遺簪墜屨
ふわり。まるで宙を浮かぶような感覚が白雪を包み込んだ、その直後。周囲の風景が代わり、摩天楼が連なる現代へ変わった。
スマホをたぷたぷ触り、指定された場所と日時を確認する。
「日付は合ってる、待ち合わせ場所は米花駅……ここかぁ」
目の前に静かに佇むベンチに腰をかけ、暇潰しにSNSを触る。
もちろん出かける前に現世ファッションもとい不審者ファッションに着替えてきた。さすがに巫女装束は現世で浮きすぎる。
(このショーパン、ダメージ可愛い……。こっちのパーカーやTシャツも使い勝手良さそう……。このサングラス、鼈甲色で高級感あっていいな……)
ファッション雑誌が読み放題のアプリに夢中になっていたら、名前を呼ばれる。聞き馴染みのある声だったので、すぐに顔を上げる。
萩原と松田だ。二人はセンスのある服装に身を包み、周囲の女性から黄色い声が上がっている。
これなら自分もそこまで注目されることはないだろう。強く照りつける日差しの関係で、帽子もパーカーもサングラスも装着したままだが。
「おーい、白雪ちゃ〜ん!」
「先に来てたのかよ」
「……萩原さん、松田さん。お久しぶりです」
「忙しいのにごめんね〜」
「それは……お二人も、同じでは?」
「お前なぁ……。この前イタコに失敗したとかで、一週間昏睡して入院したって諸伏から聞いたぞ」
「……えへへ」
「えへへじゃねーよこの馬鹿阿呆二度とやるな」
「……えへへ」
さてはコイツ改善する気はないな。
松田は軽く拳骨を落とし、萩原は頭を抱えた。だがこればかりは仕事なので許して欲しい。白雪は頬を膨らませた。
二人が連れて行った先は、前回連れて来られた喫茶店・ポアロだ。
来客を告げるカウベルが鳴ると、看板娘の榎本 梓 が接客を行った。安室は別の客の接客中。
梓と萩原や松田はこの店を良く利用してる為か、世間話を交え、割とフレンドリーに接している。
「いらっしゃいませ〜! あら、松田さんに萩原さんじゃないですか! 安室さんは接客中なので、すぐにお話しできそうにないですけど……」
「別に構わねーよ。コイツに美味い飯食わせてえだけだ」
「白雪ちゃん、このテーブル席で構わない?」
「えっと……その、お任せします」
「松田さん、その子は?」
「……命の恩人だよ」
「へぇ〜!」
店内は小奇麗に整えられていて、ちょうど休日の昼餉時だということもあり、客層は老若男女問わず、料理に舌鼓を打っている。
客足は好調で、安室目当てで来店する女子高生が多いように見えた。
客商売も大変だなあ。白雪は脳内の隅で安室に思いを馳せつつ、サングラスを外し、キャップとフードを脱いだ。途端に艶のある白銀 の髪が顕になり、梓は思わず声を上げる。
「わぁ、凄く綺麗な髪ですね! それに瞳も宝石みたいな赤色……! 人間じゃないみたいでとっても素敵です!」
「……えっと、これは、その……」
「ブリーチではなく地毛ですよ、梓さん。彼女はアルビノで、体内でメラニンという色素を生成するチロシナーゼの働きが弱い為、このような見た目になるんです」
「えっ⁉ やだ、すいません‼ とってもお綺麗だったから……!」
「……いえ、大丈夫です。……褒めてくださったのは、ちゃんとわかりますから。……たとえ、それがお世辞でも、嬉しいです」
接客が終わった安室が会話に入り、梓へアルビノの説明をする。
説明を聞いた彼女は顔を真っ青にして謝罪したが、もちろん悪気があったわけではないし、貶したわけでもなかったので、白雪は特に気に留めなかった。
メニューを渡され、白雪はぺらぺらとページを捲る。
梓のお勧めはハムサンドとイカスミパスタらしく、萩原はイカスミパスタを、松田はハムサンドをそれぞれ注文した。飲み物はブラックコーヒーのアイスである。
「梓ちゃんの作るイカスミパスタ、刑事の間でも人気なんだよね〜」
「ありがとうございます! 安室さんが作るハムサンドも大人気なんですよ」
「お褒めに預かり恐縮です」
「オメーは……ホットケーキとミルクティーのホットでいいだろ。さっきからずっとそれ見てるし」
「えっ、そんなに分かり易かったですか」
「じゃあホットケーキとミルクティーのホットで! お砂糖は要る?」
「ほ……欲しい、です……」
確かに、喫茶店で食べるホットケーキは美味しいし、白雪はもちろんその腹積もりであった。しかし写真が掲載されていないので、食べ切れるかどうか心配なのだ。
食べ切れそうになかったら持ち帰りできるか聞いてみよう。白雪はメニューをぱたんと閉じ、注文を聞きに来た安室へ手渡した。
スマホをたぷたぷ触り、指定された場所と日時を確認する。
「日付は合ってる、待ち合わせ場所は米花駅……ここかぁ」
目の前に静かに佇むベンチに腰をかけ、暇潰しにSNSを触る。
もちろん出かける前に現世ファッションもとい不審者ファッションに着替えてきた。さすがに巫女装束は現世で浮きすぎる。
(このショーパン、ダメージ可愛い……。こっちのパーカーやTシャツも使い勝手良さそう……。このサングラス、鼈甲色で高級感あっていいな……)
ファッション雑誌が読み放題のアプリに夢中になっていたら、名前を呼ばれる。聞き馴染みのある声だったので、すぐに顔を上げる。
萩原と松田だ。二人はセンスのある服装に身を包み、周囲の女性から黄色い声が上がっている。
これなら自分もそこまで注目されることはないだろう。強く照りつける日差しの関係で、帽子もパーカーもサングラスも装着したままだが。
「おーい、白雪ちゃ〜ん!」
「先に来てたのかよ」
「……萩原さん、松田さん。お久しぶりです」
「忙しいのにごめんね〜」
「それは……お二人も、同じでは?」
「お前なぁ……。この前イタコに失敗したとかで、一週間昏睡して入院したって諸伏から聞いたぞ」
「……えへへ」
「えへへじゃねーよこの馬鹿阿呆二度とやるな」
「……えへへ」
さてはコイツ改善する気はないな。
松田は軽く拳骨を落とし、萩原は頭を抱えた。だがこればかりは仕事なので許して欲しい。白雪は頬を膨らませた。
二人が連れて行った先は、前回連れて来られた喫茶店・ポアロだ。
来客を告げるカウベルが鳴ると、看板娘の
梓と萩原や松田はこの店を良く利用してる為か、世間話を交え、割とフレンドリーに接している。
「いらっしゃいませ〜! あら、松田さんに萩原さんじゃないですか! 安室さんは接客中なので、すぐにお話しできそうにないですけど……」
「別に構わねーよ。コイツに美味い飯食わせてえだけだ」
「白雪ちゃん、このテーブル席で構わない?」
「えっと……その、お任せします」
「松田さん、その子は?」
「……命の恩人だよ」
「へぇ〜!」
店内は小奇麗に整えられていて、ちょうど休日の昼餉時だということもあり、客層は老若男女問わず、料理に舌鼓を打っている。
客足は好調で、安室目当てで来店する女子高生が多いように見えた。
客商売も大変だなあ。白雪は脳内の隅で安室に思いを馳せつつ、サングラスを外し、キャップとフードを脱いだ。途端に艶のある
「わぁ、凄く綺麗な髪ですね! それに瞳も宝石みたいな赤色……! 人間じゃないみたいでとっても素敵です!」
「……えっと、これは、その……」
「ブリーチではなく地毛ですよ、梓さん。彼女はアルビノで、体内でメラニンという色素を生成するチロシナーゼの働きが弱い為、このような見た目になるんです」
「えっ⁉ やだ、すいません‼ とってもお綺麗だったから……!」
「……いえ、大丈夫です。……褒めてくださったのは、ちゃんとわかりますから。……たとえ、それがお世辞でも、嬉しいです」
接客が終わった安室が会話に入り、梓へアルビノの説明をする。
説明を聞いた彼女は顔を真っ青にして謝罪したが、もちろん悪気があったわけではないし、貶したわけでもなかったので、白雪は特に気に留めなかった。
メニューを渡され、白雪はぺらぺらとページを捲る。
梓のお勧めはハムサンドとイカスミパスタらしく、萩原はイカスミパスタを、松田はハムサンドをそれぞれ注文した。飲み物はブラックコーヒーのアイスである。
「梓ちゃんの作るイカスミパスタ、刑事の間でも人気なんだよね〜」
「ありがとうございます! 安室さんが作るハムサンドも大人気なんですよ」
「お褒めに預かり恐縮です」
「オメーは……ホットケーキとミルクティーのホットでいいだろ。さっきからずっとそれ見てるし」
「えっ、そんなに分かり易かったですか」
「じゃあホットケーキとミルクティーのホットで! お砂糖は要る?」
「ほ……欲しい、です……」
確かに、喫茶店で食べるホットケーキは美味しいし、白雪はもちろんその腹積もりであった。しかし写真が掲載されていないので、食べ切れるかどうか心配なのだ。
食べ切れそうになかったら持ち帰りできるか聞いてみよう。白雪はメニューをぱたんと閉じ、注文を聞きに来た安室へ手渡した。