懐古談

 side 松田
 俺が助けられたのは、ハギが……萩原が爆弾事件で助けられて、数年後。
 機動隊の爆発物処理班から異動になって、俺は警視庁捜査一課強行犯係に配属された。正直、この異動には内心納得していなかった。今は別に良いんだけどよ。
 ……何だその顔。え、鎌倉時代の武士みたいって? 何だそれ、褒めてんのか?

 このままじゃ脱線するから、話を戻すぞ。
 その時の俺は連続爆破の犯人を追いかけていて、その犯人が観覧車に仕掛けた爆弾の解体にてこずっていた。
 いや、解体自体は余裕で終わるようなもんだったよ。……他に仕掛けられた爆弾のヒントが表示されるようになっていてな。悠長にヒントを待ってから処理していたら、確実に間に合わない。
 観覧車が爆発するか、どこにあるか分からない爆弾を爆発させるか。この観覧車が爆発すれば、犠牲者が俺ひとりで済む。もう一つの爆弾を爆発させるのは、大勢の民間人の命と、俺の命で天秤に取るようなものだった。
 俺は腹を括って、今か今かとメッセージが表示されるのを待っていると、異動になって若干疎遠になった萩原から連絡が来た。
 この現状を爆弾処理班の萩原が知らないわけがない。俺はピークに達した苛つきを顕にし、萩原に噛みついた。


「何だよハギ! こっちも忙しいんだ連絡すんじゃねー‼」
「じんぺーちゃん、爆弾の解体進めて! もう一個の爆弾が見つかった! そっちは俺が解体する! 詳しい話は……」
「お互い解体したあと……だな? ハギお前、ちゃんと防護服着ろよ‼」
「もう今はちゃんと着てるって〜!」


 電話を切り、早速爆弾の解体に取りかかる。一度覚悟は決めた。だが、もしかしたら。忌日が今日ではなくなるかもしれない。
 一縷の希望をしっかりと握りしめた俺は、今までよりも集中し、なおかつ手早く爆弾を解体した。多分自己新記録更新してたかもな。
 萩原ももう解体が終わっただろう。粗方の目星を付けて連絡を入れる。俺の予想通り、萩原も解体が終わっていた。
 米価中央病院で萩原と落ち合い、俺は口に火をつけたタバコを咥えた。自然と話は今回の連続爆破事件についての内容になっていった。


「じんぺーちゃんお疲れ〜! 間に合った?」
「間に合ってなかったらとうにバラバラ死体になってるだろ。で、爆弾はどこにあったんだ」
「米花中央病院の、一階女子トイレ近くのベンチ下。しかもさ、今日偶然その個室に入院したのが、通報してくれた子だよ」
「そいつ悪運強いな……」
「でも、俺たちにとっては幸運の女神様……だったりして」
「はぁ?」


 萩原が言うには、前回の爆弾事件で出逢った不思議な子は、“主さん”と呼ばれる存在によって派遣された。そして今回通報した子が、その“主さん”かもしれないのだ。
 萩原だって馬鹿ではない。余程の証拠が積み重なって、あの結論に至ったのだろう。俺はしばらく萩原の話を聞いてやることにした。

*

 萩原曰く。
 第一発見者の少女は、真っ白な肌と髪に、深紅の瞳を持つ……いわゆるアルビノだった。そして、その少女の入院の付き添いで来院していた男が、今回の通報者なのだ。
 通報した際、男の会話のやり取りが若干不安を覚えるものだったので、途中で第一発見者に交代したらしい。


「不安を覚える……って、どんな会話だったんだよ」
「えっとね〜……。『事件です。場所は……ねえ主、ここって何て名前だったっけ?』『米価中央病院! 交代して!』……みたいな?」
「あ、あー……。そらそうなるわ……」


 その後てきぱきと第一発見者は電話越しに応答を終わらせ、機動隊が到着しても分かりやすいように、そして院内がパニック状態に陥らないように。爆発物が隠されているベンチの傍で、車いすに座っていた。
 細いカモシカのような脚を負傷しているようで、片足に巻かれるギプスや包帯が痛々しい。
 ちなみに通報者の男は、暢気にジュースを飲んでいた。
 通報を受けて駆けつけた萩原が手際よく、それでいて確実に爆弾を解体し、今度はタイマーが再起動しない事を確認する。ホーっと安堵の溜め息を零した萩原に、第一発見者の女の子はぺこりと頭を下げた。


「あの……この度は、誠にありがとうございました。ほら、貴方も」
「ありがとう」
「いえ、こちらこそ。この度は通報のご協力、ありがとうございます。俺は警視庁所属機動隊爆発物処理班の萩原研二です」


 萩原はぴしっと敬礼を返すと、後日行われる事情聴取の説明を始める。
 まずは退院してからで構わないので、警視庁へ赴いて取り調べに協力して欲しいこと。取り調べと言っても、別に犯人扱いされるわけではなく、第一発見者として改めて状況を教えてくれたらそれで構わないこと。
 第一発見者の女の子は快く首を縦に振って快諾の意を示していたが、付き添いの通報者はやや不満げだ。


「ねえ、それって入院中(病室)じゃ駄目なの? 主の部屋は個室だよ。ぷらいばしー? なら、確保できてると思うんだけどなぁ」
「無理でしょうね……。第一発見者として状況をお伝えするだけだったとしても、機密情報として処理しなければいけない以上、ある程度の準備が必要です。ここはあくまで病室ですから、難しいと思います。それに入院するといえど数日の話ですから、警視庁に赴いた方が都合が良い……のかもしれませんね。憶測で喋っているので知りませんけど」
「へえ、そうなんだ」


 通報者の疑問を、第一発見者がばっさりと答える。それで納得したのか、通報者は特に何も言わなくなった。
 そこから萩原は第一発見者と軽く雑談したあと、狙いを定めて。問い詰める。
 もちろん、尋問や威嚇するつもりなんて毛頭ないので、声色や放つ雰囲気は、人に好かれやすい、柔らかなそれを意識して。


「数年前、不思議な子に会ったことがあったんです。背が低く、軍服を着て、自分の身長よりも大きい大太刀を背負っていました。彼は“主さん”の命令に従って動いている、と……。
……そこの通報者の男性も、同じように“主”と呼んでいましたね。貴女は、彼らの“主”なんですか?」
「恐らく———」
「そうだよ」


 第一発見者の言葉を遮り、返答したのは通報者の男だった。第一発見者の少女はあちゃーと頭を抱えている。
 これには萩原も驚いていた。男がまさか口を挟むとは思わなかったのだ。しかも真反対の回答を。


「えぇ? でもさぁ、この人が言ってる子、多分主の———名前は忘れたけど———大太刀だよ。この間現世で、主宛にお土産買ってきていたじゃない。律義に僕たちの分のお土産でドーナツを買ってきてくれたし、良い子だよねえ」
「とっても良い子なのは同意だけど! そうじゃなくて! もしかしたら別の蛍丸かもしれないじゃない⁉」
「八幡(はちまん)大(だい)菩薩(ぼさつ)にでも訊いてみようか」
「待って待って八幡大菩薩をSiri扱いしないで!」


 ほんわかな通報者の男(絶賛大暴走中)を第一発見者のしっかり者な少女が何とか宥め賺す。その様子がどこか漫才みたいで、萩原は何とか笑いを堪えるも、くすっと笑いが漏れ出てしまう。
 通報者の言葉によれば、恐らく“主さん”=“主”=第一発見者の少女はほぼ確定。いくらしっかりしてそうだと言えど、この小さな女の子が萩原の命を救ったのは事実だと考えていいだろう。
 さすがにいつまでも被害者兼第一発見者と喋っていられるわけじゃない。萩原は退院日に警視庁捜査一課強行犯係の刑事が事情聴取に訪れることだけ言い残し、その少女たちと別れたのだ。


「……つまり。今回の事件の爆弾の第一発見者の子が“主さん”で、ハギだけじゃなくて俺も助けられた、ってことかよ」
「第一発見者の子は否定していて、通報者の男は肯定していた。……多分、そう考えていいんじゃないかな」
「二回も爆弾事件に飲み込まれるとか、マジで災難すぎるだろ」
「最初の爆弾事件に関しては無関係だと思うけど。……でも、俺も松田も、あの子がいたから、こうやって生きてられるんだよね」
「違いねェ」


 その後、俺は第一発見者の少女と出合うことはなかった。聴取は別の刑事が担ったことで、俺は礼を言いそびれることになったわけだ。
 もしも出逢うことができたのなら、今の俺ができる最大限の感謝の意を示したい。
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