アンタレスの懸想
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マッドバーニッシュみんなの援護で、最終目的地の隠れ里へ何とか到着した。建設途中で廃棄された高速道路の構造内部に生活空間があるなど、外部からの見た目では想像もつかない。みんなは大丈夫だろうか。
構造物の隙間越しにとっくに日が落ちた外の景色を眺めながら、フリーズフォースの大きな戦闘車両や銃を思い出す。近くを見渡せば、人体実験や解剖で傷だらけの人達もいる。自分の腕の中にいる小さな子供さえ、怯えながら日々を生き抜くので精一杯だ。どうして平気でそんな酷いことができるのだろう。バーニッシュになる前は、皆等しく一緒に生活していた筈なのに。あの人たちは話し合うこともせず、一方的に攻撃して捕らえようとする。リオ達は果敢に戦ってくれているが、世間の風当たりがこんなに強くなければ、他愛のない会話で笑い合う日々が続いていただろう。仲間が傷ついて辛い思いもしなかっただろうに。……このまま、二度と会えなかったらどうしよう。
「大丈夫、きっと大丈夫だよ」
自分と子供達にそう言い聞かせる。左手にある指輪をそっと撫でて、泣いてしまわないように目を瞑った。
両親の姿が、数歩先に見える。もうあの隔離施設から離れてしまったから、私の元へ手紙は届かない。二人共、心配してるかな。
「お父さん、お母さん。慣れないこともいっぱいあるけど、バーニッシュのみんなが優しくしてくれるよ。だから──」
心配しないで。言いかけたところで体に氷が撃ち込まれた。振り返った両親の手には、銃が握られている。
「えっ?」
気がつけば、足元にバーニッシュの仲間が氷漬けの状態で倒れている。心臓が冷えて、息を吸うことも声を発することもままならない。ふっ、ふっ、と浅い呼吸を繰り返し、両親の顔へ視線を向けようとした。
「──。***」
肩を優しく揺すられる感覚。私を呼ぶ声が意識を徐々に覚醒させる。目を開くと、リオがいた。
「あ……リオ……?」
「ああ」
「お……おかえりなさい……」
心臓が握られているように苦しくて、喉から上手く声が出ない。少しずつ呼吸を整える。
「……どうした、嫌な夢でも見たのか」
頬を撫でられて、眠っている間に涙の跡が付いたらしいことを知る。
「ただの夢だよ。ただの……夢、だけど……っ!」
先ほどまでの景色が脳裏に浮かび、再び胸が苦しくなる。もし両親に会えたとしても、今まで通りには戻れない。バーニッシュになった私のことなんてもう愛していない。怖がって、氷に閉じ込めて、きっと他の人たちと同じく拒絶するに決まっている。見兼ねたリオが、泣きじゃくる私を腕の中に抱き締め頭を優しく撫でた。
「そうか……。だけど、バーニッシュだろうと君を大切に思う人はここにいる。僕たちがバーニッシュの街を作る。君はそこで、みんなと笑って生きるんだ」
そのために、次はプロメポリスの収容所へ行って仲間を救うと伝えられた。リオは意志の強い真っ直ぐな声で言うけれど、危険を承知で言ってるのはわかってるけれど。“みんな”の中に、リオが含まれてないように思えて。
「やだ……っ!」
「え?」
私だって、リオのことが大切だ。危険な目に遭ってほしくない。本当は行かないでほしい。だけどそんなことは言えなかった。
「リオも一緒じゃなきゃ、私笑えない。無事に帰ってきて。お願い」
「……ああ、わかった」
仲間のために戦いを選ぶ優しい貴方が、無理をして自分を蔑ろにしないでほしい。無事に帰ってきてほしい。背中へ回した手で、ぎゅうと服を掴んだ。
リオ、ゲーラ、メイスの三人がプロメポリスへ向かう日が来てしまった。私たちが隠れ里へ着くまでの間に、大半のマッドバーニッシュが捕まっている。背に腹はかえられない。食事を終え、出発する準備をしているリオへ近付いた。
「リオ」
「***か、どうした?」
「この間は、ありがとう……。その、あの時のお願い、覚えてる?」
「覚えている。きっと、無事に仲間を連れて帰ってくる」
きっと。絶対は無いから、約束しないのは彼なりの優しさなのだろう。目頭が熱くなるが、今はしっかりとリオの顔を目に焼き付ける。そうしないと、後悔すると思ったから。リオの右手を掴み、炎を出して両手で包み込む。
『神様、どうか私の大好きな人を守ってください』
日本語で言葉にして祈った。この想いは、リオに伝わらなくていい。これは抑えきれない燃焼本能。感情の清算。そして、臆病な私が心を守るための自己満足だ。
「……今の言葉は?」
「日本語のおまじないだよ。気をつけて、みんなと一緒に帰ってきてね!」
できる限り明るく振舞い、三人を見送った。
構造物の隙間越しにとっくに日が落ちた外の景色を眺めながら、フリーズフォースの大きな戦闘車両や銃を思い出す。近くを見渡せば、人体実験や解剖で傷だらけの人達もいる。自分の腕の中にいる小さな子供さえ、怯えながら日々を生き抜くので精一杯だ。どうして平気でそんな酷いことができるのだろう。バーニッシュになる前は、皆等しく一緒に生活していた筈なのに。あの人たちは話し合うこともせず、一方的に攻撃して捕らえようとする。リオ達は果敢に戦ってくれているが、世間の風当たりがこんなに強くなければ、他愛のない会話で笑い合う日々が続いていただろう。仲間が傷ついて辛い思いもしなかっただろうに。……このまま、二度と会えなかったらどうしよう。
「大丈夫、きっと大丈夫だよ」
自分と子供達にそう言い聞かせる。左手にある指輪をそっと撫でて、泣いてしまわないように目を瞑った。
両親の姿が、数歩先に見える。もうあの隔離施設から離れてしまったから、私の元へ手紙は届かない。二人共、心配してるかな。
「お父さん、お母さん。慣れないこともいっぱいあるけど、バーニッシュのみんなが優しくしてくれるよ。だから──」
心配しないで。言いかけたところで体に氷が撃ち込まれた。振り返った両親の手には、銃が握られている。
「えっ?」
気がつけば、足元にバーニッシュの仲間が氷漬けの状態で倒れている。心臓が冷えて、息を吸うことも声を発することもままならない。ふっ、ふっ、と浅い呼吸を繰り返し、両親の顔へ視線を向けようとした。
「──。***」
肩を優しく揺すられる感覚。私を呼ぶ声が意識を徐々に覚醒させる。目を開くと、リオがいた。
「あ……リオ……?」
「ああ」
「お……おかえりなさい……」
心臓が握られているように苦しくて、喉から上手く声が出ない。少しずつ呼吸を整える。
「……どうした、嫌な夢でも見たのか」
頬を撫でられて、眠っている間に涙の跡が付いたらしいことを知る。
「ただの夢だよ。ただの……夢、だけど……っ!」
先ほどまでの景色が脳裏に浮かび、再び胸が苦しくなる。もし両親に会えたとしても、今まで通りには戻れない。バーニッシュになった私のことなんてもう愛していない。怖がって、氷に閉じ込めて、きっと他の人たちと同じく拒絶するに決まっている。見兼ねたリオが、泣きじゃくる私を腕の中に抱き締め頭を優しく撫でた。
「そうか……。だけど、バーニッシュだろうと君を大切に思う人はここにいる。僕たちがバーニッシュの街を作る。君はそこで、みんなと笑って生きるんだ」
そのために、次はプロメポリスの収容所へ行って仲間を救うと伝えられた。リオは意志の強い真っ直ぐな声で言うけれど、危険を承知で言ってるのはわかってるけれど。“みんな”の中に、リオが含まれてないように思えて。
「やだ……っ!」
「え?」
私だって、リオのことが大切だ。危険な目に遭ってほしくない。本当は行かないでほしい。だけどそんなことは言えなかった。
「リオも一緒じゃなきゃ、私笑えない。無事に帰ってきて。お願い」
「……ああ、わかった」
仲間のために戦いを選ぶ優しい貴方が、無理をして自分を蔑ろにしないでほしい。無事に帰ってきてほしい。背中へ回した手で、ぎゅうと服を掴んだ。
リオ、ゲーラ、メイスの三人がプロメポリスへ向かう日が来てしまった。私たちが隠れ里へ着くまでの間に、大半のマッドバーニッシュが捕まっている。背に腹はかえられない。食事を終え、出発する準備をしているリオへ近付いた。
「リオ」
「***か、どうした?」
「この間は、ありがとう……。その、あの時のお願い、覚えてる?」
「覚えている。きっと、無事に仲間を連れて帰ってくる」
きっと。絶対は無いから、約束しないのは彼なりの優しさなのだろう。目頭が熱くなるが、今はしっかりとリオの顔を目に焼き付ける。そうしないと、後悔すると思ったから。リオの右手を掴み、炎を出して両手で包み込む。
『神様、どうか私の大好きな人を守ってください』
日本語で言葉にして祈った。この想いは、リオに伝わらなくていい。これは抑えきれない燃焼本能。感情の清算。そして、臆病な私が心を守るための自己満足だ。
「……今の言葉は?」
「日本語のおまじないだよ。気をつけて、みんなと一緒に帰ってきてね!」
できる限り明るく振舞い、三人を見送った。
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