アンタレスの懸想
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何度か拠点を移しながら、囚われたバーニッシュを救い出しては移動する日々が続いた。ここにいる人達は老若男女様々だ。食糧の備蓄を管理したり、フリーズフォースの襲撃に備えて交代で見張りをする。時折、子供たち相手に会話をして少しずつ言葉を学んでいった。
「ここでの生活はどうだ?」
リオが仲間の救出を終えて戻ってきた日の夜はいつも、燃焼本能の発散と炎を操る練習を兼ねて、手を握って炎を分け与える相手をしてくれる。周りの物資や食糧を誤って燃やさないための工夫だ。忙しいだろうに、きっと私がみんなと馴染めるかリオは心配してくれているのだろう。
「うん、みんな優しくしてくれて、おかげで慣れてきたよ。この間、こういうものを作ったら喜ばれたの」
炎で作った折り紙の風船を出す。隙間から息を吹き込むと、中に炎が灯ってほのかな光を放ちながら宙を浮く。
「これは?」
「私の国に紙を折って物を作る折り紙っていう遊びがあって、これはそれを真似して風船を作ってみたの。実際は光らないんだけどね」
これなら燃え広がらないし、真っ暗でも子供達が怖くないでしょ?と言うとそれを指でつつきながらリオは言う。
「君の炎は、あたたかいな」
「炎だもん、当然だよ」
「そういう意味じゃない。僕たちとは違う、相手にぶつけるんじゃなく寄り添うような優しさがある」
「そうかな……私は弱いし、操るのもあまり上手じゃないから。今だって、こうやって私の炎をリオに移すのも緊張するよ」
「……もっと、確実で効率のいい移し方もあるが」
以前の失敗を思い出し苦笑いしていると、握っていないリオの左手が、私の頬に添えられじっと見つめられる。親指が口元に僅かに触れた。
「……それって?」
「……いや。また次の時に教えよう」
「そっか」
リオの視線が外れるのと同時に、左手が離れた。私はそれを捕まえて、両手を繋ぐ。私とそう変わらない年齢の手のひら。この手でどれだけ戦ってきたのか、私には想像もつかない。
「この間、メイスに聞いたよ。マッドバーニッシュの、人を殺さない誇りのこと」
「……甘いと思うか、僕たちを傷つけるヤツらに対して」
「ううん。人殺しを正当化したら、私たちは本当に人間じゃなくなっちゃう。だから聞いた時、ほっとしたよ。……私、リオの手が好きだな」
「なぜ?ただの手だ」
「人を救う、優しい手だよ」
炎が修復してくれるためだろう、傷は見当たらない。だけど、容赦の無い相手をしながら何度も仲間を守り戦い抜いてきた身体が、傷つかない筈がない。貴方の受けた痛みが、少しでも癒やされますように。どうか私の炎が、もう貴方が傷つかないように守ってくれますように。そう願って炎を与える。遠い空で炎のように真っ赤な星が輝く、静かな夜だった。
リオ達を待っている間は、自由に遊べない子供たちが少しでも気分が晴れるように辞書で翻訳しながら日本の昔話を教えたり、マッドバーニッシュが乗るバイクを炎で模したミニカーを作って遊ばせていた。彼らに憧れる男の子たちは大層気に入ったのか、ずっと手に持って遊んでくれて、戻ってきたリオ達へ自慢げに見せる。
「お姉ちゃんが作ったんだよ、三人のバイク!」
「へぇ、これはすごいな」
リオが関心して手に取りいろんな角度から眺めていると、隣で見ていたメイスが喉を鳴らしながら含みのある言い方をした。
「ゲーラ、お前なかなかカッコいいモンに乗ってるじゃないか?」
「あ?オレのがどうしたよ」
ゲーラのバイク──マイアミのミニカーに三人がまじまじと注目する。あれ?何か違うところでもあったかな……?ドキドキしていると、リオが耐えられない様子で頬を緩めて笑い始めた。……こんな風に彼が笑った顔を、初めて見た。
「クッ……確かに、これはユニークだな!」
「オイ!何でタイヤが三つしかねぇんだよ?」
「え!」
言われてみれば、確かに三輪車になっている。これでは小さな子供が乗って遊ぶおもちゃだ。
「あ、え?ご、ごめんなさい!」
ゲーラにバイクを見せられながら、ここはこうなってるんだとか、ここがポイントなんだとか、一個一個説明をされて私は「ハイ!ハイ!」と必死に頷いた。どうしてそんな勘違いをしたのだろう?周りの笑い声が聞こえ、恥ずかしいしゲーラには悪いことをしてしまったけど、みんなの笑う顔が見られてほんのりと心があたたまる。いつか、何の不安もなくこうして穏やかな日々を送れたらどんなに幸せだろう。
「フリーズフォースだ!」
見張り番が声を張って襲撃を知らせると一瞬で空気が変わり、皆一様に動き出す。大勢の声が入り混じり、自分がどう動けばいいのかわからずに戸惑っていると、冷静な声でリオが話しかける。
「君は子供たちと逃げろ。大丈夫だ、後ろは僕たちが守る。行け!」
背中をとんと押され、子供たちを追いかける。一度だけ振り返ると、リオ達は炎で鎧を纏いフリーズフォースの隊へ向かっていった。
「ここでの生活はどうだ?」
リオが仲間の救出を終えて戻ってきた日の夜はいつも、燃焼本能の発散と炎を操る練習を兼ねて、手を握って炎を分け与える相手をしてくれる。周りの物資や食糧を誤って燃やさないための工夫だ。忙しいだろうに、きっと私がみんなと馴染めるかリオは心配してくれているのだろう。
「うん、みんな優しくしてくれて、おかげで慣れてきたよ。この間、こういうものを作ったら喜ばれたの」
炎で作った折り紙の風船を出す。隙間から息を吹き込むと、中に炎が灯ってほのかな光を放ちながら宙を浮く。
「これは?」
「私の国に紙を折って物を作る折り紙っていう遊びがあって、これはそれを真似して風船を作ってみたの。実際は光らないんだけどね」
これなら燃え広がらないし、真っ暗でも子供達が怖くないでしょ?と言うとそれを指でつつきながらリオは言う。
「君の炎は、あたたかいな」
「炎だもん、当然だよ」
「そういう意味じゃない。僕たちとは違う、相手にぶつけるんじゃなく寄り添うような優しさがある」
「そうかな……私は弱いし、操るのもあまり上手じゃないから。今だって、こうやって私の炎をリオに移すのも緊張するよ」
「……もっと、確実で効率のいい移し方もあるが」
以前の失敗を思い出し苦笑いしていると、握っていないリオの左手が、私の頬に添えられじっと見つめられる。親指が口元に僅かに触れた。
「……それって?」
「……いや。また次の時に教えよう」
「そっか」
リオの視線が外れるのと同時に、左手が離れた。私はそれを捕まえて、両手を繋ぐ。私とそう変わらない年齢の手のひら。この手でどれだけ戦ってきたのか、私には想像もつかない。
「この間、メイスに聞いたよ。マッドバーニッシュの、人を殺さない誇りのこと」
「……甘いと思うか、僕たちを傷つけるヤツらに対して」
「ううん。人殺しを正当化したら、私たちは本当に人間じゃなくなっちゃう。だから聞いた時、ほっとしたよ。……私、リオの手が好きだな」
「なぜ?ただの手だ」
「人を救う、優しい手だよ」
炎が修復してくれるためだろう、傷は見当たらない。だけど、容赦の無い相手をしながら何度も仲間を守り戦い抜いてきた身体が、傷つかない筈がない。貴方の受けた痛みが、少しでも癒やされますように。どうか私の炎が、もう貴方が傷つかないように守ってくれますように。そう願って炎を与える。遠い空で炎のように真っ赤な星が輝く、静かな夜だった。
リオ達を待っている間は、自由に遊べない子供たちが少しでも気分が晴れるように辞書で翻訳しながら日本の昔話を教えたり、マッドバーニッシュが乗るバイクを炎で模したミニカーを作って遊ばせていた。彼らに憧れる男の子たちは大層気に入ったのか、ずっと手に持って遊んでくれて、戻ってきたリオ達へ自慢げに見せる。
「お姉ちゃんが作ったんだよ、三人のバイク!」
「へぇ、これはすごいな」
リオが関心して手に取りいろんな角度から眺めていると、隣で見ていたメイスが喉を鳴らしながら含みのある言い方をした。
「ゲーラ、お前なかなかカッコいいモンに乗ってるじゃないか?」
「あ?オレのがどうしたよ」
ゲーラのバイク──マイアミのミニカーに三人がまじまじと注目する。あれ?何か違うところでもあったかな……?ドキドキしていると、リオが耐えられない様子で頬を緩めて笑い始めた。……こんな風に彼が笑った顔を、初めて見た。
「クッ……確かに、これはユニークだな!」
「オイ!何でタイヤが三つしかねぇんだよ?」
「え!」
言われてみれば、確かに三輪車になっている。これでは小さな子供が乗って遊ぶおもちゃだ。
「あ、え?ご、ごめんなさい!」
ゲーラにバイクを見せられながら、ここはこうなってるんだとか、ここがポイントなんだとか、一個一個説明をされて私は「ハイ!ハイ!」と必死に頷いた。どうしてそんな勘違いをしたのだろう?周りの笑い声が聞こえ、恥ずかしいしゲーラには悪いことをしてしまったけど、みんなの笑う顔が見られてほんのりと心があたたまる。いつか、何の不安もなくこうして穏やかな日々を送れたらどんなに幸せだろう。
「フリーズフォースだ!」
見張り番が声を張って襲撃を知らせると一瞬で空気が変わり、皆一様に動き出す。大勢の声が入り混じり、自分がどう動けばいいのかわからずに戸惑っていると、冷静な声でリオが話しかける。
「君は子供たちと逃げろ。大丈夫だ、後ろは僕たちが守る。行け!」
背中をとんと押され、子供たちを追いかける。一度だけ振り返ると、リオ達は炎で鎧を纏いフリーズフォースの隊へ向かっていった。
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