第二話
夢小説設定
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寝殿造りの日本家屋を進んでいく。足を動かすたびにぎしぎしと廊下の板張が鳴った。
通されたのは審神者の執務室。案内されるがままにソファに腰を下ろすと、ふかふかとしたそれはどこまでも沈んでいく。
エンマ大王がきょろきょろと部屋の内装を見渡すと、巨大な地球儀や、高級そうなデスクとチェア、その後ろには天井まで届くほどの本棚。それには資料だろうか、ぎっちりと本が詰め込まれていた。
家具は床に敷かれている絨毯も含め、全て黒と緋色で統一されており、一目見ただけで最高級とわかる逸品ばかり。審神者として努力を日々積み重ねた結果だろう。
しばらく待つと、扉をノックする音が聞こえ、その奥から少女特有の高い声がかけられた。
「失礼いたします」
静かに開かれた扉。その先には、巫女装束に身を包んだ、小柄な少女が佇んでいた。
「エンマ大王様、ぬらりひょん議長殿。この度はお忙しい中御足労いただきまして、ありがとうございます」
「いや、オレは別に構わねえよ。仕事をサボる口実ができたしな!」
「左様でありますか」
淡々と接する彼女。距離を感じる対応に、ぬらりひょんとエンマ大王はどこか寂しく感じた。以前はあんなに仲が良かったのに。今では他人行儀、否、最早他人だ。
「恐れ入ります。では……早速本題へ入るといたしましょう。……本日はどのようなご用件でしょうか」
彼女がぬらりひょん議長へ所用を尋ねた瞬間、ただでさえ険しい表情だった彼の眉間は、更に深い皺を刻んでいく。
ぬらりひょん議長は、嗚咽も混じっているのか、どこか詰まったような声で謝罪の言葉を述べた。彼は深く頭を下げるが、彼女は一体何が何なのかさっぱりわからない。思い当たる点が全然ないからだ。
「……本当に、申し訳ないことをした」
「はあ」
「頭を下げるくらいで許されることではない。だが……謝らせて欲しい」
「申し訳ありません。議長殿のお言葉に、小官は思い当たる点が見当たらないのですが」
「……お前が幼い頃に放った言葉だ。本当に、申し訳なかった!」
まるで独り言ちるかのような、か細い声で告げたぬらりひょん議長の謝罪の言葉。それに耳を傾けた審神者は、慌てた表情とは打って変わって、ふわりと花が綻ぶかのように微笑む。そして、ぬらりひょん議長の声と同じくらいの微かな声で、頭もあげてくださいと伝えた。
「政争のような……言うなれば、大人の事情があったと聞き及んでおります」
「あぁ。ENMA NOTEに、お前の名前が記されていた」
「閻魔ノート……でありますか?」
考えが及ばず小首を傾げる審神者に、ぬらりひょん議長が曇った表情を変えぬまま、ENMA NOTEについて事細かに解説した。
その帳面に本名を書かれた妖怪はお隠れになるという、非常に物騒な代物。そのノートに彼女の名前が記されていたのだ。
妖怪と人間の『死』は少し意味が異なっており、妖怪は身体から魂が抜けると、完全に『コトキレ』てしまう。そして、いつしか人々の伝承や噂から忘れ去られてしまうことが、妖怪にとっての『死』で。
本来であれば何百年単位と、非常に時間のかかるもの。ところがENMA NOTEを使用すれば、いとも容易くそれが可能になる。しかし不幸中の幸いか、彼女は完全なる妖怪ではなく、人間の血も混ざった半妖だった。そのためか……存在を誰かに忘れ去られることがあっても、魂が身体から抜けることはなかったのだという。
「……なるほど。それで今まで小官が存在し得なかった、と」
納得した面持ちで頷く審神者。彼女は特に憤った様子は見せていないが、だからと言って許される行為ではない。ぬらりひょんとエンマ大王は謝罪しようと立ち上がったその時であった。
「……主。お茶菓子を持ってきたよ」
「あら、小夜ちゃん。わざわざおおきに」
小さな子どもが扉を開け、部屋に入ってきた。その紅葉の手には、人数分の玉露の入った湯飲みと茶菓子を乗せた盆がある。彼が告げた通り、本当に茶請けを持ってきたのだろう。
妖怪であるぬらりひょんとエンマ大王はすぐにわかった。彼は見た目こそ子どもであるが、何百年と年月を経てきた付喪神であると。
「……主。どうしてこの人たちに復讐しないの? 昔、酷いことされたんでしょう?」
「みたいやねぇ」
「暢気だね……でも、それが主の意思なら、僕は何もしない。でも、もしも復讐するなら手伝うよ。僕は復讐のための刀だから」
「ふふふ、おおきに」
ぺこり、と頭を下げて退室した少年に、審神者はにこにこ微笑みを浮かべながら上品に手を振った。ひとつひとつの挙動には全て品があり、さながらプリンセスのようだった。