遺簪墜屨
料理が届く間、最近の世間話に入る。諸伏から聞いた怪談とオカルトな話と、それにまつわるお説教だが。
とはいえ、それは白雪の仕事の話。つまり「二度とするな」=「仕事を辞めろ」と同意義なので、彼女としても「善処します」だの「以後気をつけます」としか言い様がないのだ。
これ以上は平行線だと判断した萩原は、以前白雪の持っていなかったブレスレットの話題へ移す。モリオンと天眼石を組み合わせ、アクセントに水晶に梵字が刻印されたシンプルなカラーリングのブレスレットだ。
「綺麗だね、そのブレスレット。よく見たら水晶に梵字が彫られてるじゃーん! オッシャレ〜♪」
「おわ、マジだ……細けえな」
「えっと、先日のことが……あったので、その……御守り、というか……補助道具? みたいな……」
「あ〜、パワーストーン的なヤツ? 最近流行ってるよなあ」
「お待たせしました、ご注文のイカスミパスタとハムサンドとホットケーキです」
運ばれてきたほかほかの料理は、湯気が立ってとても美味しそうだ。早速手を合わせ、口へ運ぶ。
ホットケーキ特有のふわふわ食感に、バターと生クリームのまったりとコクのある味が、口の中にとろけるように広がって、どこか閑雅な甘さが何とも言えない、豊かな味がした。まさにこれこそ、しあわせの味。
思わず白雪の目がぱぁっと煌めき、口が綻んだ。
「お、美味しい……!」
「おー、良かったな」
「ふふっ、口に合ったようで何よりです〜!」
白雪は無我夢中でぱくぱくと、それでいてお行儀よく、美味しいと幸せそうに呟きながら、ひたすらホットケーキを口に運ぶ。
思わず顔が綻ぶ梓と安室と松田と萩原は、その光景の虜になっていた。この光景を一生見ていたい。とにかくたんとお食べ。彼らの心の中はひとつになっていた。
カランカラン。再び鈴が来客を告げ、梓が対応する。休日ということも相まって、店内は大盛況だ。
無意識に白雪はドアの方へ視線を移す。その際、思わず二度見三度見してしまった。なぜなら、来客した少年が、あり得ないほど生霊・悪霊問わず取り憑かれているからだ。
慌てて視線を逸らし、窓の外へ視線を移す。そこには現代にいるはずのない怪鳥・以津真天 が、睨むように少年を見詰めていた。
白雪は思わず悲鳴を上げてしまったが、幸いにも聞こえたのは同席している松田と萩原、そして隣のテーブルを拭いていた安室だけ。彼女の異変に気付いたのもこの三人だけだ。
「ひぃっ……!」
「おい、どうした?」
「何かヤバいもんでも視えたのか」
松田の問いに、静かに頷く白雪。そっと窓の外を指差すも、霊感のない二人には何の変哲もない風景にしか視えない。
いつまで、いつまで、いつまで! けたたましく鳴き喚く怪鳥に気を取られ、近づく気配に気付かなかった。
「ねえねえお姉さん! お姉さんの白髪、とっても綺麗だね! 見せて見せて〜!」
「僕も見たいです! わぁ、目も赤色なんですね!」
「なぁなぁ姉ちゃん、ちょっと見せてくれよ!」
先ほど来店した子どもたちが、白雪の髪を見せてとせがむ。まさか、大量に取り憑かれている悪鬼のような少年たちが、この容姿目当てに話しかけるとは思わなかったからだ。
これには松田や萩原も顔を顰め、「コイツらの躾はどうなってんだ」と心の中で貶 する。
唯一彼らの行動を止めたのは、保護者らしき女子高生二人組ではなく、同じ年ごろの赤毛の少女だった。
白雪はその少女をじっと見詰めて霊視する。悪鬼のような少年に気を取られていたが、その少女も奇怪千万だった。普通なら十代半ばの年齢の魂が、小学生低学年の身体に無理やり収まっている。
だんまりと押し黙る白雪そっちのけでぎゃいのぎゃいのと騒ぎ立て、梓から注意されるも、子どもたちは聞く耳を持たない。
「ちょっと貴方たち、止めなさい!」
「えぇ〜⁉ どうして哀ちゃん! このお姉さん、凄く綺麗な白髪だよ! 目も赤色で、うさぎさんみたいだよ! こんな人見たことない!」
「だからといって、貴方たちに見世物にされる謂れはないでしょう!」
「けどよぉ灰原、気になるじゃねえか!」
「良いじゃねえか、ちょっと見せてもらうくらい」
「江戸川くんまで何を言ってるの⁉ 良いわけないでしょう‼」
不躾な態度の子どもたち、そして赤毛の少女の霊視。注目が集まる店内。それら全てが、白雪の食べる手をぴたりと止まらせた。
とはいえ、それは白雪の仕事の話。つまり「二度とするな」=「仕事を辞めろ」と同意義なので、彼女としても「善処します」だの「以後気をつけます」としか言い様がないのだ。
これ以上は平行線だと判断した萩原は、以前白雪の持っていなかったブレスレットの話題へ移す。モリオンと天眼石を組み合わせ、アクセントに水晶に梵字が刻印されたシンプルなカラーリングのブレスレットだ。
「綺麗だね、そのブレスレット。よく見たら水晶に梵字が彫られてるじゃーん! オッシャレ〜♪」
「おわ、マジだ……細けえな」
「えっと、先日のことが……あったので、その……御守り、というか……補助道具? みたいな……」
「あ〜、パワーストーン的なヤツ? 最近流行ってるよなあ」
「お待たせしました、ご注文のイカスミパスタとハムサンドとホットケーキです」
運ばれてきたほかほかの料理は、湯気が立ってとても美味しそうだ。早速手を合わせ、口へ運ぶ。
ホットケーキ特有のふわふわ食感に、バターと生クリームのまったりとコクのある味が、口の中にとろけるように広がって、どこか閑雅な甘さが何とも言えない、豊かな味がした。まさにこれこそ、しあわせの味。
思わず白雪の目がぱぁっと煌めき、口が綻んだ。
「お、美味しい……!」
「おー、良かったな」
「ふふっ、口に合ったようで何よりです〜!」
白雪は無我夢中でぱくぱくと、それでいてお行儀よく、美味しいと幸せそうに呟きながら、ひたすらホットケーキを口に運ぶ。
思わず顔が綻ぶ梓と安室と松田と萩原は、その光景の虜になっていた。この光景を一生見ていたい。とにかくたんとお食べ。彼らの心の中はひとつになっていた。
カランカラン。再び鈴が来客を告げ、梓が対応する。休日ということも相まって、店内は大盛況だ。
無意識に白雪はドアの方へ視線を移す。その際、思わず二度見三度見してしまった。なぜなら、来客した少年が、あり得ないほど生霊・悪霊問わず取り憑かれているからだ。
慌てて視線を逸らし、窓の外へ視線を移す。そこには現代にいるはずのない怪鳥・
白雪は思わず悲鳴を上げてしまったが、幸いにも聞こえたのは同席している松田と萩原、そして隣のテーブルを拭いていた安室だけ。彼女の異変に気付いたのもこの三人だけだ。
「ひぃっ……!」
「おい、どうした?」
「何かヤバいもんでも視えたのか」
松田の問いに、静かに頷く白雪。そっと窓の外を指差すも、霊感のない二人には何の変哲もない風景にしか視えない。
いつまで、いつまで、いつまで! けたたましく鳴き喚く怪鳥に気を取られ、近づく気配に気付かなかった。
「ねえねえお姉さん! お姉さんの白髪、とっても綺麗だね! 見せて見せて〜!」
「僕も見たいです! わぁ、目も赤色なんですね!」
「なぁなぁ姉ちゃん、ちょっと見せてくれよ!」
先ほど来店した子どもたちが、白雪の髪を見せてとせがむ。まさか、大量に取り憑かれている悪鬼のような少年たちが、この容姿目当てに話しかけるとは思わなかったからだ。
これには松田や萩原も顔を顰め、「コイツらの躾はどうなってんだ」と心の中で
唯一彼らの行動を止めたのは、保護者らしき女子高生二人組ではなく、同じ年ごろの赤毛の少女だった。
白雪はその少女をじっと見詰めて霊視する。悪鬼のような少年に気を取られていたが、その少女も奇怪千万だった。普通なら十代半ばの年齢の魂が、小学生低学年の身体に無理やり収まっている。
だんまりと押し黙る白雪そっちのけでぎゃいのぎゃいのと騒ぎ立て、梓から注意されるも、子どもたちは聞く耳を持たない。
「ちょっと貴方たち、止めなさい!」
「えぇ〜⁉ どうして哀ちゃん! このお姉さん、凄く綺麗な白髪だよ! 目も赤色で、うさぎさんみたいだよ! こんな人見たことない!」
「だからといって、貴方たちに見世物にされる謂れはないでしょう!」
「けどよぉ灰原、気になるじゃねえか!」
「良いじゃねえか、ちょっと見せてもらうくらい」
「江戸川くんまで何を言ってるの⁉ 良いわけないでしょう‼」
不躾な態度の子どもたち、そして赤毛の少女の霊視。注目が集まる店内。それら全てが、白雪の食べる手をぴたりと止まらせた。