第15話

 何だかんだ一悶着あったが、眠くなったベルがお昼寝を提案し、一同はエモンガが乗っていた木の下で休憩を取っていた。
 適度に射す木漏れ日が心地良い。しかしサニワには、一向に眠気が訪れなかった。


『……眠らないのですか?』
『何だか前の本丸が、夢に出てきそうな気がしてね。……眠るのが怖い。……これまでも幾度となく戦場を駈けてきたというのに、おかしな話だ』
『いえ、そんなことは決してないと僕は思います。僕もご一緒しましょう』
『助かるよ』


 そう言いつつも、こんのすけは大きな欠伸を噛み殺す。暖かで長閑な陽気に、ついうつらうつらと舟を漕ぐ。寝ないとは言ってるものの、相当眠いらしい。

 エモンガがふわり、と風に乗って森の中へ飛んで行った。それを見たミジュマル、キバゴ、ツタージャ、そしてサニワは慌てて彼女の後ろを追いかける。ただし、サニワはこんのすけに皆を起こすように伝えてからだった。
 そのせいでポケモンたちに遅れを取っていたため、サニワが追いついた頃にはミジュマルが目を回し、バオッキーが怒りに任せて火炎放射を乱発しているところであった。
 バオッキーがミジュマルたちへ火炎放射を放つも、先に到着していたツタージャのリーフブレードで防がれる。それなら、とバオッキーが振り上げた拳は、ツタージャたちの前に躍り出たサニワの手によって受け止められた。
 急に現れた人間、その上まだ幼い子どもに渾身の一撃を受け止められるとは思わなかったバオッキーは、目を白黒させる。


「……迷惑、した。ごめんなさい。……でも、したくて、困らせる、違う……許して、くれる?」
<煩い! 俺は相手が女だろうが、売られた喧嘩を買っただけだ‼︎>
『……原因はこの妲己(だっき)だったか』


 貴女は一体何をしでかしたのだ、と言わんばかりのサニワの冷酷な視線がエモンガに突き刺さる。殺気を孕んだそれは、今にも逃げ出そうとしていたエモンガの動きを止めるには十分だった。

 サニワは懐から数枚の護符を取り出すと、それらが彼女の目の前でふわり、と宙に浮かぶ。結界が張られたようだが、それはあくまで即席の気休めに過ぎない代物だ。次の攻撃で早速結界に亀裂が入った。
 突破されるのも時間の問題だ。援軍は間に合うのだろうかとサニワが思ったその時、こんのすけと共に駆けつけた。


「エモンガ! 皆を守って!」


 エモンガは、アイリスの言葉に迷っていた。
 今戦闘しているツタージャは草タイプ。相性は不利だというのに、懸命に戦っている。人間のサニワも、非力ながら不思議な防壁を築いているものの、この調子だと壊されてしまう。そうすれば、キバゴやミジュマルも危ないのは明白だ。

 覚悟を決めたエモンガは目覚めるパワーで諸方から攻撃し、バオッキーの攻撃は、ひらりひらりと攻撃を避けていく。だがそれが火に油を注いだようで、バオッキーの攻撃はさらに威力を増した。
 エモンガに向かって放った火炎放射を、難なく躱すエモンガ。ところが、その先にはサニワたちの姿が。ツタージャが機転を利かせ、蔓の鞭をバオッキーの足に絡ませて転倒させる。灼熱の炎は崖に逸らされた。

 ほっと安堵の息を溢したのも束の間のことだった。火炎放射が岩に直撃し、バオッキーに向かって落ちてきたのだ。このままでは、バオッキーが岩に押し潰されることだろう。

 今度は足の太腿に装着していた小さなポシェットから、一枚の護符を取り出す。先ほど結界に使用していた護符とは、また別の柄が描かれたそれ。
 その護符を岩に向かって投げつけると、まるで意志を持っているかのように、それは岩に貼りついた。


『破ッ‼︎』


 サニワの掛け声と共に、岩は粉々に粉砕された。その光景と、一段と冷酷な目を光らせるサニワを交互に見遣るバオッキーは、恐怖で冷静になったのか。すごすごと森へ帰っていく。

 一方で、エモンガとツタージャが向かい合っていた。エモンガは地面に落ちていた林檎を手にすると、ツタージャへ差し出す。ツタージャはその林檎を三つに分けると、エモンガとキバゴへ差し出し、互いに咀嚼し始めた。
 案外、優しい子なのかもしれない。サニワは彼らの光景を見て、肩に乗った管狐と顔を見合わせた。

 それからしばらく経った頃、ライモンシティへ向かおうと荷物を担いだサトシ。しかし彼が三つ目のバッジを得たことを知ると、ベルは驚きの声をあげた。


「えぇ⁉︎ いつの間に三個目を?」
「ヒウンジムさ。ほら」


 サトシのバッジケースを視界に入れたベルは驚きのあまり仰反ると、進行方向とは正反対に駆け出していく。これからヒウンシティに戻ってジムに挑戦するらしい。


「サトシくん! アイリスちゃん! デントくん! サニワちゃん! また何処かで会おうね〜!」
「ああ! 必ずな!」
「……がんばれー」


 まるで嵐のような彼女に、サトシたちは笑顔で、サニワは相変わらず無表情の仮面を被ったまま、手を振って別れたのだった。
4/4ページ
スキ