懐古談
side 萩原
———俺がキミに助けられた———いや、直接的に助けられたってわけじゃない。だけど助けられたのはホント。
数年前の出来事だった。さっき警察手帳を見せたと思うけど、俺が配属されたのは警備部機動隊———爆発物処理班———だった。
今はそんなことないんだけどさ、爆発物が見つかったと通報が入った俺は、防護服も身に付けずに解体現場に入ったんだ。……そんな目で見ないでよ! 今はちゃんと装備してから入ってるから‼
そん時にさ、住民の避難が完了したはずのマンションから、小さい子が出てきたの。身長が大体……百二十くらいの白髪の子。しかも軍服着てたんだよ。おかしな格好だった。
そらもうめちゃめちゃびっくりしたよね、何で避難してないの⁉ 親御さんは⁉ って思ったもん、当時。
とにかく爆発したら危ないからさ、子どもたちを避難誘導しようとしたんだよね。でも全然言うこと聞いてくれねえの。
「とにかく、今すぐ避難するんだ! ここには爆弾が———」
「そんなの知ってるよ。お兄さんがそれを解体しなきゃいけないことも。……でも、時間の歪みがある以上、俺たちは一般人を守らなきゃいけない」
「いや、何を言って———」
「とにかくこっち来て!」
「はぁ⁉」
軍服を着たこの力がめちゃくちゃ力強いのなんの。俺の腕引っ掴んで全然離さないし、その力が小さな子どものソレとは思えないほど馬鹿力だったし。
火事場の馬鹿力とは言うけど、大人の男を掴んで動きを封じるって、到底無理だと思う。それに俺は腐っても警察官だから、鍛えてるんだよ。それなりに。
だから、この子は……人知の及ばぬ存在だと思った。
本当にその時の俺はどうかしていたと思う……。
その後、仲間に連絡を入れて、その子の言われるがままに階段を駆け降りた直後。まだ数分だけ余裕のあるはずの時限爆弾が、突然爆発した。
建物全体が軋んで揺れて、俺たちは吹き飛ばされた。でも、不思議と怪我はなくて。
おかしいと思う。衝撃はここまで届いていたはずなのに、怪我のひとつもしていないなんて。
思い返せば、確かに怪我はしていた。けど、きっとアドレナリンがドバドバ出てて、痛覚がマトモに機能してなかったのと……季節外れの蛍の光が、俺を包んでいたんだ。そいつらが、俺の怪我を治してくれたんだと、直感的に思った。
……ちょっとじんぺーちゃん! 俺だって何言ってるんだって思うよ⁉ でも話まだ途中なの! ちゃんと最後まで聞いて!
……もしもの話をしても意味がないのは分かってる。だけど、その子が話した内容を聞いて、俺はゾッとした。
「良かったね。もしもお兄さんが解体していたら……解体に成功していたとしても、タイマーだっけ? 時限装置が再起動していたかもね」
「……嘘だろ」
「驚いてるところ悪いけど、俺の仕事はここからだよ。じゃーん。真打登場ってね!」
その子は、自分よりも大きな大太刀を背負っていた。慣れた手つきで鞘から大太刀を引き抜くと、爆発の衝撃で立ち篭めた黒煙を薙ぎ払っていく。
そんなので煙が吹き飛ばされるわけがないのに、なぜかどんどん視界が晴れていく。そしてその子は、全ての黒煙を消し飛ばした。
「ふふーんっ♪ お仕事終わり! お兄さん、俺帰るねー」
「……あ、うん」
何事もなかったかのように、ケロッとした態度で喋りかけてくるその子は、大太刀を鞘へ収める。
「ねえねえ。主さんへのお土産買いたいんだけどさ」
「お土産」
「うん、お土産」
先ほど近くが爆発したとは思えないほど、平然と語りかける。さっきまでぴりついた雰囲気だったけれど、その子の纏う雰囲気は穏やかになっていた。なぜか絆された俺も、暢気に会話を続けていた。
「お兄さん、良いお店知ってる?」
「無難なのは食べ物だろうけど……。その“主さん”が、どんな人なのかが分からないからなあ……」
「あ、そっか。主さんはねー、時間の歪みが感じ取れるんだ。んで、俺がここに派遣されたわけ」
その子から聞いた“主さん”の特徴はこうだった。
十代の年頃の女の子で、かなり多忙な人らしい。仕事で忙しいはずなのに、その子たちと関わる時間を作り、一緒に遊んだり、のんびり喋ったりするとのこと。
隙間時間を捻出しては、タブレットでファッション雑誌を眺めたりしているようだった。
「なるほどね〜。じゃあアクセサリとか良いんじゃない? チョーカーやブレスレットなら、手軽に買えるものもあるだろうし」
「本当⁉ お兄さん、ありがとう!」
その子は目を輝かせると、さっさとその場を立ち去っていった。
それ以来、そんな不思議な子どもと会うことはどこにもなかった。
今、思い返せば……。不思議な子と遭遇しなければ、俺は爆発に巻き込まれて死んでいたんだと思う。そして、“主さん”の指示がなければ、きっと不思議な子と遭遇しなかった。
あの小さな不思議な子と、主さん。もしも奇跡が起きて、二人と出会えることができたのなら。今の俺ができる、盛大な感謝の意を伝えたい。
———俺がキミに助けられた———いや、直接的に助けられたってわけじゃない。だけど助けられたのはホント。
数年前の出来事だった。さっき警察手帳を見せたと思うけど、俺が配属されたのは警備部機動隊———爆発物処理班———だった。
今はそんなことないんだけどさ、爆発物が見つかったと通報が入った俺は、防護服も身に付けずに解体現場に入ったんだ。……そんな目で見ないでよ! 今はちゃんと装備してから入ってるから‼
そん時にさ、住民の避難が完了したはずのマンションから、小さい子が出てきたの。身長が大体……百二十くらいの白髪の子。しかも軍服着てたんだよ。おかしな格好だった。
そらもうめちゃめちゃびっくりしたよね、何で避難してないの⁉ 親御さんは⁉ って思ったもん、当時。
とにかく爆発したら危ないからさ、子どもたちを避難誘導しようとしたんだよね。でも全然言うこと聞いてくれねえの。
「とにかく、今すぐ避難するんだ! ここには爆弾が———」
「そんなの知ってるよ。お兄さんがそれを解体しなきゃいけないことも。……でも、時間の歪みがある以上、俺たちは一般人を守らなきゃいけない」
「いや、何を言って———」
「とにかくこっち来て!」
「はぁ⁉」
軍服を着たこの力がめちゃくちゃ力強いのなんの。俺の腕引っ掴んで全然離さないし、その力が小さな子どものソレとは思えないほど馬鹿力だったし。
火事場の馬鹿力とは言うけど、大人の男を掴んで動きを封じるって、到底無理だと思う。それに俺は腐っても警察官だから、鍛えてるんだよ。それなりに。
だから、この子は……人知の及ばぬ存在だと思った。
本当にその時の俺はどうかしていたと思う……。
その後、仲間に連絡を入れて、その子の言われるがままに階段を駆け降りた直後。まだ数分だけ余裕のあるはずの時限爆弾が、突然爆発した。
建物全体が軋んで揺れて、俺たちは吹き飛ばされた。でも、不思議と怪我はなくて。
おかしいと思う。衝撃はここまで届いていたはずなのに、怪我のひとつもしていないなんて。
思い返せば、確かに怪我はしていた。けど、きっとアドレナリンがドバドバ出てて、痛覚がマトモに機能してなかったのと……季節外れの蛍の光が、俺を包んでいたんだ。そいつらが、俺の怪我を治してくれたんだと、直感的に思った。
……ちょっとじんぺーちゃん! 俺だって何言ってるんだって思うよ⁉ でも話まだ途中なの! ちゃんと最後まで聞いて!
……もしもの話をしても意味がないのは分かってる。だけど、その子が話した内容を聞いて、俺はゾッとした。
「良かったね。もしもお兄さんが解体していたら……解体に成功していたとしても、タイマーだっけ? 時限装置が再起動していたかもね」
「……嘘だろ」
「驚いてるところ悪いけど、俺の仕事はここからだよ。じゃーん。真打登場ってね!」
その子は、自分よりも大きな大太刀を背負っていた。慣れた手つきで鞘から大太刀を引き抜くと、爆発の衝撃で立ち篭めた黒煙を薙ぎ払っていく。
そんなので煙が吹き飛ばされるわけがないのに、なぜかどんどん視界が晴れていく。そしてその子は、全ての黒煙を消し飛ばした。
「ふふーんっ♪ お仕事終わり! お兄さん、俺帰るねー」
「……あ、うん」
何事もなかったかのように、ケロッとした態度で喋りかけてくるその子は、大太刀を鞘へ収める。
「ねえねえ。主さんへのお土産買いたいんだけどさ」
「お土産」
「うん、お土産」
先ほど近くが爆発したとは思えないほど、平然と語りかける。さっきまでぴりついた雰囲気だったけれど、その子の纏う雰囲気は穏やかになっていた。なぜか絆された俺も、暢気に会話を続けていた。
「お兄さん、良いお店知ってる?」
「無難なのは食べ物だろうけど……。その“主さん”が、どんな人なのかが分からないからなあ……」
「あ、そっか。主さんはねー、時間の歪みが感じ取れるんだ。んで、俺がここに派遣されたわけ」
その子から聞いた“主さん”の特徴はこうだった。
十代の年頃の女の子で、かなり多忙な人らしい。仕事で忙しいはずなのに、その子たちと関わる時間を作り、一緒に遊んだり、のんびり喋ったりするとのこと。
隙間時間を捻出しては、タブレットでファッション雑誌を眺めたりしているようだった。
「なるほどね〜。じゃあアクセサリとか良いんじゃない? チョーカーやブレスレットなら、手軽に買えるものもあるだろうし」
「本当⁉ お兄さん、ありがとう!」
その子は目を輝かせると、さっさとその場を立ち去っていった。
それ以来、そんな不思議な子どもと会うことはどこにもなかった。
今、思い返せば……。不思議な子と遭遇しなければ、俺は爆発に巻き込まれて死んでいたんだと思う。そして、“主さん”の指示がなければ、きっと不思議な子と遭遇しなかった。
あの小さな不思議な子と、主さん。もしも奇跡が起きて、二人と出会えることができたのなら。今の俺ができる、盛大な感謝の意を伝えたい。