異世界ワープ!
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こんのすけのSAN値チェック失敗により、発狂寸前の学園長が案内した先は、いかにも事故物件のような廃屋だった。
以前は寮として実際に使用されていた建物だが、誰も住んでいない今はクモの巣が張り巡らされ、部屋中には埃が溜まり、床には所々穴が開いている。がたついた扉を開けば、カビの匂いが少女たちの鼻を擽った。
「ここならば、雨風程度は凌げるはずです。私は一度調べものに戻りますので、学園内をうろうろしないように!」
「承知しました」
「では、失礼しますよ」
学園長が去った後、せめて座る場所くらいは確保しようと掃除を始めた少女。彼女に従順な狐は四足歩行なので、その場を動けば自身がモップになってしまうだろう。それほどまでに、この場所は趣がありすぎた。
掃除に集中すれば、いつの間にかかなりの時間が経っていた。始めはしとしとと降っていた小雨が、バケツをひっくり返したような大雨に変わっている。
猫背になって作業していた少女がぐいっと背筋を伸ばすと、猫のような妖怪が視界に入った。思わず背後にキュウリを置かれた猫のように、まるで吹き飛ばされたような跳躍をする。狐は彼女の前に躍り出ると、ガルルルと家を逆立てて威嚇した。だが敵意は感じられないため、少女はすぐに威嚇を止めさせる。
「ちょっと外に放り出したくらいで、オレ様が入学を諦めたと思ったら大間違いなんだゾ!」
「……それまでして、なぜこの学園に?」
「単純な話なんだゾ。オレ様が大魔法士になるべくして生を受けた天才だからだゾ! でも闇の鏡は見る目がねぇから、オレ様の方から来てやったってわけだ」
自慢気に語るグリムと名乗る妖怪。その頭上に、ぽとりと一滴の水が滴り落ちた。これだけ老朽化していれば、雨漏りしていてもおかしくはない。
この程度、魔法で修理してしまえばいいと豪語するグリムは、少女たちが一切魔法を使えないと知るや否や、途端に嘲笑し始めた。まんまと挑発に乗っかったこんのすけはグルルルと威嚇する。
「主さま、コイツの喉笛噛み千切っていいですか?」
「所詮小さな犬ほど良く吠えるものだ、放置しておけ。でも貴官がそこまで言うのであれば、雨漏りの修理くらい手伝ってもいいんじゃないか?」
「やなこった! ツナ缶も出ねぇのに、ただ働きは御免なんだゾ」
「……バケツ、見つけてくるか」
「待ってください、主さま。僕もご一緒します!」
やっと安息の地でほっと一息吐けたのも束の間。関わるのも疲れるといった風に、荒れ果てた談話室から離れる少女。狐も彼女の後をちょこちょこと付いて行く。
廊下へ出ると、がたがた、と物が動く音がした。この大荒れの天気だ、突風も吹いているのかもしれない。風でがたついたのだろう、と思った瞬間。
「ヒヒヒヒ……イッヒヒヒヒヒ……!」
「久しぶりのお客様だぁ〜……!」
「腕が鳴るぜぇ〜」
「イーッヒッヒッヒ!」
「あっお邪魔してます」
少女たちの目前に、ゴーストが現れた。しかも一人ではない。だが少女は一切動じず、ぺこりとお辞儀する。
今までにない一人と一匹の反応に、ゴーストたちは驚いたようだ。互いに顔を見合わせ、自分たちが恐ろしく思わないのか聞くが。
「お前さん、俺たちが怖くないのかい? ここに住んでいた奴らは、俺たちを怖がって皆出てっちまったぞ」
「いや、だって皆さん至って普通な容姿ですし」
「小官らがお会いしたゴーストの方々は、もっとその……少々難ありだったもので」
「……誤解を恐れずに言えば、祟り神に堕ちている状態ですね。もちろん、ちゃんと我を取り戻す方もおられましたが」
そう。少女たちが遭遇するゴーストは大抵怨霊。見るも無惨な状態になっているし、自我も忘れて暴走している状態だ。だから我も忘れて無差別的に人を襲うわ、そもそも会話が通じないわで非常に厄介なのだ。
そんなヤバい奴らに比べれば、彼らは会話がきちんと通じるし、確実に息の根を止めようともしないし、平和的な霊である。そんな(比較的)温厚な彼らを強制的に除霊させるのは、それこそ無差別に人を襲うのと同意義だ。
説明すれば、今までどんな場所にいたのか尋ねられた。この世界には嘆きの島という場所があるらしいが、異世界出身だと伝えればゴーストたちは一気にざわつく。
扉が開く音がする。学園長が戻ってきたのかと思いきや、そこにいたのは青く燃えるような……否、実際に燃える髪を持つ男だった。
「サニワ氏〜〜〜〜〜! 無事でござるか⁉︎ 全く、女性を放置してこんな雨漏りする小屋に押し込めるなんて、フィクションでもあり得んっすわ〜……」
「イデア君、どうしてここに……?」
「オルト……あ、弟ね。任せてきたから大丈夫でござるよ。サニワ氏がこっちに移動したって聞いたから、拙者も色々話聞いて考察しようかと思った次第ですわ」
ひらひらと手を振りながら、にやりとあくどい笑みを浮かべるイデア。その顔は幼い頃からよく見たそれだった。
以前———少女が軍大学を卒業したばかりの頃———イデアが彼女の本丸に訪れたことがあった。
彼女の本丸は、一種の隠り世とも取れる異空間だ。そして嘆きの島は、ツイステッドワンダーランドで最もあの世に近い場所。嘆きの島出身のイデアが一種の隠り世でもある彼女の本丸へ訪れるのは、ある意味必然だったのかもしれない。