玉昆金友
不躾な子どもと女子高生たちに絡まれてから、早数日。
以津真天 だけでなく、数多くの生霊 ・怨霊が取り憑いていた、悪鬼のような少年が子どもが気になり、彼やその周辺を調べると。
「マジか……。護る人くらい選ばせてよ〜」
あの日絡まれた少年少女の殆どが、時の政府の保護リストに掲載されていた。その上少年には戸籍がない。
最初は何かの間違いでは? と時の政府の役人に何度も問い合わせたが、返ってくるのは「異常なし」の文言のみ。
正直に言うと、二度とあの子どもたちに関わり合いたくない。しかし、あの子どもが「キッドキラー」と巷で騒がれ、世界的に活躍する悪の組織を壊滅へ追いやるくらいには、時の政府も重要視しているのだ。
命令に従わなければ、本丸ごと刀解される。刀剣男士たちを人質に取られているようなものだ。渋々文句を零しつつ、白雪は今日も審神者の執務に取りかかる。
*
私用のチャットアプリに、連絡を知らせる音声が鳴った。
アプリを開くと、安室から———降谷零として———会いたい旨と、先日の騒動についての謝罪メッセージが来ていた。
結局手遅れになってしまったが、何だかんだブレスレットの貸与を阻止してくれようとしたのだ。
諸伏兄弟も松田も萩原も、皆気にかけてくれている。その優しさが、白雪の心の氷を溶かし始めていた。
白雪は人間が嫌いだ。
白雪が関わってきた人間は、一言で言えば大抵カスだった。普通とは違う容姿を気味悪がり、普通とは違う力を持つと知れば化け物呼ばわりし、排除しようとした。時代が時代なら、運良くても見世物小屋か、最悪忌み子として生贄コース待ったなしだったろう。
ときには安室透として探偵として働き、ときには悪の組織の幹部・バーボンとして探りを入れ、ときには降谷零として公安の指揮を執る彼は、白雪に勝るとも劣らないほど多忙な人だ。この人よく過労死しないなと内心思っていたりする。可能なら長期休暇今すぐにでも取って休んでほしい。
そんな彼と都合を合わせ、スケジュールに無理やり予定をねじ込む。
急に入る仕事といえば、浄霊部隊大隊長の仕事程度だ。ところが、大隊長が直々に浄霊するのは、本当に他の人間でも手を付けられないような最悪の事態。そのためスケジューリングさえ何とかすれば、意外と何とかなるのである。
ただし、先日の件があったため、護衛の刀剣男士と同伴になると降谷へ伝えた。
見ず知らずの子どもにブレスレットを引き千切られ、保護者であろう女子高生も注意する事なく助長させた。
直接的な加害を加えられたわけではないものの、それ以来刀剣男士たちはかなり神経過敏になっている。常に刀剣男士の誰かを控えていなければ、本丸の庭園に出る事すら止められるほどになってしまったのだ。
白雪としては自由が欲しい反面、刀剣男士たちの気持ちも理解できる。一歩間違えたら神隠し。ギリギリの線引きが難しいが、刀剣男士たちの意志をなるべく尊重したい彼女は、特にとやかく言う事はなかった。
再びチャットアプリの通知音が鳴る。降谷の返答だ。
「是非連れてきて欲しい。これで罪が償われるとは思っていないが、彼らへ謝罪したい」
(んな大げさな……)
白雪は苦笑いを零しながらも、ちょうど通りがかった刀剣男士へ声をかけた。
*
そして当日。指定されたのは警察庁の中央合同庁舎二号館。
護衛の乱 藤四郎 と一緒に、聳え立つ摩天楼を眺めていた。
「失礼いたします。白雪さん……でお間違いないでしょうか」
「アッハイ」
声を掛けたのは降谷……ではなく、グレーのスーツ姿にメガネをかけた、大柄で筋骨粒々の体躯の男性。大太刀の刀剣男士のような屈強な肉体に、白雪は思わずたじろいだ。
挙動不審な不審者ムーブをかます白雪に動じず、大きな図体の男性は庁舎の中へ案内する。通された先は、会議室のような個室だった。
音を閉じ込める為に造られたような薄暗いような部屋は、長らく掃除されていないのか、どこか埃の臭いが鼻を擽る。
ブラインドで隔離されたその中で、降谷零がぽつんと佇んでいた。
「降谷さん、連れてきました」
「お、お邪魔します……」
「ありがとう風見 。もう下がっていいぞ」
「……ですが降谷さん。霊能力者を頼るだなんて、貴方らしくない。きっと騙されて———」
「下がれ」
降谷の声は、人の上に立つものとしての、威厳のある声だ。それでも風見と呼ばれた部下らしき男性は、引き下がる様子を見せない。
白雪そっちのけで、降谷と風見とのバトルが始まった。空気が濃く重くドロリと液体化して、生温かい糊のようにねばねばと皮膚にまといつく。しばらく重たい沈黙が続き、ぴりぴりとした空気が肌を刺す。
ずっと緊張しっぱなしの空気を打破したのは、白雪の一声だった。
「あのぅ……。えっと、降谷さんさえ、宜しければ……。風見さん? と同席しても、大丈夫ですよ」
「多分そこのお兄さんは、騙されてないか心配なだけだよ。オカルトだとかスピリチュアルだとか、超常現象の話をされても、この男の人には視えない……つまり存在しない。口八丁手八丁で上手い事騙されている……。そう捉えられても仕方ないよ。寂しいけどね」
「……いいのですか? 自分自身を否定されたようなものでしょう」
「主さんの神通力然り、僕の存在 を信じるひとなんてそうそういないよ。主さんも僕も慣れてる」
にこりと微笑を浮かべる白雪と、お供の乱藤四郎。その微笑はどこか儚げで、触れてしまえば壊れそうな繊細さを醸していた。
「マジか……。護る人くらい選ばせてよ〜」
あの日絡まれた少年少女の殆どが、時の政府の保護リストに掲載されていた。その上少年には戸籍がない。
最初は何かの間違いでは? と時の政府の役人に何度も問い合わせたが、返ってくるのは「異常なし」の文言のみ。
正直に言うと、二度とあの子どもたちに関わり合いたくない。しかし、あの子どもが「キッドキラー」と巷で騒がれ、世界的に活躍する悪の組織を壊滅へ追いやるくらいには、時の政府も重要視しているのだ。
命令に従わなければ、本丸ごと刀解される。刀剣男士たちを人質に取られているようなものだ。渋々文句を零しつつ、白雪は今日も審神者の執務に取りかかる。
*
私用のチャットアプリに、連絡を知らせる音声が鳴った。
アプリを開くと、安室から———降谷零として———会いたい旨と、先日の騒動についての謝罪メッセージが来ていた。
結局手遅れになってしまったが、何だかんだブレスレットの貸与を阻止してくれようとしたのだ。
諸伏兄弟も松田も萩原も、皆気にかけてくれている。その優しさが、白雪の心の氷を溶かし始めていた。
白雪は人間が嫌いだ。
白雪が関わってきた人間は、一言で言えば大抵カスだった。普通とは違う容姿を気味悪がり、普通とは違う力を持つと知れば化け物呼ばわりし、排除しようとした。時代が時代なら、運良くても見世物小屋か、最悪忌み子として生贄コース待ったなしだったろう。
ときには安室透として探偵として働き、ときには悪の組織の幹部・バーボンとして探りを入れ、ときには降谷零として公安の指揮を執る彼は、白雪に勝るとも劣らないほど多忙な人だ。この人よく過労死しないなと内心思っていたりする。可能なら長期休暇今すぐにでも取って休んでほしい。
そんな彼と都合を合わせ、スケジュールに無理やり予定をねじ込む。
急に入る仕事といえば、浄霊部隊大隊長の仕事程度だ。ところが、大隊長が直々に浄霊するのは、本当に他の人間でも手を付けられないような最悪の事態。そのためスケジューリングさえ何とかすれば、意外と何とかなるのである。
ただし、先日の件があったため、護衛の刀剣男士と同伴になると降谷へ伝えた。
見ず知らずの子どもにブレスレットを引き千切られ、保護者であろう女子高生も注意する事なく助長させた。
直接的な加害を加えられたわけではないものの、それ以来刀剣男士たちはかなり神経過敏になっている。常に刀剣男士の誰かを控えていなければ、本丸の庭園に出る事すら止められるほどになってしまったのだ。
白雪としては自由が欲しい反面、刀剣男士たちの気持ちも理解できる。一歩間違えたら神隠し。ギリギリの線引きが難しいが、刀剣男士たちの意志をなるべく尊重したい彼女は、特にとやかく言う事はなかった。
再びチャットアプリの通知音が鳴る。降谷の返答だ。
「是非連れてきて欲しい。これで罪が償われるとは思っていないが、彼らへ謝罪したい」
(んな大げさな……)
白雪は苦笑いを零しながらも、ちょうど通りがかった刀剣男士へ声をかけた。
*
そして当日。指定されたのは警察庁の中央合同庁舎二号館。
護衛の
「失礼いたします。白雪さん……でお間違いないでしょうか」
「アッハイ」
声を掛けたのは降谷……ではなく、グレーのスーツ姿にメガネをかけた、大柄で筋骨粒々の体躯の男性。大太刀の刀剣男士のような屈強な肉体に、白雪は思わずたじろいだ。
挙動不審な不審者ムーブをかます白雪に動じず、大きな図体の男性は庁舎の中へ案内する。通された先は、会議室のような個室だった。
音を閉じ込める為に造られたような薄暗いような部屋は、長らく掃除されていないのか、どこか埃の臭いが鼻を擽る。
ブラインドで隔離されたその中で、降谷零がぽつんと佇んでいた。
「降谷さん、連れてきました」
「お、お邪魔します……」
「ありがとう
「……ですが降谷さん。霊能力者を頼るだなんて、貴方らしくない。きっと騙されて———」
「下がれ」
降谷の声は、人の上に立つものとしての、威厳のある声だ。それでも風見と呼ばれた部下らしき男性は、引き下がる様子を見せない。
白雪そっちのけで、降谷と風見とのバトルが始まった。空気が濃く重くドロリと液体化して、生温かい糊のようにねばねばと皮膚にまといつく。しばらく重たい沈黙が続き、ぴりぴりとした空気が肌を刺す。
ずっと緊張しっぱなしの空気を打破したのは、白雪の一声だった。
「あのぅ……。えっと、降谷さんさえ、宜しければ……。風見さん? と同席しても、大丈夫ですよ」
「多分そこのお兄さんは、騙されてないか心配なだけだよ。オカルトだとかスピリチュアルだとか、超常現象の話をされても、この男の人には視えない……つまり存在しない。口八丁手八丁で上手い事騙されている……。そう捉えられても仕方ないよ。寂しいけどね」
「……いいのですか? 自分自身を否定されたようなものでしょう」
「主さんの神通力然り、
にこりと微笑を浮かべる白雪と、お供の乱藤四郎。その微笑はどこか儚げで、触れてしまえば壊れそうな繊細さを醸していた。