第三話
夢小説設定
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ぱかり、と話題に上がった懐中時計の蓋を審神者が開けると、時刻は子の刻を少し過ぎた頃。そろそろ昼時だ。
「おい大ガマ。グルメエリア周辺は案内したのか?」
「いや、その周辺は案内してませんよ。あのタワー周辺ってまだアングラな雰囲気ですし。審神者さんに何かあったらマズいっしょ」
大ガマの言う「あのタワー」とは、ゴゴゴ・ゴッドタワーだ。以前ゴゴゴ・ゴッドファーザーという裏社会のボス妖怪が拠点とした建物であり、その周辺は未だに治安が悪い。ときどき妖魔界のヒーローが治安維持のパトロールに努めているが、その度に問題が起きるような場所。
グルメエリアはその近くに位置し、多くの妖怪が舌鼓を打ってはいるものの、大ガマ単独でぬらりひょんの愛娘を守り切れるかと言われると厳しいだろう。彼女は屈強な供を連れてきていたが。
「この街にお勧めの店がある。良ければ案内するが……すき焼きは好きか?」
「ふふ、すきだけに?」
「いや、そういう意味ではなくてだな……その、昼でもどうだと、思って」
ぬらりひょんの放つ言葉は相変わらずぎこちない。にも関わらず、審神者はにこやかな笑みを湛えていた。
「あ、でも……こっちの世界のお金うち持ってへんさかい、お気持ちだけで……」
「妖魔界の通貨は人間界と一緒だから問題ないさ。それにせっかく妖魔界まで来たんだ。それくらい奢らなけりゃ、エンマ大王の名が廃るだろ」
「マジッすか⁉︎ さっすがエンマ大王! 太っ腹〜‼︎」
「空気を読め馬鹿蛙」
ぬらりひょんに一蹴された大ガマは、某探偵電気ネズミの如く顔面に皺を寄せていた。
あまりにも見事に忠実に再現されていたので、審神者は内心「しわチュウやん」という興奮半分、同情半分で構成されていた。声に出すことはなかったが。
ところが、そんなのんびりとした平穏な一時も束の間。エンマ離宮の大部屋に、突如爆発音が轟く。
途端に審神者の連れていた刀剣男士たちが、一斉に鞘から抜刀する。既に気付いているのか、全て一方向に向いていた。
まさか自分たちに刃が向けられているとは露知らず、妖怪三人は意気揚揚とエンマ離宮へと乗り込んだ。が、そのうち二人、夜行ときらめ鬼が刀剣男士を視界にいれた途端に踵を返す。
まさかの行動に犬神は目を白黒させて仲間を見るが、二人は完全に戦意を喪失している。
「撤収ーーーーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎」
「はぁ⁉︎ せっかくここまで乗り込めたっていうのに、みすみす見逃すって言うのかい⁉︎ バカなのか⁉︎」
「バカはお前だこの大馬鹿野郎! 相手を見てみろ、どうやって勝つんだよ‼︎」
「確かに数は多いかもしれないけれど……相手も無傷というわけには」
「阿呆言え‼︎ 鬼丸に鬼切、その上袮々切丸に蜘蛛切だっているんだぞ⁉︎ 妖怪退治の布陣じゃないか!」
夜行の「蜘蛛切」という言葉に、大ガマは思い出した。土蜘蛛がビビって逃げ出したことを。
「平家物語」や、絵巻物「土蜘蛛草子」。そこには諸説紛々であるが、源頼光による土蜘蛛退治の話が載っている。
源頼光が瘧を患って床についていたところ、身長約2メートルの怪僧が現れ、縄を放って頼光を絡めとろうとした。頼光が病床にもかかわらず膝丸で斬りつけると、僧は逃亡。
翌日、頼光が四天王を率いて僧の血痕を追うと、北野神社裏手の塚に辿り着き、そこには巨大な山蜘蛛がいた。頼光たちはこれを退治した。
頼光の病気はその後すぐに回復し、土蜘蛛を討った膝丸は以来「蜘蛛切」の名を持つこととなる。
他にも、羅生門で渡辺綱が鬼を斬ったという逸話を持つ鬼切に、同様に鬼を斬った逸話を持つ鬼丸。自らが意志を持って袮々を退治したとされる袮々切丸、女の幽霊を石灯籠とともに斬ったにっかり青江。病魔を斬るのが得意だと自負する石切丸。
審神者が連れる刀剣男士は、名だたる霊刀・神刀のオンパレードで、大ガマはそれに気付き、「ゲコッ」と畏怖の声を上げた。
「さて……。久々だねえ、鬼退治なんて。そうだろう鬼切」
「おい待て鬼切はアンタだろ。……だが相手が鬼なら、いくらでも斬ってやるさ!」
「「ミ゚」」
鬼丸と髭切がぬらりと煌めく刀身を掲げた途端、夜行ときらめ鬼は恐怖のあまり失神した。
よほど恐ろしかったのか、きらめ鬼の体中の目は白目をむき出し、夜行はぶくぶくと泡を吹いている。
このままでは自分も無様に敗北する。犬神は失神した仲間を見捨てて逃げようとしたが、いつの間にか目前にいた審神者に驚き腰を抜かした。
「あんさん、犬神さんやねんてなぁ」
「……それが、どうかしたのかい」
「犬神て、確か呪術で首を刎ねられた犬を祀った末の妖怪やんねぇ。あんさんは見たところ、首はきっちり繋がってはるみたいやけど……その首刎ねたら、どないなるんやろねぇ?」
「ミ゚」
犬神の頚を指差す審神者。その表情は狂気に彩られており、それでいて、どこか魅了する力がある。
あまりの恐怖にもれなく犬神も失神した。ついでに犬まろと猫きよも、審神者の狂気的な笑顔に失神していた。
想定外の事態に昼食はお開きとなり、審神者と刀剣男士たちはエンマ離宮を後にしたのだった。