第11話

 地面に倒れたホイーガをボールへ戻し、アーティは最後のモンスターボールを手に取る。ジムリーダーの大将はサトシのクルミルの洋服を繕った、あのハハコモリであった。


「まさかメロメロで手も足も出せずに、強行突破されるとはねぇ。……だけど、勝負はこれからだよ。僕らはまだ虫の息じゃないさ! 出でよ! ヒウンジムの守護神、ハハコモリ‼︎」
「……負けない!」


 モスノウをボールへ戻すと、チャレンジャーはキュウコンを繰り出した。
 いつもとは全く違う、猛者の雰囲気を纏う主人。キュウコンは今回は本気で行くと感じ取り、小さく頷くと確と相手を見据えた。


「リーフストーム!」
「悪巧み‼︎」


 無数の木の葉がキュウコンへ襲いかかるも、彼女はその攻撃を物ともせず、特攻を積んでいく。まさか攻撃を真正面から耐えられると思っていなかったアーティは、困惑の混じった眼差しで戦況を見詰めていた。


「ハハコモリ、糸を吐くで動きを封じるんだ!」
「火炎放射‼︎」
「なっ……⁉︎」


 ハハコモリの吐いた強靭な糸と、キュウコンの放つ豪炎とが正面から衝突する。灼熱の焔が糸を伝い、瞬く間にハハコモリの身体が炎上した。
 ぶすぶすと焼け焦げた臭気と、もくもくと立ち昇る黒い煙がバトルフィールドを包む。サニワはその臭いに、思わず顔を顰めた。どうしても、これには慣れないのだ。

 黒煙が晴れると、黒焦げになったハハコモリが目を回して倒れていた。
 審判の声がチャレンジャーの勝利を告げ、途端にサニワの雰囲気が優しげで儚げなそれへ変貌する。


「ハハコモリ戦闘不能、キュウコンの勝ち! よってこの勝負、チャレンジャー・サニワの勝利です!」
「サニワちゃん、圧勝じゃない……! 本当に、本当に凄いわ……‼︎」
「いやー、さすがサニワちん! 伝説のポケモンにあんなに懐かれる人なんて、なかなかいないよ〜」


 観戦していたギャラリーの面々が口々に称賛と祝福の意を示す中、ジムリーダーが笑みを浮かべて歩み寄る。


「サニワちゃん……いや、ガラルチャンピオン、サニワさん。相手をしてくれて本当にありがとう。これが勝利の証、ビートルバッジだよ」
「……ありがと。……楽しい、だった。とっても」


 差し出された若草色のバッジを、嫋やかな動作で受け取るサニワは、相変わらずの仏頂面だった。しかし纏っている雰囲気は、先ほどの猛者のそれとは全く異なり、日向にいるような、まるで包み込むような穏やかを醸し出している。


「それにしても、本当に強いねぇ……。まるでこちらの手の内を見透かすようなバトルだったよん。僕もまだまだだねぇ」
「……わたし、まだまだ。……きっと、追いつく」


 謙遜するサニワからは、先ほどの軍人の如き凛とした雰囲気は感じられない。全てを包み込むような暖かさと、淡雪のような儚さを醸し出す、清楚で神秘的な美少女だ。同一人物だとは到底信じられない者もいるだろう。


「普段は儚げな美少女だけど、バトルになると人が変わったように威厳がある……。僕の純情ハートに———」
「先は言わせないわよ♡」


 マスタードが耳を塞ぎ、ミツバがサニワの前に出て威嚇する。本人の意思とは全く関係なく、ガッチリとガードを固めてられているサニワ。
 この調子だと、色々と手厳しそうだ。アーティは力ない笑顔を浮かべたのだった。
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