眠りたい。そして、その隣にはいつもリオがいてほしいと思う。
『私を助けてくれた……大切な人だよ』
二人は目を丸くしてぱちぱちと瞬きをしている。と、リオが口を開く。
『はじめまして。リオ・フォーティアです』
日本語で挨拶をしたことに驚き、今度は私が目を丸くした。
「リオ、日本語話せるの……?」
「君の両親に挨拶するなら、こっちが良いだろう。まだ簡単な言葉しかわからないが……」
少し前から勉強していたんだ、とリオが微笑む。……どうしよう、今はそういう話じゃないのに嬉しくて仕方がない。口元に手をあてて緩んだ顔を隠していたら、お母さんが目敏く気づいた。
『それ、彼からもらったんでしょう。素敵ね』
私が身に着けている指輪を指している。お父さんは状況についていけないようで、先ほどから狼狽えている。
『な……ちょ、ちょっと待ってくれ』
『お父さん、***さんをください。幸せにする覚悟は決めています』
『君にお父さんと呼ばれる筋合いはない!』
追い打ちをかけるように、今時のドラマでも聞かないお決まりの言葉を叩きつけるリオと、これまたお決まりな返しをするお父さん。どこで覚えたのかな。
「今の返事は、OKということか?」
すかさずリオが私に聞いてきたから、噴き出してしまった。
『もう、めちゃくちゃ!』
『今まで沢山頑張ったんだもの。***が選んだことなら、お母さんは応援するわ。ねえ、貴方もいいでしょう?』
『……たまには帰ってきなさい。その時は、リオ君も連れておいで』
笑いがおさまらない中、二人の言葉を伝えると、目を輝かせたリオに嬉しそうに抱き上げられた。
ああ、大好きな人からこんなにも想われて、私は幸せ者だ!
「これあげる!みんなで作ったんだよ!」
リオ、ゲーラ、メイスと揃って見送りに立ち会った日、なんと一人ずつに手作りの花冠を渡された。紙を折って作ったものだという。あの逃亡生活の間、私が話した遊びのことを覚えてくれていたのだ。
「お姉ちゃんには指輪も作ろうと思ったけど、もう新しいのがあるから作らなかったの」
女の子に耳元でこそこそと囁かれ、ぽっと顔が熱くなる。そう、リオは約束通り新しい指輪を贈ってくれた。今も私の左手で煌めいている。
「き、気づいてたんだね……」
「誰だって気づくだろ」
「特にお前はわかりやすいしな」
「ええ!」
ゲーラとメイスに指摘され、周りのみんながけらけらと笑った。三人の頭にも、折り紙の花冠が乗せられている。長い間守ってきた、小さな仲間たちからの勲章だ。穏やかな光景に、胸があたたかくなる。
「こんなに素敵なものをありがとう!すごく、すごく嬉しい……。みんなも、元気に過ごしてね」
バイバーイ!と、無邪気に手を振って親元へ駆けていく後ろ姿を見送った。潰してしまわないように、そっと優しく花冠に触れる。これがある限り、私たちが一緒に過ごした日々を思い出せる。大切にしよう。
「……次は、君の番だな」
「うん」
子供たち全員の姿が見えなくなり、リオが言う。これから、プロメポリスへ訪れる私の両親と会うのだ。数週間前、来訪の知らせをイグニス隊長から受け取った時、漠然とした不安に襲われた。あれから何度も、夢で見た景色が頭の中で反芻する。不安な気持ちを押さえつけて、待ち合わせの場所へ向かった。
「大丈夫だ、何があっても僕が傍にいる」
私の背中をリオがそっと撫でる。青空の中、けたたましい音を響かせてヘリが到着した。人の足音が近づくも、なかなか顔を上げられずにいたら、ぎゅうと身体が包まれた。
『***!ごめんなさい……ごめんなさい!』
久しぶりに感じるお母さんの温もり。少し痩せたような気がする。
『何度も手紙を書いたの。でも返事が無くて、会いに行こうと問い合わせても取り合ってもらえなくて……!全部言い訳にしかならないけど、本当のことを知っていたら送り出さなかった!』
『あの時、何があっても一人で行かせるべきじゃなかった。……本当に、すまなかった』
お母さんごと包みこむ、お父さんの大きな腕。子供の頃からよく知る、日本を発つ時には触れあえなかった懐かしい感触。生まれて初めて目にする両親の涙に、私は間違いなく愛されているのだと理解した。
『……怖かったよ!も、もう一生帰れないと思って……!私がいたら、きっとみんな怖がるから。消えちゃいたいと思った!』
あの時、リオが助けてくれなかったら二度とこんな日は訪れなかっただろう。
『でも、私も、ごめんなさいっ!二人に捨てられたと思って、心の中でずっと疑ってた……ごめんなさい!』
いつだったか迷子になり不安だった幼い頃、両親の顔を見つけてほっとした日のように、わんわんと泣きじゃくった。
涙を流し切り、呼吸も落ち着くと両親から今後の話を切り出された。すぐにでも日本へ帰れるよう準備はしてあると。私はもう一つ、二人に伝えるべきことがある。
『私ね、今まで通り一緒に日本で暮らすのもいいけど……こっちに残って、やりたいことが沢山あるの』
離れて見守ってくれていた、リオの手を引いて紹介する。逃げ隠れる日々が終わったこれからの未来は、日の光の下を自由に歩いて好きなところへ行きたい。美味しいものを食べたり、素敵なものを沢山見つけて、楽しい思い出に浸りながら安心して眠りたい。そして、その隣にはいつもリオがいてほしいと思う。
『私を助けてくれた……大切な人だよ』
二人は目を丸くしてぱちぱちと瞬きをしている。と、リオが口を開く。
『はじめまして。リオ・フォーティアです』
日本語で挨拶をしたことに驚き、今度は私が目を丸くした。
「リオ、日本語話せるの……?」
「君の両親に挨拶するなら、こっちが良いだろう。まだ簡単な言葉しかわからないが……」
少し前から勉強していたんだ、とリオが微笑む。……どうしよう、今はそういう話じゃないのに嬉しくて仕方がない。口元に手をあてて緩んだ顔を隠していたら、お母さんが目敏く気づいた。
『それ、彼からもらったんでしょう。素敵ね』
私が身に着けている指輪を指している。お父さんは状況についていけないようで、先ほどから狼狽えている。
『な……ちょ、ちょっと待ってくれ』
『お父さん、***さんをください。幸せにする覚悟は決めています』
『君にお父さんと呼ばれる筋合いはない!』
追い打ちをかけるように、今時のドラマでも聞かないお決まりの言葉を叩きつけるリオと、これまたお決まりな返しをするお父さん。どこで覚えたのかな。
「今の返事は、OKということか?」
すかさずリオが私に聞いてきたから、噴き出してしまった。
『もう、めちゃくちゃ!』
『今まで沢山頑張ったんだもの。***が選んだことなら、お母さんは応援するわ。ねえ、貴方もいいでしょう?』
『……たまには帰ってきなさい。その時は、リオ君も連れておいで』
笑いがおさまらない中、二人の言葉を伝えると、目を輝かせたリオに嬉しそうに抱き上げられた。
ああ、大好きな人からこんなにも想われて、私は幸せ者だ!
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