序幕
さてどうしたものか、と背の高い男は顎に手を当てて考え込む素振りを見せる。白雪としては、今すぐにでもこの意味不明な状況から解放していただきたいものだが、その意図はもちろん通じるはずもない。
テーブルの上に注文したコーヒーが並べられる。コーヒーカップに口をつけながら、背の高い男は懐から警察手帳を取り出した。
「じゃあ名前も知らないワケか……。俺は伊達 航 。警視庁所属の刑事だよ」
「オレは諸伏 景光 。同じお巡りさんだけど、オレは長野県警所属。元々警視庁所属だったんだけどね」
人当たりの良い笑みを浮かべて自己開示する諸伏に対し、逆に警戒心を顕にする白雪。ところがハムスターが威嚇するようなもので、ジィッ! ジュイィ! と鳴かれても可愛いと思われるのが関の山である。
ぴりぴりしている白雪を見て、じーっとジト目で凝視する萩原は、彼女の服装に苦言を呈す。
確かにキャップを深く被り、フードで覆い隠し、更にサングラスにマスク。この風貌では、不審者だと言われても致し方ない。だがこうでもしなければ目立ってしまうのだ。
「それにしてもさ、帽子もフードもサングラスも取った方が良くない? せっかくの可愛い顔が見えなくなっちゃってるよ」
「こ……れは、その……」
「あーもう、まどろっしいな! ぐちゃぐちゃ言ってねえで、とっとと取っちまえ!」
松田がやや乱暴に帽子とサングラスをはぎ取り、白雪の容姿が顕になる。
夜空に煌めく星空の如き輝きを放つ白髪はとても艶やかで、やや吊り目がちなガーネットの瞳は、驚きと困惑を隠せずにいた。
まさか装備品を強奪されると思っていなかった白雪は、唐突に晒された光に怯みつつも、抗議の声を口に出す。
「返して‼」
「……おう。いきなり剥ぎ取って悪かったよ」
咄嗟に大きな声を出したのは本人も驚愕しているようで、慌てて口を手で隠す。その肌も深雪のようにどこまでも真っ白で、まるで精巧に作られた彫刻や人形のようだ。
まさか松田もそんなに強く拒否の意を示されると思わなかったようで、すぐに謝罪して帽子とサングラスを返却する。
もちろん驚いているのは松田や白雪だけでなく、萩原や伊達も目を白黒させていた。対する諸伏や降谷は、穴が空くほどじぃっと凝視する。
「ホォー……。人間のアルビノ、ですか……。僕は初めてお会いしましたね」
「そんなことないだろ、零 。お前もオレも、この子に命を救われたはずだ。忘れた……なんて野暮な弁解は聞きたくないな」
「忘れたわけではありません。確かにアルビノはかなり珍しいですが、同一人物だと仮定するには早すぎると言っているんです」
何かいきなり喧嘩し始めたよこの人たち……。
ばちばちと迸る火花に、白雪はこの混沌とした状況を打破すべく、この面子で一番まともそうな伊達に視線で助け船を求める。
今回は意図が通じたのか、伊達は手を鳴らして注目を集め、その場を取り仕切り始めた。
「ほらお前ら、喧嘩するな。お嬢ちゃんも困ってるだろ」
「そういや名前聞いてなかったね」
「……白雪、です」
「へえ〜! ぴったりな名前じゃん! 可愛い〜」
「あの……どうして、私……ここに、連れて来られ、たんですか? 人違い、では……」
おっかなびっくりで意見を伝える白雪に、伊達は萩原を咎めるような目で見詰める。もしかして何も事情を訊いていないのか、と伊達が白雪へ問えば、小さな頷きが返ってきた。
「萩原、松田。これは一体どういうことだ? 何も事情を説明せずにここまで無理やり連れてきたのか⁉」
「そういや……萩に腕掴まれてたとき、ワケ分からんって顔してたな……。本当に事情聞いてなかったのかよ」
「……聞いてない、です。……ちょっと付き合って、って言われて……そのまま」
「あれっ? え、俺説明してなかったっけ?」
しんと静まり返る店内。いたたまれなくなった白雪は、あわあわと手を動かしつつ萩原を庇い立てる。
きっと自分に用があって声をかけたのだろう。事情はこれから説明してくれれば構わない、と。
「……えっと、その、上手く言えないですけど……。萩原さん含めて、お巡りさん、なんです、よね。……だから、きっと、ちゃんと、確信を持って……話しかけてきたと、思うんです。……そのあたりの事情も含めて、これからお話ししてくだされば」
「し、白雪ちゃ〜ん……!」
「……白雪ちゃん、絆されて連帯保証人になっちゃ駄目だからね」
まさか庇われると思わなかった萩原は救世主の登場に目を輝かせ、周囲の面々は白雪の危機感のなさに危機感を覚えた。もちろん白雪も数多の戦場を乗り越えた猛者なので、人を見抜く審美眼はそれなりにあると自負しての行為なのだが。
まずは言い出しっぺかつ強制連行した萩原からだ。
テーブルの上に注文したコーヒーが並べられる。コーヒーカップに口をつけながら、背の高い男は懐から警察手帳を取り出した。
「じゃあ名前も知らないワケか……。俺は
「オレは
人当たりの良い笑みを浮かべて自己開示する諸伏に対し、逆に警戒心を顕にする白雪。ところがハムスターが威嚇するようなもので、ジィッ! ジュイィ! と鳴かれても可愛いと思われるのが関の山である。
ぴりぴりしている白雪を見て、じーっとジト目で凝視する萩原は、彼女の服装に苦言を呈す。
確かにキャップを深く被り、フードで覆い隠し、更にサングラスにマスク。この風貌では、不審者だと言われても致し方ない。だがこうでもしなければ目立ってしまうのだ。
「それにしてもさ、帽子もフードもサングラスも取った方が良くない? せっかくの可愛い顔が見えなくなっちゃってるよ」
「こ……れは、その……」
「あーもう、まどろっしいな! ぐちゃぐちゃ言ってねえで、とっとと取っちまえ!」
松田がやや乱暴に帽子とサングラスをはぎ取り、白雪の容姿が顕になる。
夜空に煌めく星空の如き輝きを放つ白髪はとても艶やかで、やや吊り目がちなガーネットの瞳は、驚きと困惑を隠せずにいた。
まさか装備品を強奪されると思っていなかった白雪は、唐突に晒された光に怯みつつも、抗議の声を口に出す。
「返して‼」
「……おう。いきなり剥ぎ取って悪かったよ」
咄嗟に大きな声を出したのは本人も驚愕しているようで、慌てて口を手で隠す。その肌も深雪のようにどこまでも真っ白で、まるで精巧に作られた彫刻や人形のようだ。
まさか松田もそんなに強く拒否の意を示されると思わなかったようで、すぐに謝罪して帽子とサングラスを返却する。
もちろん驚いているのは松田や白雪だけでなく、萩原や伊達も目を白黒させていた。対する諸伏や降谷は、穴が空くほどじぃっと凝視する。
「ホォー……。人間のアルビノ、ですか……。僕は初めてお会いしましたね」
「そんなことないだろ、
「忘れたわけではありません。確かにアルビノはかなり珍しいですが、同一人物だと仮定するには早すぎると言っているんです」
何かいきなり喧嘩し始めたよこの人たち……。
ばちばちと迸る火花に、白雪はこの混沌とした状況を打破すべく、この面子で一番まともそうな伊達に視線で助け船を求める。
今回は意図が通じたのか、伊達は手を鳴らして注目を集め、その場を取り仕切り始めた。
「ほらお前ら、喧嘩するな。お嬢ちゃんも困ってるだろ」
「そういや名前聞いてなかったね」
「……白雪、です」
「へえ〜! ぴったりな名前じゃん! 可愛い〜」
「あの……どうして、私……ここに、連れて来られ、たんですか? 人違い、では……」
おっかなびっくりで意見を伝える白雪に、伊達は萩原を咎めるような目で見詰める。もしかして何も事情を訊いていないのか、と伊達が白雪へ問えば、小さな頷きが返ってきた。
「萩原、松田。これは一体どういうことだ? 何も事情を説明せずにここまで無理やり連れてきたのか⁉」
「そういや……萩に腕掴まれてたとき、ワケ分からんって顔してたな……。本当に事情聞いてなかったのかよ」
「……聞いてない、です。……ちょっと付き合って、って言われて……そのまま」
「あれっ? え、俺説明してなかったっけ?」
しんと静まり返る店内。いたたまれなくなった白雪は、あわあわと手を動かしつつ萩原を庇い立てる。
きっと自分に用があって声をかけたのだろう。事情はこれから説明してくれれば構わない、と。
「……えっと、その、上手く言えないですけど……。萩原さん含めて、お巡りさん、なんです、よね。……だから、きっと、ちゃんと、確信を持って……話しかけてきたと、思うんです。……そのあたりの事情も含めて、これからお話ししてくだされば」
「し、白雪ちゃ〜ん……!」
「……白雪ちゃん、絆されて連帯保証人になっちゃ駄目だからね」
まさか庇われると思わなかった萩原は救世主の登場に目を輝かせ、周囲の面々は白雪の危機感のなさに危機感を覚えた。もちろん白雪も数多の戦場を乗り越えた猛者なので、人を見抜く審美眼はそれなりにあると自負しての行為なのだが。
まずは言い出しっぺかつ強制連行した萩原からだ。