妖怪紅白雛祭り!
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三月三日。スイセンが訪れたのは政府の施設……ではなく、妖魔界のとある会場であった。だが会場はいまだ設営の真っ只中である。
お祭りが開かれるという情報しか得なかったため、出店の屋台グルメでを堪能しようと財布を片手に、お祭り好きの短刀男士・愛染国俊を連れてうんがい鏡へ突撃したのが数分前。
「うーん、場所はここで合うとるはずやねんけどなあ……。日付間違うたんやろか?」
「いや、三月三日で合ってるぜ。場所もここで合ってるし。向こうが間違えちまったんじゃねえのか?」
「そんなミスしはるような人とは思わへんけどねぇ……」
「機械じゃねえんだから、偶にゃそんな事もあるって! 折角の祭りなんだ。楽しまねえと損だぜ、主さん!」
オレ、焼きそばとリンゴ飴食いてえな! 喜色満面の笑みを浮かべてはしゃぐ愛染は、傍から見れば無邪気な子どもにしか見えない。だが、本当は何百年と年月を経た付喪神なのである。
愛染の言葉に祭りを楽しもうと、スイセンは準備中の会場を進んでいく。毎年相当な規模の祭りを開催しているのだろう、会場はまだ準備中だというのに、十分活気に溢れていた。
どれから攻略していこうかと、愛染とスイセンが出店する屋台のマップを眺めていると、耳慣れた声がかけられた。その方向へ振り返ると、エンマ大王とぬらりひょん議長が彼女らの方向へ駆けてくる。
「久しぶりだな、スイセン」
「あら、大王様。うちら、ちょお早よう着き過ぎたみたいで。お店はまだ準備中みたいですねぇ」
「エンマで良いって前から言ってるだろ? オレは気にしないぜ、オレとお前との仲なんだし」
そう告げた途端、エンマ大王は只ならぬ殺気を感じた。咄嗟にその方向へ振り向くと、愛染がまさに愛染明王を従えるような凄い表情を浮かべていたのである。
だが、エンマ大王自身も神の一柱のようなものだ。付喪神の琴線に触れた程度で腰を抜かすような妖怪ではない。彼は人当たりの良い作り笑顔の仮面を貼り付けると、愛染が喜びそうな提案を提示した。
「折角だし、祭りのメインイベントに参加していかないか? この妖怪紅白雛祭りでは、毎年お雛様を決めるんだ。もちろん男子も参加可能だぜ」
「オレも参加していいのか⁉︎」
「もちろんだ。お雛様をレースで決めるんだが、そのサポーターのような役割だがな。一番上で退屈に待つより、本格的に身体を動かす方が好みだろう?」
「なあなあ主さん、主さんも参加しようぜ!」
興奮してキラキラと瞳を輝かせる愛染は、無邪気な子ども然としていて本当に可愛らしい。それに思わずスイセンの表情は蕩けたようになり、彼とともに参加することに決めた。
「……別にその軍服のままでも良いとは思うが、折角だ。衣装も和服に着替えようか」
「え、いや、あの……」
「化粧はどうする?」
「篭手切江が出発前に何かやってたぜ。よくわかんねーけど……」
「じゃあ別に必要ない。じゃあスイセン、また後でな!」
「……はーい」
ぬらりひょんに連れられるがまま、出張で出店していたのか貸衣装屋へ連行されるスイセン。
別に血の繋がった親だ、大して嫌がるような事柄を押し付けるワケではないだろう。そのように判断した愛染は、エンマ大王とともに出店前の屋台を見学して瞳を輝かせていた。
そして完全にスタンバっていたスタッフにより、あれよあれよとスイセンは和服へ着せ替えられていく。着物は桜の柄が鏤められ、深紅から薄紅へのグラデーションが美しい。そして太ももから足の甲を覆い隠すような脚班に、歯の高い一本下駄だ。
正直スイセンは馬乗り袴を準備して欲しいのだが、馬乗り袴は全て貸し出しの予約が入っていると断られてしまったので、渋々装着する。
今回は出血大サービスということで、へアセットも行うらしい。貸衣装屋の店主であろう花魁の姿をした妖怪の手が、ハーフアップに纏められた錦糸のような髪をするすると解いていく。
「あぁ、その長い髪ではさぞ動きづらいでありんしょう。今回はサービスでありんす。
それにしても、ハリのある肌に艶のある髪……。ああ、ほんに羨ましいでありんすなあ」
「おい。スイセンから若さを吸い取ったらどうなるかわかっているだろうな」
「もちろん。スイセン様はぬらりひょん議長の愛娘でありんす。手を出そうなんて誰も思いんせん」
カーテン一枚を隔てた向こう側から牽制するぬらりひょんの声に、くつくつと笑って否定する遊女姿の妖怪。どうやら彼女は、若さを吸い取って自分の糧にするという、昔話によくあるタイプらしい。
もちろん何かあればスイセン自身で躊躇なく消し炭にするのだが、花魁の妖怪の喋る通り、妖魔界議長の愛娘にそのような無礼を働く真似をする妖怪なんていない。強いて言うなら調子に乗ったウィスパーや、おっちょこちょいなコマさん程度である。
彼女の手によって見事な横兵庫に結い上げられたが、さすがに大量に簪を挿していては非常に重たい。最高級の女郎である花魁の頭は、家一軒が建つほど金がかかるというが、その髪飾りの重量は尋常ではなかった。
別のヘアスタイルを希望すると、花魁の妖怪は渋々簪を引き抜いていく。
「結綿にしんしょうか? それとも島田髷がお好みでありんすか?」
「……うちが好きなんは、もっと現代的なスタイルやなぁ」
最終的にはそのまま後ろに流すだけになり、花魁の妖怪はぷっくりと不満そうに頬を膨らませていた。