第13話

 サニワたちは、避難所に指定されているポケモンセンターの待合室で話し込んでいた。

 フシデの群れが地下水道を伝い、ヒウンシティまで大移動。その結果都市機能が崩壊し、街は大混乱に陥ってしまった。しかしサニワの的確かつ迅速な指示により、フシデたちを一定の場所に避難させる作戦を無事に完遂させることができたのだ。
 原因を調べていたソニアとアララギは、ヒウンシティを進んだ先の荒野の砂嵐が視界不良を起こすほど、異常に強くなっていると突き止めたところである。

 フシデの群れが何かに恐れをなしてここに移動した、ということは、砂嵐を引き起こしているポケモンが荒地で暴れているのだろう。
 こればかりは荒野を調査してみないとわからないので、誰かが現地に赴いて調べることにしたのだが。


「俺も行く! もしもここにいたら、後悔すると思うんだぞ!」
「僕も行きますよ。放っておいたらすぐオダブツになりそうですからね」
「どうします、アララギ博士。いっその事、大人数で行きますか?」
「……本当。どうしようかしらね、アーティさん」
「んぬん……。君たちの気持ちは痛いほどわかるけど、さすがにこんな大人数じゃねぇ」


 全員が調査に協力する、と申し出たのだ。気持ちは嬉しいのだが、大人数で動けば機動力が落ちる。視界不良を引き起こすほどだ、散り散りになってしまえば調査どころではない。
 困り果てたアーティは、助けを求めるように壁へ背を預けるサニワを一瞥する。彼女は被っている帽子を少しだけ上へ上げた。
 その表情は温もりのない人形のようにどこまでも冷ややかで、感情を微塵も感じられない。どこまでも軍人なのだった。


「これは罠かもしれませんね。主さまとホップさまが荒野を調査すべきであると主さまは推奨しております」


 ヒウンシティの調査に向かう間、敵の勢力が街を急襲されてはひとたまりもない。敵の戦力を誘い出す、格好の餌かもしれない。
 そのため、今回の目的は荒野の調査と、もし敵勢力が存在するのであれば、内部調査、そして司令部の破壊だった。

 今回は空から偵察を行うため、それなりの大きさを持った飛行タイプのポケモンが必要となる。それらを持っているのは、トゲキッスを連れているサニワと、同じくアーマーガアを持つホップだけだ。
 敵陣地に攻め入るということは、防衛する戦力が分散されるということ。この隙に攻め入られたら、人的資源以外にも被害が出る。なるべくそれは避けたかった。

 サニワはホップへ少しだけ待つように伝え、サニワは準備しようと部屋を出た。しかし、それはアーティの手で阻まれる。
 彼の表情はいつもと違い、太陽が隠された空のように翳りが生じている。対するサニワは、いつも通りの無表情だった。


「罠かもしれない……? っ罠だってわかっているなら、どうして進もうとするんだい!」
「……行く。しないと、わからない……だから、行く」


 どこまでも軍人めいたサニワの雰囲気に、その回答に、丸呑みされたアーティ。彼はどこかサニワを遠く感じた。自分とは違う世界にいるのだと。頭のどこかでそう考えてしまい、思わず手を離してしまう。
 対する彼女は一切気に留めることなく、きちんと座る管狐に目配せすると、淡々と指示を下す。


『こんちゃん。緊急事態のようだね』
『……そのようですね』
『デマや流言で、今以上の大混乱に陥る可能性も否めない。ありもしない中傷的な噂は、人をも殺すだろう。群衆の私的制裁に注意を払え。最悪の場合、即時撤退。……絶対に生き延びろ』
「かしこまりました。御武運を」


 ポケモンセンターを後にするサニワの後ろ姿は、とても小さい。だが、とても恐ろしく感じるものだった。
1/3ページ
スキ