第15話

 バトルからしばらくして、ランチタイムの時間帯。
 サニワたち人間はデントが作ったケーキを、ポケモンたちは林檎を美味しそうに頬張っていた。
 サトシとアイリスはケーキを豪快に平らげていくのに対し、サニワは洗練された所作で食べ進めていく。正反対な食事の光景に、ベルは面白そうに眺めていた。

 デントはサニワとしばらく旅をして、少しわかったことがある。
 フワフワに焼いたスフレパンケーキや、モチモチとした食感のタピオカなど、彼女は甘いもの————特に食感が楽しめる料理———に目がないらしい。食感が独特な物であれば、極めて少量ではあるものの、口の中へ入れる量が増えるのだ。

 食欲旺盛なサトシとアイリスに比べ、サニワのカロリー摂取量は極端に低かったし、進んで食べようともしない。旅に同行した頃はこんなに入らないからと、半分以上をサトシたちに分け与えていたのは序の口であった。

 ある時、ポケモンセンターの食堂が閉まっており、その代わりに売店で弁当が販売されていた。デントは長旅のせいで疲労困憊。料理を作る体力も残っておらず、各々好きな弁当を購入して食す事に決めた。
 そんな中、サニワは「これが最も安い」と一人ポケモンフーズを頬張ろうとしたほどだ。

 ポケモンフーズはポケモンのために作られたもので、人間が口にするものではない。それに、サニワはポケモンのいない異世界で生まれた。身体にどんな悪影響が出るかわからないし、何より人間の口に合わないものばかりだろう。全力で止めた。
 自分には兄弟がいるが、全員男。その上三つ子だ。きっと歳の離れた妹がいたならば、こんな感じなのだろう。デントはそう思った。

 サニワは背が小さい。その上痩せぎすな身体だ。彼女の連れている管狐曰く、この世界の人間が頑丈らしいが、彼女は元の世界の基準でも華奢で虚弱な部類に入るそうだ。
 とりあえず、隣の野生児と同じくらいたくさん食べて、大きくなって欲しい。まるで親のような心境になったデントであった。

 しかし、そんなほのぼのとした時間も束の間。
 ポカブやミジュマル、クルマユ、ズルッグたちが揉め始めたのだ。最初は小さな揉め事に過ぎなかったが、今では技が入り乱れた大乱闘になっている。
 慌ててバンギラスが仲裁に入ろうとしたが、その大きな体躯では攻撃が次々と直撃してしまう。


<ちょっと、皆落ち着いて。一体何が……>
<お前が俺の林檎を取ったんだろ!>
<何言ってるんだよ! そういうミジュマルこそ怪しいぞ!>
<いい加減にしなさーいッ‼︎>


 いつまでも終わる気配のない喧嘩が、遂に肝っ玉母ちゃん(バンギラス)の逆鱗に触れた。
 地面が大きく揺れる。パワフルな攻撃に、そして肝っ玉母ちゃんのその姿に、周囲のポケモンたちはすぐに冷静になった。
 サニワは怒髪天を衝くバンギラスをボールへ戻し、改めて何があったのか尋ねるも、彼らは食べていた林檎を取られたと繰り返すばかり。ちらりとエモンガを一瞥すると、彼女の腹は大きく膨れ上がっていた。大方、メロメロで籠絡し、食べていた林檎を横取りしたのだろう。

 サニワは食べる前だった自身のケーキを差し出す。それを見たポケモンたちは戸惑っていた。
 ポケモンたちは食べていいのかしばらく躊躇していたが、ミジュマルがホタチを手にケーキを綺麗に分ける。そして食べそびれた皆に行き渡ると、一斉に口にし始めた。


「……わたし、昔、食べる、できなかった。……お腹空く、苦しい」


 ケーキを頬張るポケモンたち。ケーキは食べかけの上、ポケモンたちで分け合った。
一口で食べ終わるような大きさなので、腹が膨れることはない。だがサニワの己よりも周りを優先させる優しさにより、心が満たされた。


「何とも優しさに満ちたフレーバーだ! 周りのポケモンたちの笑顔も相まって、素晴らしいハーモニーが奏でられているよ!」
「良かったな、皆!」


 まるで天使の如きサニワの優しさに、ある者は簡単の息を吐き、ある者は感心している。だが、彼らは気づいていない。彼女がエモンガを冷徹な瞳で射抜いていたことを。そして、同じようにツタージャもエモンガを見詰めていたことも。
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