懐古談
伊達や萩原、松田の話を聞いた白雪は思わず頭を抱えた。
確かに蛍丸へ単騎で出陣を言い渡し、髭切に爆弾があると一一〇番させたり(受け答えが不安すぎて途中で交代した)、鶴丸から落とし穴に落ちた謝罪としてスマホのアクセサリーを貰ったのは全部記憶にあるからだ。
全て思い当たる節がありすぎる。というか確実に白雪の刀剣男士が関わっていた。
何より、改めて全員の顔を見渡すと、全員が全員、政府の保護対象リストに入っているような人ばかり。
歴史に名を残すわけではないものの、歴史の裏で暗躍している人物はごまんといる。そういった人物の護衛も白雪は担当していることもあり、全員の顔を覚えていたのだ。
白雪の顔色が、白を通り越して青色に近い。そんな状態でがばっと立ち上がり、テーブルに頭をぶつけんばかりの勢いで頭を下げた。
「この度は部下が大変ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんでした! 再度当該の刀剣男士へ教育を行いますので、何卒ご容赦を……」
「え⁉ いやいやいや! 謝らなくていいって! 頭上げて!」
「で、ですが……!」
「俺たちはお前に助けられたんだ。たとえ気まぐれだろうが偶然だろうが、こうやって肩組んで、同じテーブルを囲む……そんな当たり前のことが、実現しなかったかもしれねェんだよ。感謝は受け取っとくもんだぜ?」
「……はい」
「よろしい。あと別に教育とかそういうのは良いからな」
「……いえ、規律違反が、いくつか……見受けられました、ので……。少なくとも、始末書は、確定、ですね……」
深々と下げていた頭を上げ、おずおずと腰を下ろす白雪。それでも彼女の顔には「申し訳ない」と謝罪の言葉がでかでかと書かれていた。
しかし改めて見ると、周囲を筋骨粒々の屈強な男に囲まれているからか、異様さが際立つ。
背の低い身長に、真っ白な髪と肌。深紅の瞳は、吸い込まれてしまいそうな魅力を持っていた。
だからあんな不審者ファッションで、自分の外見を隠すようにしていたのか。警察官たちは納得と同時に、呵責の念に嘖まれた。
コーヒーが運ばれた今、当の本人はお行儀を気にしてか、キャップとフードは被るのをやめている。
「……にしても、コーヒーは飲まねえのか?」
「ここのコーヒー、美味しいんだよ」
確かに松田の指摘通り、運ばれてすぐの頃に立ち昇っていた湯気が、今ではすっかり冷めてしまって、ただ静かに水面が揺蕩うだけになっていた。
白雪はコーヒーが苦手な部類だが、今回はそれ以上に“飲みたくなかった”。
理由を言って交換(少なくとも萩原や松田辺りは信じてくれそうだが)してもらうのも、閉店時間が迫っている今はなるべく控えたい。
恐る恐るカップを持ち、口元に近づける。そして中の液体が唇に触れたとき、カップの底部が突如割れてしまったのだ。
これには白雪以外の全員が驚きを隠せずにいた。
壊れるのなら持ち手の部分に罅が入っているとか、持ち手と本体の接続部分が脆くなっていたとか。そのような理由が考えられる。
しかし今回の割れ方は、まるで底を強く叩きつけた ようなそれだ。カップを持ち上げた状態で割れるなんて、到底あり得ない。
金髪碧眼の店員は困惑しながらも、中身のコーヒーで濡れてしまった白雪へ備え付けのタオルを渡すと、そそくさと後始末に奔走する。そのきびきびした動作はとても洗練されていて、無駄な動作は一切ない。
「ご、ごめんなさいぃ……! 割っちゃいました……!」
「いえいえ、気にしないでください。貴女に怪我がなくて良かった。換えのコーヒーをお持ちしますね」
「だだだ大丈夫です! もうすぐ閉店ですし、これ以上お手数をおかけするわけには……!」
白雪と店員が警察官そっちのけで謝罪合戦を繰り広げる中、怪奇現象を目の当たりにした警官たちは、白雪そっちのけで捜査を開始する。
「それにしても、普通こんな風に割れるか……?」
「右手でティーカップ持ったときは何もなかったのに、口とカップが接触した途端に、カップの底が木端微塵になるとはなァ……」
「もしかして、霊能力で割っちゃった?」
「え〜? 諸伏ちゃんそういうの信じちゃうの〜? でもこんな怪奇現象をまざまざと見せられたら、やっぱ信じちゃうよねえ」
「信じるよ、オレは。それで助けられたんだから、信じないわけがない。……全然視えないけどね」
「はいはい片づけるので退いてください。邪魔邪魔」
既に気心知れた仲なのか、割と警察官たちとフランクに接する店員は、大きな破片は手づかみで、細かな破片をちりとりで迅速に処理していく。
白雪も割ってしまった自責があるからか、テーブルの上に零れてしまったコーヒーを、おしぼりで丁寧に拭き取っていく。
「閉店前の、お忙しい時間帯に……本当に申し訳ございません……! コ、コーヒーカップは……弁償します……!」
「大丈夫ですよ。先ほどの割れ方を見ても、貴方が意図的に壊したとは考えづらい。……というより、こんな割れ方は初めて見ました」
店員と白雪による謝罪合戦は、最終的には「コーヒーのお代わりはなし」ということで、弁済はなしと決着が付く。
なお謝罪合戦の最中、てきぱきと店員や白雪が片づけたので、あっという間に元通りの状態に戻った。
次に語るのは諸伏、最後を飾るのは店員だ。
思い出してくれると嬉しいな。そう前置きを付け加え、ゆっくりと口を開いた。
確かに蛍丸へ単騎で出陣を言い渡し、髭切に爆弾があると一一〇番させたり(受け答えが不安すぎて途中で交代した)、鶴丸から落とし穴に落ちた謝罪としてスマホのアクセサリーを貰ったのは全部記憶にあるからだ。
全て思い当たる節がありすぎる。というか確実に白雪の刀剣男士が関わっていた。
何より、改めて全員の顔を見渡すと、全員が全員、政府の保護対象リストに入っているような人ばかり。
歴史に名を残すわけではないものの、歴史の裏で暗躍している人物はごまんといる。そういった人物の護衛も白雪は担当していることもあり、全員の顔を覚えていたのだ。
白雪の顔色が、白を通り越して青色に近い。そんな状態でがばっと立ち上がり、テーブルに頭をぶつけんばかりの勢いで頭を下げた。
「この度は部下が大変ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんでした! 再度当該の刀剣男士へ教育を行いますので、何卒ご容赦を……」
「え⁉ いやいやいや! 謝らなくていいって! 頭上げて!」
「で、ですが……!」
「俺たちはお前に助けられたんだ。たとえ気まぐれだろうが偶然だろうが、こうやって肩組んで、同じテーブルを囲む……そんな当たり前のことが、実現しなかったかもしれねェんだよ。感謝は受け取っとくもんだぜ?」
「……はい」
「よろしい。あと別に教育とかそういうのは良いからな」
「……いえ、規律違反が、いくつか……見受けられました、ので……。少なくとも、始末書は、確定、ですね……」
深々と下げていた頭を上げ、おずおずと腰を下ろす白雪。それでも彼女の顔には「申し訳ない」と謝罪の言葉がでかでかと書かれていた。
しかし改めて見ると、周囲を筋骨粒々の屈強な男に囲まれているからか、異様さが際立つ。
背の低い身長に、真っ白な髪と肌。深紅の瞳は、吸い込まれてしまいそうな魅力を持っていた。
だからあんな不審者ファッションで、自分の外見を隠すようにしていたのか。警察官たちは納得と同時に、呵責の念に嘖まれた。
コーヒーが運ばれた今、当の本人はお行儀を気にしてか、キャップとフードは被るのをやめている。
「……にしても、コーヒーは飲まねえのか?」
「ここのコーヒー、美味しいんだよ」
確かに松田の指摘通り、運ばれてすぐの頃に立ち昇っていた湯気が、今ではすっかり冷めてしまって、ただ静かに水面が揺蕩うだけになっていた。
白雪はコーヒーが苦手な部類だが、今回はそれ以上に“飲みたくなかった”。
理由を言って交換(少なくとも萩原や松田辺りは信じてくれそうだが)してもらうのも、閉店時間が迫っている今はなるべく控えたい。
恐る恐るカップを持ち、口元に近づける。そして中の液体が唇に触れたとき、カップの底部が突如割れてしまったのだ。
これには白雪以外の全員が驚きを隠せずにいた。
壊れるのなら持ち手の部分に罅が入っているとか、持ち手と本体の接続部分が脆くなっていたとか。そのような理由が考えられる。
しかし今回の割れ方は、
金髪碧眼の店員は困惑しながらも、中身のコーヒーで濡れてしまった白雪へ備え付けのタオルを渡すと、そそくさと後始末に奔走する。そのきびきびした動作はとても洗練されていて、無駄な動作は一切ない。
「ご、ごめんなさいぃ……! 割っちゃいました……!」
「いえいえ、気にしないでください。貴女に怪我がなくて良かった。換えのコーヒーをお持ちしますね」
「だだだ大丈夫です! もうすぐ閉店ですし、これ以上お手数をおかけするわけには……!」
白雪と店員が警察官そっちのけで謝罪合戦を繰り広げる中、怪奇現象を目の当たりにした警官たちは、白雪そっちのけで捜査を開始する。
「それにしても、普通こんな風に割れるか……?」
「右手でティーカップ持ったときは何もなかったのに、口とカップが接触した途端に、カップの底が木端微塵になるとはなァ……」
「もしかして、霊能力で割っちゃった?」
「え〜? 諸伏ちゃんそういうの信じちゃうの〜? でもこんな怪奇現象をまざまざと見せられたら、やっぱ信じちゃうよねえ」
「信じるよ、オレは。それで助けられたんだから、信じないわけがない。……全然視えないけどね」
「はいはい片づけるので退いてください。邪魔邪魔」
既に気心知れた仲なのか、割と警察官たちとフランクに接する店員は、大きな破片は手づかみで、細かな破片をちりとりで迅速に処理していく。
白雪も割ってしまった自責があるからか、テーブルの上に零れてしまったコーヒーを、おしぼりで丁寧に拭き取っていく。
「閉店前の、お忙しい時間帯に……本当に申し訳ございません……! コ、コーヒーカップは……弁償します……!」
「大丈夫ですよ。先ほどの割れ方を見ても、貴方が意図的に壊したとは考えづらい。……というより、こんな割れ方は初めて見ました」
店員と白雪による謝罪合戦は、最終的には「コーヒーのお代わりはなし」ということで、弁済はなしと決着が付く。
なお謝罪合戦の最中、てきぱきと店員や白雪が片づけたので、あっという間に元通りの状態に戻った。
次に語るのは諸伏、最後を飾るのは店員だ。
思い出してくれると嬉しいな。そう前置きを付け加え、ゆっくりと口を開いた。