アンタレスの懸想
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「良い知らせだ!店が再開するんだと」
ランチ休憩にこれから入るというタイミングで、バリスが一枚のチラシを持って声を張る。それはピザ屋からのお知らせで、しばらく封鎖されていたお店が再オープンするというものだった。バーニングレスキューのみんなが「おお〜!」と揃って嬉しそうに声を上げた。
「いつから〜?」
「今日らしい」
「早速行こうぜ!」
「イイじゃん!」
ワイワイと活気付く様子にきょとんとしていた私やリオ、ゲーラとメイスも一緒に行こうと腕を引かれて誘われるままに着いて行った。
大人数で押し掛けたにも関わらず店主のおじさんはニコニコと愛想よく私達を受け入れ、みんなで二つのテーブルを並べたテラス席に座る。以前、バーニッシュを匿い雇っていたことが知られてからしばらく封鎖していたらしい。店主が嬉々としてピザを運び、テーブルを埋め尽くした。
「いや〜、久しぶりだなぁ!」
「みんなのおかげさ。あの時はもうお終いだと思ったが、こうしてまた食べてもらえるとはねぇ」
「わぁ……!」
ピザの名前は長くて一度では覚えられなかったけれど、マルゲリータということはわかった。みんなは「コレコレ!」と目を輝かせて手に取った。私も遅れて一ピース手に取る。ふっくらとしたアツアツの生地に、色鮮やかな具材が乗っていて美味しそう。
考えてみたら、プロメポリスに来てから豪華な食事を楽しむのは初めてだ!施設で出されたものや、バーニッシュとして逃げ隠れていた頃に少しずつ食べていた缶詰とは訳が違う。
「こうやって、みんな一緒に食べるのは初めてだね!」
「ん」
「そうだな、ありがたい」
ゲーラとメイスの顔を見ると、同じように考えていたのか目尻を緩めてピザを味わっている。それを隣で微笑ましく眺めているリオの口元へ、ふーふーと程よく息を吹きかけたピザを差し出した。
「はい、これでもう熱くないよ」
「え……」
「?」
「アンタ、よく恥ずかしげもなく人前でそんなことできるよなぁ……」
リオが固まった様子を不思議に思っていると、ゲーラに茶化された。冷静に今の状況を把握した途端に、ボッと顔が熱くなる。周りの視線に耐え切れず、手をブンブンと振って言い訳する。
「こ、コレは違くて、その……!ごめんなさい、間違えました…………」
「間違い……?」
「あ〜、多分今までの癖ですよ。バーニッシュの中には目が悪い爺さんやら子供もいたからな。オイ、あんまり気にするな。せっかくのピザが冷めちまうぞ」
メイスのフォローに従い恥ずかしさを掻き消すために、ピザを一口頬張った。
「ゲホッ、か、から……!」
「も〜!落ち着いて食べなって!」
ちょうどタバスコのかかった部分を食べてしまったらしい。激しく咳き込んで、ルチアに笑われる。ただでさえ恥ずかしかったのに、余計に注目が集まってしまう。踏んだり蹴ったりとはこのことか。辛さのためか、羞恥のためか涙が出てきた。見兼ねたリオが水を差し出してくれる。
「大丈夫か、ちょっと落ち着け」
「ごめ……んむ、」
口の周りに付いたトマトソースを、ペーパーナプキンで拭かれる。これじゃあまるで子供の食事だ。ありがたいけど、今は本当に恥ずかしいので甘やかさないでほしい。今度はアイナがニヤニヤとした表情でからかってくる。
「リオって***のことになると、過保護なとこあるよね〜?」
「そうか?」
「この間なんて、ちょっとナイフ使おうとしただけで慌てて止めに入るし!」
確かに、休憩時間に食べるフルーツを切り分けようとしたら、すぐにリオが来て「僕がやる」と言ってナイフを取り上げられたことは記憶に新しい。
「コイツ、バーニッシュだった時に一度ナイフでやらかしてるからなァ」
「あの時笑って見てたの、正直今でも怒ってるんだからね……」
ゲーラが笑って言うので、ムッとしてしまう。あのナイフの切れ味が特別鋭かっただけで、流石にもう同じ失敗はしないと思うんだけど……。これ以上揶揄われるのは勘弁してほしいので、目の前のピザについて話題を切り替えた。
「そんなことより!こっちにある物は、日本と比べて何もかも大きいね!このピザなんてタイヤみたいに大きくてビックリした!」
「そうか?」
「バリスからしたら、大抵のものは小さく見えるもんねぇ」
ピザはもちろん、ドリンクもビッグサイズで豪華なのだ。一枚丸ごと頬張るバリスに、ルチアが笑いながら相槌を打つ。バリスとガロの食べる勢いは群を抜いており、次々と新しいピザが運び込まれる。
「日本の料理とは、どんな違いがあるんだ?」
「そうだなぁ……今は洋食もメジャーだけど、日本は基本的に主食がお米。あと、伝統的なのはお味噌汁……こっちで言えばスープみたいなものを一緒に飲むよ。その二つがメインで、他におかずを食べるの。全体的にヘルシーなのが特徴かな……?」
私の意図を汲み取ってくれたのか、レミーが話を広げてくれた。なんとか話の流れが変わったことに安心して、今度こそピザを少しずつ味わう。とろりとしたモッツァレラチーズはまろやかで、トマトソースの酸味との組み合わせがたまらない。日本食の話題に、いつものようにガロが食いついた。
「あっ、アレだろ!一汁一菜ってヤツ!」
「ふふ、よく知ってるね。でもそれはちょっと昔の考え方かも?最近は栄養を考えていろんなおかずを一緒に食べるんだよ」
「へ〜!こっちに来て、日本の料理が恋しくならない?」
「そうだね……。同じ味は作れないけど、お父さんとお母さんがお米を送ってくれるから、晩ごはんは自分で作って食べてるよ」
まだ慣れていないからネットで調べたり、お母さんのアドバイスを元に作っていることをアイナに話す。
「いつかみんなにも、日本の料理を味わってほしいな」
みんなと一緒の食事は、あたたかくて美味しくて幸せな気持ちになる。いつか、お返しができたらいい。そのためにも、料理の腕を磨こうと思った。
とは言え、ちょっと意気込み過ぎたかもしれない……と、晩ごはんに作った料理が目の前でどんどんボリュームが増す様を見て悩んだ。今日のメインは煮込みハンバーグ。ソース作りにチャレンジして、もう少し味付けを工夫したら良くなるかも!と、調味料を足していくうちに一人で食べきれない量になってしまった。流石に捨てるのはもったいないから人に食べてもらおうと考えつき、リオを晩ごはんに誘った。
「まさかこんなに早く、君の料理が食べられるとは思わなかったよ」
「私も、本当はもっと上手に作れるようになってから誘うつもりで……って、いくらなんでも心配し過ぎだよ……!もうあんな風に切ったりしないから」
「許してくれ、君が大切なんだ」
部屋に来て早々、怪我をしていないか手を握って確認される。微笑むリオの優しい言葉に照れて落ち着かない。大丈夫かな。ハンバーグって別に日本料理じゃないし……!お米だって炊飯器が無いから鍋で炊いたものだ。おこげが付いてないキレイな部分をよそって、テーブルに並べる。
「それじゃ、いただきます」
手を合わせて、いざ食べようとしたところで聞かれる。
「……そのいただきますと言うのは何だ?昼にも言ってたが」
「え?……ああ、こっちでは言わないのかな。食材を育ててくれた人や、命を食べることへの感謝の言葉……ってところかな。日本では食べる前はいただきます、食べた後はごちそうさまって言うの」
「そうなのか」
納得して、私の真似をして「いただきます」とリオが手を合わせてくれた。お箸でハンバーグを一口サイズに分けて口に運ぶ。うん、味はまあまあ悪くない……と思う。正直味見し過ぎてよくわからなくなってきた。続けて食べたお米は、もっちりとした食感とほのかな甘味。ああ、やっぱりコレが落ち着くなぁ……。
お米の味にしみじみと感動していると、リオがまだ一口も食べていないことに気がついた。箸を片手に、じっとこちらを見ている。
「どうしたの?」
「……これは、どうやって使えばいい?」
「……ああ!ごめんね、フォーク持ってこようか?」
「いい。使い方を教えてくれ」
「お箸はね、まずペンと同じように一本を持って……」
お箸。そうだお箸!自分で食べる時と同じ感覚で、リオにもお箸を渡してしまった。フォークを出そうと思ったけど、使い方を覚えたいらしい。隣に移動して、手を添えながら持ち方を伝える。リオは眉間に皺を寄せながら真剣な表情でお箸を動かしているけれど、ハンバーグに添えられた人参が持ち上げられず、あっちへコロコロこっちにコロコロと転がってしまい苦労している。リオは何でも卒なくこなす印象があったから、初めて知る新たな一面が新鮮で可愛い。この調子ではなかなか食べられないだろう、自分のお箸でハンバーグを一口挟んでリオの口へ運ぶ。
「……はい」
「!」
「今回は、間違いじゃないよ。冷めないうちにどうぞ」
一瞬戸惑っていたけど、素直に口を開いてくれた。
「……うん、美味い」
「ほんと?よかったぁ〜」
咀嚼した後、リオが瞳をキラキラと輝かせて笑顔になるのを見て安心した。
「こっちの料理も美味しいけど、全体的に味が濃くてずっと食べるのは飽きちゃいそうで……。お米と味噌汁は、毎日食べても飽きないからいつも食べてるんだ。リオの口にも合ったなら、よかったよ」
私がお椀に口を付けて味噌汁を飲むと、リオも真似して一口飲み込む。
「そうだな……。確かに、こうやって毎日君の料理を食べられたら幸せだと思う」
「え!」
ごく自然に微笑みながら、さらっと言われた。
「それは……!」
「……何かおかしなことを言ったか?」
「何でもない!」
「なら、その反応は何だ。何か隠してるだろう」
ずいっとリオが顔を近づけてくる。あれ?前にも似たことがあったような……。
「日本語は同じ言葉でも、状況によって複数の意味を持つと聞いた。まさか悪い意味か?」
「う、ううん……。リオが心配するような意味は何も?」
「別の意味はあるということか」
「うっ……」
ぶんぶんと首を横に振って答えたけど、リオは鋭い。コレを私から言わせないでほしい。顔が熱いのを我慢して、小声でボソボソと伝える。
「男の人から女の人に“自分のために毎日味噌汁を作ってほしい”って言うのは……その、プロポーズの意味……らしいよ」
「……は?」
「も、勿論リオがそういうつもりで言ったわけじゃないのは、わかってるから!私が勝手に意識しちゃっただけ!ごめんね、気にしないで」
「気にするだろ!」
「えぇ!?」
「確かに、さっきはそういう意味で言ったつもりじゃなかったが……」
珍しく大きな声を上げ、失敗したと言わんばかりに頭を抱えるリオに驚いた。
「でも……その意味なら、僕の気持ちに嘘はない。ただ、こういうことは自分の言葉で伝えたい。だから、それまで待ってろ。……いいな!?」
「え……。は、はい……?」
それはもう言ってるようなものじゃないのだろうか。赤い顔で言った後、顔を隠すように私の肩へ頭をもたれかけたリオ。しばらくすると、口を開いて食事の続きを促した。
「……その。続きを、食べさせてくれるか」
「リオはこれ、嫌じゃない?」
「まさか。今度は君が、僕を甘やかしてくれるんだろう?」
ちらりと視線が私へ向けられる。
「なんか……今日のリオは可愛いね?」
「何だソレは。まさか子供みたいだとでも言うつもりか」
「ううん、きっと……“愛おしい”ってこういうことなんだろうなぁって思っただけだよ」
「なっ!……バカか、君は」
“急にそういうことを言うな、心臓に悪い”と拗ねるような声で言うリオの口へ、くすくすと笑みを浮かべながら箸を進めた。
ランチ休憩にこれから入るというタイミングで、バリスが一枚のチラシを持って声を張る。それはピザ屋からのお知らせで、しばらく封鎖されていたお店が再オープンするというものだった。バーニングレスキューのみんなが「おお〜!」と揃って嬉しそうに声を上げた。
「いつから〜?」
「今日らしい」
「早速行こうぜ!」
「イイじゃん!」
ワイワイと活気付く様子にきょとんとしていた私やリオ、ゲーラとメイスも一緒に行こうと腕を引かれて誘われるままに着いて行った。
大人数で押し掛けたにも関わらず店主のおじさんはニコニコと愛想よく私達を受け入れ、みんなで二つのテーブルを並べたテラス席に座る。以前、バーニッシュを匿い雇っていたことが知られてからしばらく封鎖していたらしい。店主が嬉々としてピザを運び、テーブルを埋め尽くした。
「いや〜、久しぶりだなぁ!」
「みんなのおかげさ。あの時はもうお終いだと思ったが、こうしてまた食べてもらえるとはねぇ」
「わぁ……!」
ピザの名前は長くて一度では覚えられなかったけれど、マルゲリータということはわかった。みんなは「コレコレ!」と目を輝かせて手に取った。私も遅れて一ピース手に取る。ふっくらとしたアツアツの生地に、色鮮やかな具材が乗っていて美味しそう。
考えてみたら、プロメポリスに来てから豪華な食事を楽しむのは初めてだ!施設で出されたものや、バーニッシュとして逃げ隠れていた頃に少しずつ食べていた缶詰とは訳が違う。
「こうやって、みんな一緒に食べるのは初めてだね!」
「ん」
「そうだな、ありがたい」
ゲーラとメイスの顔を見ると、同じように考えていたのか目尻を緩めてピザを味わっている。それを隣で微笑ましく眺めているリオの口元へ、ふーふーと程よく息を吹きかけたピザを差し出した。
「はい、これでもう熱くないよ」
「え……」
「?」
「アンタ、よく恥ずかしげもなく人前でそんなことできるよなぁ……」
リオが固まった様子を不思議に思っていると、ゲーラに茶化された。冷静に今の状況を把握した途端に、ボッと顔が熱くなる。周りの視線に耐え切れず、手をブンブンと振って言い訳する。
「こ、コレは違くて、その……!ごめんなさい、間違えました…………」
「間違い……?」
「あ〜、多分今までの癖ですよ。バーニッシュの中には目が悪い爺さんやら子供もいたからな。オイ、あんまり気にするな。せっかくのピザが冷めちまうぞ」
メイスのフォローに従い恥ずかしさを掻き消すために、ピザを一口頬張った。
「ゲホッ、か、から……!」
「も〜!落ち着いて食べなって!」
ちょうどタバスコのかかった部分を食べてしまったらしい。激しく咳き込んで、ルチアに笑われる。ただでさえ恥ずかしかったのに、余計に注目が集まってしまう。踏んだり蹴ったりとはこのことか。辛さのためか、羞恥のためか涙が出てきた。見兼ねたリオが水を差し出してくれる。
「大丈夫か、ちょっと落ち着け」
「ごめ……んむ、」
口の周りに付いたトマトソースを、ペーパーナプキンで拭かれる。これじゃあまるで子供の食事だ。ありがたいけど、今は本当に恥ずかしいので甘やかさないでほしい。今度はアイナがニヤニヤとした表情でからかってくる。
「リオって***のことになると、過保護なとこあるよね〜?」
「そうか?」
「この間なんて、ちょっとナイフ使おうとしただけで慌てて止めに入るし!」
確かに、休憩時間に食べるフルーツを切り分けようとしたら、すぐにリオが来て「僕がやる」と言ってナイフを取り上げられたことは記憶に新しい。
「コイツ、バーニッシュだった時に一度ナイフでやらかしてるからなァ」
「あの時笑って見てたの、正直今でも怒ってるんだからね……」
ゲーラが笑って言うので、ムッとしてしまう。あのナイフの切れ味が特別鋭かっただけで、流石にもう同じ失敗はしないと思うんだけど……。これ以上揶揄われるのは勘弁してほしいので、目の前のピザについて話題を切り替えた。
「そんなことより!こっちにある物は、日本と比べて何もかも大きいね!このピザなんてタイヤみたいに大きくてビックリした!」
「そうか?」
「バリスからしたら、大抵のものは小さく見えるもんねぇ」
ピザはもちろん、ドリンクもビッグサイズで豪華なのだ。一枚丸ごと頬張るバリスに、ルチアが笑いながら相槌を打つ。バリスとガロの食べる勢いは群を抜いており、次々と新しいピザが運び込まれる。
「日本の料理とは、どんな違いがあるんだ?」
「そうだなぁ……今は洋食もメジャーだけど、日本は基本的に主食がお米。あと、伝統的なのはお味噌汁……こっちで言えばスープみたいなものを一緒に飲むよ。その二つがメインで、他におかずを食べるの。全体的にヘルシーなのが特徴かな……?」
私の意図を汲み取ってくれたのか、レミーが話を広げてくれた。なんとか話の流れが変わったことに安心して、今度こそピザを少しずつ味わう。とろりとしたモッツァレラチーズはまろやかで、トマトソースの酸味との組み合わせがたまらない。日本食の話題に、いつものようにガロが食いついた。
「あっ、アレだろ!一汁一菜ってヤツ!」
「ふふ、よく知ってるね。でもそれはちょっと昔の考え方かも?最近は栄養を考えていろんなおかずを一緒に食べるんだよ」
「へ〜!こっちに来て、日本の料理が恋しくならない?」
「そうだね……。同じ味は作れないけど、お父さんとお母さんがお米を送ってくれるから、晩ごはんは自分で作って食べてるよ」
まだ慣れていないからネットで調べたり、お母さんのアドバイスを元に作っていることをアイナに話す。
「いつかみんなにも、日本の料理を味わってほしいな」
みんなと一緒の食事は、あたたかくて美味しくて幸せな気持ちになる。いつか、お返しができたらいい。そのためにも、料理の腕を磨こうと思った。
とは言え、ちょっと意気込み過ぎたかもしれない……と、晩ごはんに作った料理が目の前でどんどんボリュームが増す様を見て悩んだ。今日のメインは煮込みハンバーグ。ソース作りにチャレンジして、もう少し味付けを工夫したら良くなるかも!と、調味料を足していくうちに一人で食べきれない量になってしまった。流石に捨てるのはもったいないから人に食べてもらおうと考えつき、リオを晩ごはんに誘った。
「まさかこんなに早く、君の料理が食べられるとは思わなかったよ」
「私も、本当はもっと上手に作れるようになってから誘うつもりで……って、いくらなんでも心配し過ぎだよ……!もうあんな風に切ったりしないから」
「許してくれ、君が大切なんだ」
部屋に来て早々、怪我をしていないか手を握って確認される。微笑むリオの優しい言葉に照れて落ち着かない。大丈夫かな。ハンバーグって別に日本料理じゃないし……!お米だって炊飯器が無いから鍋で炊いたものだ。おこげが付いてないキレイな部分をよそって、テーブルに並べる。
「それじゃ、いただきます」
手を合わせて、いざ食べようとしたところで聞かれる。
「……そのいただきますと言うのは何だ?昼にも言ってたが」
「え?……ああ、こっちでは言わないのかな。食材を育ててくれた人や、命を食べることへの感謝の言葉……ってところかな。日本では食べる前はいただきます、食べた後はごちそうさまって言うの」
「そうなのか」
納得して、私の真似をして「いただきます」とリオが手を合わせてくれた。お箸でハンバーグを一口サイズに分けて口に運ぶ。うん、味はまあまあ悪くない……と思う。正直味見し過ぎてよくわからなくなってきた。続けて食べたお米は、もっちりとした食感とほのかな甘味。ああ、やっぱりコレが落ち着くなぁ……。
お米の味にしみじみと感動していると、リオがまだ一口も食べていないことに気がついた。箸を片手に、じっとこちらを見ている。
「どうしたの?」
「……これは、どうやって使えばいい?」
「……ああ!ごめんね、フォーク持ってこようか?」
「いい。使い方を教えてくれ」
「お箸はね、まずペンと同じように一本を持って……」
お箸。そうだお箸!自分で食べる時と同じ感覚で、リオにもお箸を渡してしまった。フォークを出そうと思ったけど、使い方を覚えたいらしい。隣に移動して、手を添えながら持ち方を伝える。リオは眉間に皺を寄せながら真剣な表情でお箸を動かしているけれど、ハンバーグに添えられた人参が持ち上げられず、あっちへコロコロこっちにコロコロと転がってしまい苦労している。リオは何でも卒なくこなす印象があったから、初めて知る新たな一面が新鮮で可愛い。この調子ではなかなか食べられないだろう、自分のお箸でハンバーグを一口挟んでリオの口へ運ぶ。
「……はい」
「!」
「今回は、間違いじゃないよ。冷めないうちにどうぞ」
一瞬戸惑っていたけど、素直に口を開いてくれた。
「……うん、美味い」
「ほんと?よかったぁ〜」
咀嚼した後、リオが瞳をキラキラと輝かせて笑顔になるのを見て安心した。
「こっちの料理も美味しいけど、全体的に味が濃くてずっと食べるのは飽きちゃいそうで……。お米と味噌汁は、毎日食べても飽きないからいつも食べてるんだ。リオの口にも合ったなら、よかったよ」
私がお椀に口を付けて味噌汁を飲むと、リオも真似して一口飲み込む。
「そうだな……。確かに、こうやって毎日君の料理を食べられたら幸せだと思う」
「え!」
ごく自然に微笑みながら、さらっと言われた。
「それは……!」
「……何かおかしなことを言ったか?」
「何でもない!」
「なら、その反応は何だ。何か隠してるだろう」
ずいっとリオが顔を近づけてくる。あれ?前にも似たことがあったような……。
「日本語は同じ言葉でも、状況によって複数の意味を持つと聞いた。まさか悪い意味か?」
「う、ううん……。リオが心配するような意味は何も?」
「別の意味はあるということか」
「うっ……」
ぶんぶんと首を横に振って答えたけど、リオは鋭い。コレを私から言わせないでほしい。顔が熱いのを我慢して、小声でボソボソと伝える。
「男の人から女の人に“自分のために毎日味噌汁を作ってほしい”って言うのは……その、プロポーズの意味……らしいよ」
「……は?」
「も、勿論リオがそういうつもりで言ったわけじゃないのは、わかってるから!私が勝手に意識しちゃっただけ!ごめんね、気にしないで」
「気にするだろ!」
「えぇ!?」
「確かに、さっきはそういう意味で言ったつもりじゃなかったが……」
珍しく大きな声を上げ、失敗したと言わんばかりに頭を抱えるリオに驚いた。
「でも……その意味なら、僕の気持ちに嘘はない。ただ、こういうことは自分の言葉で伝えたい。だから、それまで待ってろ。……いいな!?」
「え……。は、はい……?」
それはもう言ってるようなものじゃないのだろうか。赤い顔で言った後、顔を隠すように私の肩へ頭をもたれかけたリオ。しばらくすると、口を開いて食事の続きを促した。
「……その。続きを、食べさせてくれるか」
「リオはこれ、嫌じゃない?」
「まさか。今度は君が、僕を甘やかしてくれるんだろう?」
ちらりと視線が私へ向けられる。
「なんか……今日のリオは可愛いね?」
「何だソレは。まさか子供みたいだとでも言うつもりか」
「ううん、きっと……“愛おしい”ってこういうことなんだろうなぁって思っただけだよ」
「なっ!……バカか、君は」
“急にそういうことを言うな、心臓に悪い”と拗ねるような声で言うリオの口へ、くすくすと笑みを浮かべながら箸を進めた。
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