盈盈一水

 未来の機材で録画された映像は匂いまで再現できるらしく、病室の中に異様なほどの血腥さが広がった。
 映像からはぴちゃぴちゃと血を踏み抜いて広げる音、凶器の刀で滅多刺しにする音が流れ、真っ暗な視界のなかで、女だったものが無残に床に転がっていた。死体は上半身と下半身に切り裂かれ、左腕も見つからない。
 こんのすけは、淡々と問いかけた。その場に居た、赤髪の禿(かむろ)の恰好をした美少年と、金髪に軍服を身に纏った美丈夫へ。


「……なぜ、殺したのです」
「この鬼女、生霊とはいえ主に手を出したんだよ? 生きる価値なんて無いじゃない。正直あのスケコマシにも手を出してやりたいところだけど、身を挺して護ったから、渋々見逃してあげているんだ。それを考えたら、大分こちらも譲歩しているつもりだよ」
「余所の蝶に、容赦してはいけません。主は平穏に事を済ませようと尽力なさっておられましたが……欲に塗れた蛇女は、平家の如く滅ぼすのみ」


 自分たちのしたことは当然だと言いたげに、平然と答える二人。その奥から、明るい茶髪に菫色の瞳が特徴的な、真面目そうな雰囲気の、凛々しい顔立ちの男と、濡れ羽色に緑のメッシュが入った、ウェーブヘアの男が現れた。
 関係者全員の共通点は、タイプが異なれど全員端正な顔立ちをしている点と、帯刀している点だ。


「こんのすけ。歴史修正主義者も時間遡行軍も、そしてただの人間であろうとも。俺たち刀の付喪神にとって、主に仇なす敵である事実に変わりはない。……この売女の正体を調べていたが、貢いでいた男が歴史修正主義者だと判明している以上、金蔓として利用されたとはいえ、十分処罰の対象に入るのは明白だった。別動隊により、男も処分が完了している。ただ死期が早まっただけのことだ」


 真面目そうな雰囲気の男が手にしているのは軍事機密の資料だろうか。そのうちの数枚を取り出して、バラバラと地面に落とす。書類は血が滲み、解読不能になってしまった。
 完全にこんのすけは諦めの表情を浮かべている。神の末席に御座す者の怒りを買ってしまった愚か者の末路は、大抵無惨な死で終わるのが定番だからだ。


「……この女の処理はどうなさるおつもりで? この時代の警察が黙っていませんよ。最悪、主さまが容疑者として逮捕されるやもしれません」
「抜かりはない。時の政府には既に報告済みだ。歴史修正主義者に関わる案件は、余程の事案ではない限り、宮内庁が揉み消す取り決めとなっている」


 現に菫色の目の男が語った通り、始めは警視庁の捜査一課が担当する予定だったものが、何故か公安預かりとなり、捜査が開始された途端、宮内庁による声明で事件の捜査は打ち切りとなっている。

 こんのすけの録画映像がいずれ研二に見られるのを悟ってか、濡れ羽色の髪に緑色のメッシュの男が、こんのすけへ問いかける。しかし彼の問いかけには、沈黙を貫いた。
 最初からその反応を予想していたのか、男は気にせず独白を語るように、喋り始めた。


「こんのすけ、どうせこの映像、元凶のスケコマシに見せるんでしょ? オレと性格が似てるからさぁ、美味い酒が飲めそうだと思ったのにねぇ」


 感傷に浸るかのように、溜め息を零す男。その深い緑の眼差しは何処か憂いを帯びていて、何処までも妖艶だった。


「オレは笹貫(ささぬき)。やれ失敗だと竹藪に、やれ妖しいと海に投げ捨てられたりもしたね……。だけど、最終的に主の元に流れ着いた。主のお陰でこの身体を得たから、竹藪や海に投げ捨てられても自分で戻って来れちゃうなぁ。審神者の仕事に失敗して、全て投げ捨てて放り出したくなったとし・て・も、だ。……そして俺は、流れ着いた先の主に執着してるわけ。お前の終着先なんて、他にいくらでもいるだろ? 横取りなんて、絶対に許さないよ」


 徐々にノイズが激しくなり、画面に砂嵐が舞う。笹貫が何かしたのだろう。最終的に、ここで音声が途切れている。

 まさかこんな恐怖映像を垂れ流されるとは予想だにしなかった警察官の面々は、身体中の全ての毛が逆立つような戦慄を味わい、さぁっと顔を青ざめさせた。


「……えっちょ、待って⁉ 俺白雪ちゃんの刀剣男士に刺されるの⁉ 祟られるの⁉」
「いえ、もしそのつもりなら、彼らは既に手を下していることでしょう。強盗から庇ってくださったのを考慮し、一旦様子見するようです。笹貫から釘は刺されましたけどね」
「誰が上手いこと言えと」
「……それよりも、私って殺人か殺人幇助で逮捕されるんでしょうか」
「それはないから安心しろ」


 今度は白雪が安堵の吐息を零す番だ。しかしそれも束の間、松田から彼女に爆弾発言が投下され、目が点になった。
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