盈盈一水
白雪が今着用している服装は、家主の松田から借りたもの。百八十センチを超える筋肉質の彼と、百五十にも満たない矮躯の白雪では、サイズが合っておらずだぼだぼだ。
改めて白雪の状態を見極めると、以前ポアロで食事したときとは別人のようになっていた。それなりに整えてはいるものの、清潔感を保つだけで精一杯らしい。
(前に会った時より髪がパサついてるし、肌艶もない。手も水仕事のせいか、結構荒れてんなぁ……。お手入れする余裕も無かったってことか)
とりあえず服飾品をセットで揃えて、ドラッグストアで洗髪用品や基礎化粧品もまとめ買いだ。精神的にも色々キツイものがあるだろうし、コスメなどの嗜好品も必要だろう。もちろん請求書は全て松田宛に渡す予定である。
女性に大人気のファッションブランド・フサエブランド……を通り過ぎ、白雪が入ったのはプチプラファッションの店。まさかの選択に、萩原は二度見した。
「え、白雪ちゃん? 別に遠慮しなくたって良いんだよ? 確かこのブランド……リーズナブルな価格のものだってあったはずだし」
「いえ、私、カジュアルな服装が好きなんです。でも、ピアスとかチョーカーはちょっぴり気になりますね〜」
そう言われたら萩原も何も言えない。確かに彼女が手に取るのは、ゆとりのあるパーカーにダメージ入りのショートパンツなど、格好良い系や、比較的シンプルな服装ばかり。若干パンキッシュでカジュアルな恰好が好みのようだ。
対してフサエブランドは、フリルやレースをふんだんにあしらった、綺麗めなものが多い。もちろんシンプルなデザインの服も取り揃えているはずだ。
靴も履いているスニーカーは泥汚れやくたびれが目立つから買い替えるとして、追加で美脚を彩るサンダルやパンプスも必要だろう。白雪は遠慮して首を横に振るだろうが、要らないと言われても押し付ける所存である。
試着室から出た白雪は、若干余裕を持たせた黒色のパーカーに、ダメージ入りのショートパンツと編み上げショートブーツで着飾っていた。パンクさの残る格好良い系のカジュアルファッションは、意外にも可愛らしい顔立ちの白雪の良さを引き立たせている。
人形のように顔立ちの整っている白雪がふらふらと街を闊歩するだけで、自然と視線が彼女へと向かう。もちろん白髪に赤い瞳という奇異な見た目故でもあるが、それ以上に視線は好意的なものが多い。
目立つのはモデル顔負けのスタイルの良さ、服装のセンス、そして神がかった容姿が重なった奇跡のせいか。
誰彼構わず魅了してしまう、白雪の神秘的かつ蠱惑的な容姿は、「傾国の美姫」という言葉でも言い表せないほどに、何処までも美しい。
ちらりちらりと白雪の視線が泳ぐ。その先には靴や鞄が並べられていた。厚底スニーカーに、少し厳 つめのエンジニアブーツ。そしてレザーのショルダーバッグやリュックサック。
確かに彼女のお眼鏡に適うような、パンキッシュかつ可愛らしさもある物ばかりだ。早速萩原が中へ入ろうとするも、白雪に服を引っ張られて阻止される。
「待っ……! あ、あの! 萩原さん……‼」
「どうしたの? 白雪ちゃんの好みドンピシャじゃんよ」
「た、高いから……!」
ブーツの値札を確認すれば、七千円前後だ。確かに十六の子には、お高めの価格設定だろう。
まあ金はじんぺーちゃん持ちだしいいか。好きな服で着飾る女の子を見るのも好きだし。
萩原は白雪の制止も聞かず、あれもこれもとほいほい買い物籠へ入れ、あっという間に会計を済ませ、流れるようにショッパーを受け取る。
休憩がてらに立ち寄ったカフェは大盛況とはいえど、すぐに二人席に案内された。早速ブラックコーヒーとミルクティを注文すれば、あっという間にテーブルに置かれた。
「白雪ちゃんってお化けが視えるんだろ? ちょーっとでいいからさ、霊視してくれる?」
「そ……それは、プライバシーに関わる事ですから……。事前に事情を訊いた場合を除いて、人の往来の多い場所でお伝えするのは……」
「……そういうもんなの?」
萩原の言葉に、白雪の首は小さく縦に動く。
確かに伊達の浄霊の場合、あらかじめ事情を説明された上で、ポアロで浄霊。諸伏兄弟は個室を取って口寄せしていた。
白雪がこの喫茶店の中で萩原に伝えたのは「水辺には近づかないで」と「蛇に気を付けて」という忠告のみ。
それが何の意味を指し示すのか萩原は理解できないが、白雪は薄々何かを感じ取っているようだ。ところがここでは言いづらいと、言葉を濁すのみだった。
カフェから退店すると、何やら外が騒がしい。喧騒はどんどんこちら側に近づいてきており、白雪が不安げな顔をして、萩原の顔を見詰める。
身長が百五十センチにも満たない白雪が、百八十センチ超えの萩原の顔を見上げるということは、自然と上目遣いになるわけで。意外とあざといなこの娘。
萩原は一瞬心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥ったものの、ひとまず安心させるように、白雪の小さな頭を撫でた。
「おらァ! 退けっつってんだろ!」
騒動の原因は強盗。しかも相手は小柄な白雪を人質にしようと向かってくる。
フルフェイスメットで顔を隠した男が握りしめる鞄は、明らかに女性向けのデザインで。確かあのバッグはフサエ・ブランドの新作だ。姉がチェックしていたから間違いはないはず。
バッグを抱える反対側の手には、妖しい輝きを放つ小型のナイフ。店からの強奪には成功したものの、逃走経路の確保が難しく、脅迫目的で使う羽目になったのだろうと萩原は推測した。
刃物を握る腕は左右に振り回すだけで、規則性を読むには容易い。
固く握りしめた萩原の拳が、強盗の鳩尾にめり込む。男の体は数メートル吹き飛んだ。後から追いかけてきた警備員が男を取り押さえ、強盗は悔しそうに顔を歪める。
さすがにこれには白雪も驚いた表情を見せている。というよりも目の前で起きた出来事に混乱しているようだ。
「え、今……人、吹き飛んで……え?」
「公安 に異動する前、機動隊員だったんだよ? あんな相手、伸すぐらい余裕余裕〜♪」
「ひょわぁ……」
萩原がいまだに困惑する白雪の手を引き、人混みから遠ざかる。これ以上騒動に巻き込まれるのはごめんだ。
幸いあの後は騒動に巻き込まれることなく、ドラッグストアでの買い物も無事に終えられた。
荷物を後ろの座席に、白雪を助手席に乗せて、車を発進させる。
しばらく道路を道なりに進んでいると、白雪の桜色の唇が、重々しく開かれた。
改めて白雪の状態を見極めると、以前ポアロで食事したときとは別人のようになっていた。それなりに整えてはいるものの、清潔感を保つだけで精一杯らしい。
(前に会った時より髪がパサついてるし、肌艶もない。手も水仕事のせいか、結構荒れてんなぁ……。お手入れする余裕も無かったってことか)
とりあえず服飾品をセットで揃えて、ドラッグストアで洗髪用品や基礎化粧品もまとめ買いだ。精神的にも色々キツイものがあるだろうし、コスメなどの嗜好品も必要だろう。もちろん請求書は全て松田宛に渡す予定である。
女性に大人気のファッションブランド・フサエブランド……を通り過ぎ、白雪が入ったのはプチプラファッションの店。まさかの選択に、萩原は二度見した。
「え、白雪ちゃん? 別に遠慮しなくたって良いんだよ? 確かこのブランド……リーズナブルな価格のものだってあったはずだし」
「いえ、私、カジュアルな服装が好きなんです。でも、ピアスとかチョーカーはちょっぴり気になりますね〜」
そう言われたら萩原も何も言えない。確かに彼女が手に取るのは、ゆとりのあるパーカーにダメージ入りのショートパンツなど、格好良い系や、比較的シンプルな服装ばかり。若干パンキッシュでカジュアルな恰好が好みのようだ。
対してフサエブランドは、フリルやレースをふんだんにあしらった、綺麗めなものが多い。もちろんシンプルなデザインの服も取り揃えているはずだ。
靴も履いているスニーカーは泥汚れやくたびれが目立つから買い替えるとして、追加で美脚を彩るサンダルやパンプスも必要だろう。白雪は遠慮して首を横に振るだろうが、要らないと言われても押し付ける所存である。
試着室から出た白雪は、若干余裕を持たせた黒色のパーカーに、ダメージ入りのショートパンツと編み上げショートブーツで着飾っていた。パンクさの残る格好良い系のカジュアルファッションは、意外にも可愛らしい顔立ちの白雪の良さを引き立たせている。
人形のように顔立ちの整っている白雪がふらふらと街を闊歩するだけで、自然と視線が彼女へと向かう。もちろん白髪に赤い瞳という奇異な見た目故でもあるが、それ以上に視線は好意的なものが多い。
目立つのはモデル顔負けのスタイルの良さ、服装のセンス、そして神がかった容姿が重なった奇跡のせいか。
誰彼構わず魅了してしまう、白雪の神秘的かつ蠱惑的な容姿は、「傾国の美姫」という言葉でも言い表せないほどに、何処までも美しい。
ちらりちらりと白雪の視線が泳ぐ。その先には靴や鞄が並べられていた。厚底スニーカーに、少し
確かに彼女のお眼鏡に適うような、パンキッシュかつ可愛らしさもある物ばかりだ。早速萩原が中へ入ろうとするも、白雪に服を引っ張られて阻止される。
「待っ……! あ、あの! 萩原さん……‼」
「どうしたの? 白雪ちゃんの好みドンピシャじゃんよ」
「た、高いから……!」
ブーツの値札を確認すれば、七千円前後だ。確かに十六の子には、お高めの価格設定だろう。
まあ金はじんぺーちゃん持ちだしいいか。好きな服で着飾る女の子を見るのも好きだし。
萩原は白雪の制止も聞かず、あれもこれもとほいほい買い物籠へ入れ、あっという間に会計を済ませ、流れるようにショッパーを受け取る。
休憩がてらに立ち寄ったカフェは大盛況とはいえど、すぐに二人席に案内された。早速ブラックコーヒーとミルクティを注文すれば、あっという間にテーブルに置かれた。
「白雪ちゃんってお化けが視えるんだろ? ちょーっとでいいからさ、霊視してくれる?」
「そ……それは、プライバシーに関わる事ですから……。事前に事情を訊いた場合を除いて、人の往来の多い場所でお伝えするのは……」
「……そういうもんなの?」
萩原の言葉に、白雪の首は小さく縦に動く。
確かに伊達の浄霊の場合、あらかじめ事情を説明された上で、ポアロで浄霊。諸伏兄弟は個室を取って口寄せしていた。
白雪がこの喫茶店の中で萩原に伝えたのは「水辺には近づかないで」と「蛇に気を付けて」という忠告のみ。
それが何の意味を指し示すのか萩原は理解できないが、白雪は薄々何かを感じ取っているようだ。ところがここでは言いづらいと、言葉を濁すのみだった。
カフェから退店すると、何やら外が騒がしい。喧騒はどんどんこちら側に近づいてきており、白雪が不安げな顔をして、萩原の顔を見詰める。
身長が百五十センチにも満たない白雪が、百八十センチ超えの萩原の顔を見上げるということは、自然と上目遣いになるわけで。意外とあざといなこの娘。
萩原は一瞬心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥ったものの、ひとまず安心させるように、白雪の小さな頭を撫でた。
「おらァ! 退けっつってんだろ!」
騒動の原因は強盗。しかも相手は小柄な白雪を人質にしようと向かってくる。
フルフェイスメットで顔を隠した男が握りしめる鞄は、明らかに女性向けのデザインで。確かあのバッグはフサエ・ブランドの新作だ。姉がチェックしていたから間違いはないはず。
バッグを抱える反対側の手には、妖しい輝きを放つ小型のナイフ。店からの強奪には成功したものの、逃走経路の確保が難しく、脅迫目的で使う羽目になったのだろうと萩原は推測した。
刃物を握る腕は左右に振り回すだけで、規則性を読むには容易い。
固く握りしめた萩原の拳が、強盗の鳩尾にめり込む。男の体は数メートル吹き飛んだ。後から追いかけてきた警備員が男を取り押さえ、強盗は悔しそうに顔を歪める。
さすがにこれには白雪も驚いた表情を見せている。というよりも目の前で起きた出来事に混乱しているようだ。
「え、今……人、吹き飛んで……え?」
「
「ひょわぁ……」
萩原がいまだに困惑する白雪の手を引き、人混みから遠ざかる。これ以上騒動に巻き込まれるのはごめんだ。
幸いあの後は騒動に巻き込まれることなく、ドラッグストアでの買い物も無事に終えられた。
荷物を後ろの座席に、白雪を助手席に乗せて、車を発進させる。
しばらく道路を道なりに進んでいると、白雪の桜色の唇が、重々しく開かれた。