第二話
夢小説設定
本棚全体の夢小説設定入力しせずに読んでも十分お楽しみいただけますが、
入力して頂くと、より小説をお楽しみいただけます!
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
実の娘と画面越しの会話から数十日が経過した頃。
ぬらりひょんとエンマ大王は彼女と実際に会うため、時の政府とやらの施設に訪れていた。完全に真っ白に統一されたこの施設は、かなり近未来的に感じられる。さすが2205年の世界といったところか。
聞いた話によると、この西暦二二〇五年では「歴史修正主義者」なるテロリストが時空を遡り、歴史改変を行い始めた。我が国の歴史を守るため、時の政府は審神者の力により顕現した刀剣男士を出現した時代へ派遣、討伐している。
しかし歴史とは政治抜きには語れない。もちろん、各国との外交関係もそのひとつである。自国の有利となる歴史に改変されやしないかと、他国とは至極紳士的にテーブルの下での蹴り合っている最中だ。
それゆえ、審神者は歴史修正主義者だけでなく、色んな者から命を狙われやすい職業であるため、基本的には本丸で生活を過ごすこととなる。
中でもぬらりひょんの娘は、若くしてかなりの討伐数を誇る本丸の主。その的確な采配は群を抜いており、時間遡行軍との戦闘では、勝率は十割。他の本丸との演練では勝率は多少は下がるといえど、それでも九割九割九分に近い成績を誇っていた。
そんな彼女の本丸は一種の神域であり、一種の異空間だ。もしかしたら二度と妖魔界の土を踏めなくなるかもしれないと、橋渡し役の妖狐・こんのすけから告げられた。
「なぁぬらり。……もしかしたら、オレ死ぬかもしれねえな……」
「は? 大王様、一体何をなさったのですか?」
「人間ってどういうもんか確かめるために、時間を操った事があったろ。『人間の歴史』自体にゃ大して影響はなかっただろうが……」
「……こればかりは私もどうにもフォローできませんね。自業自得、ということで」
「そればっかりはこちらも何とも……。ただ、主さまは敵と認識した相手を徹底的にそれこそ完膚無きまでに叩きのめす傾向にございますとだけ」
「もう死亡フラグが乱立してんじゃねえかよ」
死んだ魚のような目をして現実逃避を開始したエンマ大王をよそに、こんのすけはずんずんと先へ進んでいく。そして朱色に彩られた一際大きな鳥居を潜ると、先ほどの殺風景な施設ではなかった。
空はどこまでも青く、木に集ったメジロなどの野鳥が囀り、流れる川の水は澄み切っていて透明だ。源平咲きの梅、桃、そして桜が一同に咲き乱れる光景はまさに圧巻の一言に尽きる。
「すげぇな……。妖魔界でも中々見ねえ、綺麗な風景だ……」
「……この本丸は、ここにいるだけで多幸感に包まれる。こんな気持ちになったのは久しぶりだ」
「ああ、常に阿片を服用している気分になりますよね」
「他の言い方にしてくれねえかな」
しかし実際に本丸は精神的な痛みが消失するような工夫がされている。何せ戦時中であり、その上ここは最前線だ。本丸の襲撃や、出陣した第一部隊の刀剣男士が全滅、なんて話も珍しくはない。それが審神者のトラウマにならないように施されているのだ。
それに太平洋戦争では、士気高揚のためにヒロポンの服用が許可されていたことだってあるし、阿片も用途によっては麻酔薬ともなりうる代物だ。何より、今はテロリストとの戦時中だしセーフセーフ。問題なし。
そう告げるこんのすけに対し、エンマ大王はアウトだろと鋭いツッコミを入れていた。ぬらりひょんは自分の娘が薬中状態だったらどうしようと頭を抱えていた。
「お、落ち着けぬらり! 電話越しだとかなり冷静沈着に応答していたじゃないか!」
「そうですね! かなり……他人行儀でしたが……」
「そうだな……」
傷口を舐めるはずが更に傷を抉ってしまった。最早彼らのライフはゼロに近い。
まだ面会すらしていないのにズタボロのボロ雑巾状態になっている妖怪はうじうじと地面に座り込み、その周辺には妖力か湿気の関係かはたまたその両方か、数多くのキノコがにょきにょき生え始めている。
このままでは埒が明かないと、二人の服の裾を引っ張り、審神者の執務室へ案内するこんのすけ。正直ちゃっちゃと仕事を終えて、油揚にかぶりつきたいのである。
「んもう! お二人とも、こんなところで戦意喪失しないでくださいよう! 主さまがお待ちなんですよ!」
「だが……。あの子はもう、私に会いたくないのだろう。他人行儀な喋り方がその証拠だ」
「会いたくないなら本丸に招待してませんってば! 主さまが仕事以外で本丸に他人を招き入れるのは初めてなんですよ!」
「マジでか⁉︎」
「マジです!」
人間離れした見た目が災いしてか、招くような友人もいないぬらりひょんの娘。彼女は自分の本丸に、審神者の見習いと監査で訪れる政府の人間しか本丸へ招き入れた事はなかった。
まさか、自分たちが最初に彼女の本丸に立ち入れた一般人なのかと、地面に蹲っていた妖怪二人は即座に立ち上がり、先ほどとは別人のように歩みを進めた。楽しみで仕方ない気持ちが隠しきれておらず、その瞳は珍しく輝いている。
扱いが面倒くせえなコイツら。内心こんのすけは辟易していた。