霊魂不滅

 あの審神者は、最初こそ毒虫を使った蠱毒を行っていた。しかし段々と、犬や猫などの小動物を用いるようになり、最終的には結合双生児を始め、死産した赤子や胎児、奇形児を使った物、最終的には刀剣男士たちに変わっていった。両面宿儺(りょうめんすくな)の蠱毒を作るかのように。
 あの審神者は最終的に、生き残った刀剣男士を殺して、その血肉を食べた。
 人間としての道を完全に外れた彼は、完全に祟神へ堕ちた。呪詛を振りまく怨霊と化し、誰彼構わず呪い殺すようになったのだ。

 想像以上に血にまみれた話をされ、気分が悪くなったのか、長野県警一同の顔色は土気色に近い。とりあえず白雪は全員分の白湯を注文した。


「とりあえず機密情報で喋れないところもございますが……。私がお話しできるのは、ここまでです」
「そうかい……あんがとよ。最初から最後まで胸糞悪いってことしか分からなかったぜ」
「天道是か非か、獣を逐(お)うものは目に太山(たいざん)を見ず、己の欲せざる所は人に施すこと勿(なか)れ……。人間とは愚かなものですね」
「う、うちはちゃんとまともな運営してますよ! 毎日ローテーションで一対一のヒアリングも実施してます!」
「主さまの戦積は他の本丸とは群を抜いておりますが、無謀な進軍など以ての外! 重傷者に出陣命令を下したり、刀剣破壊した男士は一振もおりません!」


 疑われたら困ると思ったのか、白雪は自身の本丸運営をホワイト運営だとアピールする。こんのすけも一緒になって必死に訴えるものだから、景光は思わず笑いを零した。高明警部も必死に笑いを噛み殺しているが、口角が孤を描いている。


「そんなの一目瞭然よ! ちゃんとお互い大事に想っているのがよく分かるわ」
「見るまでもねーだろ」
「仲が悪かったらお土産なんて買おうとも思わないだろうしね」
「円満に暮らしているようで何よりです」


 三者三様ならぬ四者四様にフォローを入れられ、白雪の顔がポンッと音を立てて真っ赤に染まった。身体中が燃えるように居た堪れないようで、必死に顔を手で隠す。
 その微笑ましさといったら、初秋の日差しの如き穏やかさで。可愛い以外の何も出てこない。特に諸伏兄弟は心の中で「尊い」と五体投地していた。

 注文した料理を綺麗に平らげ、水の入ったコップを呷った大和警部は、諸伏兄弟と白雪の顔を交互に見遣る。
 その怪訝な動きに、高明警部は不快そうに眉間に皺を寄せた。


「どうしました勘助君。何か思うことがあるのなら言ってしまいなさい」
「……いや、俺の頼めることじゃねえし」
「何なんです。白雪さんとお会いしてから……とくに管狐を口寄せしてから様子が変ですよ」
「……何でもねぇよ」
「何でもないならそんな反応はしないはずです」


 なぜか二人の雰囲気が、どんどん剣呑なそれになっていく。一触即発の雰囲気に、こんのすけはテーブルから降り、主人の膝の上に避難した。
 付き合いの長い上原刑事が仲裁に入り、やっと声の出せるようになった景光が、おろおろする白雪を宥める。


「ちょっと敢ちゃん、せっかく来てくれた白雪ちゃんにも失礼でしょ。何か思い詰めることがあるのなら、せめてきちんと声に出して言いなさいよ」
「……分かった、分かったよ。言えや良いんだろ」


 上原刑事の説得(?)により観念した大和警部は、白雪を真剣な目で見詰める。そのぴりついた雰囲気に、白雪は背筋を正した。


「……嬢ちゃん、いや、白雪さん。イタコの口寄せ、って知ってるか」
「えぇ。死者を霊能者の身体に取り憑かせ、その意思を語る降霊術のこと……で間違いありませんか」
「知ってるなら話が早いぜ。……ちょいと、頼みがあるんだが。諸伏の両親を、口寄せして欲しい」
「勘助君⁉ 貴方は何を言っているんですか⁉」


 これには諸伏兄弟もかなり驚愕しているようで、特に馴染みの深い高明警部は大和警部の肩を鷲掴みにし、がくがくと揺さぶる。景光も相当動揺しているようで、ただ呆然とイスに座り込むしか出来なかった。
 突拍子もない言動をしていると、まずは諸伏兄弟の心情を聞いてからだと、もちろん大和警部も自覚している。しかしそれでも、言わずにはいられなかった。
 ある日突然、理不尽に命を奪われた諸伏兄弟の両親。まだまだ幼い子どもを置いて急逝し、どれほど無念だったことだろう。
 しかし、白雪の霊能力で、最期の会話が出来るとしたら。その無念も晴れるかもしれない。
 完全なるお節介だと自分で理解している。それでも、大和警部は、白雪に打診するほかなかった。
4/5ページ
スキ