黜陟幽明
その晩。松田は夢を見た。
豪華絢爛な黄金の間に、自分は私服でもスーツでもなく、一目で高級と分かる和服を身に纏っていた。
そして、ずらっと並ぶのは、胡坐 で座る男性の姿。その数は優に百を超え、狩衣姿や軍服を身に纏った者、幼子や成人男性も居る。共通点は、タイプが違えど全員恐ろしいほど容姿端麗なことだ。
松田は直感的に思った。彼らは人知を超える存在。神なのだと。
その中で綺麗な銀髪と瑠璃の瞳を持つ男神が、声を掛けた。
「松田陣平様。この度は主の身柄を保護していただき、誠にありがとうございます」
「……え、いや……当然の事をしたまでですんで」
「つきましては多少の利益 を齎 したく存じますが、この度、本丸が全焼いたしまして難しい状況なのです。その為、細やかながらではございますが贈り物を授けようと思います。どのようにしていただいても構いません。主の生活費としてお受け取り下さい」
「……そりゃまあ、ご丁寧にどうも」
「我が主を、何卒宜しくお願い申し上げます」
その一言を皮切りに、波打つように頭を下げる男神たち。一斉に百人以上が頭を垂れる光景は圧巻だった。その迫力に、思わずゴクリと息を呑む。
そして松田が目を覚ますと、見慣れた屋根が広がっている。自分の家だ。
いつもと異なるのは、食欲を刺激するような優しい出汁の香りが漂っていたことと、枕元に螺鈿細工の小箱が転がっていたことだ。
贈り物とはこの事か。箱を拾い上げ中を開ければ、文字通りの金銀財宝が詰まっていた。いや、笠地蔵かよ。
吸い込むように白雪が作った朝食を平らげた後、彼女とこんのすけに螺鈿細工の小箱を見せて夢の話を聞かせれば、白雪は複雑そうな、こんのすけは納得したような表情が返ってきた。
「松田さまのお話を伺う限り、主さまの刀剣男士たちかと」
「螺鈿細工の箱って……嫁入りか何かと勘違いしているような」
「ブフォッ‼」
盛大に味噌汁を吹き出す松田。こんのすけは慌てて跳び退いたが、白髪の純白の艶髪にかかってしまった。しかし彼女は気に留めることもなく、松田の心配をしている。とりあえず拭けとタオルを渡した。
「とりあえず、中身はどうすんだ」
「松田さんに差し上げます」
「お前の刀剣男士から貰ったもんだ、お前の好きにしろ。嫁入り道具なんだろ?」
「いや、あの……そうではなく」
「何だよ、まだ何かあるってんのか」
「この螺鈿細工の箱、翌朝から毎日何かしらの金銭が入るかと思いますよ。それに箱自体だけでも、少なくとも重要文化財に指定される程度の価値はあるかと」
「毎日となると……最悪、国の経済が揺らぎかねますね」
「嘘だろ……」
とんでもねえ拾いもんしちまった。松田は頭を抱えるものの、白雪はメルカリで相場を調べていた。せめて質屋に入れろ。ネットで売るな。
そのついでに狂犬病のワクチン費用も調べていた。怪訝に思ったのは松田だけではないようで、こんのすけも首を傾げている。
「え、さすがにワクチン未接種は拙いでしょ……? あ、狂犬病だけじゃなくてエキノコックスも必要?」
「ひどんい! 主さまは僕を何だと思っていらっしゃるのですか⁉ 僕管狐なんですけど⁉」
「都会でノーリードは駄目だからね、こんちゃんに似合うリードも買おうね〜」
「イヤッ! イヤッ‼」
「この中身が売れるまで、お金を貸して下さい。必ずお返ししますので、お願いします」
「……お前、お前……。ホント……もう……馬鹿野郎……」
白雪が頭を下げる中、お助け下さい松田さまぁ‼ とこんのすけは泣いて助けを求めているものの、松田は黙殺した。とりあえず子どもが金の心配をするなとだけ言い残し、仕事へ出勤した。
そして当日。松田が出勤した警視庁では、珍しく人事配置が行われていた。
警視庁刑事部捜査一課強行犯捜査三係では、高木刑事が目暮 班へ異動し、佐藤刑事が高木刑事の教育係となった。
そして松田と萩原は警備局警備企画課に配属されることとなり、松田は捜査一課から、萩原は爆発物処理班から去ることとなった。
まるで昨日の白雪の言動を示し合わせたかのような配置替えに、高木刑事や佐藤刑事は内心驚きを隠せずにいる。
「……あの子の予言って、この人事異動のことなのかしら」
「かもしれませんね。悪い事ではないと言っていましたから」
「確かにな。異動だけじゃなくて、昇進かもしれないぞ。良かったな、高木!」
「いやいや、まだ決まったわけじゃありませんから……」
「その前に私がビシバシ鍛えてあげるからね。覚悟なさい!」
「お、お手柔らかにお願いします……」
笑って誤魔化す高木刑事に、自信に満ちた顔つきの佐藤刑事。二人は何だかんだで良いバディとなるだろう。伊達は二人の様子を見て、今回の人事の采配を高く評価した。
ところが、それから数日。高木刑事と佐藤刑事が交際する運びとなり、マドンナだった佐藤刑事をひそかに狙っていた一部の層から、高木刑事はやっかみを受けながらも、幸せな日々を送る事になる。
そうなるとは露知らず、白雪は暢気に動物病院のイスでワクチンを待っていた。
豪華絢爛な黄金の間に、自分は私服でもスーツでもなく、一目で高級と分かる和服を身に纏っていた。
そして、ずらっと並ぶのは、
松田は直感的に思った。彼らは人知を超える存在。神なのだと。
その中で綺麗な銀髪と瑠璃の瞳を持つ男神が、声を掛けた。
「松田陣平様。この度は主の身柄を保護していただき、誠にありがとうございます」
「……え、いや……当然の事をしたまでですんで」
「つきましては多少の
「……そりゃまあ、ご丁寧にどうも」
「我が主を、何卒宜しくお願い申し上げます」
その一言を皮切りに、波打つように頭を下げる男神たち。一斉に百人以上が頭を垂れる光景は圧巻だった。その迫力に、思わずゴクリと息を呑む。
そして松田が目を覚ますと、見慣れた屋根が広がっている。自分の家だ。
いつもと異なるのは、食欲を刺激するような優しい出汁の香りが漂っていたことと、枕元に螺鈿細工の小箱が転がっていたことだ。
贈り物とはこの事か。箱を拾い上げ中を開ければ、文字通りの金銀財宝が詰まっていた。いや、笠地蔵かよ。
吸い込むように白雪が作った朝食を平らげた後、彼女とこんのすけに螺鈿細工の小箱を見せて夢の話を聞かせれば、白雪は複雑そうな、こんのすけは納得したような表情が返ってきた。
「松田さまのお話を伺う限り、主さまの刀剣男士たちかと」
「螺鈿細工の箱って……嫁入りか何かと勘違いしているような」
「ブフォッ‼」
盛大に味噌汁を吹き出す松田。こんのすけは慌てて跳び退いたが、白髪の純白の艶髪にかかってしまった。しかし彼女は気に留めることもなく、松田の心配をしている。とりあえず拭けとタオルを渡した。
「とりあえず、中身はどうすんだ」
「松田さんに差し上げます」
「お前の刀剣男士から貰ったもんだ、お前の好きにしろ。嫁入り道具なんだろ?」
「いや、あの……そうではなく」
「何だよ、まだ何かあるってんのか」
「この螺鈿細工の箱、翌朝から毎日何かしらの金銭が入るかと思いますよ。それに箱自体だけでも、少なくとも重要文化財に指定される程度の価値はあるかと」
「毎日となると……最悪、国の経済が揺らぎかねますね」
「嘘だろ……」
とんでもねえ拾いもんしちまった。松田は頭を抱えるものの、白雪はメルカリで相場を調べていた。せめて質屋に入れろ。ネットで売るな。
そのついでに狂犬病のワクチン費用も調べていた。怪訝に思ったのは松田だけではないようで、こんのすけも首を傾げている。
「え、さすがにワクチン未接種は拙いでしょ……? あ、狂犬病だけじゃなくてエキノコックスも必要?」
「ひどんい! 主さまは僕を何だと思っていらっしゃるのですか⁉ 僕管狐なんですけど⁉」
「都会でノーリードは駄目だからね、こんちゃんに似合うリードも買おうね〜」
「イヤッ! イヤッ‼」
「この中身が売れるまで、お金を貸して下さい。必ずお返ししますので、お願いします」
「……お前、お前……。ホント……もう……馬鹿野郎……」
白雪が頭を下げる中、お助け下さい松田さまぁ‼ とこんのすけは泣いて助けを求めているものの、松田は黙殺した。とりあえず子どもが金の心配をするなとだけ言い残し、仕事へ出勤した。
そして当日。松田が出勤した警視庁では、珍しく人事配置が行われていた。
警視庁刑事部捜査一課強行犯捜査三係では、高木刑事が
そして松田と萩原は警備局警備企画課に配属されることとなり、松田は捜査一課から、萩原は爆発物処理班から去ることとなった。
まるで昨日の白雪の言動を示し合わせたかのような配置替えに、高木刑事や佐藤刑事は内心驚きを隠せずにいる。
「……あの子の予言って、この人事異動のことなのかしら」
「かもしれませんね。悪い事ではないと言っていましたから」
「確かにな。異動だけじゃなくて、昇進かもしれないぞ。良かったな、高木!」
「いやいや、まだ決まったわけじゃありませんから……」
「その前に私がビシバシ鍛えてあげるからね。覚悟なさい!」
「お、お手柔らかにお願いします……」
笑って誤魔化す高木刑事に、自信に満ちた顔つきの佐藤刑事。二人は何だかんだで良いバディとなるだろう。伊達は二人の様子を見て、今回の人事の采配を高く評価した。
ところが、それから数日。高木刑事と佐藤刑事が交際する運びとなり、マドンナだった佐藤刑事をひそかに狙っていた一部の層から、高木刑事はやっかみを受けながらも、幸せな日々を送る事になる。
そうなるとは露知らず、白雪は暢気に動物病院のイスでワクチンを待っていた。