第二話
夢小説設定
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嫋やかな動作で湯飲みに口を付けた審神者。その洗練された動作は最早蠱惑的で、思わず見とれてしまう。彼女は湯飲みを茶托へ置くと、対峙する二人に勧めた。
だが、エンマ大王はその他人行儀な行動、口調が全く気に入らない。自分たちの記憶を失う前は非常に仲が良かったというのに。
「あぁ、よろしければお茶をどうぞ。粗茶ですが」
「……だあぁもう! 間怠っこしいな! 前はフツーに喋ってたんだ、堅っ苦しい敬語なんてやめてくれねえか?」
「で、ですが……貴官は妖魔界の政を取り仕切るお方。小官のような小娘が、そのように馴れ馴れしく接するものではないかと」
「私からも頼む。敬語は外して欲しいのだ。小夜……といったか、その付喪神のように話して欲しい。……親子、だからな」
土下座の勢いで頭を下げ、必死に頼み込むぬらりひょん。あまりの彼の必死さに、審神者は困ったように眉尻を下げながら笑みを浮かべた。だが、議長の願いは喜んで承諾するようで、あんじょうよろしゅう、と返した。
もともと繊細そうな見た目に比例するように、雲雀の囀るような、柔らかな声だった。だが、返事はいっとう、声が蕩けていた。
「……なあ。これからも、オレたちと会ってくれる、よな」
「もちろん。これからもどうぞ、ご贔屓に」
ふわりと周囲に花が舞い散るような笑みを零す審神者。その天使のような笑みに、エンマ大王は赤い肌色を更に赤くして思わず息を飲む。
エンマは自分の心の臓が轟くかのように鼓動が高鳴るのを自覚した。また、心なしかドポン、と恋に落ちる音が聞こえたような気がした。まるで堅牢な鍵が外れるような、パズルのピースがぱちりと当て嵌まるような感覚だった。
これからも会いたい。会って話がしたい。恋に落ちる前も考えていた事だったが、その思いが一層強くなった。
応接セットのテーブルから身を乗り出す勢いで、妖魔界に連れ出そうと必死に誘うエンマ大王。それに追随するかたちで、ぬらりひょん議長も首を縦に振る。
「じゃあ、今度は妖魔界に来てくれよ! きっとお前も気に入ると思うぜ」
「ああ。今の時期の妖魔界は、この本丸と同じくらい桜が咲き乱れている頃だ。特にニュー妖魔シティのエンマ離宮は桜の名所。だから……その、いつでも、歓迎しよう」
「ふふふ、そない言われたら行かなあきませんねぇ。……でも、妖魔界は時代の問題やのうて次元の問題やさかい、うちの転送装置ではどないしようもないんやわあ」
うーん、と腕を組んで悩む素振りを見せる審神者。だが彼女の本心は「正直本丸の外に出るなぞ御免被る」であった。
半妖ということもあってか、雪のように真っ白の肌と髪に深紅の双眸というかなり人間離れした相貌を持つ彼女にとって、外の人間というものは自分を虐げる存在と認識していた。外出するたびにやいのやいのと苛められるので、「本丸の外=危険な場所」「外出=手の込んだ自殺」という連立方程式が成り立っているのだ。
だがぬらりひょんたちはそれを知らないせいか、任せろといわんばかりにひとつの包装された箱を審神者へ手渡した。
「あらまあ、うちに贈り物? 嬉しいわあ、おおきにありがとう」
「開けてみてくれ。きっと気に入ると思うぜ」
急かされるまま包装を解くと、中から現れたのは薄紅を基調とした懐中時計。だが通常の懐中時計とは違い、中にコインのようなものがいれられるのか、挿入口がついている。
「……これは?」
「妖怪ウォッチだ。本来は妖怪を視る事のできる時計なんだが……」
「視える体質なんだろ? 半妖だしな。だから、これは召喚用だ」
「召喚?」
「ああ。よく見てろよ」
どこから取り出したのか、五百円玉ほどの大きさのコイン状の物体を手にしていた。それを妖怪ウォッチの挿入口に差し込むと、黄色い文字のような模様の羅列の光が、妖怪ウォッチを中心に渦を巻いて浮かび上がる。その光が消え失せた頃には、縁が紫色の丸い鏡の妖怪が佇んでいた。
「ぺろ〜ん。大王様、ぬらりひょん議長、お呼びでしょうか?」
「コイツはうんがい鏡。鏡の中に吸い込んだ物体を別の場所へ移動させるという能力があってな……。この時代に例えるならば、政府の施設に繋がる鳥居が近いか」
「うんがい鏡。これからここに住み、妖魔界とこの本丸が繋がるようにして欲しい。出来るよな?」
「お安い御用です!」
ぬらりひょん議長が審神者へうんがい鏡の説明する間、エンマ大王がうんがい鏡へ命令を出す。会社社長のような存在から直に命令を出されたうんがい鏡はビシッと敬礼を返し、やる気が漲っている。
これで妖魔界へ直通一本の通路が開通したことにより、気軽に妖魔界へ訪れることが出来るようになった。だが審神者には不安要素でしかなかった。
「これで問題は解決しただろう? いつでも気軽においで」
「……うーん。でもこれって、向こうからこっち側にも来はる可能性もあるやろ? うちは軍事施設の最前線のような場所やさかい、あんまり知らん子に気軽に来て欲しないかなあ」
「案ずるな、その点も考慮している。鏡と鏡が繋がるといえど、妖魔界から繋がることは滅多にない」
「……というと?」
ぬらりひょん曰く、利用者は行きたい場所を告げて、その場所へ繋げてもらうというどこでもドア方式を取っている。一種の隠り世とも言えるこの本丸は近づきたがらない妖怪も多いだろう。そもそも、この本丸に繋がるのは妖魔界の秘匿とする予定だ。
これで問題ないよな。にっかりと浮かべるエンマ大王の笑いは、太陽のように輝いていた。