第3話
……私たちはどうしてこんなところで食事をしているんでしょうか……。こんのすけは内心頭を抱えていた。
事の発端は、優しそうな緑色の髪を携えた男性にジムの場所を尋ねたことだ。ウエイターだろうか、カッターシャツの上に黒いベストを着用し、白色のウエストエプロンを身につけていた。
男性は案内をにこやかに快諾し、しかも「方向が一緒だから」と、わざわざ一緒に付いてきてもらったのだ。そして、ドアを開けた先はなぜか飲食店。
困惑したこんのすけが男性の顔を見ると、彼は笑顔を崩さずサニワの背中をぐいぐいと押していく始末。そして流れるような仕草で席に促されてしまい、青髪と赤髪のウエイターの男性が注文を取りに来る。
ところが青い髪のウエイターは、サニワの顔を見るとこれでもかと目を見開いて、驚いた表情を湛えた。
「あ、貴女は……!」
「コーン、知り合いかい?」
ここで騒ぎになってしまっては店にもご迷惑がかかるだろう、とサニワたち店を出ようとすると、青髪のウエイターは慌てて彼女の手を掴む。
周囲の女性客は、ざわざわとざわめきたった。しかも、その殆どが般若のような形相でこちらを見つめている。
青髪のウエイターはサニワの過去を知っているのか、衝撃的な言葉を口にしたのだ。
「お久しぶりです、審神者様! どうしてここに……いえ、この世界に……!?」
「おい待てよ、コーン。一体何の話なんだ?」
「幼い頃、サザナミタウンのクルージングをしていた時、コーンが船から落下して行方不明になったことがあったでしょう?」
「もちろん、ちゃんと覚えているさ! 『竜宮城に行っていた』とか訳のわからないこと言ってたし……。あれ以来、コーンが怖い話をするようになったし……」
「俺も覚えてる。見た覚えのない布切れを掴んでいたしな……」
「……その『竜宮城』で出会った、言うなれば乙姫様ですよ」
コーンと呼ばれた青い髪のウェイターは、ポケットから一切れの白い布を取り出した。それを目にしたサニワとこんのすけは、ハッと彼を見つめる。ウェイターは、お付きの妖狐さんもお元気そうでよかった、と柔らかな微笑みを湛えた。
二年半ほど前のこと。
青い髪の幼子と、見たことのない水色の猿が、本丸へ迷い込んでしまったことがあった。
本丸は蓬莱とも、極楽とも、また地獄とも異なる、一種の隠 り世 と言える場所。そんな場所に迷い込むということは、死んでしまったも同意義だ。
少年は見たところ、三〜四歳くらいだった。まだ幼い子なのにと気の毒に感じたサニワは、その幼子を保護して元の世界へ帰すことに決めたのだ。
ところが、彼の暮らしていた世界というのは、現世 とはまた異なる世界のようで。彼の世界へ戻すための方法を模索するのに時間がかかってしまったため、かなりの時間がかかってしまった。
そのためか、別れ際に少年は「ずっとここで暮らしたい」と涙を流して帰還するのを嫌がった。
困り果てたサニワは、ちょうどその時持っていた手ぬぐいで少年の涙を拭ってやり、それを彼へ手渡した。ずっと友達ということは変わらない。絶対に、貴方のことは忘れないから、と言い聞かせて。
渋々ながら納得してくれた幼子をきちんと姿が消えるまで見送ったのは、今でも強く彼女の印象に残っている。
事の発端は、優しそうな緑色の髪を携えた男性にジムの場所を尋ねたことだ。ウエイターだろうか、カッターシャツの上に黒いベストを着用し、白色のウエストエプロンを身につけていた。
男性は案内をにこやかに快諾し、しかも「方向が一緒だから」と、わざわざ一緒に付いてきてもらったのだ。そして、ドアを開けた先はなぜか飲食店。
困惑したこんのすけが男性の顔を見ると、彼は笑顔を崩さずサニワの背中をぐいぐいと押していく始末。そして流れるような仕草で席に促されてしまい、青髪と赤髪のウエイターの男性が注文を取りに来る。
ところが青い髪のウエイターは、サニワの顔を見るとこれでもかと目を見開いて、驚いた表情を湛えた。
「あ、貴女は……!」
「コーン、知り合いかい?」
ここで騒ぎになってしまっては店にもご迷惑がかかるだろう、とサニワたち店を出ようとすると、青髪のウエイターは慌てて彼女の手を掴む。
周囲の女性客は、ざわざわとざわめきたった。しかも、その殆どが般若のような形相でこちらを見つめている。
青髪のウエイターはサニワの過去を知っているのか、衝撃的な言葉を口にしたのだ。
「お久しぶりです、審神者様! どうしてここに……いえ、この世界に……!?」
「おい待てよ、コーン。一体何の話なんだ?」
「幼い頃、サザナミタウンのクルージングをしていた時、コーンが船から落下して行方不明になったことがあったでしょう?」
「もちろん、ちゃんと覚えているさ! 『竜宮城に行っていた』とか訳のわからないこと言ってたし……。あれ以来、コーンが怖い話をするようになったし……」
「俺も覚えてる。見た覚えのない布切れを掴んでいたしな……」
「……その『竜宮城』で出会った、言うなれば乙姫様ですよ」
コーンと呼ばれた青い髪のウェイターは、ポケットから一切れの白い布を取り出した。それを目にしたサニワとこんのすけは、ハッと彼を見つめる。ウェイターは、お付きの妖狐さんもお元気そうでよかった、と柔らかな微笑みを湛えた。
二年半ほど前のこと。
青い髪の幼子と、見たことのない水色の猿が、本丸へ迷い込んでしまったことがあった。
本丸は蓬莱とも、極楽とも、また地獄とも異なる、一種の
少年は見たところ、三〜四歳くらいだった。まだ幼い子なのにと気の毒に感じたサニワは、その幼子を保護して元の世界へ帰すことに決めたのだ。
ところが、彼の暮らしていた世界というのは、
そのためか、別れ際に少年は「ずっとここで暮らしたい」と涙を流して帰還するのを嫌がった。
困り果てたサニワは、ちょうどその時持っていた手ぬぐいで少年の涙を拭ってやり、それを彼へ手渡した。ずっと友達ということは変わらない。絶対に、貴方のことは忘れないから、と言い聞かせて。
渋々ながら納得してくれた幼子をきちんと姿が消えるまで見送ったのは、今でも強く彼女の印象に残っている。