鬼哭啾啾
離れの部屋、敵本陣。襖は堅く閉ざされていた。それを諸伏が勢い良く蹴破り、吹き飛ばされた襖が綺麗な孤を描いて宙を舞う。
周囲にはこの本丸の刀剣男士の成れの果てだろうか、這い蹲る怪異の姿を白雪は複数確認するとともに、前に出ていた諸伏を下がらせ、背に庇いつつ人差し指と中指を突きつけた。
這い蹲る怪異はどす黒く汚れていた。その黒さは穢れや不浄などではなく、血が酸化して黒く変色したものだ。鼻腔に容赦なく襲い来る鉄の匂いに、諸伏は込み上げる吐き気を必死に堪える。
「臨 ・兵 ・闘 ・者 ・皆 ・陣 ・烈 ・在 ・善 ッ‼」
白雪が早九字を切ると、突風が部屋中を駆け巡る。一気に神気を纏った風が、一気に襖や調度品を薙ぎ倒し、怪異諸共弾け飛ばした。
開け放たれた部屋の中、静寂が空間を支配する。その一番奥に、黒い人影———審神者———が胡坐をかいて座っている。
「……お前がこの本丸を忌み地にした審神者か」
「うん? あぁ、そうだ。それにしても、こんな真っ白な女が来るとはなァ! しかも霊力も潤沢ときた……! こんな贄は初めてだ‼」
「贄……だと⁉」
恐怖の余り顔を引き攣らせる諸伏に、焔のような警戒心を顕にする白雪。
穢れにまみれた審神者を視界に入れ臨戦態勢に入った白雪は、霊圧をガンガン上げていく。いつの間にか周囲に結界が張り巡らされており、刀剣男士だったものが近づこうと暴れ回るも、結界は揺らぐこともなく、びくともしない。
「そうさ……そうさ、お前は贄さ! どいつもこいつも俺を虚仮 にしやがって‼ だから俺を馬鹿にした奴らを見返す為に! 俺は呪ってやったんだ‼」
再び風が部屋の中を駆け回る。白雪のときとは違い、血腥い匂いと生暖かな温度が、ぞわわっと諸伏の背筋を寒気を走らせる。
部屋の至る所には共食いしたであろう、犬猫の死骸。狂おしいほどの赤色に汚された壁と床。その中には、人間の肉片らしきものもある。
あまりの惨さとおぞましさに、諸伏は胃が捩れるかのような感覚に溺れるが、辛うじて必死に耐える。
「な、なんて……惨い……」
「惨い? そうだな、どいつもこいつも……逃げられないと悟ったら、命乞いしていたさ。最期の最期まで。それを聞くのは大層面白かった!」
ケタケタと無邪気に笑う審神者。その無邪気さが逆におぞましい。
諸伏の身に、眼には見えないこわばりの波が走る。最早顔面蒼白だが、それでも勇気を絞り出し、白雪を自分の背中で隠すと、ギロリと鶴丸を睨みつけた。
「白雪ちゃん、オレの後ろへ。アイツの狙いはキミだ」
「俺の贄……俺の贄なんだぞ? アイツらを見返してやる為の、きよくて、うつくしい贄だ。それなのに……それなのに! それなのに‼汚 らわしい手で! 触るなァ‼」
「そんな事して復讐なんてできるはずがないだろ! 白雪ちゃんをお前の贄にはさせない!」
「黙れ……黙れだまれダマレ! 貴様ら二人とも殺してヤル‼」
鶴丸は毒蛇の如き殺気立った目で睨め付ける。邪気や瘴気が渦巻き、袖が大きく捲れた。そこには皮膚の下から、小さな黒い蛭のような触手がウゾウゾと蠢き、這い出てくる。
そして細い腕をパッと風を送るように払った瞬間、無数の犬の首の影が襲いかかってくるものの、白雪の張った結界が破られることはなく、結界に衝突する度に四散霧消する。
「……まずい。あの審神者……刀剣男士たちの魂を食らって同一化している。魂が歪に混じり合って、最早引き剥がせないところまで来てる!」
「ごめん、ちょっとオレにも分かるように説明して」
「……結界、破られるかもしれません。もし破壊されたら、私には構わず一目散に時空間転送装置 へ逃げてください!」
数枚の札を取り出し、相手の出方を見る白雪。殺気が吹き荒ぶ異様な空間に、諸伏も拳銃を取り出すが、こんのすけからあまり意味はないと一蹴された。
「俺は刀剣男士と同化して、神になッた! でも……まだ、マだ足りない! もっともっとモットモット……霊力を……人知ヲ超える存在トなるためにハ、霊力と命が……贄が、必要ダ!」
「……それは、仲間の刀剣男士を犠牲にしてまで……成し遂げなければならないの?」
「仲間? アレを仲間だと? 随分と面白い冗談だなァ。まあ、どうせお前は最上の贄となり、俺の養分となるんだ。精々ジセノクを考えておヶ」
審神者は墜ちるところまで堕ち切っていた。
もう救いの蜘蛛の糸も切れた。釈迦も見捨てたであろうその存在に、白雪の深紅の双眸は憎悪と嫌悪の焔で燃え上がっていた。
周囲にはこの本丸の刀剣男士の成れの果てだろうか、這い蹲る怪異の姿を白雪は複数確認するとともに、前に出ていた諸伏を下がらせ、背に庇いつつ人差し指と中指を突きつけた。
這い蹲る怪異はどす黒く汚れていた。その黒さは穢れや不浄などではなく、血が酸化して黒く変色したものだ。鼻腔に容赦なく襲い来る鉄の匂いに、諸伏は込み上げる吐き気を必死に堪える。
「
白雪が早九字を切ると、突風が部屋中を駆け巡る。一気に神気を纏った風が、一気に襖や調度品を薙ぎ倒し、怪異諸共弾け飛ばした。
開け放たれた部屋の中、静寂が空間を支配する。その一番奥に、黒い人影———審神者———が胡坐をかいて座っている。
「……お前がこの本丸を忌み地にした審神者か」
「うん? あぁ、そうだ。それにしても、こんな真っ白な女が来るとはなァ! しかも霊力も潤沢ときた……! こんな贄は初めてだ‼」
「贄……だと⁉」
恐怖の余り顔を引き攣らせる諸伏に、焔のような警戒心を顕にする白雪。
穢れにまみれた審神者を視界に入れ臨戦態勢に入った白雪は、霊圧をガンガン上げていく。いつの間にか周囲に結界が張り巡らされており、刀剣男士だったものが近づこうと暴れ回るも、結界は揺らぐこともなく、びくともしない。
「そうさ……そうさ、お前は贄さ! どいつもこいつも俺を
再び風が部屋の中を駆け回る。白雪のときとは違い、血腥い匂いと生暖かな温度が、ぞわわっと諸伏の背筋を寒気を走らせる。
部屋の至る所には共食いしたであろう、犬猫の死骸。狂おしいほどの赤色に汚された壁と床。その中には、人間の肉片らしきものもある。
あまりの惨さとおぞましさに、諸伏は胃が捩れるかのような感覚に溺れるが、辛うじて必死に耐える。
「な、なんて……惨い……」
「惨い? そうだな、どいつもこいつも……逃げられないと悟ったら、命乞いしていたさ。最期の最期まで。それを聞くのは大層面白かった!」
ケタケタと無邪気に笑う審神者。その無邪気さが逆におぞましい。
諸伏の身に、眼には見えないこわばりの波が走る。最早顔面蒼白だが、それでも勇気を絞り出し、白雪を自分の背中で隠すと、ギロリと鶴丸を睨みつけた。
「白雪ちゃん、オレの後ろへ。アイツの狙いはキミだ」
「俺の贄……俺の贄なんだぞ? アイツらを見返してやる為の、きよくて、うつくしい贄だ。それなのに……それなのに! それなのに‼
「そんな事して復讐なんてできるはずがないだろ! 白雪ちゃんをお前の贄にはさせない!」
「黙れ……黙れだまれダマレ! 貴様ら二人とも殺してヤル‼」
鶴丸は毒蛇の如き殺気立った目で睨め付ける。邪気や瘴気が渦巻き、袖が大きく捲れた。そこには皮膚の下から、小さな黒い蛭のような触手がウゾウゾと蠢き、這い出てくる。
そして細い腕をパッと風を送るように払った瞬間、無数の犬の首の影が襲いかかってくるものの、白雪の張った結界が破られることはなく、結界に衝突する度に四散霧消する。
「……まずい。あの審神者……刀剣男士たちの魂を食らって同一化している。魂が歪に混じり合って、最早引き剥がせないところまで来てる!」
「ごめん、ちょっとオレにも分かるように説明して」
「……結界、破られるかもしれません。もし破壊されたら、私には構わず一目散に
数枚の札を取り出し、相手の出方を見る白雪。殺気が吹き荒ぶ異様な空間に、諸伏も拳銃を取り出すが、こんのすけからあまり意味はないと一蹴された。
「俺は刀剣男士と同化して、神になッた! でも……まだ、マだ足りない! もっともっとモットモット……霊力を……人知ヲ超える存在トなるためにハ、霊力と命が……贄が、必要ダ!」
「……それは、仲間の刀剣男士を犠牲にしてまで……成し遂げなければならないの?」
「仲間? アレを仲間だと? 随分と面白い冗談だなァ。まあ、どうせお前は最上の贄となり、俺の養分となるんだ。精々ジセノクを考えておヶ」
審神者は墜ちるところまで堕ち切っていた。
もう救いの蜘蛛の糸も切れた。釈迦も見捨てたであろうその存在に、白雪の深紅の双眸は憎悪と嫌悪の焔で燃え上がっていた。