玉昆金友
受け付けを済ませ、小竜にドリンクバーの説明をし、各々好きな飲料を持ち寄った。白雪はメロンソーダ、小竜はジンジャーエール、茶髪の少女はコーヒーをチョイスした。
「それで? あの時の声について、聞かせてもらえるかしら」
「あれは……以津真天」
「いつまで?」
こてん、と小首を傾げる茶髪の少女へ、白雪は当時の説明をした。
あの以津真天はメガネをかけた少年に取り憑いていた事、メガネ少年は他にも生霊や悪霊に取り憑かれている事、自分は霊能者で、ブレスレットは自分の霊能力を暴走させない為の補助アイテムだった事。
以津真天が途端に静まり返ったのは、三日月宗近という刀の付喪神———刀剣男士———が威圧した事で怯んだ事、今隣にいる小竜景光も刀剣男士のひとりである事。
一気に纏めて説明したからか、茶髪の少女は頭を抱えてしまった。脳内処理が追い付いていないのだろう。こんな頓痴気な説明をされたら誰もが同じ反応をすると思っているので、白雪は茶髪の少女が内容を咀嚼できるまで静かに待った。
「本当に信じがたい話ね……。だけど貴女が霊能者なら、あの怪奇現象も説明がつくわ」
「……驚かせて、ごめんね」
「いいわよ、別に。それにしても、どうして江戸川君に以津真天や霊が取り憑いているのかしら」
「こればかりは……どうにも」
茶髪の少女と話していると、背後に彼女と雰囲気がよく似たロングヘアの女性が視えた。守護霊だろうか。そして、脳内に過ったのは、「志保」と言う名前。
彼女たちに断りを入れ、ガチガチに結界を張り巡らせ、精密機器が壊れる程度の霊圧を上げた。
「先に……伝えて、おくね。……私は、貴女へ……危害を、加える、気は、全くない」
「……どうしたのよ、急に」
「貴女のお名前は、志保ちゃん?」
途端に茶髪の少女の顔が凍りついた。自ら名乗ってすらいないのに、名前を言い当てられたのだから。
警戒心を露わにする少女に安心してもらおうと、白雪は背後の女性に話しかける。
「申し訳ありません。お名前をお伺いしても……宮野、明美 さん?」
「お姉ちゃん……⁉︎ お姉ちゃんがそこにいるの⁉」
「お姉さんかは……分からない。だけど……赤髪で、ロングヘアの、若い女性。歳は二十代半ば?」
「お姉ちゃんだわ! お姉ちゃんは、何て言ってるの……⁉」
「落ち着いて、落ち着いて。キミのお姉さんだろ? 逃げやしないよ」
志保は幼女とは思えない力で白雪の方を鷲掴みにすると、力強くがくがくと揺さぶる。小竜が何とか宥め、その手を離してもらった。
想いは果実の切口から滲み出す漿液 のように、激しくなくとも、すぐには止まらない。胸を突き上げる気持ちが、志保の目から大粒の涙が溢れ出させ、ボロボロと頬を伝う。
死者との再会は、降谷は「奇跡」と称していた。彼も滂沱の涙を流していたので、やはり死者との再会は神業 に値するのだろう。
「それで……お姉ちゃんは、何て言ってるの?」
「……貴女を置いて逝ってしまって、ごめんなさいって。いつでも後ろで見守っているって。あと……大君? は悪くないって……」
「諸星 大 ……! あの男をどうして庇うの⁉ 恋人だから⁉ お姉ちゃんを見殺しにしたじゃない‼」
「ごめん状況ちょっと整理させてもらっていい?」
志保の話によると。
明美は、FBIの捜査目的で組織員となった諸星大に、組織の情報を得るため、車に当たり屋をされた事をきっかけに交際することになる。
明美を利用し潜入した諸星は、徐々に組織内で頭角を現していったものの、FBI捜査官とバレた彼は、宮野姉妹を組織へ置いて逃亡。
明美は「FBIの組織への潜入捜査を手引きした危険人物」として、今後も組織の情報を外に漏らす原因を作る可能性が高いと考えた組織に殺害された。
組織が姉の死の真相を明かすまで薬の研究を中断したことから、組織の怒りを買い監禁されてしまい、どうせ殺されるならいっそ……と自らが開発したAPTX4869 を服用したところ、幸運にも幼児化現象が発生し、拘束具をすり抜け逃亡に成功して今に至る。
想像以上にヘビーな話題に、白雪と小竜景光は顔を見合わせる。まるで深い海の中に突き落とされたかのような、息苦しさが個室を覆った。
そして、疑問を抱いた。FBIが信用できないのなら、なぜ日本の警察を頼らないのか。単刀直入に尋ねると、志保は口籠る。
「そんな……私は、警察に頼るなんて資格は……」
「志保ちゃんは被害者なんでしょう? お姉さんも、警察に頼っていいって」
「FBIは……結果的にご令姉さまを見殺しにしたし、信用できないよねえ。俺なら警察一択かな」
「小竜ちゃんに話は聞いてないよ」
白雪と小竜景光の言葉に、志保の顔に動揺が伺えた。その顔に、一人の女性が脳裏を過る。
先日、降谷に依頼されて口寄せした、金髪碧眼の、綺麗な女性。彼女の願いは「娘 を護って欲しい」。そして、姉 は組織に殺された。……もしかして、もしかしたら。彼女が、エレーナの娘なのだろうか。
「……ねえ、志保ちゃん。もしかして、ご母堂様のお名前って、エレーナさん?」
「まさか……お母さんも来ているの⁉」
「いや、来てはいないけれど……先日お願いされて口寄せした人が、偶然エレーナさんで」
まさかまさかの大正解。白雪は先日の降谷の件を軽く説明し、彼へ連絡を取っていいか確認を取れば、志保は首を縦に振る。
すぐさま降谷に連絡を取れば、三秒で「迎えに行く」と返信が返ってきた。仕事が速いな公安警察。
そして待つこと十数分。安室透として活動していたのか、私服で駆け込んできた。しかし志保の表情が恐怖で凍てついてしまう。
「バ、バーボン……」
「……僕の本名は、降谷零。警視庁 警備局 警備 企画課 に所属する、警察官だ」
「嘘……アナタ、NOCだったの⁉」
「えっと……降谷さん、……その、この件は……お任せしちゃって、大丈夫でしょうか」
「あぁ。ご協力、ありがとう。……キミには本当に、頭が上がらないよ」
「当然だろう? 俺の主なんだから」
「なんで小竜ちゃんが自慢げなの」
彼の辞書には謙虚の文字が掲載されていないのか、なぜか自慢げに胸を張る小竜景光。
これからの志保のことは降谷へ任せ(丸投げしたとも言う)、白雪は志保へ向き直った。
「……そうだ、志保ちゃん。あの、えっと……明美さんと、お話しできたお礼として……お友達に、なって欲しいの」
「……は?」
「あっやっぱり無理ならいいです大丈夫です出過ぎた真似をしてごめんなさい」
「もちろん良いに決まってるじゃない! 私が元の身体に戻っても、親友なんだから‼」
ふふっと共に笑いあう女子二人。そこには花弁の中に包まれたかのような、穏やかな空気が広がっていた。
「それで? あの時の声について、聞かせてもらえるかしら」
「あれは……以津真天」
「いつまで?」
こてん、と小首を傾げる茶髪の少女へ、白雪は当時の説明をした。
あの以津真天はメガネをかけた少年に取り憑いていた事、メガネ少年は他にも生霊や悪霊に取り憑かれている事、自分は霊能者で、ブレスレットは自分の霊能力を暴走させない為の補助アイテムだった事。
以津真天が途端に静まり返ったのは、三日月宗近という刀の付喪神———刀剣男士———が威圧した事で怯んだ事、今隣にいる小竜景光も刀剣男士のひとりである事。
一気に纏めて説明したからか、茶髪の少女は頭を抱えてしまった。脳内処理が追い付いていないのだろう。こんな頓痴気な説明をされたら誰もが同じ反応をすると思っているので、白雪は茶髪の少女が内容を咀嚼できるまで静かに待った。
「本当に信じがたい話ね……。だけど貴女が霊能者なら、あの怪奇現象も説明がつくわ」
「……驚かせて、ごめんね」
「いいわよ、別に。それにしても、どうして江戸川君に以津真天や霊が取り憑いているのかしら」
「こればかりは……どうにも」
茶髪の少女と話していると、背後に彼女と雰囲気がよく似たロングヘアの女性が視えた。守護霊だろうか。そして、脳内に過ったのは、「志保」と言う名前。
彼女たちに断りを入れ、ガチガチに結界を張り巡らせ、精密機器が壊れる程度の霊圧を上げた。
「先に……伝えて、おくね。……私は、貴女へ……危害を、加える、気は、全くない」
「……どうしたのよ、急に」
「貴女のお名前は、志保ちゃん?」
途端に茶髪の少女の顔が凍りついた。自ら名乗ってすらいないのに、名前を言い当てられたのだから。
警戒心を露わにする少女に安心してもらおうと、白雪は背後の女性に話しかける。
「申し訳ありません。お名前をお伺いしても……宮野、
「お姉ちゃん……⁉︎ お姉ちゃんがそこにいるの⁉」
「お姉さんかは……分からない。だけど……赤髪で、ロングヘアの、若い女性。歳は二十代半ば?」
「お姉ちゃんだわ! お姉ちゃんは、何て言ってるの……⁉」
「落ち着いて、落ち着いて。キミのお姉さんだろ? 逃げやしないよ」
志保は幼女とは思えない力で白雪の方を鷲掴みにすると、力強くがくがくと揺さぶる。小竜が何とか宥め、その手を離してもらった。
想いは果実の切口から滲み出す
死者との再会は、降谷は「奇跡」と称していた。彼も滂沱の涙を流していたので、やはり死者との再会は
「それで……お姉ちゃんは、何て言ってるの?」
「……貴女を置いて逝ってしまって、ごめんなさいって。いつでも後ろで見守っているって。あと……大君? は悪くないって……」
「
「ごめん状況ちょっと整理させてもらっていい?」
志保の話によると。
明美は、FBIの捜査目的で組織員となった諸星大に、組織の情報を得るため、車に当たり屋をされた事をきっかけに交際することになる。
明美を利用し潜入した諸星は、徐々に組織内で頭角を現していったものの、FBI捜査官とバレた彼は、宮野姉妹を組織へ置いて逃亡。
明美は「FBIの組織への潜入捜査を手引きした危険人物」として、今後も組織の情報を外に漏らす原因を作る可能性が高いと考えた組織に殺害された。
組織が姉の死の真相を明かすまで薬の研究を中断したことから、組織の怒りを買い監禁されてしまい、どうせ殺されるならいっそ……と自らが開発した
想像以上にヘビーな話題に、白雪と小竜景光は顔を見合わせる。まるで深い海の中に突き落とされたかのような、息苦しさが個室を覆った。
そして、疑問を抱いた。FBIが信用できないのなら、なぜ日本の警察を頼らないのか。単刀直入に尋ねると、志保は口籠る。
「そんな……私は、警察に頼るなんて資格は……」
「志保ちゃんは被害者なんでしょう? お姉さんも、警察に頼っていいって」
「FBIは……結果的にご令姉さまを見殺しにしたし、信用できないよねえ。俺なら警察一択かな」
「小竜ちゃんに話は聞いてないよ」
白雪と小竜景光の言葉に、志保の顔に動揺が伺えた。その顔に、一人の女性が脳裏を過る。
先日、降谷に依頼されて口寄せした、金髪碧眼の、綺麗な女性。彼女の願いは「
「……ねえ、志保ちゃん。もしかして、ご母堂様のお名前って、エレーナさん?」
「まさか……お母さんも来ているの⁉」
「いや、来てはいないけれど……先日お願いされて口寄せした人が、偶然エレーナさんで」
まさかまさかの大正解。白雪は先日の降谷の件を軽く説明し、彼へ連絡を取っていいか確認を取れば、志保は首を縦に振る。
すぐさま降谷に連絡を取れば、三秒で「迎えに行く」と返信が返ってきた。仕事が速いな公安警察。
そして待つこと十数分。安室透として活動していたのか、私服で駆け込んできた。しかし志保の表情が恐怖で凍てついてしまう。
「バ、バーボン……」
「……僕の本名は、降谷零。
「嘘……アナタ、NOCだったの⁉」
「えっと……降谷さん、……その、この件は……お任せしちゃって、大丈夫でしょうか」
「あぁ。ご協力、ありがとう。……キミには本当に、頭が上がらないよ」
「当然だろう? 俺の主なんだから」
「なんで小竜ちゃんが自慢げなの」
彼の辞書には謙虚の文字が掲載されていないのか、なぜか自慢げに胸を張る小竜景光。
これからの志保のことは降谷へ任せ(丸投げしたとも言う)、白雪は志保へ向き直った。
「……そうだ、志保ちゃん。あの、えっと……明美さんと、お話しできたお礼として……お友達に、なって欲しいの」
「……は?」
「あっやっぱり無理ならいいです大丈夫です出過ぎた真似をしてごめんなさい」
「もちろん良いに決まってるじゃない! 私が元の身体に戻っても、親友なんだから‼」
ふふっと共に笑いあう女子二人。そこには花弁の中に包まれたかのような、穏やかな空気が広がっていた。